勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―
魔王を倒すことに成功した勇者たちだが、勇者は魔王軍からの復讐という負の連鎖を断ち切るために、自らが犠牲になることを選んだ。
傭兵稼業に戻った魔法使いと僧侶。その二人とエルフのもとに、指名での依頼が入った。
その指名こそ勇者からのものであった。
勇者はいかに舞い戻ったのか?
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#02
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#04
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―
―epilogue― 数ヶ月前 魔王の孤島
キマイラ「こい」
勇者「......」
キマイラ「どうした?」
勇者「ここで殺せばいいだろう」
キマイラ「黙って付いて来い」
勇者「何か目的でもあるのか?」
キマイラ「......」
勇者「集団で嬲り殺しにするのか」
キマイラ「無駄口は叩くな」
勇者「痛くしないでほしいな」
キマイラ「お前次第だ」
勇者「だよな」
キマイラ「早くしろ」
勇者「はいはい」
―――魔王の城 謁見の間
キマイラ「入れ」
勇者「......」
ハーピー「はぁい♪」
ゴーレム「......キたか......」
勇者「どうも。中々、美しい造形ですね」
ハーピー「うふっ。噂通りね。わらわの憐憫さが分かるとは......」
勇者「抱きたい」
ハーピー「それは......アナタ、し、だ、いっ」
勇者「腹筋から始めましょうか?!」
ゴーレム「ウ......るさい......」
勇者「これはすいません」
キマイラ「中央に座れ」
勇者「はっ!!」ギュッ
ハーピー「わらわの腕から離れろ」
勇者「で、この美しい方は?」
キマイラ「お前を連れてきたのは二つの理由がある」
勇者「お名前は?」
ハーピー「ハーピーと申す」
勇者「エロいっすね」
ハーピー「良く言われる」
キマイラ「きけぇ!!!」
勇者「はっ!!」
キマイラ「一つ目はお前を処刑するためだ。魔王様の仇として討つためにな」
勇者「それで今後、人間に手を出さないというなら、それでも構わない」
ゴーレム「ソう......か......デは......コロそう......」
勇者「じわりじわりと殺さないでくださいね」
キマイラ「まて」
ゴーレム「マお、うさまの......カたき......うつ......」
キマイラ「静まれ!!もうこれ以上、余計な混乱を生みたくはない!!」
勇者「混乱......?」
ハーピー「ふふ......わらわのことだ、勇者よ」スリスリ
勇者「ぬほほぉ......ぼ、僕を篭絡......させよう......ななな、なんて......もっとして」
ハーピー「よさぬか。お前がそうやっておどけているのは半分演技であろう?」
勇者「その真意は寝室で生まれたままの姿になってですね」
ハーピー「お前には感謝しているのだ」
勇者「感謝?......なんかしましたっけ?側室になってほしいなんていいました?」
ハーピー「違う。魔王を倒してであろう?あれによってわらわを含めた革新派がようやく日の目を見ることができたのだ」
勇者「革新派......?よくわかりませんが、僕の股間がギンギンなのは間違いないです」
ハーピー「おっ......意外と......でかぃ......」
キマイラ「察しのいいお前ならばもう分かっただろう。なぜ生かされ、ここにいるのかが」
勇者「もしや......革新派と呼ばれる魔族が僕の身を守ろうとしているというのですか?」
キマイラ「魔王様が倒れた直後、革新派は行動を起こした。保守派......つまり魔王様を信仰していた者たちに攻撃を始めた」
勇者「魔王に倒れて欲しかったと思う魔族がいたということですか」
キマイラ「魔王様は良くも悪くも魔王の座に長年居続けた。それを良く思わぬ輩は少なからずいたのだ」
ハーピー「革新派の筆頭は魔道士だったのだ」
勇者「キラちゃんの生みの親か」
ハーピー「あの時は流石にお前を殺してしまったほうがいいのではないかという動きもあった」
勇者「アナタに殺されるのなら本望です」キリッ
ハーピー「ふふ......それは嬉しいな。まあ、あとでじっくりと料理してくれる」
勇者「すきにしてっ!!」
ゴーレム「マじ......めに、や......れ......」
勇者「は、はい」
キマイラ「魔王様が倒れ、保守派は勇者の討伐に乗り出した。だが、それを革新派が止めた」
ハーピー「我らにとって勇者は恩人だからなぁ。それに......中々、かっこいいではないか......ニンゲンにしておくのがもったいない......」スリスリ
勇者「あっ......そんなぁ......らめぇ......」
ハーピー「食べてしまいたいな......ふふふふ......」
勇者「どうぞ、遠慮なく食してください」
ハーピー「では......足から頂こうかのう......」
キマイラ「やめろ。どうしてお前はそう全てを餌として捉えるんだ」
ゴーレム「ハナし......が......つづカない......」
キマイラ「要するにだ。勇者よ、お前がここに呼ばれた二つの理由は、保護だ」
勇者「保護?」
キマイラ「保守派はお前を抹殺したがっている。だが、もしお前が抹殺されてしまえば、保守派と革新派の軋轢は修復不能になる」
ハーピー「といっても、元から仲がよかったわけじゃないがな。わらわとて何度も命を狙われたことか」
勇者「酷いな。許せん」
ハーピー「わらわを守ってくれるのか?」スリスリ
勇者「はいぃぃ......」ゾクゾク
キマイラ「競合した結果......勇者よ。お前を軟禁させてもらう」
勇者「軟禁?!」
ゴーレム「コろせない......から、ナ......」
キマイラ「だからといって魔族の憎悪は貴様に向けられいる」
勇者「魔族内のゴタゴタが収束するまで管理し閉じ込めておくということか」
ハーピー「まぁ、あれだ。革新派が負けてしまえば、お前は確実に殺されるだろうがなぁ」
キマイラ「保守派と革新派が和解しても勇者の処刑は実行される可能性がある。それだけは肝に銘じておけ」
―――牢獄
勇者「なんだよー!!軟禁じゃなくて監禁じゃねーか!!」ガシャガシャ
