勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
将来はお嫁さんと側室10人を手に入れて幸せに暮らすという野望?を持つ勇者の物語の第3話です。
新たに、少女とキラーマジンガを仲間に加えてハーレム度合いがグッとアップした勇者パーティ。
魔王打倒?に向けてぐんぐん前進していきます。
第3話
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#02
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#04
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―
―――夜 宿屋 屋上
エルフ「......」
勇者「ここにいましたか」
エルフ「どうかした?」
勇者「今なら里に戻れますよ?」
エルフ「......」
勇者「嫌なんですよね、人間が多い場所は」
エルフ「嫌というか......人間は醜い生き物だって聞かされて育ったから」
勇者「この街に来るときも、嫌そうでしたものね」
エルフ「よく見てるね」
勇者「だって僕は勇者ですから」キリッ
エルフ「人間は嫌い。だけど......魔王も好きじゃない」
勇者「え?」
エルフ「あの魔道士はエルフ族をもエサにしていた。なのに魔王は野放しにしていた。それって、ボクたちを魔族としてみてないってことになるよね?」
勇者「魔族間での確執、というには些か酷いですね」
エルフ「今回の一件で分かった。魔王はいつかボクたちを狙ってくる」
勇者「......」
エルフ「人間の次は......きっとエルフ......そう思う」
勇者「そうですか」
エルフ「だから、魔王は倒さないといけない」
勇者「人間と協力してでも?」
エルフ「死ぬのは嫌だから」
勇者「分かりました。では、僕にもそのお手伝いをさせてください」
エルフ「何言ってるの?貴方は元々、魔王を倒すために......」
勇者「僕の目的は飽く迄も多くの側室に囲まれて老衰死ですから。魔王討伐なんてその目的達成のための手段でしかありませんよ」
エルフ「そう......なんだ......」
勇者「はい。ですから、貴女が目指す魔王討伐とはまた志しが違います」
エルフ「......」
勇者「貴女を殺させはしない。貴女を守りましょう。我が命に代えても」
エルフ「臭い台詞。それ、みんなに言ってるでしょ?」
勇者「いえ。言ってません」
エルフ「嘘つき」
勇者「それに僕から頼み込んだという形にしておくことも大事かと思いまして」
エルフ「どうして?」
勇者「人間と協力したとなると角が立つでしょう。でも、勝手についてきたならまだ印象はそこまで悪くなりませんよ」
エルフ「そうかな」
勇者「間違いないです。僕のことは悪質な変質者だと思ってくれて構いません」
エルフ「実際、そうだし」
勇者「え!?そんなぁ!!どこがぁ?!」
エルフ「ボクを脅して同行させようとしたり、意味もなく肩を抱いてきたり......」
勇者「それは貴女が美しいからですよ。むしろ貴女が悪いと思います」
エルフ「......」
勇者「好きだ!」
エルフ「はいはい。おやすみ」スタスタ
勇者「好きだ!!!側室になってくれぇ!!」
―――宿屋 廊下
キラーマジンガ「マスター」
少女「やめろ」
キラーマジンガ「マスターの実力と私の力があれば、人間3人とエルフ1人程度なら問題ありません」
少女「奴らの能力が判明するまで直接的な戦闘はするなと魔王様に言われている」
キラーマジンガ「魔王という人はマスターの力を過小評価しているのではないでしょうか?」
少女「いいか?奴らよりも実力が上であった魔物が次々にやられている。もしこちらの想定を超えてくると怪我だけでは済まないだろう」
キラーマジンガ「しかし」
少女「いいから俺にはもう話しかけるな。お前のマスターは勇者。そうだったな?」
キラーマジンガ「はい。マスターにそのように言われています」
少女「絶対に俺が―――」
エルフ「何してるの?」
少女「......ううん。ちょっとトイレに......」
キラーマジンガ「はい」
エルフ「そう......。明日は早いから夜更かしはしないようにね」
―――翌日 街
僧侶「勇者様~」タタタッ
勇者「すいません。病み上がりでおつかいを頼んでしまって」
僧侶「いえいえ。はい、どうぞ」
勇者「これです。ありがとうございます」
僧侶「いつでもなんでも仰ってくださいね?」
勇者「なんていう従順ぶり。ランクを側室奴隷に引き上げましょう」
僧侶「やったぁ」
魔法使い「下がってるわよね?ねえ、それって下がってるわよね?」
勇者「―――どうぞ」
エルフ「え?」
勇者「貴女の武器です。空手では何かと不便なときもあるでしょう?」
エルフ「まあ、相手があの魔道士ぐらい強ければ魔力もすぐに無くなるけど」
勇者「ですから、武器を。ボーガンなら扱えると思いまして」
エルフ「あ、ありがとう。でも、いらないと思うけど......」
キラーマジンガ「私がいますから」
勇者「おぉ。おはようございます」
キラーマジンガ「おはようございます。マスター」
少女「お、おはよう」
勇者「おはよう」キリッ
キラーマジンガ「マスター。朝は早かったようですがどちらに?」
勇者「え?ああ、色々です」
キラーマジンガ「私に言ってくだされば何でもご要望にお応えしたのですが」
勇者「なんという犬っぷり。君の側室ランクは犬だ」
キラーマジンガ「恐縮です」
僧侶「犬のほうが可愛い......」
魔法使い「馬鹿ばっかりね......」
エルフ「まあまあ」
勇者「では、行きましょうか。目指すは海の方角!!!魅惑の港町!!!」
少女「......」
―――フィールド
エルフ「でも、こうして並んで歩くと大所帯になったね」
魔法使い「少し前まで3人だったのにね」
僧侶「私は楽しくていいと思いますよ」
勇者「―――いいですか?男を振るのにも色々方法があるんですよ」
キラーマジンガ「ふむふむ」メモメモ
少女「......」
勇者「―――待ってくれ!!俺が悪かった!!考えなおしてくれ!!!」
勇者「―――いつも!いつもそう言ってるじゃない!!嘘つき!!もう知らない!!」
勇者「―――今度は本当だ!心を入れ替える!!だから見捨てないでくれぇ!!!」
勇者「―――じゃあ、昔の貴方に戻ったらまたここに帰ってくるわ。それまでは......さよなら......」
勇者「こうして、更生したら寄りを戻すと言っておけば、上手く逃げられるわけです」
キラーマジンガ「なるほど。男性を立ち直らせるきっかけにもなれば、別離もできる。その女性は男性にとって恋人以上の存在になるわけですね」
勇者「そう!!もう元に戻ることはない。だけど、あの女が人生において、ただ1人のオンナだった。まるで美談!!女性も色んなところで美化される。いいことばかりだ」
少女(人間とは面倒な生き物だな。そんな奴、喰えば終わりだろうに)
勇者「ここまでで質問は?」
キラーマジンガ「はい」
勇者「キラちゃん」
キラーマジンガ「本当に更生し、もう一度やりなおそうといってきた場合はどうするのですか?」
勇者「君ならどうする?」
キラーマジンガ「もう一度、恋人関係に戻ります」
勇者「どうして?」
キラーマジンガ「男性は約束を守りました。なら、私もその約束を守ります」
勇者「そのとき君に好きな人がいた場合はどうする?」
キラーマジンガ「え......」
勇者「男の更生を信じ、待ち続ける。いい話だが、待っている間にも愛を欲する。それが人間だ」
キラーマジンガ「で、では......そのときは......」オロオロ
勇者「―――それは君が決めることだ。人に聞くことじゃない。人間の感情とはそういうものだ。答えなんて......ない」キリッ
キラーマジンガ「なるほど。奥が深すぎてショートしそうです」メモメモ
少女(俺なら約束を守った奴に敬意を賞して縒りを戻すかな......)
魔法使い「ちょっとー、あんまり変なこと教えないでよ」
勇者「キラちゃんには必要なことですから」
魔法使い「本当に?」
キラーマジンガ「勉強になります」
僧侶「勇者様ならどうするんですか?」
勇者「え?」
僧侶「振った女性がもう一度、やり直してほしいって言ってきたら、やり直します?」
勇者「無論―――」
エルフ「側室にするとかは無しで」
勇者「それはつまり僕が勇者ではなく平凡な市民で人生を終えるという平行世界での話ですね?」
エルフ「え......うん、そんな感じだと思う」
勇者「ならば......戻しませんね」
魔法使い「へえ......どうして?」
勇者「勇者というステータスがなければ愛せる女性は1人が限界。ならば、今現在愛している女性を徹底的に嬲ります」
キラーマジンガ「流石はマスター」パチパチ
魔法使い「意外ね。浮気性な男かと思ってたけど」
勇者「僕はそれほど器用ではありません。勇者という肩書きがなければ一夫多妻なんて実現はしないでしょう」
僧侶「勇者様......」
勇者「でも、現実はいつも悲しい。僕は勇者に選ばれてしまったぁ!!つまり、選ばれた男!!」
勇者「女に不自由のない人生が約束されてしまったのです!!ああ!!!なんてこったぁ!!」
魔法使い「あの......」
勇者「故にみんなから愛されてしまう!!選ばれてしまったから!!そんなみんなの愛を無碍にはできない!!受け取るだけの資格が僕にはあるからぁ!!」
エルフ「どうして?」
勇者「勇者だから」キリッ
キラーマジンガ「マスター」
勇者「勿論、君は僕の娘としても側室としても―――」
キラーマジンガ「魔物です」
少女「え......」
魔物「ガルルル......!!!」
勇者「いつの間に。―――戦闘準備!!」
魔物「ガァァア!!!」
僧侶「きゃぁぁ!!」
魔法使い「なっ!」
勇者「せいやぁ!!!」ズバッ
魔物「ギャァァ......」
魔法使い「あ、ありがとう」
勇者「いえ」
エルフ「やぁ!!」バシュ
勇者「お。早速、使ってますね。ボーガン」
エルフ「試してみただけ」
キラーマジンガ「下がってください」
少女「う、うん」
キラーマジンガ「低級な魔物では私には勝てません」
魔物「ガァァァァ!!!!」バッ
キラーマジンガ「遅い」ザンッ
キラーマジンガ「お話になりません」
勇者「すごい。やはり戦闘力は並じゃない」
キラーマジンガ「マスターに迫る脅威を排除する。それが私の使命です」
エルフ「もう居ないみたい」
僧侶「よかったぁ。怪我はありませんか?」
魔法使い「ええ。大丈夫よ」
勇者「それにしてもいち早く魔物に反応したな」
キラーマジンガ「魔物を探知する機能が搭載されています。ある程度、魔物が接近してると察知できるようになっています」
勇者「なるほど。そんな便利機能が」
キラーマジンガ「はい」
エルフ「......」
勇者「知っていましたか?」
エルフ「う、うん......。でも......」
勇者「ですね......」
僧侶「どうかしました?」
魔法使い「ああ、そういえばこの子のエネルギーはどうするの?」
勇者「それも考えないといけないですね」
キラーマジンガ「私のエネルギーは無限だと聞いています」
エルフ「でも、人間の生命エネルギーや魔力を吸い取るんでしょ?」
キラーマジンガ「はい。ですが、ニンゲンに拘る必要はありません」
魔法使い「ど、どういうこと?」
勇者「まさか」
キラーマジンガ「前マスターはニンゲンからの摂取が最も効率が良いといっていましたが、生命エネルギーはどの生物からでも一定量得ることが可能です」
僧侶「先ほど倒した魔物からでもエネルギーを得ることができるってことですか?」
キラーマジンガ「その通りです」
少女「......」
勇者「そういえばあの魔道士、虫や獣からでも同じエネルギーを得られるって......」
エルフ「人間から得るとは言ってたけど、別に人間限定の話じゃなかったね」
魔法使い「生きていればなんでも良いってこと?」
キラーマジンガ「はい。生命体であることが第一です。あとは生命の鮮度で得られるエネルギーが増減することがあります」
少女「殺戮兵器......」
魔法使い「ちょっと」
少女「......」
勇者「他の命を吸い取りながらでないと活動できない......」
キラーマジンガ「はい。そのように私は作られています」
僧侶「それって......あの......」
エルフ「先のことは考えないようにしようよ。今は貴重な戦力であることには変わりないし」
勇者「ええ。そうですね」
キラーマジンガ「マスターのために尽力致します」
勇者「ありがとう。ところで、エネルギーの補充はどれくらいの頻度で行うんだ?」
キラーマジンガ「私が活動している限りは消費していきます。最小限の活動をしない場合でも、供給が途絶えてから七日で活動は停止します」
勇者「そうか」
キラーマジンガ「なので小まめな供給を推奨いたします」
エルフ「うん。まあ、嫌でも魔物とは戦うし、意識する必要はないってことだね」
少女「......」
―――港町
勇者「さて、じゃあこの子のご両親に挨拶しにいきましょうか」
魔法使い「なんのためによ」
勇者「側室にください。と一言言わないと怒られてしまうでしょう?」
魔法使い「いくら丁寧に言っても怒るわよ!」
キラーマジンガ「マスター。私が捜索に当たります」
勇者「いやいや。僕が」
キラーマジンガ「どうぞどうぞ」
エルフ「じゃあ、ボクは情報収集でも」
僧侶「わ、私も行きます」
魔法使い「待って、私も行くわ。アンタも」
勇者「えぇ?!だから!!ご両親にぃぃぃ!!!!」
魔法使い「ダメ!!!」
少女「......」
キラーマジンガ「行きましょう、マスター」
―――港
僧侶「あ、あの......船は出ていますか?」
船員「どこまで行きたいんだ?」
魔法使い「ここから北のほうに行きたいの」
船員「無理だな」
僧侶「どうしてですか?」
船員「旅の人みたいだけど、知らないのか?―――北の国はもう魔王の手に落ちたんだよ」
勇者「......いつの話ですか?」
船員「一、二ヶ月前だな。おかげで魔物が増えて漁船は言うに及ばず、客船だって何隻も沈んでる」
エルフ「魔王......」
船員「こんな海で自由に航海してるのは海賊ぐらいだな」
勇者「......海賊ですか。それって、この海域にいるっていう噂の海賊ですね?」
船員「よく知ってるな。色んな場所を冒険している荒くれ者の集団だ。海の魔物を退治してるから一部では英雄だが、海で商売している俺たちには害でしかない」
勇者「聞きました。それこそ魔物と同じように漁船や客船を襲っては金品を奪うとか」
船員「陸には盗賊や山賊もいるのに、海ぐらい平和でいきてえよ......」
僧侶「困りましたね」
魔法使い「今まで通り、陸伝いにいくしかないんじゃない?」
エルフ「そうだけど。それだと......」
勇者「魔王が力をつけ始めている。急がないと、手がつけられなくなるでしょう」
僧侶「勇者様......」
勇者「北にある国は世界でも有数の軍事国家でした。そこが陥落したとなると......」
魔法使い「でも、どうして。今まで拮抗を保っていたんじゃないの?」
勇者「キラーマジンガの技術を魔王が流用しているとしたら?」
エルフ「それって......生命エネルギーを?」
勇者「あの魔道士だって魔族。魔王と繋がりがないはずがない。技術提供もしていたと考えるほうがいい」
僧侶「では、魔王は今......無尽蔵の魔力を手に入れているのでしょうか?」
勇者「奴らにとって人間など視界の隅に移る塵に同じ。それが己が血肉になると分かれば喜んで手を出すでしょう」
エルフ「そんな......それならエルフも......」
勇者「急がないと......なんとしても海を渡る方法を......!!」
魔法使い「故郷に帰るならまだしも、進めないんじゃ......」
僧侶「勇者様、やはり......」
勇者「ええ。それしかないでしょう」
魔法使い「どうするの?」
勇者「海賊と接触します」
エルフ「海賊......」
魔法使い「待って。どこにいるかも分からないのに?」
僧侶「そ、それなら、ちゃんと調べてきました」
魔法使い「いつの間に?!」
勇者「人身売買組織の盗賊団。あの人たちにですよ。前の街で聞き込みをしてきました」
魔法使い「えー?」
勇者「あの人たちはこの国全域で活動をしていました。情報はたんまり持っていましたよ」
エルフ「なるほど。ああいう人たちだからこそ、様々な事を耳朶に残しておかないとダメだもんね」
勇者「その通りです」
魔法使い「海賊かぁ......嫌ねぇ......」
勇者「魔物ではないので話せば分かってくれる分、楽な相手だと思いますよ?」
魔法使い「それで、あの海賊は?」
勇者「ここから西に行った沿岸部にアジト......というか村があるそうです」
エルフ「海賊の村?」
勇者「海賊を支持する人たちが集まっている村でしょうね」
魔法使い「海賊を支持って、さっき言ってた英雄扱いにしている人たちのこと?」
僧侶「恐らく。助けられた人も少なくないと聞きました」
魔法使い「でも、やっていることは盗賊や山賊と変わらないんでしょ?」
勇者「関係ありませんよ。命を張って戦ってくれたのなら、どんな極悪人でも命の恩人になるわけですから」
魔法使い「そうだけど」
エルフ「じゃあ、そこに行くの?」
勇者「自由に航海できる人たちならきっと北の大地まで連れて行ってくれるはずです」
僧侶「そうですね。魔王を倒すって言えばきっと協力してくれます!」
勇者「そして......ふふふふ......ぬほほぉ......」
魔法使い「海賊のキャプテンって女?」
勇者「はい」キリッ
魔法使い「やけに真剣になっていたのはその所為ね......全く......」
勇者「さぁ!!では、このまま突入しましょう!!」
僧侶「おー!!」
エルフ「二人はどうするの?」
勇者「相手が相手ですし置いていきましょう」
魔法使い「そうね。それがいいわ。女の子は勿論、あのマーちゃんだって見世物小屋に売られるかもしれないし」
僧侶「マーちゃん?」
魔法使い「キラーマジンガだからマーちゃん」
エルフ「キラちゃんじゃなくて?」
魔法使い「キラちゃんってなんか可愛くないじゃない?」
僧侶「ラーちゃんじゃダメですか?」
エルフ「それならガーちゃんでもいいよね?」
勇者「キラちゃんはキラちゃんです」
魔法使い「マーちゃんよ」
僧侶「ジーちゃんでも可愛いですよね?」
―――広場
キラーマジンガ「マスター。あの雲、何かに似ていませんか?」
少女「......」
キラーマジンガ「検索中......検索中......。分かりました。猫です。あそこが耳で......あれがヒゲで......」
少女「黙れ」
キラーマジンガ「了解しました」
少女(海に出るなら数多くの部下がいる。そこで奴らの力を引き出して......)
勇者「キラちゃーん!!」
キラーマジンガ「......」
僧侶「ジーちゃん!」
キラーマジンガ「......」
魔法使い「マーちゃーん!!」
キラーマジンガ「......」
エルフ「ンちゃん!」
キラーマジンガ「呼称は一つでお願いします」
勇者「え?見つけられなかった?」
キラーマジンガ「申し訳ありません」
魔法使い「じゃあ、ここじゃないの?」
少女「うん......。ここじゃない......」
僧侶「もしかして北にある国から......?」
勇者「確かに魔王の領土から拉致されてきた可能性は高いですが」
エルフ「とりあえず二人は宿にいて。今から船を調達してくるから」
キラーマジンガ「お留守番ですか?」
僧侶「そういうことになります」
キラーマジンガ「......」
勇者「僕から離れたくないのは分かる。でも、君を危険に晒したくはないんだ。分かっておくれ、娘よ」
キラーマジンガ「パパ......私のこと......キライ?」
勇者「好きだよ。毎日一緒にお風呂に入って、体の隅々を舐め回すように観察したいぐらい大好きだ」
キラーマジンガ「そんなパパが好き......抱いて......」
魔法使い「ちょっと。いつのまにそんなの仕込んだのよ」
勇者「練習ですよ」
魔法使い「何の!?」
キラーマジンガ「マスター曰く、私は娘でありながら実父に恋心を持つという倒錯した人物らしいので」
魔法使い「はぁ?!」
キラーマジンガ「その感情の勉強のために、色々教わりました。―――マスター、今のはどうでしたか?」
勇者「70点だな」
キラーマジンガ「くそぉ」
エルフ「えっと......早く行こうよ」
勇者「そうですね。じゃあ、行ってきます」
キラーマジンガ「行ってらっしゃいませ」
少女「......」
キラーマジンガ「では、マスター。我々は宿に―――」
少女「尾行するぞ」
キラーマジンガ「了解しました」
少女(目を離すわけにはいかないからな......)