ハーピー「まぁまぁ。落ち着け。わらわもお前をいつまでもこのような場所に閉じ込めておく気はない」
勇者「誓いのキッスを......」
ハーピー「護衛を置いておこう」
勇者「メス!?」
ハーピー「勿論」
勇者「わーい」
ハーピー「それにしても不思議な男だな......。お前は今、いつ殺されても不思議ではないというのに」
勇者「貴女という美しい人がいる......それだけで僕は満足なのです」
ハーピー「ふふ......そういって何人の女を落としてきたのだ?」
勇者「えーと......貴女を含めて8人です」
ハーピー「ふふふ......そうか......意外と少ないな」
勇者「それより早く僕の護衛ちゃんを呼んでください!!!」
ハーピー「そう急かすな。―――こっちにこい」パンパン
勇者「キラちゃん並の可愛い子を......!!」
ゾンビ「あー......あー......」ヨロヨロ
勇者「!?」
ハーピー「わらわの直属の部下だ。リビングデット族だ。ほれ、挨拶をせえ」
ゾンビ「うー......」ペコッ
勇者「ど、どうも......」ペコッ
ハーピー「これは重大な任務だ。決して抜かるでないぞ?」
ゾンビ「うー......」ペコッ
勇者「護衛って......大丈夫なのですか?なんか......とってもドジっこのような......」
ハーピー「わらわが一番可愛がっている娘だ。なにも心配することはない」
勇者「あの!!できれば貴女に守ってもらいたいなぁって!!!」
ハーピー「それはできぬ。わらわは魔道士の代わりに革新派の長を務めておるからなぁ」
勇者「そんなぁ!!!」
ハーピー「ではな。また様子を見に来る」バサッバサッ
ゾンビ「あー......あー......」バイバイ
勇者「......」チラッ
ゾンビ「......」
勇者「あの......」
ゾンビ「うー?」
勇者「よろしく」
ゾンビ「うー」
勇者「......」
ゾンビ「......」
勇者「僕は殺されると思う?」
ゾンビ「うー......」フルフル
勇者「え?殺されないと?」
ゾンビ「......」コクッ
勇者「どうして?」
ゾンビ「あー......あぁ......うー......うー......」フリフリ
勇者「む?!ジェスチャーゲームの時間か!!よーし!!!がんばろう!!!」
―――謁見の間
キマイラ「......」
ゴーレム「ユうしゃ......つぶセ......ばいいノに......」
キマイラ「魔王様が倒れ、革新派の勢力が増してきている。下手なことをすれば、潰されるのはこちらだ」
ゴーレム「カんけい......ない......ユうしゃは......オレが......ころす......」
キマイラ「よせ。―――ドラゴン様まで加入してくる可能性もあるのだぞ」
ゴーレム「ドら......ごん......さま......?」
キマイラ「そうだ。ドラゴン様は何かを仕掛けてくるやもしれない......一番警戒すべき相手だ」
ゴーレム「うらギりもの......な、んて......キョういじゃ......ない......」
キマイラ「魔王様はニンゲンを侮り、負けたのだぞ」
ゴーレム「ソれは......」
キマイラ「我々が同じ轍を踏むわけにはいかない。分かるだろう?」
ゴーレム「......」
キマイラ「勇者の始末などいつでもできる。今は革新派を鎮圧させることが最優先だ」
ゴーレム「ワか......った......」
―――牢獄
ゾンビ「うー?うぅ?」
勇者「はい。それを......置きました。それで?」
ゾンビ「あー......」ヨチヨチ
勇者「うん......それをもって行きます......次は?」
ゾンビ「あー」バンザーイ
勇者「いい朝だなぁ」
ゾンビ「うーうー」フルフル
勇者「違うのか?」
ゾンビ「あー」コクッ
勇者「......」
ゾンビ「うー?」
勇者「―――あぁぁぁぁ!!!!!もう全然わっかんねええ!!!!」
ゾンビ「!」ビクッ
勇者「人語話せよ!!おらおらぁ!!」ガシャガシャ
ゾンビ「うぅぅ......」ウルウル
勇者「もう!!だめだ!!必死になって好きになろうと思ったけど、ダメだな!!君はなんかこう......ダメだ!!」
ゾンビ「うぅー......」ペコペコ
勇者「いいか?うー、とか、あー、とかじゃ気持ちを伝えるとき困るだろ!?」
ゾンビ「うー?」
勇者「例えば、好きな人に自分の気持ちを伝える場合はどうするんだよ?ああぁ?」
ゾンビ「あー♪」ヨロヨロ
勇者「抱きつこうとしないとダメな時点で、失格だよ!!ちょっと可愛かったけどよぉ!!」
ゾンビ「うー......」
勇者「あ!!」
ゾンビ「あ......?」
勇者「い!!」
ゾンビ「ぁ......」
勇者「違う!!い!!!」
ゾンビ「ぁ......!」
勇者「い!!」
ゾンビ「ぁ......ぁ......」オロオロ
勇者「いー!!」
ゾンビ「ぁ......ぃー......」
勇者「し!!」
ゾンビ「ぃ......?」オロオロ
勇者「しっ!」
ゾンビ「ぃ......し......」
勇者「て!!」
ゾンビ「ぃ......ぅ......ぁ......て......」
勇者「る!!」
ゾンビ「ぅ!」
勇者「あいしてるっ!!」
ゾンビ「あぃうてぅ!」
勇者「ダメ!!もう一回!!!」
―――翌日 牢獄
ハーピー「はぁい、様子を見に来たぞ」
勇者「はぁ......はぁ......よし......可愛い......」
ゾンビ「うー......ぁ......」ゼエゼエ
ハーピー「なにやら昨晩はお楽しみだったようだな」
勇者「ああ......どうも......おかげで貫徹です」
ハーピー「なんと......お前さん、このリビング族とやりおうたのか?」
勇者「まぁ......これぐらいは余裕です。暇でしたし」
ハーピー「なんとまぁ......器の大きな男よ......益々ニンゲンにしておくのは惜しいなぁ」
勇者「よし、君の上司に練習の成果を見せておあげ」
ゾンビ「うー」コクッ
ハーピー「な、なに!?こ、こら......わらわはお前とそういうことは......あまり......」
ゾンビ「あぃしてるぅ!!」
ハーピー「......え?」
ゾンビ「あ......ぁ......あ、ぃしてるぅ!」
―――謁見の間
キマイラ「勇者の様子は?」
魔物「ギー」
キマイラ「ハーピーめ......リビング族を守衛に置いたのか......面白い......」
キマイラ「下がっていいぞ」
魔物「ギー」タタタッ
キマイラ「そうだ......ふふふ......いい手がある......」
キマイラ「奴らの知能は低い......それを利用すれば......ふふふ......」
ハーピー「......」バサッバサッ
キマイラ「どうした?」
ハーピー「ん?......ああ、なんでもないよ......はぁ......」
キマイラ「......どうした?」
ハーピー「......部下に......それも同姓に......告白されたこと......ある?」
キマイラ「何を言っている?」
ハーピー「種族も違うのに......わらわはどうしたらいいのか......はぁ......」
―――数日後 牢獄
勇者「もう一度言って」
ゾンビ「おにぃちゃぁん......あぃしてるぅ!」
勇者「いいねー。次だ」パチンッ
ゾンビ「おにぃちゃぁん......だぃしゅき!!」
勇者「うん......君は中々優秀だな」ナデナデ
ゾンビ「うぅー......」モジモジ
勇者「あれから数日か......」
ゾンビ「あー?」
勇者「みなさん心配しているだろうな......」
ゾンビ「し......ぱぃ?」
勇者「魔物って頑張ったら色々話せるようになるんだな......。キラちゃんといい、この子といい......変な扉を開けてしまいそうだな」
ゾンビ「あー?」
勇者「よしよし。次の人語に移ろう。―――私は勇者様の側室です。はい」
ゾンビ「わぁしは......ゆう......しぃ......のそ、く......しつでしゅ!」
―――数日後 城内
キマイラ「革新派の動きは?」
側近「動きはありません」
キマイラ「そうか......では、そろそろ始めるとするか」
側近「分かりました」
キマイラ「ふふ......くれぐれも内密にな」
側近「はい」
キマイラ「ふふ......これで魔王の座に近づいたな......」
ゴーレム「ナにを......はじめる......ツもりだ......?」
キマイラ「気にすることはない。全ては万事、うまくいく」
ゴーレム「オシ......えろ......」
キマイラ「悪いがそれはできない。情報の漏洩を防ぐためだ」
ゴーレム「......」
キマイラ「そう怖い顔をするな。勇者も死に革新派をも駆逐するために動いているだけだ」
ゴーレム「ワかっ......た」
―――数週間後
ゾンビ「―――おにいちゃーん」ヨロヨロ
勇者「おはよう」
ゾンビ「ごはんだよ」
勇者「いつもありがとう」
ゾンビ「うー......」モジモジ
勇者「ゾンビ語でた!!減点!!!」
ゾンビ「あー!!!」
勇者「まだまだだな」
ゾンビ「はんせい」
ハーピー「勇者よ......」
勇者「おはようございます」
ゾンビ「おはよ、うー」
ハーピー「随分、言語が巧みになってきたな......」
勇者「まぁ......機械兵士に愛を説いたことのある僕なら、これぐらいは余裕です」
ハーピー「そ、そうか......」
勇者「それで、何かありましたか?」
ハーピー「保守派が遂に動き出した......。いや、動き出していた......」
勇者「どういうことですか?」
ハーピー「あやつらはずっと、水面下で革新派に嫌がらせをしていた......」
勇者「嫌がらせ?引き抜きとか流言による情報操作とか?」
ハーピー「まさにその通りだ......」
勇者「なるほど」
ハーピー「おい」
ゾンビ「なに?」
ハーピー「お前も......何か言われたか......?」
ゾンビ「ほんとうはおにいちゃんがはしゅはときょうりょくして、わたしたちをぎゃくさつしようとしているってきいたよ?」
勇者「虐殺?僕が?」
ハーピー「全く同じ内容だ」
勇者「折角、手塩にかけて育てたこの子を僕が殺す?この世界が僕以外みんな女の子になるぐらい可能性が低いことですよ」
ハーピー「しかし、徐々にその噂は広まりつつある。真綿で首を絞められるようにゆっくりと革新派はダメージを負っている」
勇者「そうですか」
ハーピー「お前......どうしてそう冷静なのだ?」
勇者「え?」
ハーピー「このままでは確実にお前は殺されるのだぞ?」
勇者「初めからそのつもりでしたから。僕はもう死んでいます」
ハーピー「お前......!!」
勇者「僕が死ぬことで人類への暴虐が収まるというなら、安いものですし」
ハーピー「腰抜けが......見込み違いだったな......」
勇者「誰かを殺せば、誰かに狙われる。僕はそれがもう嫌なだけです」
ハーピー「ふん......がっかりだ......」バサッバサッ
勇者「......」
ゾンビ「おにいちゃん......」オロオロ
勇者「大丈夫さ......。それより、またお願いできるか?」
ゾンビ「うー、ん!」
―――城内
キマイラ「首尾は?」
側近「多くの者が保守派に流れてきています」
キマイラ「そうか......ふふふ......」
側近「数で言えば、圧倒しているかと」
キマイラ「だろうな......1ヵ月もかけたのだ、そうでなくては困るが」
ゾンビ「うー......うー......」ヨロヨロ
キマイラ「......ふん。ハーピーの部下か」
側近「では、今回の事が終われば......キマイラ様が魔王に......」
キマイラ「まぁ、そういうことになるな」
側近「永久にキマイラ様のお傍で戦います......」
キマイラ「頼むぞ。邪魔なニンゲンもこの世界から消してやる......」
キマイラ「魔王様の意志を継ぎ......必ず......」
側近「まずは勇者ですね」
キマイラ「ああ。そのために革新派の排除を急ぐぞ。ニンゲンを城に置いておくだけで虫唾が走るのでな」
―――数日後 牢獄
勇者「おはよう」
ゾンビ「おはよ、うー」
勇者「で、どうだった?」
ゾンビ「キマイラさまは......インゲンを......じゃなくて、ニンゲンを殺すって言ってる......」
勇者「他も?」
ゾンビ「うんっ」
勇者「やっぱりか......」
ゾンビ「うー?」
勇者「奴らは俺との約束を守るつもりはなかったわけだ......」
ゾンビ「うー」コクッ
勇者「......逃げるか」
ゾンビ「え?」
勇者「鍵もってきて。牢屋の鍵」
ゾンビ「うんうん」ヨロヨロ
―――廊下
勇者「こっちが出口だな?」