―――海賊の村
勇者「ここのようですね」
エルフ「じゃあ海賊のことを......」
魔法使い「そんな簡単に教えてくれるのかしら?」
僧侶「海賊さんの支持者だって言っておけば大丈夫ではないでしょうか?」
魔法使い「そうね......あまり気乗りはしないけど」
勇者「では二手に分かれて情報を集めましょう」
エルフ「どうして?」
勇者「固まっていて、もし敵だと認知された場合、一網打尽にされてしまうかもしれませんから」
魔法使い「そうね。相手は海賊の仲間だし......」
僧侶「わ、分かりました」
勇者「僕と一緒に行動したい人、挙手!!」
僧侶「はい!」ビシッ
エルフ「......」ビシッ
魔法使い「え!?―――じゃあ、私も!!」ビシッ
勇者「理由を聞こうか」
僧侶「私は勇者様のお傍にできるだけいたいので。あと、どんな些細なことでもお手伝いしたいです」
エルフ「ボクは二人が貴方の毒牙にかからないように」
魔法使い「み、右に同じよ!」
勇者「まいったな。みんな側室なんだから仲良くしてくれないと困りますよ。あっはっはっは」
エルフ「早く決めて」
勇者「じゃあ、行きましょうか」
エルフ「......うん」
僧侶「あー、残念です」
魔法使い「......まあ、あんたじゃないだけマシね」
僧侶「え?どうしてですか?」
魔法使い「あんた、アイツに何されても嫌がらないどころか嬉しがってるでしょ?」
僧侶「ダメですか?」
魔法使い「ダメよ」
僧侶「でも、勇者様は口に出すだけで何もしてきませんし......。私の胸を触るのも主に治癒のためですし......うーん......」
勇者「すいません」
村人「はい?旅のお方ですかな?」
勇者「ええ。実はどうしても僕たち、海を渡りたいのです」
村人「どうして」
エルフ「魔王を倒すために」
村人「魔王を......?」
勇者「はい」
村人「なら、安心しなさい」
勇者「え?」
村人「魔王なら海賊団が倒してくれるから」
エルフ「海賊といっても普通の人間のはず......。魔王に太刀打ちできるとは思えないけど」
村人「海賊たちの力を見縊ってはいかん。ここいらの魔物なんて海賊の敵ではないからな」
勇者「それほどまでに兵力が充実していると?」
村人「そうだ。巨船を10隻も有する大艦隊。魔王の一団など相手にもなりはせん」
勇者「そんなに大規模だったのか......」
村人「と言っても、その10隻は常に別行動を取っているけどね」
僧侶「なるほど。あえて別の場所で活動して、広い範囲で自衛に当たっていると?」
村人「そういうこと。魔物も、いや魔王すらも下手に手出しできないほどなんだから」
魔法使い「でも、人間も襲っているんでしょ?」
村人「それはちゃんと理由があるんだよ」
僧侶「理由、ですか?」
村人「民間船を襲うことで、危険な海に人を出さないようにしているのさ。ほら、魔物のほかにチョー強い海賊がいるとなれば、海に出ようとはしないだろ?」
僧侶「まあ、萎縮はしますよね。そんな大きな武力を持っているなら」
村人「そう。ちゃんと人々の安心安全も考えてるんだよ」
魔法使い「でも、それで命を落とした人もいるんじゃないの?」
村人「小さな犠牲は仕方ないだろ?」
魔法使い「そうだけど......。漁船すらも海に出さないってどういうことよ?あの人たちは、それで生計を立てているのよ?」
村人「死ぬよりはマシだろ」
魔法使い「口で言えば分かることなのに。やり方を間違えているとしか思えないわ」
僧侶「お、抑えてください!!言いたいことはわかりますが!!」
村人「てめえ......海賊のやり方にケチをつけるっていうのか?」
魔法使い「正義の味方みたいな顔をしないでって言ってるの」
村人「んだとぉ......!!」
僧侶「あ、あの!!ここで騒ぎはまずいですから!!」
魔法使い「でも......!!」
村人「お前ら......海賊を潰しにきた兵士か......?」
魔法使い「違うわよ。ただ、言い方が気に入らないだけよ」
村人「あぁ?」
魔法使い「海賊の所為で困窮している人もいることを自覚して」
村人「んなことは分かってるよ!!」
魔法使い「なら!!人の生活まで奪うなんてことできるわけないでしょ!!」
村人「やっぱりお前ら......!!」
僧侶「や、やめてくださーい!!!」
村人「みんなー!!であえー!!!国の兵隊が海賊団を潰しにきたぞー!!!」
魔法使い「ち、違うって言ってるでしょ!!」
勇者「―――え?」
エルフ「なんだろう......?」
勇者「嫌な予感がするので、こっそり行きましょう」
エルフ「う、うん......」
「捕まえろ!!」
魔法使い「やめて!!燃やすわよ!?」
僧侶「それはダメです!!」ギュッ
魔法使い「くっ......」
「悪いが牢屋に入ってもらうぜ」
魔法使い「どうしてよ」
「決まってるだろ。海賊団は世界を救う唯一の希望だ。それを何もできねえ国の兵士に潰されてたまるかよ」
魔法使い「だから、兵士じゃないってば」
僧侶「もう何を言っても無駄です......」
魔法使い「もう......」
「連れて行け!!」
勇者「むぅ......」
エルフ「捕まったね」
勇者「エルフの里とは立場が入れ替わりましたね」
エルフ「どうする?」
勇者「海賊と敵対したくはなかったですが......致し方ありませんね」
エルフ「今は警備の目が厳しいから、夜になるまで待とうか」
勇者「それがいいでしょう」
少女「......」
キラーマジンガ「お二人が拿捕されましたね」
少女「ふんっ......馬鹿な連中だな」
キラーマジンガ「救出いたしますか?」
少女「放っておけばいい。どう逃げ出すか。いや、あいつらなら簡単に逃げ出すはずだ」
キラーマジンガ「私も同意見です、マスター」
少女(こういう事態でこそ、能力を発揮するはず。見せてもらうぞ......)
キラーマジンガ「......潮風で錆びてしまいそうです、マスター」
―――宿屋 寝室
勇者「さて、夜まで待とうと思うのですが」
エルフ「うん」
勇者「しかしですね、考えたのですが」
エルフ「どうかした?」
勇者「助け出したあと、この村を離れないといけないですよね?」
エルフ「うん。みんな怒るだろうし」
勇者「となると海賊と接触できるチャンスがなくなりますよね」
エルフ「まあ、ここぐらいしか会える場所はないから」
勇者「そうなると海を渡れませんよね?」
エルフ「そうだね」
勇者「困りました」
エルフ「......」
勇者「素直に謝りますか?」
エルフ「許してくれるかな?」
勇者「あの」
店主「なんだい、お客さん?」
勇者「さきほど、騒ぎがありましたよね?」
店主「ああ。海賊たちの悪口を言った奴らな」
勇者「どうなるんですか?」
店主「恒例だが、海賊に引き渡すだろうね」
勇者「海賊に?」
店主「ああ。まあ、どんなことをしたのか海賊たちが聞いて、それで処分を下すと思うよ」
勇者「今まで捕まった人はどんなことに?」
店主「海に放り出されたり、魔物を誘き寄せるための餌にしたり、半年以上雑用で働かせたりだな」
勇者「なるほど」
店主「といっても、海賊たちが自分たちのしていることはどれだけ正しいことなのかを見せ付けてから、だけどな」
勇者「......」
店主「どうかしたかい?」
勇者「いえ。ありがとうございます」
エルフ「おかえり」
勇者「ただいま。行きましょう」
エルフ「どこに?」
勇者「こうなったら、僕たちも捕まりましょう」
エルフ「どうして?」
勇者「捕まれば海賊と直接話ができます」
エルフ「でも、心象最悪になるから協力してくれなくなるんじゃ」
勇者「二人が捕らえられた時点で心象なんて気にするだけ無駄でしょう」
エルフ「そうかもしれないけど」
勇者「それにこれは直感ですが、海賊たちは話が分かる人たちだと思います」
エルフ「え?」
勇者「勿論、下っ端の人たちではダメです。上、つまり船長クラスの人なら......」
エルフ「......信じていいの?」
勇者「未来の夫を信じられないかい?」
エルフ「......はいはい」
―――村 広場
勇者「海賊はー!!!わるーい!!!!」
エルフ「わるーい」
「なんだ!?なんだ?!」
勇者「海賊はー!!はんざいしゃー!!!」
エルフ「はんざいしゃー」
「おい!!てめえ!!なにいってんだ!!!こらぁ!!!」
「黙らせろ!!!」
勇者「海賊はー!!!人間の屑ー!!!」
エルフ「くずー」
勇者「海賊、はんたーい!!!」
エルフ「はんたーい」
「捕まえろ!!!!」
勇者「ええい!!無礼者!!はなせぇ!!!」
エルフ「つかまったー」
―――牢屋
村人「入ってろ」
勇者「おとと」
エルフ「......」
ガチャン
魔法使い「ちょっと」
勇者「これは奇遇ですね」
僧侶「勇者様!!申し訳ありません!!捕まってしまいました!!」
勇者「僕もです」
僧侶「お揃いですね」
勇者「相性バッチリじゃないですかね、これは」
僧侶「もう......勇者様ったら」
魔法使い「あの......助けに来てくれたんじゃないの......?」
エルフ「うん」
魔法使い「そう......仲間だってことがバレたのね......。ごめんなさい......」
勇者「しかし、どうして逮捕されてしまう事態に?」
魔法使い「ついカッとなって......」
エルフ「どういうこと?」
魔法使い「自分たちは正しいことをしているって......言うから......ちょっと腹が立って......」
勇者「なるほど。海賊の支持者が海賊の正義を主張してきたと?」
魔法使い「うん......。海賊の行為で苦しんでいる人もいるのに......全てを正当化して......それで......」
勇者「......」
魔法使い「ごめんなさい。反省しているわ」
勇者「いえいえ。それは僕が同じ立場なら、貴女と同じ事を言っていたでしょう」
魔法使い「え?」
勇者「こちらにも譲れないものはあります。一元論で語れることではありません」
魔法使い「でも......」
勇者「気にしないでください」
魔法使い「ごめんなさい......」
勇者「......次のことを考えましょう。これから海賊たちに身柄を引き渡されるわけですが......いいですか?そのとき―――」
―――海賊の村
キラーマジンガ「皆さんが捕らえられました」
少女「何やってんだ......あいつら......」
キラーマジンガ「何か作戦があると思われます」
少女「まあ、牢獄内で合流し、協力して脱獄する腹なんだろう」
キラーマジンガ「助力いたしますか?」
少女「静観でいい」
キラーマジンガ「了解しました」
少女「......」
キラーマジンガ「......マスター」
少女「......なんだ?」
キラーマジンガ「潮風は私にとって毒です」
少女「知るか」
キラーマジンガ「出来れば屋内に退避したいのですが」
少女「知らん。どうして俺がそこまで面倒をみなければいけないんだ」
―――数日後 牢屋
村人「―――出ろ」
勇者「来たか......!!運命のときが!!!」
村人「いいからでろ!!」
魔法使い「......」
僧侶「はぁ......ドキドキします......」
エルフ「街に置いて来た二人が心配だね」
僧侶「そうですね......心配してなければいいですけど......」
海賊「こいつらか?」
村人「ああ。騒ぎを起こした四人だ」
海賊「よし、こい」
勇者「優しくしてください」
海賊「それはできねえなぁ」
勇者「なんだと?!ゆ、ゆるさないぞ!!僕にエッチなことしたら!!許さないからなぁ!!するなら優しくしてぇ!!」
海賊「しねーよ!!!」
―――船着場
海賊「頭、こいつらです」
船長「ふーん」
勇者「あれぇ?!」
船長「なんだよ?」
勇者「船長は女性だってきいてますけどぉ?!」
船長「それはキャプテンのことだな。総括の」
勇者「じゃあ、キャプテンを出してください」
船長「キャプテンは大海原で魔物狩りをしてるよ」
勇者「なんてこったぁ!!!」
僧侶「落ち込まないでください」
エルフ「きっと会えるって」
魔法使い「......」
船長「俺たちも忙しいんでな。早く乗船しろ」
勇者「くぅぅ......!!!こんなことなら!!もっと別の策を考えるべきだったぁ!!!」
キラーマジンガ「マスター」
少女「分かっている」
キラーマジンガ「みなさんが出航します」
少女「見えている」
キラーマジンガ「どうされますか?」
少女「このまま海に出る気か......」
キラーマジンガ「私、カナヅチで」
少女「知らん」
キラーマジンガ「では、私はお留守番ですか?」
少女「そうだな」
キラーマジンガ「そんな、マスター」ギュッ
少女「はなせ!!急がないと奴らは海に出てしまうだろうが!!」
キラーマジンガ「置いていかないでください」ギュゥゥ
少女「黙れ!!ええい!!鬱陶しい!!!」
キラーマジンガ「私の目が届かないところで何かがあっては遅いのです、マスター」
―――船内 甲板
船長「―――罪状は把握した。つまり、我々の正義が理解できないというわけだな?」
勇者「......」
船長「ふん。解せないな」
勇者「何がですか?」
船長「お前はそんなつまらないことを言うような奴には到底見えない」
勇者「ならば貴方の目は節穴ということになります。実際に騒ぎを起こしたのは僕ですから」
魔法使い「......っ」
船長「後ろの女どもは関係ないと?」
勇者「僕の巻き添えを食らっただけです」
魔法使い「ちが―――」
エルフ「しっ」
魔法使い「......」
船長「まあいい。罪自体は大したことではないし、国の兵士でもない。なら、半年間の雑用で許してやる。後ろの女どももだ」
勇者「待ってください。彼女たちは関係ありません。やめてください」
船長「口答えか?」
勇者「貴方達は曲がりなりにも正義の味方だ。何の罪もない人も罰するのですか?」
船長「それがここのルールだ」
勇者「しかし、見たところここは男ばかりです」
船長「そういう世界だ」
勇者「ならば一つだけお願いを聞いてください」
船長「罪人の分際で......」
勇者「キャプテンのいる船までこの三人を護送してください!!!」
僧侶「勇者様......もしかして......」
船長「なに?」
勇者「そこでならキリキリ働かせてくれてもかまいません。でも、ここにだけは置いておけない!!」
船長「てめえ......」
勇者「男たちの慰めに使うというなら、僕はこの場で暴れる」
船長「武器も無しにこの人数を相手にするのか?」
勇者「......俺にも譲れないものはある」
魔法使い「......!」
エルフ「......」
僧侶「勇者様......」
船長「面白い。確かに俺たちは外道じゃない。海賊だ。お前の女に手を出すつもりはない」
勇者「話の分かる人でよかった」
船長「お前の女は誰だ?そいつだけは見逃してやろう」
勇者「全員です」
船長「ふざけんなよ」
勇者「全員、俺の女だぁ!!!文句あるかぁ!?あぁ!!!」
船長「そんなわけあるかぁ!!!出鱈目もいい加減にしやがれ!!」
勇者「お前ら、言ってやれよ!!俺の女だってなぁ!!!」
僧侶「は、はい!!私は勇者様の女です!!」
エルフ「ボ、ボクも......えっと......何度も体を......預けた......」モジモジ
魔法使い「私も......あの......夜はいつも......はだ、かの......付き合いを......」モジモジ
勇者「な?」ドヤッ
船長「俺たちの世界じゃあ、落とし前が大事なんだよ」
勇者「なら約束守れよ。俺の女には手を出さないんだろ?」
船長「......いいだろう。だがな、貴重な女だ。そう簡単には見逃せねえなぁ」
勇者「見逃せよ!!」
船長「お前の得物は?」
勇者「剣だ」
船長「ふん......。これか」ポイッ
勇者「返却感謝」
船長「抜け」
勇者「お前で?」
船長「意味が違う」
勇者「―――戦うのか」
船長「譲れないものがあるんだろ?なら、守ってみせろよ」
勇者「魔王の軍勢をも退ける力......見せてもらおうか」
船長「お前が負けたら全員この船で雑用。勝てばお前だけが雑用だ。いいな?」
勇者「いいよ」
船長「ふん......後悔するなよ?」
勇者「航海中だけどな」ドヤッ
「頭ぁ!!やっちまえ!!!」
「かてるわけねーだろ!!ばぁーか!!!」
「やったぁ!!女の雑用だぁ!!!ひゃっほぉ!!!」
僧侶「勇者様......」
エルフ「相手は人間......でも......」
魔法使い「......」
船長「いくぞ?」
勇者「こいやぁ」
船長「―――はぁぁぁ!!!!」ダダダッ
勇者「おぉ!?」ギィィン
船長「訓練で鍛えた動きだな......。やっぱり兵士か?」
勇者「くぅ......!!元兵士だ......よ!!」ギィィン
船長「元?」
勇者「今は勇者だ」
船長「勇者......?馬鹿な。勇者は魔王によってほぼ全員が殺され、生き残った奴も逃げ出したって聞いたが......」
勇者「せぇぇい!!!」ブンッ
船長「そうか!!お前......あの国の勇者か!!」ギィィン
勇者「え......」
船長「俺たちは海の支配者。他国の情報も色々積んでるぜ?」
勇者「なんだと?」
船長「はっ!!!」ブンッ
勇者「くっ?!」
船長「弱小国から生まれた勇者。魔法はおろか剣術すらも他国の兵士に劣るって話だ」
エルフ「え......」
勇者「......」
船長「他国の勇者は勇者として育てられる。だが、てめえの国では勇者が育たなかったんだよな?」
勇者「ああ。だから、王による任命で勇者が決まる。そんなこと国のことを調べればすぐに分かるだろ」
船長「その任命制の弊害で、お前みたいな屑でも勇者になれるんだよなぁ。いいよなぁ」
勇者「だまれぇ!!」ブンッ
船長「おっと」ギィィン
勇者「何が言いたい......!!!」
船長「あの国から排出された勇者は数十人に上る。だが、誰一人として帰ってはこなかった」
勇者「それがなんだ?!」
船長「全員、敵前逃亡したからだろ?」
勇者「......!?」
僧侶「敵前逃亡?」
エルフ「勇者なのに......?」
船長「しかたねえわな。正統なる勇者様でも逃げ出すぐらいだ。一兵士じゃ無理もない」
勇者「黙れ......!!」
船長「お前も逃げ出したいんじゃねえの?王から任命時にたんまり貰ってるはずだろ?金をよ」
勇者「黙れと言っている!!―――覚悟もないまま、ここまで来るわけないだろう!!!」
船長「どうかなぁ?本当は隠居できる土地を探していただけじゃねえのか?」
勇者「......っ」
船長「でぁ!!!」ズバッ
勇者「ぐっ!?」
僧侶「勇者様!?」
魔法使い「あ......」
船長「おーおー。剣が鈍ったな。図星か?」
勇者「違う。俺は勇者だ......魔王を倒すために旅をしている」
船長「ふん。どうだか。その女たちも黙ってついてきてくれる奴を選んだんじゃねえのか?」
勇者「そんなわけ......!!」
船長「逃げ出すときでもお前の背中についてきてくれる女を探してたんだろ?寂しいもんなぁ、独り身は!!!」
勇者「違う!!!」
船長「俺たちも勇者って名乗る奴は数人見てきた。全員、お前みたいな考えだったぜ?」
エルフ「そうなの......?」
船長「ああ。どいつもコイツも女をはべらせて、逃げる場所を求めてやがった。勇者もただの人間。そんな奴らに希望を抱けってほうが、無理だ」
魔法使い「それは......」
船長「お前だって人間の敵う相手じゃないことぐらい理解してんだろ?」
勇者「......!」
エルフ「......」
僧侶「勇者様......」
船長「だから俺たちは生まれた。勇者はアテにならねえ!!自分たちの手で魔王を倒すことにしたんだ!!!」
勇者「俺は......」
船長「大人しく雑用をしていろ。俺たちは近く魔王の城に攻め込む。それで魔王を討ち取る」
勇者「できるわけ......」
船長「できるさ。アレさえ見つかればな」
僧侶「アレ?」
船長「魔王を打ち滅ぼすための武器だ。それさえ見つかれば勝てる。兵力は十分、足りないのは魔王に止めを刺すだけの武力」
魔法使い「そんなものが......」
船長「ここで雑用として生きろ。一応、魔王を討ち取ったことになるぜ?」
勇者「俺に逃げろというのか?」
船長「死にたくねえだろ?」
勇者「あははははは!!!!!」
船長「な......なんだよ」
勇者「いいか。よく聞けよ、糞野郎」
船長「くそ......?!」
勇者「俺はトロルも倒した!!黄金の国で魔人も倒した!!ついでにいうとドラゴンだって退けた!!!」
魔法使い「それ......私......」
僧侶「静かに」
船長「ドラゴン......?出鱈目抜かすな。ドラゴンなんて居るわけないだろうが」
勇者「いるっつーの!!!最近だと多くの人を拉致していた魔道士も倒した!!!この俺が!!!」
エルフ「......それは......違うような......」
勇者「俺はちょー強いぜ!?」
船長「ふん、だから逃げないと?」
勇者「逃げない。逃げたら、誰がこの人たちを側室にするって言うんだ?」
船長「強がりだな」
勇者「そう思うなら、かかってこい。祖国の兵士たちを侮辱したこと後悔させてやるからなぁ!!!」
船長「腰抜けの連中を腰抜けと言ってなにが悪い!!!」ブゥン
勇者「腰抜けだぁ?!―――てめえは知ってるのかよ!!!」ギィィン
船長「何をだ......!!」
勇者「俺たちは市民を守る為に休むことなく毎日毎日訓練をしてきた!!!」
船長「んなこと当然だろうが!!」
勇者「ああ!!そうだ!!当たり前だ!!自慢することじゃない!!」
船長「じゃあなんだよぉ!!」
勇者「―――どんな想いで敵に背を向けたか考えたことはあるのか?」
船長「なっ!?」
勇者「力のない人々を守るためだけに強くなったのに、その人々を見捨てる。どれだけの覚悟がいると思う?」
船長「臆病風に吹かれて逃げただけだろうが!!偉そうなことぬかすなぁ!!!」
勇者「お前は逃げたことまでしか耳にしないようだけど。俺たち祖国の人間は違う」
船長「あぁ?!」
勇者「数十人の勇者は皆、逃げ出したことを恥じて自決している」
船長「おいおい!!だからなんだよ!!死んだからって美談にしようってか?!」
勇者「違う!!」
船長「......っ!?」
勇者「自分の力では及ばなかった。だから、自分よりも力のある者を勇者にしてください」
船長「はぁ?」
勇者「彼らの死にはそんな想いがある」
船長「体よく逃げたんだろ?」
勇者「そうかもしれない。戦いの中で死んだ者もいるからな」
船長「その想いだってお前らの妄想だろ?」
勇者「......」
船長「勇者なんてただの人間だ。何が選ばれた者だよ。俺らと変わらない。群れて初めて力が発揮できる弱い人間だ」
勇者「それでも......」
船長「あ?」
勇者「それでも―――俺たちは守るために強くなり戦った!!それだけは嘘じゃない!!!愚弄するなぁ!!!」
船長「大声だして勝てると思うなよぉ......」
勇者「自分の命惜しさに逃げ出した者なんていない!!!勇者たちは守るべきもののために戦ったんだ!!!!」
船長「うるせえよ!!」ギィィン
勇者「くっ!―――だから、俺も戦うぞ。守る者がいるからなぁ」
船長「それが後ろの女か?」
勇者「俺の我侭に付き合ってくれた人がいる」
エルフ「負けるな......」
勇者「俺のどんな要求にも笑顔で応えてくれる人がいる」
僧侶「勇者様!!」
勇者「俺を信じ、いつも背中を守ってくれる人がいる」
魔法使い「やれぇぇ!!!」
勇者「その人たちを守る!!それが俺の使命だ!!!」
船長「このやろうぉ!!!」ブンッ
勇者「はぁぁぁぁ!!!!」ギィィィン
船長「なっ?!」
勇者「大事な人も守れない勇者なんて俺は知らない......だから俺は負けるわけにはいかない。相手が海賊でもドラゴンでも魔王でもだ!!」
船長「......でも、負けるよな?お前程度の力じゃ......」
僧侶「まだ言いますか?!」
エルフ「負け惜しみだ」
魔法使い「そうね」
船長「事実だろうが。たった4人で魔王に勝てるとでも思ってんのか?」
勇者「......約束は果たしてもらいますよ?」
船長「分かったよ。―――おい」
海賊「はい」
船長「キャプテンと連絡を取れ」
海賊「アイアイサー」
勇者「はぁ......疲れた......」
僧侶「勇者様、今治癒を」ギュッ
エルフ「......」
魔法使い「......」
勇者「なんですか?黙って見つめられると興奮するんですが......」
魔法使い「いや......なんていうか......」
エルフ「あの......さ......」
勇者「はい?」
エルフ「色々訊きたいことができたんだけど」
勇者「......なんですか?」
エルフ「貴方は一体、何の為に旅をしているの?」
魔法使い「......」
勇者「そんなのずっと言ってきているではないですか」
エルフ「......」
勇者「......側室をいっぱい作って老後を面白おかしく過ごすことですが、何か?」
魔法使い「アレだけの啖呵をきっておいてそれを言うの?」
勇者「それ以外にありませんから」
エルフ「嘘つき......」
僧侶「勇者様、もう大丈夫ですか?」
勇者「はい。もう全快です。いつもありがとうございます」
海賊「頭ぁ!キャプテンと連絡がつきました!!明日の昼過ぎには合流できるそうです!!」
船長「よし!!わかった!!」
勇者「では、この人たちには手出し無用ですよ」
船長「分かってる。―――それよりお前」
勇者「なんですか?」
船長「なんとなく分かったぜ。お前がどうして三人も女をはべらせているのかをな」
勇者「は?」
船長「悪かったな、色々きついこといって。そういう戦い方なんだな、お前は」
勇者「何を仰っているのかよくわかりません」
船長「まあ、いい。しっかりやれよ」
勇者「毎晩、ハッスルハッスルですよ」クイックイッ
船長「おい!!こいつらは今から客人だ!!!丁重にもてなせ!!!」
勇者「え?僕は雑用では?」
船長「バカ野郎。勇者様にそんな無礼なことができるかよ。しっかり接待させてもらうぜ」
勇者「ふっ......」
船長「わらうんじゃねえよ。気持ち悪い」
―――船内 食堂
船長「てめえら!!!客人にはくれぐれも失礼のないようにな!!!」
海賊「「うーっす」」
勇者「いやぁ、罪人から客人にグレードアップとは驚きましたね」
エルフ「うん」
僧侶「勇者様のおかげですね」
魔法使い「そうね」
勇者「で、どういう意図があるのですか?」
船長「キャプテンと合流してから詳しいことは話すが、お前ら俺たちの仲間になれ」
勇者「え?」
僧侶「海賊になれというのですか?」
船長「目的は一緒だろ?」
勇者「確かにそうですが」
魔法使い「私たちとはやり方が違うわ」
船長「まあ、すぐに答えが欲しいわけじゃない。ゆっくり考えてくれ。キャプテンもお前たちのことならきっと気に入ってくれるだろうしな」
―――夜 甲板
勇者「海賊か......さて......どうしたものか......」
魔法使い「ここにいたのね」
勇者「どうしました?」
魔法使い「......」
勇者「どうにも眠れなくて。興奮しっぱなしです」
魔法使い「......」
勇者「これはここで貴女をオカズに......」
魔法使い「ごめんなさい」
勇者「え?」
魔法使い「私が騒ぎを起こさなかったら......こんなことにはならなかったのに......」
勇者「結果オーライですよ。何事も最後が良ければいいのです」
魔法使い「......ごめんなさい」
勇者「あの......僕に叱られたいのですか?」
魔法使い「そ、そういうわけじゃ......あ、いや......そうかも知れないわね......」
勇者「なるほど......」
魔法使い「な、なによ......」
勇者「では、叱らせて頂きましょう」
魔法使い「......」
勇者「いつもいつも貴女は直情的に行動しすぎです。僕と別れる際、ドラゴンに独りで立ち向かうといいだしたときはぶん殴ってやろうかと思いますた」
魔法使い「ご、ごめんなさい......」
勇者「貴女は確かに高威力の魔法が使える。だけど、限りなく接近しなければダメ。猪突猛進で勝てるのは下級の魔物ぐらいです」
魔法使い「はい......」
勇者「ドラゴンになんてとてもじゃないですが、数秒で轢死でしょうね。貴女はポンコツだということを自覚してください」
魔法使い「そうですね......はい......アンタに褒められるたびに勘違いしてたのかもしれないわ......」
勇者「もう少し周囲を見て、考えて行動してもらわないと僕が困ります」
魔法使い「ごめんなさい」
勇者「あと、僕にはもう少し優しくしてください。一緒にお風呂入るとか、口移しで飲み物をくれるとか、夜はベッドで運動会するとか」
魔法使い「はい......え!?いや!!それとこれとは......違う......わよね......?」
勇者「てめえ!!反省してねえな!!!」
魔法使い「だ、だって!!エ、エッチなこととは関係ないじゃない!!」
勇者「側室のくせに偉そうだな!!あぁ!?」
魔法使い「側室じゃないって言ってるでしょ!?」
勇者「いいや!!もうおめえは立派な側室だ!!いいか?側室レベルでいうなら、軽く50だぜ?」
魔法使い「レベルの上限はいくつなのよ?」
勇者「30」
魔法使い「突き抜けてるじゃないの!!側室を超えた側室なの!?」
勇者「ああ。もう肉便器だな」
魔法使い「人権侵害でしょ!?」
勇者「トイレに人権なんてあるわけねーだろ。バァーカ」
魔法使い「なんですってぇぇ......!!!」
勇者「悔しかったらなぁ、俺の前で裸になって「抱いてください」って恥ずかしそうに言え」
魔法使い「できるわけないでしょうがぁ!!」
勇者「え?ドMだろ!?やれよ!」
魔法使い「ちが......!!ちがう!!マゾじゃないわよ!!」
勇者「えー?Sなのー?イメージとちがーう」
魔法使い「あー!!もう!!真面目に話したいだけなのにぃ!!!」
勇者「それは無理な相談でござる」
魔法使い「もういいわよ!!」プイッ
勇者「おやすみなさい」
魔法使い「おやすみ!!!」スタスタ
勇者「ふぅー......」
勇者「さて......明日はどうするか......」
勇者「海賊に協力し、強大な戦力を得るか......」
勇者「それとも6人の力を......信じるか......」
勇者「あ、いや、5人か......」
勇者「はぁ......」
勇者「感付かれたのかな」
勇者「軽蔑されるだろうか......?」
勇者「君たちをただの言い訳にしているなんて言ったら......」
―――翌日
海賊「キャプテンがきたぞー!!!」
勇者「なんだってぇ!!!」
魔法使い「ちょっと!なんでアンタがいち早く反応するのよ?!」
勇者「祭りだぁ!!飯食ってる場合じゃねえ!!!」
船長「よくわかってんじゃねえか!!―――おめえら!!キャプテンを出迎えろ!!」
海賊「「アイアイサー!!」」
僧侶「あいあいさー!」
エルフ「大規模な組織を纏めるリーダー......一体どんな人物なんだろう」
魔法使い「女性みたいだけど、ゴリラみたいな体格なんじゃないの?」
エルフ「ゴリラ......」
僧侶「女性でそういう体型になるのは体質的に無理じゃないでしょうか?」
エルフ「魔族だったりすれば、あるいは」
勇者「ごちゃごちゃ言うな!!いくぜぇ!!!」
魔法使い「はいはい」
―――甲板
キャプテン「久しぶりだなぁ!!野郎どもぉ!!!」
海賊「はいっ!!!」
船長「キャプテン!ご無沙汰しております!!」
キャプテン「一ヶ月ぶりぐらいか。元気だったか?」
船長「そうりゃあもう!!」
キャプテン「で、話に出てきた勇者っていうのは?」
船長「あいつらです」
キャプテン「......」
勇者「ヘロー、アイアムユウシャ」
僧侶「ど、どうも......」
魔法使い「......」
エルフ「......」
キャプテン「ふーん......」
勇者「美しい......年上の女......ふふふふ......!!!!ぬふふふふ!!!」
キャプテン「あたしが大艦隊の総轄を務める者だ。よろしく」
勇者「こちらこそ、側室を前提としたお付き合いを」
キャプテン「話はこの船頭から大体聞いたよ。魔王を倒すために旅をしてるんだって?」
勇者「いえ。違います」
キャプテン「え?」
勇者「綺麗なお嫁さんと10人の側室を得る為に魔王を倒そうとしています」
キャプテン「あ、あっそ......」
勇者「貴女は記念すべき7人目の側室候補になりました」
キャプテン「......本当に魔王に勝てるって思ってるのかい?」
勇者「まず無理でしょう」
魔法使い「そうなの?」
エルフ「多分」
キャプテン「へえ......自分の力を弁えているみたいだね」
勇者「でも、貴女と共に戦うのなら!!17割の確率で勝てますねぇ!!!!」
僧侶「いつもの勇者様です」
キャプテン「ああ、そう」
船長「お前!!悩んでたんじゃねーのかよ?!」
勇者「だまれぇ!!美人と戦えるなら俺は何もいらねえ!!!」
船長「このやろう!!」
勇者「にしても、船長さんは僕のことを知っていましたが、貴女は知らないのですか?」
キャプテン「あたしは勇者に興味はないからねえ。まあ、噂ぐらいは耳にしたけど」
勇者「どのような?!」
キャプテン「トロルを倒して国一つを救ったってことは知ってるよ」
勇者「さっすが」
キャプテン「でも、国一つを救った勇者なんて過去に何人もいるし、別段珍しいことじゃないだろ?」
勇者「確かに」
キャプテン「船頭にガチ○コで勝ったみたいだし、実力は認めてやるよ」
勇者「え?ということは側室になってくれると?」
キャプテン「話がある、きな。仲間も一緒にね」
勇者「ふっ。子どもは5人ぐらいでいいですよ?女女男女女が理想です」
―――会議室
キャプテン「話っていってももう勇者は快諾したみたいだが......あたしたちと共に戦う気はあるかい?」
勇者「ありますっ!!!」
キャプテン「お前はいいんだよ。後ろの女どもはどうだい?」
僧侶「わ、私は勇者様の決定に従います」
エルフ「ボクは魔王が倒せるならどんな方法でも構わないよ」
魔法使い「......」
キャプテン「あんたは?」
魔法使い「私は......反対なんてしないわ。いつだってコイツの選択は正しかったから」
勇者「側室ポイントが9アップしましたね」
魔法使い「そんなにいらないわよ!!!」
僧侶「いいなぁ」
キャプテン「そうかい。満場一致ってわけだ」
勇者「はいっ!!罵ってください!!!」
キャプテン「でも、あたしはまだ認めてないけどね、あんたらのことなんてさ」
勇者「えー!?そんなぁ!!お姉様ぁ!!!」
キャプテン「当然だろう。とくにお前」
勇者「ご指名ありがとうございます」
キャプテン「あたしは男をすぐに信用はしない。きちんと見定めてからじゃないとね」
勇者「では、夜の営みで僕がどれだけ男なのかを見せ付けてあげましょう」キリッ
キャプテン「魔王と戦うためには兵力と武力がいる。あたしたちの兵力は十分にある」
キャプテン「あとは武力が欲しいのさ」
僧侶「そういえば船長さんもそのようなことを......」
キャプテン「数百年前、まだ人間とエルフが仲良く手を繋いでいた時代だ。あるとき人間は魔王に喧嘩を売った」
エルフ「......」
キャプテン「そのときエルフは人間にあるものを託した。なんだが知ってるかい?」
魔法使い「聞いたことないわね」
僧侶「はい」
エルフ「......魔法銃」
キャプテン「正解。よく知ってるね。才能がない人間でも魔法を扱えるようになる強力な武器があったのさ。それが魔法銃だ」
魔法使い「へえ......そんなものがあったなんて......」
キャプテン「それを手に入れた人間たちは魔王を倒す一歩手前までいった。でも、結果は歴史の教科書にも載ってるだろ?」
僧侶「確か疲弊した魔王軍は孤島に逃げ、その周辺海域に近づけないようにしたとか」
キャプテン「今でもその海域はどんな船でも通るとこはできない。一瞬で海の藻屑になっちまう」
エルフ「でも、魔王はもうその孤島にはいないと」
キャプテン「あそこは最後の砦ではあるけど、あそこから世界を手中に収めることはできないからねえ」
勇者「魔王の居場所を知っているのですか?」
キャプテン「勿論さ。奴は今、かつての軍事大国に城を築き、ふんぞり返ってる」
勇者「......」
僧侶「魔王は自ら少しずつ動いているということですか」
キャプテン「そういうこったね。最近は力も増してきているし、早く戦争をしなきゃならない」
エルフ「そうだね。今のままでも十分に強いだろうけど」
キャプテン「だからこそ、魔法銃が欲しいのさ!!―――そこで、あんたたちをテストしたい」
勇者「腰の強度テストですか?」
キャプテン「魔法銃の探索だ」
僧侶「そ、それはどこに?」
キャプテン「殆どの魔法銃は海の底にある。けど、最近ある船団が過去の遺産を見つけた」
エルフ「それって」
キャプテン「数百年前、魔王の孤島に挑んだ勇者の船」
魔法使い「数百年前って?!それ船なの!?」
キャプテン「まあ、あれだよ、幽霊船ってやつだねぇ」
僧侶「幽霊船......怨念が形となって海を彷徨うという......あれですね」
エルフ「海って色々あるんだ」
勇者「ゴーストシップですかぁ。美人幽霊を側室ってどうですかね?」
魔法使い「幽霊と一緒なんて私は嫌よ」
キャプテン「魔法銃を見つけてきたら仲間として迎えてやろう。どうだい、悪い話じゃないだろ?」
勇者「でも、どうして僕たちに探索をさせるのですか?部下にやらせれば......」
キャプテン「昔から海の世界では幽霊船には乗るなって言われてるんだよ」
僧侶「乗船した者を永遠の航海に連れて行くといいますね」
魔法使い「そ、それ......危険じゃない?」
勇者「つまり誰も乗りたがらないと?」
キャプテン「とんだ腑抜けどもだよ。全く。海の男が聞いて呆れるね」
勇者「貴女も?」
キャプテン「いや。あたしは別に怖くないけど。何かあったらまずいだろ?」
勇者「......」ニヤァ
魔法使い「悪い顔になってるわよ」
勇者「おっと。自重」
キャプテン「で、どうするんだい?やるかい?」
勇者「ふっ。貴女のためならたとえ火の中、水の中。幽霊船の中にも行ってみせましょう」
キャプテン「ふふ。たくましいじゃないか。気に入ったよ」
勇者「ですがその前に、海賊の村に戻って欲しいのです」
キャプテン「どうしてだい?」
勇者「港街のほうに大事な仲間を置いてきているので」
キャプテン「ふーん......強いのかい?」
勇者「恐らく、人間では歯が立たないほどに」
―――海賊の村
キャプテン「ここに帰ってくるのもいつ以来だろうねぇ」
「キャプテンだぁ!!」
「キャー!!!キャプテン!!おかえりなさーい!!」
キャプテン「お前ら!!元気にしてたかぁ!!!」
僧侶「人気者なのですね」
魔法使い「カリスマはあるものね、あの人。なんていうか信頼できるって一瞬で思わせてくれるなにかがあるわ」
エルフ「早く港町に行こうよ。猶予は1日だけだし」
勇者「そうですね。急ぎましょう」
村人「おい、あんたら」
勇者「なんですか?」
村人「宿に小さな女の子と可愛い女の子がいるんだが、知り合いか?その二人、勇者を探してるって言ってたけど」
僧侶「ジーちゃんでしょうか?」
エルフ「心配になって探しにきたのかな?」
勇者「案内してください」
―――宿屋
魔王『どうだ?勇者のことは何か掴めたか?』
少女「それがまだ......。中々尻尾を出さないので」
魔王『あまり余裕はないぞ。最近、ニンゲン共に不穏な動きもあるからな』
少女「はい」
魔王『頼むぞ。世界を我が手にするために、些細な障害も捨て置けない』
少女「承知しております」
魔王『隙があればお前の判断で殺しても構わんが、絶対に無理はするな?お前を失いたくはない』
少女「心得ております」
魔王『吉報を期待している」
少女「はい」
キラーマジンガ「......」
少女「はぁ......やはり海に出るか......」
キラーマジンガ「マスター、海は危険です。やめましょう」
少女「お前にとってはだろうが!!!」
キラーマジンガ「ほら、サメとか出ますし」
少女「黙れ!!」
勇者「―――しつれい!!」ガチャ
少女「うわぁあぁ!?」
勇者「おや。やはり貴女たちでしたか」
魔法使い「だからノックしなさいっていってるでしょうが!!」
勇者「ノックしては裸が拝めません」
エルフ「ごめんね。心配かけたみたいで」
少女「う、うん......遅いから......」
僧侶「申し訳ありません。でも、船は確保できましたから」
キラーマジンガ「それは重畳です」
勇者「ただ君の自宅探しは少し後回しになるけど、いいかな?」
少女「う、うん......いいよ。気にしないでね」
勇者「いい子だ。僕の側室にはこういう素直な子も必要ですね」
魔法使い「ロリコンめ......」
―――船着場
キラーマジンガ「私も......ふ......船に乗るのですか......?」
僧侶「勿論ですよ」
キラーマジンガ「......」
魔法使い「マーちゃん?どうかしたの?」
キラーマジンガ「沈む確率を計算しています」