ゾンビ「でも......これ、ダメなことだよ......」ヨロヨロ
勇者「俺が死んで全てが解決すると思っていたのは間違いだったみたいだな」
ゾンビ「うー......」
勇者「信じてたけど......やはり、王のために民は再び立ち上がるのか......」
ゾンビ「うー......うー......」
勇者「なら......ここでなんとかしておかないと......」
ゴーレム「―――ユうしゃ......!!」
勇者「!?」
ゾンビ「うー!!うー!!!」
勇者「ゴーレム!!武器もない状態じゃ......!!」
ゴーレム「ダっそうは......シケい......だ!!!」ブゥン
勇者「危ない!!」バッ
ゾンビ「あー!?」
勇者「怪我は?!」
ゾンビ「あー......うで......とれたー......」
勇者「これか!!―――はいっ!」ポイッ
ゾンビ「ありがと、うー」
勇者「お礼はいい!!逃げるぞ!!」
ゾンビ「うー?なんで?わたしはにげるひつようなんて......」
勇者「ここに居れば君のような革新派は絶対に殺される!!それがわからないのか?!」
ゾンビ「うー?」
勇者「君に言葉を教えたのは密偵のためでもあったけど、それ以上に君は愛らしかった!!」
ゾンビ「あい......?」
勇者「そうだ!!だから君を死なせない!!俺の命ある限り、守る!!」
ゾンビ「うー......あぃ......して......」
ゴーレム「ユうしゃ......つぶす......!!!」ブゥン
勇者「こっちだ!!」グイッ
ゾンビ「あー!」
―――謁見の間
キマイラ「何事だ。騒がしいぞ」
側近「た、たいへんです!!勇者が脱走しました!!!」
ハーピー「なんだって......?」
キマイラ「所在は?」
側近「幸い、ゴーレム様が追跡中のようで......今は西館の三階付近に居る模様です」
キマイラ「そうか......ゴーレムが......ならば、奴に任せておこうか」
ハーピー「まちんせ」
キマイラ「なんだ?」
ハーピー「勇者は殺さない約束のはず」
キマイラ「今までは保護対象だったが、それが脱走者という肩書きに変わってしまった。これはもう排除対象だと思うが?」
ハーピー「だが!!」
キマイラ「勇者は我々の約束に背いたことになる。そうだな?」
ハーピー「......」ギリッ
キマイラ「勇者を捉え次第、殺せ!!奴はやはり敵だったのだ!!」
勇者「はぁ......はぁ......!!」
ゾンビ「うー......あー......」ヨロヨロ
勇者「ああ!!もう抱える!!」ガバッ
ゾンビ「うー!!」
勇者「しっかりしがみ付いてろ!!」
ゾンビ「うー」ギュッ
勇者「はぁ......はぁ......」ダダッ
ゴーレム「マて......!!」ズンズン
勇者「ここは右だな!!」ササッ
ゴーレム「......」
勇者「どうだ。ここはお前が通れるほど通路の幅が広くな―――」
ゴーレム「ニが、さない......!!!」メリメリメリ
勇者「嘘だろ......?!無理やりくるのか!?」
ゾンビ「こわい」ギュッ
ゴーレム「ユうしゃ......ショけいする!!!」メリメリメリ
キマイラ「―――勇者は?!」
側近「それがまだ......!!」
キマイラ「使えぬ奴だ......!!よし、兵を投入する!!なんとしても捕らえろ!!」
側近「キマイラ様!!勇者はリビング族を人質にしているようですが......」
キマイラ「ふん。使えぬものは捨て置けばいい!!今は勇者の抹殺が最優先だ!!」
ハーピー「......」
キマイラ「動くな」
ハーピー「くっ......」
キマイラ「何をしようとしているのか......分からないとでも?」
ハーピー「さあ、なんのことだろうな。わらわはお前の言う通り、勇者を捕まえにいこうとしただけだが?」
キマイラ「ふん......下手な嘘は寿命を縮めるぞ?」
ハーピー「部下を動かしてまで、勇者を殺したいの?」
キマイラ「奴は先代の魔王を討ち取ったニンゲンだ。殺せるうちに殺しておくべきだろうが」
ハーピー「......」
キマイラ「何か言いたげだな......?」
ハーピー「いやね......もう魔王気取りかと思うと......ふふ......笑えてくる」
キマイラ「駄鳥が」
ハーピー「お前は魔王の器じゃない。それはよくわかった」
キマイラ「ほう......?」
ハーピー「魔族はこのままひっそりと隠れ住むほうが良いな」
キマイラ「はっ......何を言うか。魔族は全ての生物の頂点に君臨する種族だ!!!」
ハーピー「ニンゲン一匹すら満足に殺せないのに?ふふふ......あまりわらわを笑わせないでくれるか?」
キマイラ「......っ」ギリッ
ハーピー「はっきり言おう。革新派が今まで目立った動きを見せなかったのは、偏に先代を超える器量の持ち主がいなかっただけのこと」
キマイラ「......」
ハーピー「殺そうと思えばいつでも殺せた。魔道士が作ったキラーマジンガもほぼ完成していたしなぁ」
キマイラ「なにが言いたい?」
ハーピー「わらわたちに相応しい王はまだおらぬということだ」
キマイラ「貴様ぁ......」
ハーピー「今回、こうやって行動を起こしたのも、貴様のような勘違いした王の誕生を阻止するため。もう魔族を穢すでない」
キマイラ「では、このまま王の座を空席にしておくのか!!それこそ魔族の......我々の崩壊だぁ!!」
ハーピー「......条件付きではあるが、あの方なら任せられるかもしれん」
キマイラ「誰だ?」
ハーピー「ドラゴン様しかおらんであろう」
キマイラ「裏切り者を王にするだと?はーっはっはっはっは!!それこそ愚策だぁ!!」
ハーピー「耳の悪いやつだ。条件付きだというただろうに」
キマイラ「条件?」
ハーピー「ドラゴン様を皆が受け入れたら......だ」
キマイラ「ふふふ......ふはははははは!!!!!あーっはっはっはっはっは!!!!!」
キマイラ「受け入れる?!出来るわけないだろうがぁ!!!!」
ハーピー「......」
キマイラ「あのエルフ族を何年も蔑ろにしてきた身でよくいう!!」
ハーピー「エルフ族もわらわたちも歩み寄ろうとはせなんだ。関係が修繕されないのは当然だ」
キマイラ「歩みよればいいというのか?理想論も大概にしろ!!」
ハーピー「さあ......理想論なのかはわらわは疑問だ。なにせ―――」
ドォォォォン!!!!