エルフ「沈まないって」
キラーマジンガ「75.56%の確率で轟沈します。乗船を拒否させていただきます」
魔法使い「ダメよ。マーちゃんのマスターだって乗るんだし」
勇者「乗りますよ。まあ、夜は僕の上に乗っていただきますけどね。なんちゃって」
キャプテン「早くしな!!時間がないんだよ!!」
エルフ「ほら!乗るよ!」ググッ
キラーマジンガ「やめてください。乗船を拒否します。自爆プログラムも発動させますよ?いいんですか?」
僧侶「そんなのないですよね?」
エルフ「うん」
魔法使い「ほら......!!」ググッ
キラーマジンガ「いやぁ......!!」
僧侶「我侭言わないでください......!!」ググッ
キラーマジンガ「人殺し......!!貴方達は人殺しです......!!」
勇者「オーエス!オーエス!」ググッ
キラーマジンガ「やめろ!人間の醜い部分が露呈しているぞ!!お前ら!!」
エルフ「それは君だ......!!」ググッ
キラーマジンガ「マスター!!お許しを!!海だけはダメなのです!!」
少女「......」プイッ
キラーマジンガ「あぁぁ......!!!」
キャプテン「おいおい、これが本当に頼れる仲間なのかい?あたしにはただの臆病者にしか見えないけどねえ」
勇者「やれば出来る子なんですよ!!キラちゃんは!!」ググッ
エルフ「そうそう!!」ググッ
キラーマジンガ「てめえらは悪魔だ!!!」
僧侶「ジーちゃんが壊れちゃいました......」
―――甲板
キャプテン「出航!!!目指すは幽霊船の出る魔の海域!!!」
海賊「「アイサイサー!!!」」
キラーマジンガ「おぉぉ......揺れる......揺れています......」ガクガク
魔法使い「この子、本当に機械兵士なの?」
エルフ「改造人間だから、根っこの部分は人間だと思うけど」
僧侶「でも可愛いじゃないですか、弱点があるなんて」
勇者「キラちゃんは僕が守ってあげるから。ほら、おいで」
キラーマジンガ「パパぁ......パパぁ......こわいよぉ......」ヨロヨロ
勇者「ほーら、ここまでおいでー」
キラーマジンガ「うぅぅ......パパぁ......いじわるしないでぇ......」
勇者「もうちょっとだ......がんばれっ」
キラーマジンガ「パ......パ......」ヨロヨロ
勇者「よし......よくがんばったな、娘よ」ギュッ
キラーマジンガ「パパ......大好き......抱いて......」ギュッ
魔法使い「なにやってのよ......」
少女「......」
僧侶「ごめんなさい。寄り道することになってしまっていて」
少女「ううん。いいよ。―――私、部屋で休んでるね」
エルフ「うん。わかったよ」
勇者「......」
キラーマジンガ「パパぁ」ギュゥゥ
勇者「よし。終了」
キラーマジンガ「今のはどうでしたでしょうか?自己採点では過去最高得点なのですが」
勇者「『パパぁ』の言い方が素晴らしい。だが、最後の抱いてはいただけない」
キラーマジンガ「なんですって?」
勇者「いいか?最後の『抱いて』は処女を散らす前の娘っぽさがない。あれでは売女の惚気だ」
キラーマジンガ「む......違いが理解できません」
キャプテン「おまえらー!!魔の海域に着くまでは一日以上かかる!!それまで自由にしてな!!!」
勇者「はい!!」
僧侶「勇者様っ」
勇者「なんですか?」
僧侶「船の中を探索しませんか?」
勇者「いいですね。船内ランデブーとしゃれ込みますか」
僧侶「わーい」
魔法使い「私は部屋に行くわ。船旅って疲れるし......」
エルフ「ボクは......」
キラーマジンガ「私はマスターのところへ」
エルフ「ねえ」
キラーマジンガ「なんですか?」
エルフ「君のことなんだけど」
キラーマジンガ「私の知っていることは既に皆様にお伝えしましたが」
エルフ「これ」スッ
キラーマジンガ「これは?」
エルフ「貴女の開発者の日記。あの塔で手に入れてちょっとずつ読んでたんだ。それで分かったよ、君がなんの目的で作られたのかを」
キラーマジンガ「来るべき戦いのために私は作られました」
エルフ「誰と戦うため?」
キラーマジンガ「分かりません」
エルフ「貴女の開発者はこう書いている。―――魔王を倒すためにもこの機械兵士キラーマンジガの開発を急がないといけない」
キラーマジンガ「魔王......」
エルフ「君は魔王を倒すために作られた」
キラーマジンガ「......」
エルフ「ボクが少し変だって気がついたのは君に魔物を探知する機能が搭載されていると知ったとき」
エルフ「それってつまり、魔物に狙われることを前提にしていることになるから」
キラーマジンガ「......」
エルフ「あの魔道士がどういうつもりで魔王と戦おうと思ったのかはどこにも書かれていないけど、君は魔王と戦うために生まれた」
キラーマジンガ「そうですか。でも、どうしてそのことを私に打ち明けたのですか?」
エルフ「ほら、心を持っているみたいだし、魔物と戦うことに迷いがあったら辛いかなって......思って......」
キラーマジンガ「前マスターが魔族だったから、ですか。お心遣い感謝いたします。ですが、私の使命はマスターをお守りすることが第一ですので」
エルフ「そう。ならいいんだ。ごめん、余計なこと言ったみたいで」
キラーマジンガ「ですが、魔王と敵対する者たちがマスターを狙った場合はどうしたらいいのでしょうか」
エルフ「え?」
キラーマジンガ「開発者の意思を汲み、魔王と戦うべきなのか。それともマスターを守護するべきなのか」
エルフ「難しいね。でも、そうなったら君の信じたほうでいいんじゃないかな?」
キラーマジンガ「信じたほうですか?」
エルフ「そう」
キラーマジンガ「信じたほう......」
エルフ「えっと......」
キラーマジンガ「なんですか?」
エルフ「足、震えてるけど大丈夫なの?」
キラーマジンガ「まさか。私が震えるなんて......本当ですね。私、震えています」ガクガク
エルフ「部屋に戻っていたほうがいいんじゃない?」
キラーマジンガ「私も同意見です。ですが、問題が発生しました」
エルフ「どうしたの?」
キラーマジンガ「足が動きません。助けてください」
―――客室
少女(海か......。ならば......ここは奴らを呼び出すか......)
少女「......」
トントン
少女「はい?」
エルフ「よっと」
少女「ど、どうしたの?」
キラーマジンガ「申し訳ありません。ここで休憩させてください」
少女「別にいいけど」
エルフ「船だめなんだって」
少女「機械兵士のくせに?」
キラーマジンガ「面目ありません」
エルフ「君と一緒がいいみたいだから。それじゃあ」
少女「うん」
キラーマジンガ「......」
―――船内 食堂
勇者「色々メニューがあるんですねえ」
僧侶「ですね。あ、このカレーって美味しそうです」
キャプテン「―――この船のカレーは絶品だよ」
勇者「おお。別嬪さんがキター」
キャプテン「二人は恋人か何かかい?」
僧侶「そ、そんな大それた関係では......」モジモジ
勇者「未来の側室なんですよね?」
僧侶「はいっ」
キャプテン「側室側室って、お前さん何言ってんだい?」
勇者「英雄、色を好むといいますよね?」
キャプテン「まあ、何人も女を転がせるだけの器量があるなら問題はないけどねえ」
勇者「ありますよ」キリッ
キャプテン「あたしには見えないけどねえ」
僧侶「勇者様はすごい人なんですっ」
キャプテン「ははっ。まあ、それは幽霊船での活躍に期待させてもらうさ」
勇者「そうだ。その件でお話があるのですが」
キャプテン「なんだい?今更泣き言はききたくないねえ」
勇者「その幽霊船探索なんですけど、僕たちでやるんですよね?」
キャプテン「ああ、そうさ」
勇者「それってどうなんですか?」
キャプテン「何がいいたんだ?」
勇者「いや。僕たちのことは......ああ、いや、僕のことは信頼できないんですよね?」
キャプテン「ああ」
勇者「なら魔法銃の捜索を見張りもつけないで任してもいいんですかぁ?」
キャプテン「海の上じゃあ逃げられないだろう」
勇者「あははは。これはこれは。大艦隊を率いる貴女がいう台詞とは思えません」
キャプテン「なんだって!?」
勇者「魔法銃は魔王をも追い込んだ伝説の武器。なら、それを手にした僕がこの海賊団を脅してしまうとは考えないのですか?んー?」
キャプテン「そ、それは......」
僧侶「勇者様はそのようなことしないですけどね」
勇者「でも、これだけの大艦隊です。力で屈服させ、我が手に収めたいという欲望に駆られてもおかしくない」
僧侶「ですね」
キャプテン「お前......本気で言っているのかい?」
勇者「可能性の話ですよ」
キャプテン「......」
勇者「ここは探索に貴女もついて来るべきだと思うのですが」
キャプテン「ふ、ふざけんな!!どうして......!!」
勇者「おや?何故?ついて来るだけなのに?」
キャプテン「だから......幽霊船には乗るなって海の世界では決まってんだよ」
勇者「迷信でしょう?」
キャプテン「バッカ!!幽霊船をなめるんじゃないよ!!」
勇者「......まさかとは思いますが、幽霊が怖いとか?」
キャプテン「そんなわけないだろうがよ!!」
勇者「なら、一緒に行きましょう。共に行動していれば魔法銃を見つけたとき貴女が真っ先に手にできるわけですし」
キャプテン「そんなことしなくてもあたしたちが......」ガッ
僧侶「きゃ?!」
キャプテン「あんたの女を人質にすればいいだけの話だろ?」
勇者「魔法銃と引き換えにというわけですか?」
キャプテン「ああ、そうだ」
勇者「そんなことしたら僕は魔法銃を貴女の大事な船に突きつけて人質にします」
キャプテン「卑怯だぞ!?」
勇者「なら一緒に行きましょう」
キャプテン「ふ、ふざ......」
勇者「ついてきてくれるのでしたら、人質は何人でも構いません。やってくれますか?」
僧侶「はい。人質になります」
キャプテン「くぅぅ......!!」
勇者「どうするんですかぁ?」
キャプテン「か、考える......ちょっと待ってな」
勇者「ごゆるりと」
―――客室
少女「......頼むぞ」
少女「これでよし」
キラーマジンガ「マスター。魔王との交信ですか?」
少女「いや」
キラーマジンガ「そうですか」
少女「......」
キラーマジンガ「マスターにとって魔王とはどのような存在なのですか?」
少女「それを知ってどうする?」
キラーマジンガ「いえ......」
少女「魔王様は我ら魔族の王。絶対的な存在。魔王様に疑問を抱いたことなどない」
キラーマジンガ「......」
少女「その王に楯突くニンゲンを駆逐する。当然のことだろう?」
キラーマジンガ「はい」
少女「ふん......」
―――魔王の城
側近「魔王様、兵が整いました」
魔王「ご苦労だったな」
側近「いえ」
魔王「では、遅延していた計画を進めるとしようか」
側近「はっ」
魔王「兵力は十分。時間も掛けた。これで負けることは無い」
側近「ドラゴンは呼び戻さなくてもよろしいのですか?」
魔王「奴は我の最後の憂いを取り除く為に行動している。まだ時期ではない」
側近「そうですか」
魔王「海に蠢く有象無象も挑発ばかりで攻めてくる様子はないな?」
側近「はい。兵の増強を行っているようではありますが、今のところ仕掛けてくる素振りは見せておりません」
魔王「よし。―――では、進軍開始は三日後とする。それまでに出来うる限りの準備をしておけ」
側近「了解いたしました」
魔王「トロルが攻め落とせなかったあの大地......今度こそ......」
―――翌日 魔の海域周辺
キャプテン「てめぇらぁ!!!男だろうが!!!股間についてるもんは飾りかぁ!!!?あぁぁ!?」
海賊「......」
船長「キャプテン、しかし幽霊船は俺たちにとっては禁忌で......」
キャプテン「んなことはわかってんだよぉ!!!ダボがぁ!!!」
勇者「揉めてますね」
僧侶「そうですね」
魔法使い「何があったの?」
エルフ「幽霊船に同行する人を募ってるみたいだね。誰も行く気なさそうだけど」
少女「......」
キラーマジンガ「海賊船の乗組員の方々は、幽霊船を極度に恐れています」
魔法使い「どうして同行させるのよ?」
僧侶「見張りがいないと私たちが魔法銃で脅してしまうかもしれないという話になりまして」
少女(魔法銃......?)
魔法使い「そんなことするわけないじゃない。まあ、信頼できないって言っていたし、仕方ないか......」
勇者「分かりました。ここはキャプテンが行くべきでしょう」
キャプテン「あぁ?!嫌ににきまってんだろ!?」
勇者「怖い?」
キャプテン「こ、こわくねえよ!!ざっけんな!!!」
船長「待て。それは流石に反対だ。キャプテンに何かあったらどうする」
キャプテン「おう!そうだ!もっといてやりな!!」
勇者「おやおや?キャプテンは幽霊を恐れるようなか弱い御人だと?」
船長「そんなわけねえだろ!!キャプテンはこの海で最も美しく!!気高く!!そして強いんだよ!!」
海賊「「そーだ!そーだ!!」」
勇者「なら、適任でしょう。僕らが魔法銃を見つけ、謀反を働こうとしたとき下っ端の人たちでは到底無理。一度負けた船長さんも無理」
船長「そ、それは......」
勇者「キャプテンしかつとまりませんなぁ」
キャプテン「ぐっ......いや......でも......しかし......」
勇者「威厳......見せるときじゃねえですか?仮にも大勢を纏める指揮官でしょう?そのカリスマを増大させるチャンスかと思いますけどねえ」
キャプテン「だ、だから......えっと......うん......」
勇者「ここで武勇伝をつくれば、士気も上がる。信頼度も跳ね上がる」
キャプテン「そ、そうかもしれないけど......」
勇者「貴女の英雄譚を聞きつけた有能な部下が増えるかもしれない」
キャプテン「そ、そうなのか?」
勇者「強い人の下に強いやつが集う。これ常識アル」
キャプテン「......」
勇者「さあ、魔王を倒し人類の英雄となるときですよ。海賊の存在を公に認めさせるチャンス」
キャプテン「確かに......」
勇者「何を迷うことがありますか!!―――何かあっても僕が必ず御身を守護いたします」
キャプテン「......」ピクッ
勇者「神に仕える者も僕の仲間にいます。彼女がいれば幽霊なんて怖くない」
僧侶「......」
キャプテン「そうだな......ふっ。そうだよ。あたしは大艦隊の海賊団総轄だ!!幽霊船ごときにびびってどうすんだい!!!」
勇者「と、言うことは......!!」
キャプテン「いってやらぁ!!!あたしに不可能はないんだよぉ!!!」
勇者「聞いたかお前らぁ!!!腰抜け共に代わってキャプテン自らが出撃する意思をかためたぁ!!!」
海賊「「おぉぉー!!!」」
船長「キャプテン......漢だ......!!俺......俺......一生ついてきます!!!」
キャプテン「あたしについて来る奴はいねえのかい?!」
「幽霊船はなぁ?」
「うん......流石に......」
船長「生きて帰ってきてください!!!キャプテン!!!」
キャプテン「てめえら。戻ってきたら覚えてろよ」
勇者「では準備をしましょうか」
キャプテン「まちな。こっちも人質を取らせてもらうよ」
勇者「ああ、そういう約束でしたね。どなたを人質にしますか?」
キャプテン「そうだねぇ......」
魔法使い「人質ってどういうことよ?!」
勇者「信頼できない相手に何かを依頼するとき、担保は必要でしょう」
エルフ「なるほど......裏切らないように予防線を張っておくわけだ」
勇者「―――幽霊船に行くメンバーは、僕と」
僧侶「はいっ」
エルフ「はーい」
キャプテン「ふん......」
魔法使い「大丈夫?」
勇者「心配してくれるのですか?ふふ、側室としての意識が芽生えたのですね」
魔法使い「違うわよ」
キラーマジンガ「最もバランスの取れた陣営だと思われます」
魔法使い「はっきり言われるとなんか悔しいわね」
勇者「まぁ、凶悪な魔物がいる可能性もありますが、危なくなったら発炎筒で危険を知らせますので」
僧侶「悪霊の類なら魔法よりも私の力が役に立つと思います」
キラーマジンガ「気をつけてね、パパ」
勇者「行ってくるよ。我が娘たち」
少女「......それ私も?」
キャプテン「じゃあ、幽霊船が見つかり次第乗り込むよ」
―――数十分後
海賊「キャプテン!!三時の方角!!謎の船影を確認しましたぁ!!!!」
船長「き、きたか......!?」
キャプテン「本当に......あったんだねえ......」
勇者「ふっ。僕が幽霊を蹴散らしてやりますよ」
僧侶「お願いしますね」
エルフ「幽霊か......魔法が通じる相手ならいいけど」
魔法使い「実体がない相手には利かないと思うけど」
少女「......」
キラーマジンガ「あぁ......もしもあの幽霊船が砲撃してきたら私たちは海の底に沈む......そしたら錆びる......」ガクガク
少女「おい」
キラーマジンガ「はい?」
魔法使い「ん......?」
キャプテン「よ、よし......り、り、隣接......しな......」
海賊「「あ、あああ、アイアイ、アイサー!!」」ガクガク
船長「キャプテーン!!おげんきでー!!!」
「キャプテーン!!大好きでしたー!!!」
「俺!!カーチャンにキャプテンと付き合ってるって報告してました!!ごめんなさーい!!!」
「キャプテンのブラジャーを昔盗んだの俺でーす!!」
キャプテン「......」
勇者「あれ?お見送りに応えてあげないのですか?」
キャプテン「いくぞ」
勇者「はい」
僧侶「もしかして緊張されているとか?」
エルフ「そんな馬鹿な。魔物の軍勢とも何回か戦っているって言ってたのに?」
僧侶「ですよね」
キャプテン「あれ?!―――おい!!こら!!お前はあたしの前だろ!!なにやってんだい!!」
勇者「そうなんですか?」
キャプテン「勇者は先頭を歩くもんだろうが!!!そんな基本も知らないのかい!?えぇ?!あぁ!?」
勇者「分かりました。僕が先頭になります」
船長「ああ......言ってしまった」
海賊「寂しくなりますね」
船長「ああ、そうだ。人質役になった―――」
キラーマジンガ「やはり私たちも幽霊船に乗り込みます」
船長「なんだと?!」
少女「探さないでください」
船長「バカ野郎!!そういうわけにも―――」
海賊「頭ぁ!!大変だ!!!」
船長「どうしたぁ!?」
海賊「幽霊船の野郎がいきなり動き出して......うわぁ!?」
ゴゴゴゴ......
船長「なんだと?!帆だって破れてんのに波の影響でしか移動なんて......」
キラーマジンガ「急ぎましょう。海に落ちたくありませんので。―――しっかり捕まっていてください」
少女「うん」ギュッ
船長「てめえらも勝手なことすんじゃねえよ?!」
キラーマジンガ「海が怖いので私は目を閉じます。飛ぶタイミングが自分ではわかりません。なので踏み切る瞬間の合図をお願いします」
少女「わかった」
船長「やめろぉ!!」
キラーマジンガ「うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」ダダダダダッ
少女「うっ......」ギュゥゥ
キラーマジンガ「おちたくなーい!!!!」ダダダダッ
少女「―――今だっ!!!」
キラーマジンガ「はっ!!」バッ
海賊「本当に飛び移りやがった......」
船長「あぁ!!キャプテンになんて言えばいいんだぁ!!」
海賊「頭ぁ!!大変だぁ!!」
船長「今度はなんだよぉ!!」
海賊「もう一人の姉さんがいなくなってやがるぅ!!人質が全員いねえ!!」
船長「ぎゃー!!キャプテンに怒られるじゃねえかぁ!!ええい!!幽霊船をおえ!!絶対に見失うなよ!!!」
海賊「「アイアイサー!!」」
―――幽霊船 甲板
勇者「至るところがボロボロですね」
キャプテン「......」ギュゥゥ
勇者「板が腐っています。足下には十分に気をつけてください」
僧侶「わかりました」
エルフ「うん」
勇者「ところで」
キャプテン「魔法銃は見つかったのか?」ギュゥゥ
勇者「僕にしがみ付いてくれるのはありがたいですが、せめて目ぐらいは開けていてもらわないと」
キャプテン「しっかりさがせ......こらぁ......」
僧侶「どうかしたんですか?元気が無いみたいですけど......」
キャプテン「無駄口叩く暇があった―――」
―――ドンッ!!!
キャプテン「きゃぁぁああああ!?!?!?」
勇者「なんだ?背後から音が......?」
僧侶「魔物でしょうか?」
エルフ「......」
キャプテン「おぉ......な、なんだよ......こらぁ......」ギュゥゥ
勇者「確かめに行きますか」
キャプテン「待てよ......魔法銃を探せ......よぉ......」
勇者「しかし、海には魔物も多くいます。乗り込まれたら厄介ですよ?」
エルフ「ボクが見てくるよ。三人は待ってて」
勇者「そんな危険です。全員で―――」
エルフ「キャプテンが動きそうにないし」
勇者「......わかりました。ですがすぐに戻ってきてください」
エルフ「うん。了解」タタタッ
僧侶「......」
勇者「キラちゃんを連れてきたほうが良かったかもしれませんね」
僧侶「魔物探知機能ありますもんね」
キャプテン「まだか......よぉ......」ギュゥゥ
勇者「―――遅い」
僧侶「見に行きましょう」
勇者「物音一つしないのが気になりますが......」
キャプテン「怨霊か!?悪霊か?!」
僧侶「禍々しい怨嗟の念が充満していることは確かですが」
キャプテン「やめろよ!!そういう脅しはよぉ!!」
勇者「どうしたんですかー!!!早く戻ってきてくださーい!!」
僧侶「船尾のほうで何かあったのでしょうか?」
勇者「急に視界も悪くなってきましたし、やはり行きましょうか」
僧侶「はい」
キャプテン「魔法銃はどうなったんだよぉ」
勇者「ちゃんと探しますから」
キャプテン「うぅ......」
勇者「何事もなければいいが......」
僧侶「......」
勇者「どうしたんですかー!!」
僧侶「返事をしてくださーい!!」
キャプテン「おう......」
勇者「貴女が返事をしてどうするのですか」
キャプテン「わ、悪いね......」
僧侶「いませんね」
勇者「下に向かうような場所もないですし」
僧侶「勇者様、ここ穴があります」
勇者「板が腐って抜け落ちた感じですね。まさか、この穴から落ちた......?」
僧侶「それなら私たちも」
勇者「いえ。どこに繋がっているかわからない以上、正規のルートを辿っていくほうが安全です」
僧侶「それもそうですね」
勇者「行きましょう」
僧侶「はい」
キャプテン「まてよ......ゆっくりあるけよ......」ギュゥゥ
―――幽霊船 Aフロア
勇者「ここは......」ガチャ
僧侶「お部屋ですね。無残な感じですけど」
勇者「ふむ......」
キャプテン「なんかあったか?」
勇者「いいものがありました」
キャプテン「なんだよ......」ソーッ
勇者「乗組員と思しき頭蓋骨が」
キャプテン「ぴゅっ!?」
勇者「手がかりになるようなものはありませんね」
僧侶「船尾のほうへ行きましょう」
勇者「ええ」
キャプテン「......」
勇者「どうしました?」
キャプテン「......こし......ぬけ......た......」
勇者「ガイコツぐらいで何をいっているのですか?」
キャプテン「ばかやろう!!こういうところで見るとまた一味ちがうだろうがぁ!!」
勇者「―――どうぞ」
キャプテン「なんの真似だ......」
勇者「おんぶしてあげます」
キャプテン「ざっけんなぁ!!」
勇者「では、ここで待っていてください」
キャプテン「え?」
僧侶「勇者様」
勇者「はい」
キャプテン「まてぇ!!おいてくなぁぁ!!!」ギュゥゥ
勇者「なんですか?」
キャプテン「見張りのあたしを置いていくとかありえねえなぁ!!!」
勇者「では、おんぶで」
キャプテン「ちくしょう......」
勇者「よっと」
キャプテン「......おもくないかい?」
勇者「いえ。いい感じに弾力があって空中に浮いてしまいそうです」
キャプテン「はぁ?」
僧侶「勇者様。こっちも同じような部屋だけです」
勇者「そうですか。では、下に向かう階段を探しましょう」
僧侶「わかりました」
勇者「それにしても不気味なほど静かですね」
キャプテン「たいまつの灯りは大丈夫だろうね?」
勇者「問題ありません」
キャプテン「......」
僧侶「勇者様!ありました!!こっちです!!」
勇者「わかりました」
キャプテン「はぁ......」
勇者「おふぅ......吐息が耳に......ぬほほぉ」
―――幽霊船 Bフロア
勇者「気配は感じますか?」
僧侶「いえ......。船全体から悪鬼の熱を感じるので」
勇者「幽霊の胃の中にいるようなものですか」
僧侶「そう思ってください」
キャプテン「あたしたち食べられたのかい?!」
勇者「食べられに行ったというべきでしょう」
キャプテン「帰りたい......」
ギシ......ギシ......
キャプテン「なに?!なになに!?」
僧侶「誰かがこの先にいるようです」
キャプテン「いるわけないだろう?!」
勇者「静かにお願いします」
キャプテン「う......」
ギシ......ギシ......ギィィ......バタンッ
勇者「この部屋ですね」
僧侶「恐らく」
キャプテン「ひぃぃ......」チャカ
勇者「耳元で銃は発射しないでくださいね。鼓膜が破れますから」
キャプテン「そんな軟弱な鼓膜なのかい......」ガクガク
勇者「鼓膜は鍛えられません」
僧侶「開けます」
勇者「お願いします」
キャプテン「おぉぉ......」
僧侶「......」ガチャ
キャプテン「ひっ」
勇者「......誰もいませんね」
僧侶「違う部屋だったのでしょうか?」
キャプテン「この部屋......見た感じ、船長かなんかの部屋っぽいね」
勇者「何か分かるかもしれません。調べてましょう」
―――船長の部屋
勇者「うーん......」ゴソゴソ
キャプテン「魔法銃はないねえ......」
僧侶「......」ペラッ
勇者「どうしました?」
僧侶「航海日誌を見つけました」
勇者「ほう」
キャプテン「いいね。他人の航海日誌ほど面白いものはないよ」
―――今日は快晴。絶好の航海日和だ。俺たちは王国の勇者を乗せ、魔王が住む孤島へ向けて出発する
先日の戦いで奴らは大きな痛手を負ったはずだ。魔物を駆逐する最大の好機が巡ってきたわけだ。
エルフ族が開発した魔法の銃さえあれば、俺たちは絶対に負けない。勇者もそう確信しているからこそ、俺たちは魔王の根城に乗り込む。
勇者は船出の際に皆に宣言した。必ず勝てる。すぐに人間たちだけの時代がくる。俺もそう信じている。
キャプテン「時代だねえ。今じゃ魔族のほうが強すぎて、人間じゃあ歯が立たないっていうのに......」
僧侶「そうですね。でも、魔法銃によって一度魔王を追い詰めているわけですし、自信があったのでしょう」
勇者「続きを見てみましょう」
―――今日は快晴。魔王がいる孤島まではおよそ五日の航海となる。
その長旅の間に士気が落ちてはいけないと、勇者一行は色々と考えてくれていた。
魔物は海にもでやがる。そこで勇者たちは海の魔物を捕らえて、魔法の銃の威力を見せてくれた。
引き金を引くと大きな音がして魔物の顔が吹っ飛びやがった。他に捕らえた魔物の驚いた顔は傑作だった。
写真機でも積んでおけばよかった。
僧侶「......」
キャプテン「ふーん。すごい威力かと思っていたけど、大したことはないのかねえ......」
勇者「分かりません。どんなモノでも破壊する力があったのかもしれません」
―――今日は曇天。三日目にして問題が起きた。空を見る限り、大時化になる。
それだけならよかったが、魔物の軍勢が攻めてくる様が肉眼ではっきりと見えた。
ここで戦力を消耗したくはない。なるべく遠方から攻撃するべきだと勇者たちは言う。
魔王との決戦を占う大一番になりそうだぜ。
勇者「―――うーん......大したことは載っていなさそうですね」
キャプテン「じゃあ、どうするのさ」
勇者「とにかく先を急ぎましょう。今頃、逸れてしまった彼女がワンワン泣いているかもしれませんし」
僧侶「勇者様」
勇者「どうしました?」
僧侶「もう少し、この日誌を読んでみたいのですが」
勇者「なにか気になることでも?」
僧侶「はい」
勇者「......わかりました。でも、絶対にここから動かないようにしてください」
僧侶「申し訳ありません」
キャプテン「じゃあ、あたしは......」
勇者「僕とデートしましょう」
キャプテン「こんな状況でよくそんなことが言えるね」
勇者「勇者たるもの、常に平常心を保っていないと」
キャプテン「......まあ、今は頼もしい限りだけどね」
勇者「では、行って来ます」
僧侶「はい」
キャプテン「はぁ......ここから出たくないねえ......」
僧侶「......」ペラッ
―――今日は快晴。酒が旨い。勇者の指示通りに動くだけで魔物はあっという間に退散した。ざまーみろ。
生き残りが居たので生け捕りにしてやった。こいつらで魔法の銃の試射をしようって話になったからだ。
明日が楽しみだ。
―――今日は濃霧。魔王の孤島が見えた。だが、たどり着けない。
引き返しても同じ場所に来てしまう。どうなってんだ、これは。勇者は近くに幻術使いがいると主張する。
勇者がそういうならそうするしかない。幻術使い探しは勇者たちに任せて、俺たちは昨日捕まえた魔物で魔法の銃の練習をした。
気持ちいいほどに魔物が死ぬ。今まで1匹倒すのも相当な労力だったのに、これはいい。最高だ。俺が独りで10匹殺したら他のやつに怒られた。
魔物なんだから何匹殺してもいいだろうが。
―――今日は濃霧。魔王の孤島はまだ見えている。しかし、たどり着けない。
幻術使いはまだ見つからないようだ。海で捕まえた魔物を魔法の銃で殺していると、勇者がそろそろやめろという。
魔法の銃も使いすぎるとダメになるらしい。孤島に着くまでおあずけだ。
―――今日は濃霧。魔王の孤島はまだ見えている。進展なし。勇者に疑問を持つ奴もチラホラ現れ出した。
食料も無限じゃない。早くなんとかしてほしいもんだ。
僧侶「......」ペラッ
―――今日も濃霧。魔王の孤島は見えている。今日はこの部屋から出ていない。
勇者は何をやっているのか。
―――今日も濃霧。魔王の孤島は見えている。進展なし。
腹が減ったと喚く奴が現れた。誰かの一喝で静かになったが。
―――今日も濃霧。魔王の孤島が小さくなる。他に陸は確認できない。
地図はあるので現在位置ぐらいは分かる。そろそろ食料が底を尽きる頃だ。
―――今日も濃霧。魔法の孤島は確認できなくなった。今、どこなのかも分からない。
食料はまだある。まだなんとなる。
―――今日も濃霧。魔王の孤島は見えない。食料はまだある。
―――今日も濃霧。食料はある。
―――今日も濃霧。食料が尽きたといって勇者が部屋に入ってくる。可笑しなことをいう。こんなにあるのに。
―――今日も濃霧。食料が増えた。それと同時に魔法の銃も解禁になった。今まで捌くのが大変だったから助かる。
―――今日も濃霧。肉ばかりで流石に飽きてきた。でも文句は言えない。
―――きょ うは お れがにく にな る。うで が うま そ うだ。
僧侶「......これで最後......これって......もしかして......」
僧侶「濃霧......まさか......!!」
ガチャ
僧侶「勇者さ―――」
少女「......」
僧侶「貴女は......」
キラーマジンガ「どうもお久しぶりです」
僧侶「船に残っていたのでは?」
少女「うん......でも、少し気になって......」
僧侶「気になる?」
少女「魔法銃のこと」
僧侶「ああ。でも、私たちがもって帰る予定だったので」
少女「それは困る」
僧侶「え?」
少女「あれはニンゲンの手に渡ってはいけないものだ」
僧侶「貴女......もしかして......」
―――幽霊船 Aフロア
魔法使い「ちょっと待って」
勇者「なんですか?」
魔法使い「アンタ、いきなり何を言い出すのよ。私は二人を追ってきて―――」
勇者「そんなのどうでもいい」
魔法使い「はぁ?」
勇者「僕、やっと気づいたんです。一番好きなのは貴女だって」
魔法使い「な......!?」
勇者「僕と結婚してください」
魔法使い「こ、こんなときになにいってるのよ?!バカじゃないの!?」
勇者「側室なんて要りません。貴女が傍にいるだけでいいのです」
魔法使い「え......」
勇者「僕の......僕だけのお嫁さんになってもらえますか?」
魔法使い「だ、だから......あの......」
勇者「貴女を愛している」
―――幽霊船 Cフロア
勇者「む......」
キャプテン「ど、どうしたんだい?」
勇者「目の前に裸の女性がいっぱいいるんですが」
キャプテン「な、なにいってんだい!?」
勇者「いや、ほら、目を開けてみてください」
キャプテン「ど、どうせまたガイコツを見せ付ける気だろ!?もう騙されないよ!!」
勇者「本当なのですが」
キャプテン「いいから魔法銃を探しな!!」ギュゥゥ
勇者「といっても、皆さんが側室にして欲しいと懇願してくるのですが」
キャプテン「あたしにはそんな声、一つも聞こえないよ!!」
勇者「なるほど。ということは......」
キャプテン「幽霊とかいわないでおくれよ!!!」
勇者「それ以上に厄介ですね」
キャプテン「早くすすみなぁ!!!」
―――幽霊船 船長室
僧侶「貴女は......貴女は......」ガクガク
少女「しばらく眠っていてもらおうか」
キラーマジンガ「申し訳ありません」
僧侶「勇者さまぁ!!!」ダダダッ
少女「え?」
僧侶「勇者様!!ありがとうございます!!私、嬉しいです!!」
少女「何を壁に向かって......」
僧侶「勇者さまぁ......」スリスリ
少女「そうか、これは......」
キラーマジンガ「マスター。恐らく、この幽霊船を包み込んでいる魔法の影響かと思われます」
少女「幻覚の魔法か。船そのものにそれを掛けてたと聞いたことはあったが......」
キラーマジンガ「外の濃霧は魔法の副次的な効果によるものです」
少女「最も恐れるモノを見えなくし、最も好むモノを見せる......。人間にしか効果はないようで助かるな」
キラーマジンガ「はい」
少女「この状態であれば殺すのも容易いな」
キラーマジンガ「マスター。私が殺害いたします」
少女「ほう?」
僧侶「勇者さまぁ......私を犬と扱ってくれても構いません......」スリスリ
キラーマジンガ「では......」シャキン
少女(これで......魔王様に朗報をお伝えできるな......)
僧侶「はふぅん......」スリスリ
キラーマジンガ「......」
少女「......」
キラーマジンガ「それでは―――マスター!!!魔物が!!」
少女「なに?!」
エルフ「―――そこまでにしてくれる?」
少女「な......」
エルフ「ガーちゃんも剣を降ろして。でないと、大事なマスターを撃つよ?」
キラーマジンガ「状況把握しました。無駄な抵抗はやめてください。貴女独りでは私には勝てません」
少女「お前......」
エルフ「君のことはずっと疑っていたよ」
少女「......」
エルフ「魔道士は捕らえた人は独り残らず生命力を吸い取っていたのに、君だけが元気だった」
エルフ「ボクたちの中で一番優れたポテンシャルを持っていたのにも関わらず。魔道士はエルフでさ垂涎していたのに、君を放置なんてありえない」
少女「木偶人形が余計な分析をしたからか」
エルフ「甲板で君たちを見て、きっと何かあると思った」
キラーマジンガ「いい読みです」
エルフ「君は誰?何の目的でボクたちについてきたの?」
少女「ふん......裏切り者の分際で......」
エルフ「え......?」
少女「俺がこうして正体を晒すリスクを負ってまでこの幽霊船に乗ったのは、お前の所為だ」
エルフ「なにを......」
少女「魔法銃。かつて、魔王様を追いつめた武具。それを作ったのはお前らだろうが」
エルフ「君は......魔族......なの?」
少女「ここでは俺の崇高なる姿を見せられないのが残念だ。船が沈むからなぁ」
エルフ「殺すつもりなら沈ませれば」
少女「併走する海賊船がある。あれを沈めるのは俺でも無傷では済まない。―――まあ、仲間が来たら、一気に決着をつけてやるさ」
エルフ「仲間?!」
少女「本来ならそいつらと勇者一行を戦わせるだけのつもりだったが、状況が変わったな。ここでお前たちを必ず消す」
エルフ「やめて......」
キラーマジンガ「無駄な抵抗です。やめてください」
エルフ「くっ......」
少女「抵抗しても構わん。今のニンゲンどもはどうせ戦えない」
僧侶「ゆうしゃさぁまぁ......」スリスリ
エルフ「......」
キラーマジンガ「大人しくしていれば苦しまずに死ねます」
エルフ「ボクは魔王を倒すって決めた。同胞を食い物にするような王なんて、ボクは許せない!!!」
少女「過去のことを棚に上げるのか!!?」
エルフ「ボクたちだってニンゲンがあんなことをするなんて思わなかった!!ご先祖様たちはみんな嘆いていたよ!!」
少女「黙れ!!」
エルフ「本当だ!!」
キラーマジンガ「マスター、どうされますか?」
少女「......まずはこの裏切りモノから始末しろ」
キラーマジンガ「了解しました」
エルフ「来るな!!撃つよ!?」
少女「撃てば分かる。無駄な行為だ」
エルフ「......っ」
キラーマジンガ「お覚悟を」
エルフ「きゃっ―――」
ギィィィン!!!
少女「な......」
キラーマジンガ「......!」
エルフ「......え?」
勇者「―――そんな乱暴な子に育てた覚えはないぞ!!!娘ぇ!!!」
少女「何......?!」
キラーマジンガ「パパ......これは......違うの......」オロオロ
勇者「母さんに手を上げるとは何事だぁ!!けしからん!!!喝っ!!!」
キラーマジンガ「ひっ」ビクッ
勇者「お前の小遣いを減らすからなぁ!!」
キラーマジンガ「やめてよぉ!来週は大好きな先輩とデートするから新しい洋服がいるっていったじゃん!!」
勇者「だまれ!!お前みたいな不良娘など家にはいらん!!でてけぇ!!!」
キラーマジンガ「ざけんなよ!!クソオヤジがぁ!!!」ダダダッ
勇者「ふんっ......」
キラーマジンガ「......パパ?」
勇者「......なんだ?」
キラーマジンガ「反省したから......抱いて?」
勇者「ふっ......淫乱娘が......」
キラーマジンガ「パパがそういう体にしたくせに......」
少女「おい、やめろ」
キラーマジンガ「今のは確実に90点でしょう?」
勇者「いや、87点だな」
キラーマジンガ「どこがですか?完璧だったはず」
勇者「最後の一言が余計だ。あれでは完全に娼婦だ。バカヤロウ」
キラーマジンガ「くっ......道のりは険しい......!!」
少女「いい加減にしろ」
勇者「そうですね。―――大丈夫ですか?」
エルフ「う......うん......」
キャプテン「おーい......どこだぁ......」オロオロ
キャプテン「―――てっ?!」ゴンッ
勇者「目を開けてあるかないと危ないですよー」
少女「貴様......幻覚が見えているはずでは......」
エルフ「そうだよ!!大丈夫なの?!」
勇者「問題はありません。僕は今、ヌーディストビーチの真っ只中にいるだけですから」
エルフ「......」
少女「どういうことだ......?」
勇者「僕が真に求めているのは側室。裸婦ではありません」
少女「意味が分からん」
キラーマジンガ「パパ。ここはお互いのために退きましょう」
勇者「君のマスターがそれを許さないんじゃない?」
少女「......」
キラーマジンガ「マスター......」
少女「ここで殺す。やれ」
キラーマジンガ「......了解しました」
勇者「いつかはこうなるんじゃないかと思っていましたよ」
キラーマジンガ「はぁぁぁ!!!」
―――バァァン!!