ゴーレム「ユうしゃぁ!!!」
キマイラ「な、なんだ?!」
勇者「いたー!!こっちです!!」
ハーピー「うむ」バサッバサッ
ゴーレム「ユうしゃ......!!!」ブゥン
ハーピー「無駄」バシッ
ゴーレム「グぐ......!?」
キマイラ「お前まで......裏切るのか......!!!魔王様の側近だったお前までニンゲンに擦り寄るのかぁ!!!」
ハーピー「擦り寄るのではなく、歩み寄るというてくれ。あと勘違いせぬように。わらわたちは常に魔族の繁栄を願っている」
キマイラ「減らず口を......!!」
勇者「キマイラ。お前は先代魔王よりも色々劣っているみたいだな」
キマイラ「勇者ぁ......!!」
勇者「俺がゾンビの子を使って情報収集をしていたことも気づいてないだろ?」
キマイラ「なに......?!そんなことリビング族にできるわけが......!!」
勇者「さあ、いっておあげなさい」
ゾンビ「うー」
キマイラ「ほら見ろ......その種族は喋る知能すら―――」
ゾンビ「キマイラ、キライー!!!!」
キマイラ「!?」
ゾンビ「ベーッ」
勇者「ふっ......」
キマイラ「馬鹿な......」
勇者「同胞のことを学ばず、魔王にずっと媚を売ってたのか?この子でも喋るし、考えて生きてるぜ?」
ゾンビ「うーうっうー」コクコク
キマイラ「ぐぐぐ......!!!」
勇者「俺との約束も簡単に破りやがって......必ずお前は俺が倒してやる......」
キマイラ「うるさい!!!貴様はここで死ぬのだぁ!!!やれ!!ゴーレム!!!」
ゴーレム「マおう、さまの......カたき......!!!」
勇者「逃げましょう!!」
ハーピー「ふふふ......やはりお前はわらわの見込んだ男だったか」
勇者「惚れてもいいんですよ?僕の股間、予約に空きがありますから」
ハーピー「そうか......ふふふ......」
ゾンビ「うー!」ギュッ
魔物「「ギー!!!ギー!!!」」
ハーピー「ここはわらわに任せよ」
勇者「お願いします!!」
ゾンビ「うー!」
ハーピー「はぁぁぁぁぁ!!!!!」バサッバサッ
勇者「よし、今のうちだ」
ゾンビ「うー」ギュッ
ゴーレム「ニが、さない!!」ズンズン
キマイラ「必ず殺せ!!後の脅威となるニンゲンだぁ!!!」
勇者「過大評価に感謝します」
ハーピー「こっちだ!!」
ハーピー「よし、わらわに捕まれ」
勇者「ここから飛ぶわけですか?!」
ハーピー「怖い?」
勇者「えっと......信じます」
ハーピー「嬉しいよ」
ゾンビ「うー」
勇者「さ、一緒に行こう」
ゾンビ「うー......」フルフル
勇者「え......?」
ゾンビ「わたし、じかんかせぐね」
勇者「何を言ってるんだ!?そんなことする必要はない!!」
ゾンビ「ううん......みんなをとめないと......キマイラ、そらとべるから」
勇者「でも!!」
ハーピー「勇者よ。この子の言う通りだろうに。キマイラと空中戦などできはせん」
ゾンビ「だから......ね?」
勇者「ダメだ。君も一緒だ」
ゾンビ「うー......うー......」フルフル
勇者「君のことは守る!!」
ハーピー「勇者......」
勇者「君が心配するようなことはない!!僕は......俺は......!!ずっとそうやって戦ってきた!!」
ゾンビ「う......」
勇者「君を守る......だから―――」
ハーピー「よせ。今のわらわたちでは対抗できない。ここまで来て、脱出のチャンスをふいにするか?」
勇者「でも......!!!」
魔物「ギー!!!ギー!!!」
ゾンビ「うー!!!」
ハーピー「時間がない!!行くぞ!!」
勇者「この子の時間稼ぎなんて数秒もない!!そんなの意味がない!!!無駄死にじゃないか!!!」
ゾンビ「がんばるっ」グッ
勇者「無理だ!!一緒にこい!!」
ハーピー「その数秒はわらわたちを見失わせるには十分な時間であろう!!」
勇者「嫌だ!!守れるのに......!!俺はもう誰も失わないように強くなったのにぃ!!!」
ハーピー「こい!!」グイッ
勇者「やめろぉ!!!一緒だ!!一緒に行くんだ!!!」
ゾンビ「うー......」フルフル
勇者「どうして......!!!」
ゾンビ「あ......」
勇者「え......?」
ゾンビ「......あい......してる......」ニコッ
勇者「あ―――」
ゾンビ「うー......うー......」ヨロヨロ
ハーピー「行くぞ!!」
勇者「どうして......どうして......!!」
勇者「こうなるのが......嫌だから......俺は......」
勇者「―――くそぉぉぉ!!!!」
―――森
女『あっ!!』ドタッ
少年『姉さん!!』
女『いっ......!』
少年『怪我したんだね?!今すぐ回復を!!!』
女『ダメ......魔物が傍まで来ているわ......行きなさい』
少年『姉さんを置いていけるわけないだろう!?』
女『言うことをきいて......いい子だから......』
少年『いやだぁ!!!姉さんも一緒だ!!!』
女『弱い貴方じゃ......無理よ......』
少年『え......』
女『女の子を守りたかったら......強くなりなさい......』
友『おい!!何してる!!いくぞ!!』グイッ
少年『姉さん!!!いやだぁぁ!!!うわぁぁぁぁ!!!!!』
女『強くなって......どんな人でも守れるぐらいに......強く―――』
―――海賊船 医務室
勇者「んっ......?」
キャプテン「あ......」
勇者「こ、ここは......?」
キャプテン「ダーリン!!!いきかえったぁ!!!」ギュゥゥゥ
勇者「おぉ!?」
キャプテン「久しぶりに再会できたのは嬉しいけどさぁ、いきなり空から落ちてくるのは......ロマンティックすぎやしないかい?」
勇者「申し訳ありません。演出に懲りすぎましたね」
キャプテン「いいさ、いいさ!!ダーリンが無事ならなんでもいいってね!!」
勇者「あの......連れが居ませんでしたか?」
キャプテン「いいや。いないよ?ダーリンが一人で落っこちてきたんだ」
勇者「そうですか......」
キャプテン「それよりさぁ......活きのいい魚が取れたんだ。食ってくだろ?な?な?!」
勇者「そうですね。食欲はありますから」
キャプテン「じゃあ、ちょっと待ってな!!腕によりをかけてやるからね!!」
―――甲板
「キャプテン!!それは商売用ですぜ!?」
キャプテン「細かいことはいいっこなしだよぉ!!あたしの旦那が息を吹き返したんだからね!!」
「ひえぇ......俺たちの稼ぎがぁ......」
キャプテン「なら、ええと......この辺でテキトーな魚でもつかまえな!!」