キラーマジンガ「つっ......!?」
キャプテン「馬鹿でかい声だねえ。目を閉じてても的が分かるよ」
勇者「今だっ!!」バッ
少女「貴様......!!」
勇者「こっちだ!!」グイッ
僧侶「あれ?勇者様がいっぱいいる?!」
勇者「逆ハーレムですね」
僧侶「はい......」ウットリ
少女「逃がすかぁ!!!」ゴォォォ
エルフ「させない!!」キュィィン
少女「おのれぇ!!!」
キラーマジンガ「逃がしません!!」
勇者「おねえさまぁ!!!」
キャプテン「はいよ!!」バァァン
少女「くっ......!こざかしい!!」
キラーマジンガ「ここは海の上、逃げ場はありません」
勇者「逃げるつもりなんてない。魔法銃の回収が済んでいないしね」
キャプテン「おい!はやくしてくれ!!こっちは不安でしょうがないんだよぉ!!」
エルフ「ボクが誘導します」ギュッ
キャプテン「あ、ありがとう」
僧侶「ここにも勇者様......ああ、天井にも......壁にも......ああ......どうしたらぁ......私の腕も勇者様!?」
少女「あれだけは渡すわけにはいかない......」
勇者「なら船を沈めればいいだけの話でしょう?」
少女「......」
キラーマジンガ「マ゛ズダァァ!!それだげはぁぁぁ!!」ギュゥゥ
少女「錆びるのが嫌なら早く魔法銃を見つけろ!!!」
キラーマジンガ「はい!!」
勇者「それなら他の三人と協力したほうが効率的だよ」
キラーマジンガ「流石です。そうさせて頂きます」ダダダッ
少女「馬鹿かきさ―――」
勇者「ここからは僕たちだけの時間にしましょうか?」
少女「勇者......」ギリッ
勇者「君には色々と聞きたいことがある」
少女「ふん......」
勇者「黄金の国で会ったことがあるよね?」
少女「......ああ」
勇者「やはりか」
少女「どこで分かった?」
勇者「匂いかな」
少女「ほう?ニンゲンの嗅覚でも俺の正体が分かると?」
勇者「馥郁たる花の香りが君の脇から匂ってきたよ」
少女「......え?」
勇者「あの鼻腔を通るときの甘酸っぱさ。一度嗅げば忘れたくとも忘れられないね」
少女「き、きさま......!!!どこで判断している?!」バッ
勇者「そんなに恥ずかしがらずともいいですよ。僕は女性が10日間風呂に入っていなくても抱ける派ですから」
少女「不潔なだけだろうが!!!」
勇者「君の垢なら喜んで舐めとりましょう」
少女「汚いんだよ!!」
―――幽霊船 Cフロア 宝物庫
エルフ「ここが怪しいけど......鍵が掛かってるね」ガチャガチャ
キラーマジンガ「どいてください」
エルフ「な、なにする気......?」
キラーマジンガ「はぁっ!!」バコンッ
キラーマジンガ「開錠しました」
エルフ「壊したっていうんじゃないの?」
キラーマジンガ「訂正いたします。壊錠しました」
エルフ「......君は味方なの?」
キラーマジンガ「私はマスターの味方です」
エルフ「じゃあ......敵だね」
キラーマジンガ「残念ですがそうなります」
キャプテン「どうでもいいじゃないか。早く探しな」
エルフ「貴女も目を開けて探してよ......」
キャプテン「無理だね!!」
僧侶「あ~勇者様がこんなとところにも~♪」テテテッ
キャプテン「まだ見つからないのかい?!こっちはさっきから首筋が寒くて仕方ないんだよ!!」
キラーマジンガ「現在の室温は24度。寒いと感じるような温度ではありません」
キャプテン「いいからはやくさがしておくれよぉ!!」
キラーマジンガ「了解しました」
エルフ「幽霊が怖くてよく魔物と戦えるね」
キャプテン「正体がよくわかんないとか怖いじゃないかい!!なにいってるのですか!?」
エルフ「ごめん。とりあえず黙ってて」
キャプテン「し、知らない間にどっかいかないでおくれよ......」
エルフ「行かないから」
キラーマジンガ「魔法銃......検索中......検索中......」ゴソゴソ
エルフ「探索中」
キラーマジンガ「訂正します。魔法銃......探索中......探索中......」ゴソゴソ
エルフ「......捜索中」
キラーマジンガ「訂正します。魔法銃......捜索中......捜索中......」ゴソゴソ
僧侶「勇者様......キス......ですか......?私は......構いませんが......んー......」
エルフ「ちょっと、いつまで......あ!」
キラーマジンガ「どうされましたか?」
エルフ「貴女が抱いてるの......魔法銃じゃあ......」
僧侶「勇者様ぁ......うふふふ......」
キャプテン「見つかったのかい?!」
エルフ「うん。見つけたよ」
キラーマジンガ「やりましたね」
エルフ「よし。ここにはもう用はない。出よう」
キャプテン「勇者様はどうするんだい?」
エルフ「早く甲板に出たほうがいい」
キャプテン「どうして?」
キラーマジンガ「マスターが増援を呼びました。間もなくこの海域にクラーケンがやってきます」
キャプテン「海の王者じゃないか!?なんでそんなことに!?」
エルフ「ここにいたら戦えない。とにかく外に出よう」
―――幽霊船 船長室
勇者「黄金の国ではお世話になりましたね。ドラゴンさん」
少女「ふん。あれはただの小手調べだ」
勇者「でも、今の姿のほうが何億倍も良いですよ。そのままで居るべきです。というかいなさい。これはお願いじゃない。命令だ」
少女「俺に命令できるのは魔王様だけだ」
勇者「なら、その魔王を僕が倒せば貴女を独占する権利が生まれるわけですね。ひゃっほーい!!」ピョーン
少女「......それはできないな」
勇者「何故ですか?」
少女「お前は、ここで―――死ぬからだ!!!」ゴォォォ
勇者「あぶないっ」バッ
少女「独りでは魔物一匹満足に倒せないことは知っている!!貴様だけの力でここまで来たわけじゃないんだろ?」
勇者「その通り。僕には将来の側室候補生がいる。あの子たちの身を削るほどの献身によって―――」
少女「しねえ!!!」ゴォォォ
勇者「熱っ!くそ!!燃え上がるのはベッドの上だけで十分だこらぁ!!―――丁度、そこにベッドがあるな、寝るかい?」
少女「俺はまだ眠くない!!」
勇者「あははは!!君はやはり処女か!?」
少女「ニンゲンの杓子定規で測るなぁ!!!」
勇者「でも、その反応は―――」
エルフ『みつけたよー!!!!』
勇者「おぉ!意外と早い。幻覚が効かないのはいいですね」
少女「しまった......!!」
勇者「ところで、僕の股間を見てください」
少女「は?―――おぉ!?なんでそんなに張っているんだ!?」
勇者「だって、僕の下半身に数十人の裸婦が群がっていて......欲しい欲しいと先ほどから......」
少女「汚らわしい......!!死ねぇぇぇ!!!!」ゴォォォ
勇者「ふっ―――」
少女「はぁ......はぁ......はっ?!」
少女「逃げたか......!!」
ゴゴゴゴゴ......!!!
少女「この揺れは......来たか......!!勇者ども......深海で眠ってもらうぞ......魔法銃と共にな......!!」
―――幽霊船 甲板
ゴゴゴゴ......!!!
僧侶「きゃ?!」
エルフ「海に大きな影......あれがクラーケン......?」
キラーマジンガ「ゆれる......しずむ......錆びる......」ガクガク
キャプテン「外かい?!目は開けてもいい?!」
エルフ「ん?」
魔法使い「だめ......私たち......そんな関係じゃあ......」
エルフ「あっちもダメか......となると、戦えるのは......」
キャプテン「ねえ?!もう目をあけてもいいかい?!」
エルフ「まだだめ!!開けたらきっと気絶すると思う!!」
キャプテン「そうかい!!そうだと思ってたんだよ!!!」
僧侶「勇者様......助けてくださぃぃ......」ギュゥゥ
エルフ「戦えそうなのはボクと......ギリギリでキャプテンだけ......か......」
ゴゴゴゴ......!!
クラーケン「ぬぁっはっはっはっはっは!!!!!」ザパーン
エルフ「でかい......?!」
クラーケン「ドラゴン様に言われてきてみればぁぁ!!!矮小な生き物がたったすぅぅひきとはぁぁ!!!」
キャプテン「......なんか威圧感を感じるねえ」
クラーケン「このままぁぁ海の底へ船ごと引き摺りこんでくれるぅぅわぁぁぁぁ!!!!」シュルルル
メキ......メキメキ......!!
エルフ「うぁ......?!」
キラーマジンガ「船体に損傷発生。沈みます。エマージェンシー!!メーデー!!メーデー!!」オロオロ
エルフ「―――くらえぇ!!」ゴォォォ
クラーケン「ぬぅ?!」
エルフ「焼きイカになりたくなかったら、その汚い触手を船から離せ」
クラーケン「ぬぁっはっはっはっは!!!吼えるぁ吼えるなぁ!!!多少の魔法では私に傷などつけられぇぇぇん!!!」
―――バァァン!!
クラーケン「ぬぁった?!―――なんだ?!」
キャプテン「どうやらどこに撃ち込んでもど真ん中に当たるボーナスステージみたいだねえ!!それなら派手にやるよぉ!!!」
船長「てっー!!!」
ドォン!!ドォン!!
クラーケン「ぬぅ?!なんだぁ?!」
船長「キャプテーン!!!援護砲撃は任せてください!!!」
キャプテン「よくやったぁ!!おまえらぁ!!」
船長「援軍がくるまで絶対にここをもたせろぉ!!!」
「「アイアイサー!!!」」
エルフ「これなら......!!」
クラーケン「あまいわぁ!!ぬぅぅるいわぁぁぁぁ!!!!」ドォォン
エルフ「うわぁ!?」
キャプテン「うっ......なんだい?!」
僧侶「きゃぁ?!」
キラーマジンガ「船体の損傷が999パーセントを超えました。もうやめてください」
クラーケン「ニンゲンどもがぁぁぁぁ!!!!調子にのるなぁぁぁぁ!!!!」
エルフ「熱量が圧倒的に足りない......。独りじゃ......!!」
船長「よくねらえ!!お前らぁ!!!」
海賊「波が荒れて狙いが定まりません!!」
キャプテン「おらおらぁ!!!」ドォン!ドォン!
クラーケン「いてぇぇんだよ!!!」ベシンッ
キャプテン「ぐぁ?!―――しまった、目を瞑っているから攻撃をよけられないじゃないか」
エルフ「よく大艦隊を率いてるね」
キャプテン「目をあけたら気絶するんだろ?!」
エルフ「そうだけど......」
クラーケン「今、破壊させてやるぅぅぅ!!!!」メキメキメキ
エルフ「まずい!!」
キャプテン「やめないか!!このゲソやろう!!」ドォン!!
クラーケン「いてえつってんだろ!!!」ブゥン!!
エルフ「危ない!!」
キャプテン「え?!どっちから来るの?!」
勇者「―――今お助けしますよぉ!!お姉様ぁ!!!」ダダダッ
キャプテン「あ......」
勇者「大丈夫ですか?」
キャプテン「た、たすかったよ......」
勇者「ふっ。なんのこれしき」
クラーケン「なんだぁ......?」
勇者「目を開けても大丈夫ですよ」
キャプテン「ほ、本当だろね......」
勇者「今、一瞬あけたじゃないですか。何が見えましたか?」
キャプテン「......アンタの顔だね」
勇者「守ると言ったでしょう。―――どんな危険からでも」
キャプテン「あんた......」
クラーケン「ニンゲンがぁぁぁ!!!一匹増えたところでぇぇぇ!!!なぁぁになぁぁる!!!」
勇者「ちゃんと見ていて欲しい。僕が貴女だけのナイトになるところを」
キャプテン「......はい」
勇者「いくぞ!!!!イカ野郎ぉぉぉ!!!!」
クラーケン「ぬんっ!!!」ブゥン
勇者「せいやぁ!!!」ズバッ
クラーケン「いてぇぇんだよぉ!!!」ベシィ!!
勇者「ぐぁ?!」
エルフ「大丈夫?!」
キャプテン「よくも!!―――化け物がぁ!!!」ドォン!!ドォン!!
勇者「でかすぎる......。クラーケンってこんな手も足も出ないほど大きかったのですか......?」
エルフ「ううん。これは明らかに異常なでかさ。きっと......」
勇者「キラちゃんにも使われている生命エネルギーですか」
エルフ「うん」
勇者「とりあえず、回復を」
エルフ「ああ、ごめん」パァァ
勇者「......はぁ......情緒がないなぁ......抱きついてくれないと......」
エルフ「できないよ!!文句いうなぁ!!」
勇者「冗談ですよ、マイハニー」キリッ
魔法使い「やぁん......だめぇ......」
僧侶「勇者様......もっと抱きしめてください......」
勇者「全く。二人は空気と浮気ですか。なんて難易度の高いネトラレ」
エルフ「どうでもいいけど、早く手を打たないと船が......!!」
勇者「分かっていますが、こんな怪獣を相手にできるのはそれこそ怪獣だけですよ」
キャプテン「ちょっと、あんた!!大丈夫なのかい?!」
勇者「心配ありませんよ、マイディアー」
キャプテン「そ、それならいいんだよ......うん......」
勇者「キラちゃんは?」
エルフ「あそこ」
キラーマジンガ「マスター......たすけて......」ガタガタ
勇者「海の上ではただの可愛い女の子型ロボットですか」
クラーケン「おわりだぁぁぁぁ!!!」メキメキ
勇者「―――そうだ!魔法銃を使ってみましょうか」
少女「―――今、奴らの手には魔法銃がある。あれを使われては状況が一変するな。ここでなんとしても奴らを消しておかなくては!!」メキメキ
エルフ「確か......魔法銃は......」
ドラゴン「―――オォォォォォォ!!!!」バサッバサッ
勇者「なに......?!」
エルフ「ドラゴン?!」
キャプテン「おいおい!!今日の海は荒れてるねえ!!!」
キラーマジンガ「こわいこわい......」ガタガタ
クラーケン「ドラゴン様!!ここは私だけでも十分ですが?」
ドラゴン「魔王様がいつもいっているだろう。勝つまで油断はするな、とな」
クラーケン「分かりました」
勇者「万事休す」
エルフ「魔法銃......かえして......!!」ググッ
僧侶「やめろぉ!!私から勇者様をとるなぁぁ!!!」ギュゥゥ
エルフ「そんなこと言ってる場合じゃないって!!」
僧侶「ガルルル......!!!」
勇者「幻覚の作用が強すぎる......どうしたら......ああ、そうか......」
勇者「おらぁぁ!!!」バキィ!!
キャプテン「え?!」
エルフ「なにしてるの?!」
勇者「船を破壊してください!!今すぐ!!」
エルフ「ど、どうして!?」
キラーマジンガ「やめてください!!パパと雌雄を決することになりますよ!!!」ガタガタ
勇者「蹲っている君に言われても怖くないな。―――とにかく船を壊します」
キャプテン「それでどうにかなるんだね?」
勇者「もちろんだ」
キャプテン「ふっ。いいね。あんたのこと益々好きになったよ」
勇者「僕は出会ったときから運命を感じていましたけど」
キャプテン「よせやい」
エルフ「とにかく壊せばいいの?!」
勇者「一気に破壊だ!!船を沈めるぜぇ!!!」
キャプテン「―――おまえらぁぁ!!!よくきけぇ!!この幽霊船に集中砲火をかけなぁ!!!」
ドラゴン「ははははは!!!気でも触れたか?!」
クラーケン「これは面白い!!ニンゲンどもは肉体だけでなく精神も脆弱かぁぁ!!!ぬぁっはっはっはっはっは!!!」
勇者「いやっほーい!!!」バキィ
エルフ「はぁぁぁぁ!!!!」ゴォォォォ
キャプテン「おらおらおら!!!全弾撃ち尽くすよぉ!!!」ドォン!!ドォン!!!
船長「キャプテンを信じろ!!!俺たちはいつだってそうしてきた!!!―――幽霊船を沈めろぉ!!!」
海賊「「アイアイサー!!!」」
ドォン!!ドォン!!
キラーマジンガ「やめてください!!本当にやめてください!!なんでもしますからぁ!!!!」
勇者(まだか......?!)
ドラゴン「よーし、自害の手助けをしてやるか」
クラーケン「ぬぁっはっはっはっは!!!!」メキメキ
勇者「―――来た!!さよなら!!ヌーディストビーチ!!!」
僧侶「―――ぁえ?」
魔法使い「はっ?!え......?!あ、あれ......?」キョロキョロ
キラーマジンガ「だめです!!もう沈むぅぅ!!!」
ゴゴゴゴゴ......!!!!
ドラゴン「はははははは!!!!深海に眠れ!!!」
勇者「キャプテン!!」
キャプテン「それかしなぁ!!!」
僧侶「え?はい、どうぞ」
エルフ「そうか。船そのものに掛けられた魔法だから......」
勇者「船が全壊すれば魔法もとける。対象となるものがなくなりますから」
ドラゴン「しまっ―――」
キャプテン「終わりだよ......イカ魔人!!!」チャカ
クラーケン「はぁぁぁぁ?!そのような玩具でなぁぁぁにができるぅぅぅ?!」
キャプテン「はっしゃぁぁ!!!」グッ
―――パァン!!!