「それ密漁になっちまいます!!」
キャプテン「しるかぁ!!!」
勇者「......」
船長「久しぶりだな」
勇者「......あの、足を踏まないでください」
船長「おっと......悪い。ついな」
勇者「キャプテンはもう......俺の嫁だ」
船長「軟派野郎にキャプテンを渡してたまるか......!!!」
勇者「......拾っていただき、感謝します」
船長「キャプテン命令だ。それに甲板に落ちてきた勇者様を海に投げ落とすわけにもいかねえだろ?」
勇者「ふっ......」
船長「何かあったのか?しばらく行方不明になってたみたいだけどよ」
勇者「色々ありまして......。僕はまだまだ未熟なようです」
船長「......」
勇者「僕の力が及ばないばかりに......犠牲者を......」
船長「そうか」
勇者「もっと......思慮深く行動していれば......」
船長「でも、我らの勇者様はそこで諦めたりしねえんだろ?」
勇者「え......?」
船長「お前は魔王を倒したんだぜ?敵なしじゃねえか」
勇者「しかし......僕は弱い......」
船長「そりゃあ、一人じゃな。でも俺たちと一緒だったら?」
勇者「......魔王にも勝てる」キリッ
船長「そういうことだ。何をしてえのかは知らないけどよ、いくらでも協力はしてやる。遠慮なく頼れ」
勇者「ありがとうございます」
キャプテン「ダーリーン!!!やけたよー!!!」
勇者「分かりました」
船長「でも......やっぱり、気にくわねえ......!!!」
勇者「ふっ」
船長「その鼻で笑うのやめろぉ!!!」
勇者「キャプテーン!!!」ダダダッ
キャプテン「ダーリーン!!!」テテテッ
勇者「行ってほしい場所があるのですが」
キャプテン「どこだい?」ギュッ
勇者「キラちゃんとドラゴちゃんのところに」
キャプテン「ああ!!うん!いいよぉ!まかせときなぁ!!―――おまえらぁ!!錨をあげなぁ!!帆をはれぇ!!!」
「もうあげてるし、はってまーす!!」
キャプテン「準備いいじゃねえか!!よーし!!目的を変更するよぉ!!!」
「うそー?!」
キャプテン「嘘なんていうかぁ!!!目指すは港町だぁぁ!!!」
―――港町
勇者「ここに?」
キャプテン「そうさ。確か......」
キラーマジンガ「あ」
勇者「おお!!」
キラーマジンガ「―――パパァァァァ!!!!!!」タタタッ
勇者「娘よぉぉぉ!!!!」
キラーマジンガ「パパ!!!パパだぁ!!パパの匂いだぁぁ!!!」ギュゥゥゥ
勇者「心配かけたなぁ......ごめんなぁ......本当にごめんなぁ......」ナデナデ
キラーマジンガ「パパ......私ね......ずっと......あえるって......し、んじて......たよ......?」
勇者「そうか......こんなに大きくなって......母さんに似てきたな......」
キラーマジンガ「うん......胸も......少しだけ......大きくなったよ?」チラッ
勇者「おまえ......」
キラーマジンガ「今日は......いっぱい......してね?」
勇者「するっ!!」ギュゥゥ
キャプテン「見せ付けてくれるじゃないのさぁ......」
キラーマジンガ「―――今のは間違いなく90点台でしょう」
勇者「ああ、98点だ」
キラーマジンガ「おぉ......!!す、すごい......」ブルブル
勇者「良くぞここまで成長できたな。もはや免許皆伝じゃ」
キラーマジンガ「はっ。これも全ては老師の教えがあればこそです」
勇者「これからも恋愛マジンガとして精進するように。今のお前ならば並の男はイチコロじゃ」
キラーマジンガ「ありがたき幸せ」
キャプテン「もういいかい?」
キラーマジンガ「お久しぶりです」
勇者「うん。ドラゴちゃんは?」
キラーマジンガ「自宅に居ます」
勇者「そうか。案内してくれますか?」
キラーマジンガ「了解しました」
キャプテン「あたしも家を見るのは初めてだねー」
―――民家
キラーマジンガ「マスター。勇者が生還しました」
勇者「やっ」
キャプテン「ほー!いい家じゃないか」
少女「おまっ―――」ガタッ
勇者「時間がありません」
少女「どうした?」
勇者「どうしても助け出して欲しい......魔物がいるんです」
少女「魔王の城で何があった?」
勇者「保守派と革新派の小競り合いがあるのは知っていますね?」
少女「ああ、それぐらいの情報なら」
勇者「僕は革新派の魔物たちに助けられ、この二ヶ月弱、ずっと牢獄にいました」
少女「そうだったのか」
勇者「そして奴らは、最も大事な僕との約束を守ることはせず、僕を殺そうとしました」
少女「勇者の死と引き換えに、ニンゲンには手を出さない。復讐の終焉は露に消えたか」
勇者「まだです」
少女「なに?」
勇者「保守派が実権を握れば歴史が反復するだけですが、革新派が表に立てれば......」
少女「同じだ。ニンゲンを襲わないという保障は―――」
勇者「貴女はそんなことしないはずだ」
少女「!?」
キャプテン「おー、よくわかんないけどいいじゃないか。あんたが魔王になるならあたしら、大漁船艦隊も応援してあげるよ」
キラーマジンガ「ご祝儀はお魚ですね」
キャプテン「そーそー」
少女「無茶なことをいうな!!俺は魔族を裏切ったのだぞ?!」
勇者「それに魔王の側室も素敵だと思うんですよね」
少女「はぁ!?」
勇者「魔王すらもはべらせる人間なんていないでしょう?」
少女「お前......それ、諦めていたんじゃ......」
勇者「諦める?僕が?ご冗談を。こうして僕が生きている限りは、側室に囲まれて老衰死という夢は実現させてみせますよ」
少女「いや......」
勇者「もう勇者として名を馳せることはできなくなりましたが、僕は今回の旅で下地を作ることには成功しました」
勇者「魔王の城でも既に二名、側室候補がいます」
少女「それを助けろというのか」
勇者「はい」
少女「だが......俺が魔王になど......」
勇者「お願いします。もうこの世界に勇者はいらない。勇者と魔王の戦いを時事の問題ではなく伝説にしたいんです」
少女「......」
勇者「貴女の力が......必要です......」
少女「しかし......」
キャプテン「やりなよ。魔王はもう死んだ。世界の人々はそう思ってるんだ」
少女「簡単にいうがな、道ははるかに厳しいぞ。まず、話を聞いた限りでは保守派の勢力が増しているようだから、武力衝突は避けれない」
少女「現時点での保守派トップは実質、キマイラだ。奴が魔王として立ちはだかるのは自明の理」
キラーマジンガ「マスターよりもキマイラは強いのですか?」
少女「生命エネルギーの抽出技術が残っているはずだ。恐らく、俺の能力は軽く上回っているだろうな」
キャプテン「んなもん一発殴って言うこときかせりゃいいんだよ!」
少女「魔族世界での政も孕んだ問題だ。安易に行動を起こすなどできない」
勇者「......分かりました。では、とりあえず僕の可愛い側室を助け出す手助けはしてもらえますか?」
少女「あのな。そういって、派閥闘争に俺を巻き込む気だろう?」
勇者「うん!」
少女「......」
勇者「......」
少女「......はぁ......わかった......」
勇者「さすがぁ!!僕のドラゴちゃんだぜぇ!!」
少女「ただし、お前にも協力はしてもらうからな」
勇者「子作り?」
少女「違う!!!共に付いてこいと言っている!!」
勇者「了解。恐らく、ハーピー姉さんとリビングデッドの子は一緒にいるはずです」
キャプテン「お前を逃がすために自分の身を犠牲にしたのか?」
勇者「そういうことになります。僕は彼女たちに全身全霊を持って、お礼をしなければなりません」
キラーマジンガ「マスターが魔王になるということですね。天晴れです」
少女「そうとは決まっていない。俺の立場上、革新派の手助けぐらいしか......」
勇者「実質的なトップに君臨するんでしょう?」
少女「任せられる者がいるならその者に任せる!!」
勇者「僕の側室魔王になってくだいよぉ」
少女「なるか!!」
キラーマジンガ「マスター。私は秘書として働きます」
少女「お前も何か勘違いしているようだな」
勇者「なら、あれだ、タイトスカートを穿いて、眼鏡をかけないとな」
キラーマジンガ「次は秘書修行をしなければなりませんか?」
勇者「当然だ。服は僕が用意しておこう」
キラーマジンガ「よくってよ!」
勇者「それはお嬢様だな。0点」
キラーマジンガ「おぉ......バカなぁ......」ガクガク
キャプテン「やると決まったら早速行こうじゃないか!ダーリンの大事な人を死なせるわけにもいかないしねぇ!」
―――フィールド
ドラゴン「では、行くぞ」
勇者「みなさん!!準備はいいですか!!」
キラーマジンガ「良好です。各部異常ありません」
キャプテン「......」
勇者しゅっぱーつ!!!僕の可愛い側室救出作戦だぁ!!」
ドラゴン「よし!!」バサッバサッ
キャプテン「ひぃぃ......」ギュッ
勇者「どうしました?」
キャプテン「うぅぅ......」
キラーマジンガ「高所恐怖症ですか?」
キャプテン「......うん」
勇者「なら、僕にしっかりしがみ付いていてください。胸を押し付けるかがごとく」
キャプテン「うん......」ギュゥゥ
勇者「ぬほほぉ」
―――上空
キャプテン「うぅぅ......」
勇者「いい眺めですよ。チラッとだけ見てくださいよ」
キャプテン「......ん」チラッ
キラーマジンガ「上空500メートルを航行中です」
キャプテン「ぁ―――」フラッ
勇者「だ、大丈夫ですか?!」
キャプテン「......」グッタリ
勇者「この人、結構弱点がありますね」
キラーマジンガ「海の上でなら戦闘力ははかりしれないのですが」
ドラゴン「勇者よ」
勇者「なんです?」
ドラゴン「そこまでして『守る』ことに固執するのはどうしてだ?何か理由でもあるのか?」
勇者「......」
ドラゴン「知人友人ならいざ知らず、全くの赤の他人やましてや魔族まで守ろうとするのは些か度が過ぎているようにも思えるが」
勇者「俺を守って死ぬ者を見たくないからな」
ドラゴン「......」
勇者「もう......あんな夢を見るのは嫌だから......」
キラーマジンガ「私には貴方の感情が理解できませんが、それはとても立派なことだと思われます」
勇者「いや、立派じゃない。こんなのただの自己満足でしかない」
ドラゴン「過去に何かあったのか」
勇者「あまり言いたくはないな」
ドラゴン「悪かった」
勇者「いや......こちらこそ、すいません」
ドラゴン「急ごう」ゴォッ
キラーマジンガ「―――レーダーに反応。魔物が接近してきています」
勇者「え?」
ドラゴン「何者だ......?!」
キラーマジンガ「戦闘態勢に以降します」
ハーピー「―――あぁ......はぁ......」フラフラ
ドラゴン「ハーピーか!」
ハーピー「ド......ラゴ......ン......さ―――」
勇者「まずい!!」
キラーマジンガ「ダイビングキャッチ」バッ
勇者「それはダメです!!」グイッ
キラーマジンガ「ぐぇ」
ドラゴン「お前まで海に落ちようとしてどうする!!」
ハーピー「あぁ......勇者もいたのか......」
勇者「どうしたのですか?!」
ハーピー「わらわのことを愛していると言ってくれた部下は......あの子が......初めてだった......」
勇者「まさか......助けに?」
ハーピー「早く......助けてあげ......て......酷い......拷問を......」
勇者「分かりました」
ハーピー「よろ......し―――」
キラーマジンガ「外傷が酷く、生命反応が弱まっています。早急な治療を推奨します」
勇者「そうですね。しかし、この位置だと先に魔王の城に向かってから、海賊船と合流したほうがいいですね」
キラーマジンガ「私は遠慮します」
ドラゴン「海に落ちようとしたやつが船は怖がるのか」
キラーマジンガ「マスターが墜落することは100%ありませんが、船は沈没します」
勇者「なるほど、今のエキセントリックな行動はドラゴちゃんに全幅の信頼を寄せているからこそか」
キラーマジンガ「はい」
ドラゴン「喜んでいいのか分からんな......」
勇者「ハーピーのこともあります。尚のこと急ぎましょう」
ドラゴン「分かっている!!」
キラーマジンガ「レーダーに反応。前方から魔物の群れです」
勇者「ハーピーを追いかけてきたか」
魔物「ギー!!ギー!!!!」
ドラゴン「雑魚めが......!!命だけは勘弁してやろう!!!」ゴォォォ
魔物「ギャァァァ!!!」
キラーマジンガ「マスター。やりすぎです。オーバーキルです」
―――魔王の城 牢獄
キマイラ「そろそろ吐け......勇者はどこに行った?」
ゾンビ「......」フルフル
キマイラ「やれ」
ゴーレム「ハけ!!!」ドゴォ
ゾンビ「うぁ!?ゴホッ......ウェ......」
キマイラ「また明日も拷問はする。喋ったほうが楽になるぞ?」
ゾンビ「うー......」
ゴーレム「......」ズンズン
ゾンビ「うー......うー......」ウルウル
ゾンビ「にげ......られ......たかな......」
ゾンビ「うぅぅ......」ポロポロ
―――ドォォォォン!!!