クラーケン「ごぉ......?!ぁ......?!」
エルフ「あの巨体の半身が消滅した......?!」
キャプテン「すさまじいねえ......」
ドラゴン「まずい!!今すぐに沈めなければ!!!」
キャプテン「おっと!!」チャカ
ドラゴン「ぐっ......!?」
勇者「うつな!!!」
キャプテン「え?ど、どうして!?」
ドラゴン「貴様......?!」
勇者「......」
クラーケン「ぉぉぉ......!!バ......か......なぁ......!!!」ズズズズ
僧侶「イカさんが沈んだ......」
魔法使い「なによ......これ......え......?」
キラーマジンガ「しずむーしずむー」オロオロ
勇者「このままでは皆、溺死です。なので、お願いしますね」ポンッ
魔法使い「凍らせるの?」
勇者「余裕でしょう?海ぐらい」
魔法使い「はぁぁぁ!!!」ピキピキピキ
勇者「やったぁ」
エルフ「すごい......こんなこと普通の魔法じゃ絶対にできない......」
キャプテン「あんたすごいじゃないかぁ!!」
魔法使い「はぁ......はぁ......似たようなことしたことあるから......」
僧侶「つめたいです」ブルブル
キラーマジンガ「大地があるのは素晴らしい」
船長「キャプテン!!ドラゴンが!!!」
キャプテン「おっと。そうだった!!」チャカ
ドラゴン「海を凍らせて足場を形成したのか......」バサッバサッ
勇者「......」
ドラゴン「撃てばいいだろう......逃げるぞ?」
勇者「逃げたければ逃げろ。可愛くないお前なんて殺す価値もないんだよ!!」
ドラゴン「きさまぁぁ......!!!」
キャプテン「やるなら撃つよ?」
勇者「それはもう仕舞ってください」
キャプテン「でも......」
勇者「俺の言うことが聞けないのか?」
キャプテン「ご、ごめん......」
魔法使い「随分、しおらしいわね」
ドラゴン「くっ......!!」バサッバサッ
キラーマジンガ「はっ?!マスターは?!マスターはどこに!?」キョロキョロ
勇者「あのドラゴンの背に乗っていたよ」
キラーマジンガ「やはり......魔王の下にいかれるのですね......マスター......」
僧侶「へっきゅしゅん?!―――あ、あの......温かいシチューが欲しいんですけど......」ブルブル
魔法使い「そ、そうね......これからのことは船で考えましょう」
キャプテン「そうさね。―――おーい!!乗船するから梯子を!!」
船長「はい!!」
エルフ「どうして......?」
勇者「......」
―――海賊船 会議室
船長「キャプテン!!まさかあの幽霊船から帰還するとは!!俺たちは信じていま―――」
キャプテン「お前ら、一週間飯抜きだ」
船長「えぇぇ?!」
キャプテン「それはさておき、ようやく手に入れられたね、念願の魔法銃」
エルフ「―――どうして?」
キャプテン「どうしてって、あたしたちが―――」
エルフ「どうしてあそこでドラゴンを見逃したの?」
勇者「......」
魔法使い「ちょっと」
エルフ「ドラゴンはボクたちのことを色々知っていた。逃がしたら魔王にボクたちのことが筒抜けになるよ?!」
勇者「連絡手段を持っていなかったとは考えられません。共に行動した時点で情報の漏洩はしているでしょう」
エルフ「でも、魔法銃があれば!」
勇者「......実は幽霊船の日誌に気になる記述を見まして」
僧侶「あの日誌ですか?」
勇者「貴女はじっくりと読んだみたいなので覚えているでしょう?」
僧侶「な、なにをですか?」
勇者「幽霊船の船長他多数の乗組員が魔法銃を使い魔物を虐殺している日の記述です」
僧侶「ああ......はい......」
勇者「魔法の銃も使いすぎるとダメになる。そう書かれていませんでしたか?」
僧侶「そういえば......」
魔法使い「ダメになるって、撃てなくなるってこと?」
勇者「恐らく」
僧侶「でも。一丁で十数匹の魔物を撃っていたみたいですし、まだ余裕はあるんじゃないでしょうか?」
勇者「それは何年前の銃だと思っているのですか?」
キャプテン「......」
勇者「それに当時の乗組員はストレス解消のため無駄に発砲しています。残り何発なのか分かりません」
エルフ「じゃあ......さっきのが最後の一発だった可能性もあるってこと......?」
勇者「二発目がなかった場合、あの場でドラゴンに食い殺されていたでしょうね」
魔法使い「そういうことだったの......」
キャプテン「じゃあ、意味なんてないねえ」
勇者「いや。ありますよ」
キラーマジンガ「はい。魔王はその武具を恐れていると見て間違いありません」
キャプテン「抑止力か」
勇者「その通りです。それを持っているだけでも僕たちにとってはプラスです」
魔法使い「問題はそのハッタリがどこまで通用するかね」
勇者「あの異形のクラーケンを一発で仕留められたのは大きいでしょう」
エルフ「でも、それだけじゃあ......」
勇者「魔王はただの人間を殺すのにも慎重に慎重を重ね、準備をし、勝利が磐石になったときに初めて動く」
勇者「絶対に負けない戦にしか乗ってこないとしたら、僕らが魔法銃という新兵器を手にしたことによって奴の進撃は必ず遅延するはずです」
キャプテン「更なる兵の強化が必要になるものね」
勇者「はい。ドラゴンの報告は魔王にとってこの上ない凶報になる」
僧侶「ということは......仕掛けるなら......」
勇者「今しかないでしょう。絶好のチャンスです」
キャプテン「ふふっ!!よし......!!者共!!!戦争の準備をおっぱじめなぁ!!!」
―――夜 海賊船 甲板
勇者「......」
キャプテン「こんなとこにいたのかい。会議が始まるよ」
魔法使い「アンタがいないとダメなんだって」
キャプテン「あ、たしは別にぃ!!」
勇者「僕たちが会議に参加する意味は殆どありません」
キャプテン「どうしてだい?」
勇者「僕たちは僕たちで魔王と戦います」
魔法使い「それって......」
キャプテン「あたしたちは陽動役かい?」
勇者「いいえ。違います。―――魔王は城から出てこないはずです」
キャプテン「そ、そりゃあ......大将だからそう簡単に......」
勇者「それだけじゃありません。ドラゴンという戦力が戻った今、魔王が前線に出てくるわけがない。きっとあの用心深さからして、高みの見物を図る」
魔法使い「まあ、そうでしょうね」
勇者「そして......危なくなったら、例の孤島に逃げ込む気でいるのでしょう」
キャプテン「それって......数百年前と一緒じゃないか」
勇者「そうなったら終わりです。なので、僕たちはその孤島に先回りしておきます。で、戻ってきたときにポカッと叩く。完璧です」
魔法使い「あそこはどんな船でも近づけないって話じゃなかった?」
勇者「魔法で海流を操っているのでしょうね」
キャプテン「わかった。また海を凍らせて......」
魔法使い「あれをするの?疲れるんだけど......」
勇者「いやいや。戦う前から貴重な戦力を削いでしまっては勝てるものも勝てなくなります」
キャプテン「じゃあ、どうするのさ」
勇者「空を飛べればいいんですけどねえ......」
魔法使い「馬鹿なこといってるわ」
勇者「ドラゴンの背なら5人ぐらい余裕だと思うんですけどねぇ......」
魔法使い「はぁ?」
キャプテン「あいつは帰っちまったじゃないか」
勇者「はぁ......そうなんですよね......」
魔法使い「結局、いい手がないってことでしょ?」
勇者「......ドラゴンを倒しましょうか」
魔法使い「え?」
キャプテン「ドラゴンをかい?!」
勇者「何気に彼女は言うこと聞いてくれそうなんですけど」
魔法使い「ほんの少しの間、一緒にいただけでしょ。情が移ってるとも思えないわ」
勇者「まあ、どっちにしても今のところ空を飛ぶ方法はそれしかありません」
キャプテン「奴が魔王のところに戻ったとするなら、ここから北にあるかつての軍事大国にいるだろうね」
魔法使い「どういう国なの?」
キャプテン「高い壁に囲まれて息が詰まりそうになる国さね。魔王の侵攻対策でそうしたみたいだけど、意味はなかったね」
勇者「国に入るもの中々厳しそうですね」
キャプテン「ああ。今は人間に代わって魔物が警備しているだろうし」
魔法使い「行くの?」
勇者「もちろん」
魔法使い「......ドラゴンに拘る理由は?」
勇者「あのドラゴンさん、可愛い女の子に変身できるんですよ?これは毎夜毎夜、僕を飽きさせない側室になること請け合いです」
魔法使い「もう......」
キャプテン「あっはっはっはっは!!いいね!!サイコーじゃないか!!」
勇者「それほどでも」
キャプテン「まあいいさ。とにかく細かい打ち合わせはしなきゃダメだ。会議室にきな」
勇者「了解」
魔法使い「......」
勇者「なんですか?」
魔法使い「勇者は誰かを何かを守る者、だ」
勇者「......」
魔法使い「ねえ......やっぱり......そういうことなの?」
勇者「何のことでしょうか?」
魔法使い「アンタがそこまで側室を......求める理由......」
勇者「それは老後の―――」
魔法使い「時々、貴方は空虚な顔をしているときがあるわ。さっきも夜の海を見ているときになってたわよ?」
勇者「これは僕としたことが......失礼しました。貴女たちの前では絶対に見せないよう努めていたのですが、やはり共にいる時間が長いとダメですね」
魔法使い「そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」
勇者「......」
魔法使い「どうして貴方が戦うのか、聞きたい。勇者だから?それとも......」
勇者「―――俺の故郷は魔王によって滅ぼされた」
魔法使い「え......?」
勇者「数人の村民だけが生き残っただけだった。でも、途中で魔物に襲われ、ついには俺と友人の二人だけになった」
勇者「励まし合いながら俺たちは逃げた。そして行き着いた場所が、あの街」
勇者「程なくして俺たちは生きるために二人で一緒に兵士になった。でも、ちょっとした問題があったんだ」
魔法使い「なに?」
勇者「見知らぬ土地の人間たちを守るなんてこと......俺にはできなかった」
魔法使い「......」
勇者「兵士なのに市民を守る意識が全然沸いて来なかった。だから、いつまで経っても戦闘技術は上達しないし、よく兵士長にも怒鳴られたよ」
魔法使い「よく今まで続いたわね......」
勇者「あるとき友人が、自分を守るために強くなってほしいって言ってくれた。―――この国の民を守れないなら、同じ故郷の友人を守るために強くなれと」
勇者「俺はそいつのためだけに強くなることを決めた。だけど......そいつは、死んだ。勇者として」
魔法使い「勇者としてって......」
勇者「努力の糧だった友人が死んだ。俺はその瞬間、きっとどこかで無様に死ぬんだろうって思ったよ」
勇者「翌日、勇者に任命されても思ってた」
魔法使い「貴方は優秀だったんでしょ?剣術は......」
勇者「ええ。誰にも負けないほど強かった。でも、守るものがないとやっぱり行き急ぐから」
魔法使い「勇者として死ぬつもりだったの?」
勇者「さっさと旅立って死んでやろうって考えていたけど......でも、やっぱりアイツの仇は取ってやりたいって思うようになって」
勇者「それで......どうするか考えた結果......」
魔法使い「側室?」
勇者「そう。お嫁さんになってくれそうな人とは生憎出会えなかったし、そもそもお嫁さんだけでは強くなれないって感じた」
勇者「なら、守る候補を多くしてやればいいって結論になって......側室探しを始めた」
魔法使い「馬鹿じゃないの?一緒に旅をしたら意味ないでしょう」
勇者「死なせたく人が傍にいるから余計に自分を追い詰めることができる。後ろの人だけは絶対に死なせない。死なせないためには強くなるしかない」
魔法使い「......」
勇者「そして、そう思わせてくれる人だったんです。貴女たちは」
勇者「とはいえ、褒められたことではないけど」
魔法使い「そうね。結局は貴方も私たちを同じじゃない」
勇者「そう。仇を討つために強くなりたかった。それだけのために俺は貴女たちの心を弄んだ」
魔法使い「......」
勇者「側室だのなんだの言いましたが、根底では復讐の道具として扱ってきたのも事実です」
魔法使い「そう......」
勇者「別れるとき、貴女を怒らせるためにいった台詞は、自分に対してでもありました」
魔法使い「......」
勇者「もうしわけありません」
魔法使い「最低ね」
勇者「自分でもそう思います」
魔法使い「......」
勇者「でも、ここまで来たのですから最後まで側室候補して貴女とは接します」
魔法使い「その言い方......側室にする気なんてないってこと?」
勇者「ないというか、無理でしょう?」
魔法使い「......」
勇者「側室になってくれるのですか?」
魔法使い「な、ならないわよ」
勇者「ですよね」
魔法使い「......バカ」
勇者「言っているだけです。本気にしてる人なんていないと思います。―――ああ、でも一人だけいるみたいですけど」
魔法使い「そういえば、彼女となんかあったの?」
勇者「以前、側室でもいいと言われました。どこまで本気なのかはわかりませんが」
魔法使い「ふーん......」
勇者「まあ、擬似ハーレムを作りたいだけですし、もう少しみなさんには協力してもらいましょうか」
魔法使い「よくこんなこと話したわね」
勇者「大好きになってしまった人に隠し事はできないでしょう?」
魔法使い「なっ......!?」
勇者「それだけですよ。―――さ、そろそろ戻りましょうか。キャプテンも待っています」
魔法使い「ああ!ちょっと!!」
―――海賊船 会議室
キャプテン「―――では、以下の通り行動するってことでいいね?」
勇者「まずは僕たちがドラゴンとちんちんかもかもな関係になる。そして、その瞬間を見計らい、海賊船団が一気に攻撃を始める」
キャプテン「ここであたしたちが魔王の軍勢を叩き、魔王をあぶりだすってわけだ」
勇者「ドラゴンさえ居れば魔王がどこに移動しようとも、僕たちの勝利は揺るがない」
エルフ「裏返すと、ドラゴンが居なきゃ成功はしないってことだね」
勇者「そうなりますね」
僧侶「はぁ......ドキドキします......」
キラーマジンガ「あの......」
勇者「キラちゃんはどうする?」
キラーマジンガ「私が決めてもいいのですか?」
勇者「君には心がある。君自身が決めたほうがいい」
キラーマジンガ「......」
キャプテン「何はともあれ、まずはドラゴン懐柔作戦を成功させなきゃ始まらないんだ!!しっかりやりなよ、あんたたちぃ!!!」
僧侶「イエス、ボス!」
―――魔王の城
魔王「魔法銃......だと......」
ドラゴン「申し訳ありません」
魔王「まさか、そのような遺産が......」
ドラゴン「ここは我が身にかえましても......やつらを......」
魔王「よい。今は勇者のことよりも重大な作戦が控えている」
ドラゴン「トロルの領地だった場所へもう一度攻め込むのですか?」
魔王「イレギュラー因子がもういないことは確認済みだ。敗走はまずない」
ドラゴン「......」
魔王「あそこさえ落とせば、隣国は支援を一切受けられない孤立状態となる。そうなればニンゲンどもに残された道は絶望的な消耗戦だけ」
魔王「一気に我の領土を広げられる」
ドラゴン「では、私は......」
魔王「ここの守りを任せたい。お前の報告を聞く限り、恐らくすぐに攻めてくるはずだ」
ドラゴン「魔王様は?」
魔王「ここを離れ、機を待つ。魔法銃の対策を練る必要もあるしな」
―――数日後 海賊船
勇者「見えてきましたね」
僧侶「高い壁が見えますね」
エルフ「あそこがかつての軍事大国」
魔法使い「上陸は問題ないの?」
キャプテン「警備が薄いところは把握しているよ。まあ、そこから壁の向こうにいくのはちょっと骨だろうけど」
勇者「ここまでありがとうございました」
キャプテン「いいさ。―――生きて帰ってきなよ」
勇者「未亡人にはさせませんよ」キリッ
キャプテン「もう!冗談ばっかりだなぁ!!やめろよぉ!!テレるじゃないのさぁ!!」
勇者「あっはっはっはっはっは!!かわいいお姉さんもいいものですねえ!!」
キラーマジンガ「は、はやく......陸へ......大地が恋しい......」ガタガタ
エルフ「一緒に行くって、船にいたくないから?」
キラーマジンガ「違います。マスターが心配なだけです」
僧侶「あの子......戻ってきてくれるでしょうか......?」
―――軍事大国 陸地
勇者「―――行きましょう」
僧侶「なんか揺れてませんか?」ヨロヨロ
魔法使い「いや、あんたの足下が揺れてるのよ」
エルフ「ずっと船に乗ってたからなんか気持ち悪いね」
キラーマジンガ「そんなことはありません。今、生きていることに感謝しましょう。アーメン」
勇者「いい考えですね。ここまで生きてこれたのは、主に勝利の女神が微笑みっぱなしだったからでしょう」
僧侶「本当ですね」
キラーマジンガ「私たちの戦力ではいつ全滅してもおかしくありません」
魔法使い「今から敵の本陣に乗り込むんだから、そういうこと言わないでよ」
勇者「そうだぞ、娘よ。空気を読むんだ」
キラーマジンガ「空気を読む......?」
勇者「いいかい?人とのコミュニケーションでは気持ちを察することも大事なんだ」
キラーマジンガ「ふむふむ」メモメモ
エルフ「歩きながらでもできるでしょ?いくよー」
―――フィールド
魔法使い「マーちゃんは着いてきてるけど、マスター居ないのにいいのかしら?」
エルフ「誰かの命令は聞かないって言ってるよ。今、僕たちについてきているのは自分で決めたことだからいいって」
僧侶「勇者様が仰いましたもの。自分で決めなさいって」
魔法使い「そっか。あいつはマーちゃんが困らないように......」
エルフ「心があるのは機械にとっては邪魔でしかないと思ってたけど、そうでもないかもね」
勇者「―――なぁなぁ」
キラーマジンガ「どうしました?」
勇者「昨日さ、彼女ができたんだ」
キラーマジンガ「本当ですか?」
勇者「これ、写真」
キラーマジンガ「うわ。ブッサ」
勇者「なにをぉ!!!死刑!!!」
キラーマジンガ「バ、バカな?!」
勇者「―――な?空気を読んで「綺麗な彼女ですね」と言っていれば、死刑にならずに済んだわけだ。空気を読むことは大事だぞ」
キラーマジンガ「人間社会とか中々にスリリングですね」
勇者「気をつけたまえ」
キラーマジンガ「また一つ勉強になりました」
勇者「なんのなんの」
魔法使い「それはただのお世辞でしょ?」
エルフ「うん......別じゃないかな?」
勇者「一緒ですよ。僕が演じた男性は彼女を褒めてほしくて話を切り出したわけですから」
魔法使い「まぁ、そうね」
僧侶「でも、空気を読むって自分の気持ちを殺すことでもありますから、それができないこともあると思います」
キラーマジンガ「どういうことですか?」
僧侶「周囲の人があるモノに対して嫌悪し、悪口を言っているとします。でも、自分にとってはとても大切なモノだった」
キラーマジンガ「ふむふむ」メモメモ
僧侶「空気を読むという意味では自分もそのモノに対して罵詈雑言を並べるべきなのでしょう。でも、自分の気持ちを押し込んでまで大切なモノを貶めることは難しいはず」
キラーマジンガ「つまり......そういうことでしょうか?」
僧侶「そうですね......では、実演してみます」
魔法使い「あの勇者、マジでキモくね?」
エルフ「わかるわかる。なんかオタクっぽいよねー」
僧侶「うんうん。ほんとにねー」
キラーマジンガ「......」
勇者「や、やぁ......こんにちは......」
魔法使い「うわ、きたよ。かえれ」
エルフ「キンモー」
僧侶「ばい菌が移るので半径50メートル以内にこないでください」
勇者「うぅ......」
魔法使い「貴女もそう思うよねー?」
キラーマジンガ「わ、私は......」
エルフ「えー?なに?もしかして、あいつのこと好きなのー?」
僧侶「えんがちょ」
キラーマジンガ「ち、ちが......!!」
勇者「......」ウルウル
キラーマジンガ「―――わ、悪くいうなぁ!!!」
魔法使い「はぁ?」
キラーマジンガ「た、確かにちょっと暗いところもあるけど......この人は優しい人です!!」
エルフ「なにこいつ」
僧侶「空気読んでくださいよー」
勇者「あ......あの......」
キラーマジンガ「大丈夫です。私は貴方のいいところをいっぱい知っていますから......」
勇者「うぅ......ありがとう......ありがとう......」
キラーマジンガ「いいんですよ......私が......守ります......」ギュッ
勇者「素敵......抱いて......」ギュッ
僧侶「―――はい。終わりです」
魔法使い「最後の台詞、いらないわよね?」
エルフ「うん」
勇者「感謝の気持ちに股を開くって大事だろうがぁよぉ!!!」
魔法使い「本当にキモイわね!!アンタはぁ!!」
キラーマジンガ「なるほど......」
僧侶「どうでしたか?」
キラーマジンガ「少しだけ理解できました。譲れないモノに対して、空気を読む必要はないということですね」
僧侶「はい。心があるのなら」
キラーマジンガ「ありがとうございます」
僧侶「いえいえ」
魔法使い「早く行くわよ」
エルフ「キャプテンに貰った地図によれば、ここから北西に向かえば関所があるみたい」
勇者「関所?」
エルフ「門だね」
魔法使い「どうやって抜けるの?」
勇者「まずは行ってみないことにはわかりませんね」
キラーマジンガ「周辺に魔物はいないようです」
勇者「そうですか。まあ、無理はせずに命を大事にしていきましょう」
僧侶「はーい」
―――関所
勇者「誰か居ますか?」
キラーマジンガ「魔物の気配はありません」
エルフ「蛻の殻なの?」
キラーマジンガ「状況的にその表現はもっとも適切です」
魔法使い「通ってもいいのかしら?」
僧侶「罠では?」
キラーマジンガ「私のセンサーから逃れる術を有している魔物が大量にいることは考えにくいです」
勇者「いないなら通りましょう。好都合です」
エルフ「いいのかなぁ......?」
魔法使い「ほ、本当にいないでしょうね......」ドキドキ
僧侶「とおりまーす......」
勇者「......」
キラーマジンガ「私の索敵は信じられませんか?」
勇者「そんなことあるわけないよ。進もう」
―――フィールド
勇者「この街道を進めば、問題の城下町につけますね」
僧侶「魔王の城と化した......お城なんですね......」
勇者「貴女がいれば余裕です」
僧侶「勇者さまぁ......」
魔法使い「仲いいわね、相変わらず」
キラーマジンガ「うーん......」
エルフ「どうかした?」
キラーマジンガ「いえ......先ほどの授業で少し気になることが」
魔法使い「なになに?なんでも言って」
キラーマジンガ「空気を読まなかった結果、皆さんとの間に軋轢が生じました。これは敵対するということですよね?」
エルフ「うん。そうなるね。意見に沿わない相手を敵視するのは当然の流れだし」
魔法使い「対立したくない人とも対立しなきゃならなくなる。そういう決断はしなきゃだめね」
キラーマジンガ「なるほど......相当な覚悟がなければできないことですね」
魔法使い「それだけ自分にとって譲れないモノなら、時にはそういう決断もいるわね」
―――魔王城 城下町
勇者「静かですね」
僧侶「城下町なのにゴーストタウンです......」ギュッ
勇者「魔物は?」
キラーマジンガ「存在しません」
魔法使い「不気味すぎるわ......どういうことよ......」
エルフ「魔王かドラゴンが呼んでいる......ってことかな?」
勇者「僕も同じ事を考えていました。もしくはこの国はもう戦略的に不要な土地となったか......」
僧侶「人が生きている感じはないですね」
勇者「黄金の国と同じでしょう。人間なんて戦って殺されるか生き延びるために逃げるかしか選択肢はありません」
魔法使い「......」
勇者「罠の可能性も十分にあります。気を引き締めていきましょう」
エルフ「うん」
僧侶「はい」
キラーマジンガ「......」
―――魔王の城 城門前
勇者「ここが......」
魔法使い「あ、あけるの?」
勇者「ここまで誰もいないとなるとご招待されているとみて間違いないでしょう」
エルフ「そうだね」
僧侶「あぁ......勇者様......」
キラーマジンガ「センサーに反応」
魔法使い「え?!」
エルフ「どこ......?!」
僧侶「うぅぅ......!!」
キラーマジンガ「城内です。数は1」
勇者「......」
魔法使い「それって......」
エルフ「ドラゴンだね」
勇者「皆さん、装備品のチェックを。確実に総力戦になりますから」
―――魔王の城 謁見の間
勇者「......また、会いましたね」
ドラゴン「よく来たな」
エルフ「......」
僧侶「ド、ドラゴン......!!」
魔法使い「ついにここまで来たのね......」
キラーマジンガ「マスターはどこにいるのでしょうか?」
ドラゴン「木偶人形まで連れてきたか」
勇者「こちらには......これがある」チャカ
ドラゴン「......」
勇者「あのクラーケンですら半身を根こそぎ持っていかれた。お前にも有効なはずだ」
ドラゴン「魔法銃か......。ああ、確かに脅威だ。その所為で魔王様はまた俺にその力の分析を命じた」
勇者「相変わらずだな。鉄の橋ですら叩いて渡るのか、魔王は」
ドラゴン「そうだ。完璧な確証をもってして魔王様は橋を渡る。だが、その魔王様が何百年と魔族を率いて、そして勝利と繁栄をもたらせてきた!!!」
勇者「防戦になれば凶悪だな。負けない戦いかたを熟知しているから」
ドラゴン「さあ、撃ってみろ......その魔法銃を!!」
勇者「しかし、その輝かしい戦歴の影にどれほどの同胞が泥をかぶり、血を流したんだ?」
ドラゴン「......」
勇者「負けない戦いには必ず犠牲がいる。側近のお前なら嫌というほどみてきたはずだ」
ドラゴン「それがどうした?」
勇者「この戦いも魔王にとっては明日の勝利への布石にすぎないんだろ?」
ドラゴン「何がいいたい?」
勇者「お前は捨てられたわけだ。情報収集のために死ねといわれたんだろ?」
ドラゴン「違う!!!」
勇者「違わないだろう。大昔、魔法銃という未知の兵器によって魔王は敗戦した」
勇者「情報が一切なかったからだ。だからこそ、魔王は鉄壁の孤島に引き篭もり、魔法銃の対策を練ろうとした」
ドラゴン「......」
勇者「でも、人間の行動は早く、船で攻めてきた。そこで魔王は魔法銃を詰んだ船を永遠に彷徨わせることで戦いを回避した」
勇者「当時の勇者も海流を操られ、しかも船そのものを幻惑させるという二段構えには意表を突かれたんだろう。抵抗もできずに幻覚の中で溺れ死んだ」
ドラゴン「そうだ。そしてエルフを弾圧し、人間との交流も絶えた。魔法銃の精製は完全になくなったはずだった......!!」
勇者「魔王はきっと馬鹿じゃない。当時の魔法銃対策は完成しているはず」
ドラゴン「......」
勇者「しかし、こうして情報収集をするということは、あることを懸念しているからだろ?」
ドラゴン「お前がエルフを連れているから......」
勇者「新しい魔法銃の可能性がある。昔よりも強化されたものかもしれない」
勇者「それが魔王の憂いなんだろ?」
ドラゴン「魔王様には説明した。古代の船から見つかったモノ。故に威力に変わりはないと」
勇者「......」
ドラゴン「しかしな......魔王様に油断はできないと言われたら俺たちはそれに従うしかない。今までもそれでニンゲンたちに勝ってきたのだからな」
勇者「こんな下らないことのために死ぬのか?」
ドラゴン「黙れ。魔王様は絶対だ」
勇者「やめろ。それよりも俺たちと手を組んで魔王を倒そう」
ドラゴン「エルフ族のようにニンゲンに尾を振れというのか?馬鹿馬鹿しい」
勇者「君が尾を振るとこは見てみたいな。可愛いと思うぞ?」
ドラゴン「ざ、戯言を!!さぁ!!撃て!!でなければ貴様たちをこの場で......八つ裂きにしてやるぞ!!」
勇者「ここまで言ってもダメか」
エルフ「魔王信仰を覆せるわけないって」
魔法使い「説得は無理か......」
僧侶「た、戦うしかないのですね......」
キラーマジンガ「マスターはどこですかぁ!!!!」
ドラゴン「黙れ木偶人形風情がぁ!!!」
キラーマジンガ「......」
ドラゴン「貴様が主といい慕っていたニンゲンは初めから存在しない!!あれは俺の仮の姿だぁ!!!一度、見せただろうがぁ!!」
キラーマジンガ「確かに......そうでしたね......」
ドラゴン「ふん......使えぬ人形めが」
キラーマジンガ「では......ここは私の意志で決めます」
魔法使い「何をよ?」
キラーマジンガ「空気を読むのならば、ここは貴方たちとの共闘が望ましいのでしょう」
勇者「そう来ますか......」
キラーマジンガ「ですが、私の譲れないモノのために―――敵対させていただきます」シャキン
ドラゴン「なに......?」
キラーマジンガ「私の知っているマスターはいません。ですが、あのドラゴンがマスターだということも知っています」
エルフ「うん......そうだね......」
キラーマジンガ「―――私はキラーマジンガ。マスターを守護するために、勇者という脅威を一掃します」
僧侶「......」
勇者「いいでしょう。あの幽霊船での一件から、こうなることは想像していたし」
ドラゴン「どけ。人形の手などいらん!!!」
キラーマジンガ「命令は受け付けません」
ドラゴン「貴様......!!!」
キラーマジンガ「貴方はマスターであって、マスターではありませんので。私の独断で行動させて頂きます」
ドラゴン「勝手にしろ!!どうせ魔法銃で―――」
キラーマジンガ「魔法銃は使用不可です」
魔法使い「それ言うの?!」
ドラゴン「なんだと?」
キラーマジンガ「魔法銃は古いモノで次弾がない可能性もあるためです。もし次弾がない場合、勇者たちは最大の抑止力を失います。撃つ勇気はないでしょう」
勇者「大正解。魔法銃は撃てない。よく知ってるね」
キラーマジンガ「勉強しました」
勇者「大きくなったな......娘よ......」
キラーマジンガ「私、パパのことが大好きです。だから―――」
勇者「キラーマジンガは僕に任せてください!!ドラゴンは貴方達が!!!」
魔法使い「そ、そんなこと!?」
ドラゴン「―――消し炭にしてやろう!!!!」
僧侶「きゃぁぁ!!!」
エルフ「下がって!!―――くらえ!!」バシュッ
ドラゴン「柔な矢で俺の皮膚を貫けるとでも思っているのかぁ!!!」ゴォォォ
魔法使い「炎なら!!」コォォォ
ドラゴン「ふん......。炎は通じないか」
魔法使い「何回もしないでね」
ドラゴン「無理な相談だな!!!」ゴォォォ
魔法使い「意地悪!!!」コォォォ
エルフ「やぁぁ!!!」バッ
ドラゴン「ぬ?!」
エルフ「風よ!!」ヒュゥゥゥ
ドラゴン「下らない!!」バサッバサッ
エルフ「翼の風......?!」
僧侶「怪我したらすぐに私に抱きついてくださいねー」
魔法使い「風の魔法使ったら?」
僧侶「もし通じなかったら回復する手段が減ります」
魔法使い「そうだけど......これじゃあ......」
エルフ「凍れ!!」コォォォ
ドラゴン「無駄だぁ!!!」ゴォォォ
エルフ「うっ?!」
僧侶「大丈夫ですか?!」ギュゥゥ
エルフ「あ、ありがとう」
魔法使い「触れることができれば火傷ぐらい負わせられるのに......!!」
キラーマジンガ「はっ!!!」ギィィン
勇者「うっ?!」
キラーマジンガ「諦めてください。人間では私に勝てません」
勇者「それはどうかな......」
キラーマジンガ「何を根拠に......!!」
勇者「君はもう何日エネルギーの補給をしてないか覚えていないのか?」
キラーマジンガ「......っ!!」ギィィン
勇者「はぁ......はぁ......船の上にいた期間。君は一切のエネルギー補給は行っていない」
キラーマジンガ「こうなると分かった上で......貴方は......」
勇者「戦闘をすればそれだけ燃料切れが早まる」
キラーマジンガ「貴方を殺せばいいだけの話ですね」
勇者「どうかな?君は確かにすごい力だ。でも、だからこそ直線的な動きしかできない」
キラーマジンガ「貴方の戦闘データはインプットされています。勝てる可能性は40%です」
勇者「意外に高いな。エネルギー残量の所為か?」
キラーマジンガ「......行きます!!」ダダダッ
勇者「はぁ!!」ギィィィン
キラーマジンガ「ふっ!!」
勇者「まだ燃料は切れないのか......!!」
キラーマジンガ「貴方たちから学ばせてもらったことはとても有意義でした」ギィン
勇者「そうか」
キラーマジンガ「楽しかったです」
勇者「え......」
キラーマジンガ「とても......」
勇者「キラちゃん......」
キラーマジンガ「でも、私には使命があります!!!」
勇者「そうだな」
キラーマジンガ「貴方たちから貰った温情を反故にしてまでも、守りたいものがあるのです!!」
勇者「僕はそういう君が大好きだ」
キラーマジンガ「はぁぁぁぁ!!!」ブゥン
勇者「ぐっ!?」
ドラゴン「オォォォォォ!!!!!」バリバリバリ
エルフ「まずい!!二人とも距離をとって!!」
魔法使い「な、なにあれ......?!」
僧侶「雷ですか?!」
ドラゴン「消えうせろぉぉぉ!!!」バチバチバチ
エルフ「はっ!!」キュィィィン
ドラゴン「これも通さぬか。エルフ族め......!!」
エルフ「......」
魔法使い「倒せる見込みは?」
エルフ「ゼロじゃない。だけど......ボクたちじゃ無理かも」
僧侶「勇者様の手助けがいりますか?」
エルフ「武器が欲しいね......」
魔法使い「ええと......鞭と......ナイフはあるわ」
僧侶「盾と一度も抜いたことのない剣なら」
エルフ「あとはボクのボーガンか......うーん......」
エルフ「そうだ」
魔法使い「なになに?」
僧侶「なんでしょうか?」
ドラゴン「次で終わりにしてやろう!!!」
エルフ「―――じゃあ、それでやってみよう」
魔法使い「怖いけど......やるしかないわね」
僧侶「守ってるだけじゃ勝てません。―――どうぞ、大事に使ってください」
魔法使い「任せて!」
ドラゴン「なんのつもりだ?!」
魔法使い「この盾がある限り!!あんたの攻撃なんて通じないわよ!!」
エルフ「そーだ!!そーだ!!」
ドラゴン「貴様らぁ!!!舐めるのも大概にしろ!!!盾もろとも溶かしてくれるわぁ!!!」ゴォォォォ
僧侶「きたー!!!」
エルフ「盾に隠れて!!」
魔法使い「わ、わかってるわよ!!」
ドラゴン「オォォォォ!!!!」ゴォォォォ
僧侶「危ない!!」バッ
エルフ「くっ......!!」バッ
魔法使い「きゃぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
僧侶「なっ?!」
エルフ「大丈夫?!」
ドラゴン「―――終わったな」
僧侶「あぁ......盾が......とけて......」
ドラゴン「ふんっ。跡形もなく消えたか」
エルフ「嘘......そんな......」
ドラゴン「次はお前だ!!!」
僧侶「そうは行きません......!!」シャキン
ドラゴン「はははははは!!!!そのような剣でなにができる!!お前の戦闘力のなさは承知しているぞ?!」
僧侶「わ、私だって......これぐらいのことは......」ガクガク
エルフ「―――今だ!!!」
ドラゴン「なに?!」
魔法使い「はっ!!」ダダダッ
ドラゴン「なんだと?!どこから―――」
エルフ「エルフ族の得意魔法を忘れてたの?」
ドラゴン「不可視化か!!」
魔法使い「よし!!懐に入ったぁ!!」
ドラゴン「何ができる!!」
魔法使い「私の全身全霊の冷気をくらえぇ!!!」ピトッ
ドラゴン「なっ!?」
魔法使い「はぁぁぁ!!!」コォォォ
ドラゴン「ぐっ......ぁ......」ピキピキ
魔法使い「まだまだぁ!!」
ドラゴン「―――オォォォォォォ!!!!」ドガァ!!
魔法使い「ぎ......ぃ......!?」
僧侶「きゃぁぁ!!」
勇者「な?!モロに?!」
キラーマジンガ「まずい!!」ダダダッ
勇者「君は......!!」ダダッ
ドラゴン「はぁ......はぁ......くそ......」
魔法使い「ぁ......ぁ......」ピクッピクッ
僧侶「今、治癒を!!!」タタタッ
ドラゴン「させ......るか......!!―――終わりだ!!」
エルフ「―――貴方がね」
ドラゴン「......?!」
エルフ「そのお腹、今とっても繊細でしょ?」
ドラゴン「まさか―――」
エルフ「魔法で強化した矢なら貫ける!!!」バシュッ
キラーマジンガ「マスター!!!」
ドラゴン「お前......!!」
―――ガギッ!!
エルフ「え......」
僧侶「あぁ......」
魔法使い「ぅ......ぁ......」
勇者「......」
キラーマジンガ「マ......タ......ダ、い......じょ......で......す......?」
ドラゴン「お前......手出しは無用だと......」
キラーマジンガ「ま......す、タ......ゴ......ぶじ......で......?」
ドラゴン「......」
勇者「ああ。無事だよ」
キラーマジンガ「よか......た......マ......す......」
キラーマジンガ「わ、たし......ま、すた......が......ガ、ガ......ダ、イ......す―――」ガクンッ
エルフ「そんな......ボクはそんなつもりは......」
僧侶「ジーちゃん......」
魔法使い「......」
ドラゴン「木偶人形め......最後まで無駄なことをしたな。全く使えなかったな」
勇者「本心か、それは?」
ドラゴン「魔法で強化した程度で俺は貫けない。そんなことも判断できずに敵の攻撃に当たりにいくとは......」
僧侶「......っ」
魔法使い「ダメ......魔法は使わないで......」
エルフ「ボクは......」
ドラゴン「出来の悪い人形はこれだからな」
勇者「―――そう自分に言い聞かせて、魔王の捨て駒にされた同胞を見捨ててきたのか?」
ドラゴン「きさまぁ!!!」
勇者「そうなんだろう?」
ドラゴン「違う!!魔王様は魔族の繁栄のために!!!」
勇者「繁栄のためにお前を慕った奴らをボロ雑巾のように扱う」
ドラゴン「黙れ!!!黙れぇぇぇぇ!!!!!!」
勇者「この木偶人形でも自分の譲れないモノのために戦った!!!お前にはそれがないのか!!!」
ドラゴン「俺は......俺は......魔王様の......ために......!!!」
勇者「お前は人形にも劣るな。自分をそうやって押し殺すことしかできないならな」
ドラゴン「いい加減にしろぉ......!!!殺す......!!殺す......!!!!」
勇者「......」チャカ
僧侶「勇者様!?」
エルフ「魔法銃......」
ドラゴン「ふぅー......ふぅ-......!!!」
勇者「確かに弾はないかもしれない。でも、あるかもしれない」
ドラゴン「俺は......俺はぁ......!!!」
勇者「お前が決めろよ」
ドラゴン「......っ?!」
勇者「キラーマジンガだってお前を守るって自分で決めたぞ?」
ドラゴン「俺は......!!」
勇者「魔王に疑問の一つぐらいあっただろ?」
ドラゴン「うぅぅぅ......!!!!!」
勇者「答えろ。お前の答え次第では引き金を引く。たとえ、弾が出なくても今のお前を倒す方法なんてごまんとある」
ドラゴン「オォォォォォォ!!!!!!」
魔王『―――そうか。では撤退だ』
ドラゴン『魔王様。私の部下がまだ敵地に』
魔王『捨て置け。我が死なぬ限り、負けではない。そう教えたはずだ』
ドラゴン『は......』
『ドラゴンさまぁ......!!お助けをぉ......!!!』
『いたい......いたい......いたい......』
ドラゴン『弱い奴らは必要ない』
『ドラゴンさ......ま......!!!』
『たす......け......!!』
ドラゴン『だまれぇ!!!』ゴォォォォ
『ギャァァァ......!!!』
ドラゴン『魔王様が捨て置けを言った。貴様たちは捨てられたのだ』
『アァァ......ァ......ァ......』
ドラゴン『役立たずはいらない......いらない......』
ドラゴン『役立たずは必要ない......必要ない......』
ドラゴン「―――いらない......いらない......」
勇者「崩れたか......」
僧侶「......」
魔法使い「ど、どうなったの......?」
エルフ「側近だからこそ、色々思っていたのかな?」
勇者「ずっと魔王のやり方には疑問だった。確かに勝利を揺るがないものにすることは大事です」
勇者「でも、有能な部下を次の勝利に繋げるために捨てるなんて俺にはできない」
魔法使い「......」
勇者「トロルも魔人も......先兵以上の役割はなかったのでしょう。全ては最終的な勝利のための布石にすぎない」
僧侶「勇者様......」
勇者「魔王......俺はお前を許さない......。人間だけじゃなく仲間をもずっと苦しめてきたんだからな......」
勇者「仇討ちをするのは俺たちで最後だ......!」
魔法使い「そうね。それが理想ね」
僧侶「仇討ち......」
ドラゴン「いらない......いらない......わけが......ない......」
エルフ「ガーちゃん......ごめんね......ボクの所為で......ごめん......」
キラーマジンガ「......」
僧侶「ジーちゃん......安らかにお眠りください......貴方の御心は神が愛してくれることでしょう......」
魔法使い「マーちゃん......楽しかったわ......今までありがとう......」
ドラゴン「俺をどうするつもりだ......?」
勇者「仲間になってください」
ドラゴン「......」
勇者「魔王を倒すためには手を貸せないと?」
ドラゴン「お前の言うとおり魔王様の考えについていけないときもあった。だが、恩義があることもまた確かだ」
ドラゴン「でなければ、自分を誤魔化すことなどせず謀反を起こしている」
勇者「でしょうね」
ドラゴン「ふん......どちらにせよ......俺はもう......立ち上がれない」
勇者「......では、こうしましょう」
ドラゴン「なんだ?」
勇者「これから人間として生きるというのはどうですか?」
ドラゴン「なにを馬鹿な......これでも俺は由緒正しきドラゴン族の末裔だぞ?」
勇者「人間として生きて、ドラゴンになるときはなんかそれっぽい呪文詠唱して変身することにしたら―――」
ドラゴン「できるかぁ!!!ふざけるなぁ!!!」
勇者「できるっ!!あんなに可憐な女の子になれるんだから!!!」
ドラゴン「あのなぁ......」
勇者「結構、疑問だったんですけど、どうしていつも女の子になってたんですか?」
ドラゴン「ニンゲンの殆どは女児に甘い顔をすると聞いていたからだ」
勇者「貴女はメス?オス?」
ドラゴン「性別などない。元々ドラゴン族は神の使いとして―――」
勇者「えぇ?!」
ドラゴン「なんだ?」
勇者「両性具有ってやつですか?」
ドラゴン「そうだ」
勇者「これは......ほうほう!!益々、気に入りました。ようこそ、側室ワールドへ」ニコッ
ドラゴン「気持ち悪いなお前」
勇者「とにかく、僕たちは魔王と戦うために貴女の力が必要なのです。そして側室へ」
ドラゴン「しかし......」
勇者「どうしてもダメですか?」
ドラゴン「......」
勇者「お願いします」
ドラゴン「......」プイッ
魔法使い「―――私からもお願い」
ドラゴン「......」プイッ
僧侶「あっちむいて、ほい」
ドラゴン「......」プイッ
僧侶「かったー」
ドラゴン「邪魔だ!!お前ら!!!今は独りにしてくれぇ!!!」
勇者「分かりました。では、後ほど」
僧侶「お願いします」
ドラゴン「ふん......」
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#02
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#04
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―