ゾンビ「うぁ?!」ビクッ
ゾンビ「うー?」キョロキョロ
―――城内
キマイラ「何事だ?!」
魔物「キー!!キー!!!」
キマイラ「勇者とドラゴンだと?!」
ゴーレム「キた......か......!!」
キマイラ「戦力を揃えてきたか......面白い......」
キマイラ「こちらもただ内部抗争だけに注視していたわけではない」
キマイラ「この来るべき時のために、戦力の補強はしてきたんだ!!」
ゴーレム「イく......ぞ......ユうしゃ......コろす!!!」
キマイラ「勇者一行を迎撃しろ!!旧魔王軍ではないことを思い知らせてやれ!!」
魔物「キー!!ギー!!!」
ゴーレム「オォォォ!!!!!」ズンズン
キマイラ「ドラゴン様......いや、ドラゴン......!!」
キマイラ「お前たちを屠り......今日を記念すべきに日にしてみせる!!」
キマイラ「魔王復活の日になぁ!!!」
―――魔王の城 下層
キャプテン「おらおらおら!!!!邪魔だよぉ!!!」ドォンドォン!!!
キラーマジンガ「貴方達では私を倒すことはできません」ザンッ
勇者「ハーピーさん。あの子はどこに?」
ハーピー「地下の......牢獄......」
勇者「分かりました」
ドラゴン「一人で行く気か?」
勇者「ボスはそこに居ないでしょう?」
ドラゴン「俺たちは囮か?」
勇者「信頼してます」
キャプテン「ダーリン!!こっちはまかせなぁ!!」ドォンドォン
キラーマジンガ「必ず戻ってきてください。貴方から秘書のなんたるかを学ばなければなりません」
ドラゴン「救って来い。大事な側室なのだろう?」
ハーピー「たのん......だ......」
勇者「行ってきます」ダダダッ
―――牢獄
ドォォン!!
ゾンビ「うぁ!?」ビクッ
ゾンビ「うー......うー......」キョロキョロ
ドォォン!!
ゾンビ「うぁぁ?!」ビクッ
ゾンビ「うー......」ブルブル
勇者「―――いた!!」
ゾンビ「うー......?」
勇者「牢獄の鍵は?」
ゾンビ「うぁぁ......」ウルウル
勇者「鍵は?!」
ゾンビ「あいし......てる......」ポロポロ
勇者「はい。僕もですよ。で、牢獄の鍵は?」
ゾンビ「うー......あー......あっち......かな?」
ガチャン
勇者「さ、行きましょう」
ゾンビ「うー......」ギュッ
勇者「また抱えていくか」ガバッ
ゾンビ「うー♪」
勇者「酷いことされたか?」
ゾンビ「うん......」
勇者「ありがとう......俺のために......」
ゾンビ「......あ......ありがとう......」
勇者「え?」
ゾンビ「あぃしてるぅ」
勇者「僕もだ」
ゾンビ「うー」
勇者「よし出るぞ!!」
ゾンビ「うーっ」
―――魔王の城 下層
キャプテン「ファイヤー!!」ドォンドォン
魔物「ギー!!」
ドラゴン「ドラゴンテイル!!」パシンッ
キラーマジンガ「抜刀術!!!」ザンッ
ゴーレム「イた......」
キャプテン「おーおー。デカ物のおでましかい」
キラーマジンガ「非常に強固な体質をしています。通常の兵器では傷はつけれません」
キャプテン「じゃあ、あれはドラゴにまかせるかな」
ドラゴン「仕方ない......」
ゴーレム「ウらぎり......もの......!!!」
ドラゴン「もう闘争など飽きただろう?」
ゴーレム「ユうしゃ......コろ、す!!!」
ドラゴン「勇者を殺し、それで終わりにできないのか?!」
ゴーレム「ニんげん......ハ、テきだ......!!ミなゴロしだ......!!!」
ドラゴン「保守派はやはり前魔王の意志を継ぐ構えか......」
キャプテン「そんなに世界が好きなら共存の道もありなんじゃないのかい?」
ゴーレム「マおうさまを......コろして......おい、て......!!」
キラーマジンガ「ゴーレム氏の言うことは正論です。彼らには人間に復讐するだけの動機があります」
ドラゴン「もう同胞が死んでいくのは見たくないのだがな」
ゴーレム「ダまれ......ウらぎりモの!!!!」
ドラゴン「腹を決めた。―――ハーピー?」
ハーピー「は......ぃ......?」
ドラゴン「革新派は俺が引っ張っていこう」
ハーピー「え......」
ドラゴン「無論、出過ぎた行為であることは承知している。だが、魔族は今こそ変わるべきだと俺は思う」
ハーピー「はぃ......おねが、い......します......」
ドラゴン「すまんな」
ゴーレム「ユるさない......!!ドらごん!!!」
ドラゴン「お前には手加減ができない。全力でいかせてもらうぞ」
勇者「ストーップ!!!」ダダダッ
キャプテン「ダーリ―――え!?」
キラーマジンガ「おかえりなさいませ」
ドラゴン「戻ってきたか」
ゴーレム「ユうしゃ!!」
勇者「目的は果たしました。逃げましょう」
ドラゴン「了解だ。乗れ!!」
キャプテン「あぁ......ダダダダ......ダーリン......そ、そそそ、その子......は?」ガクガク
勇者「可愛いでしょ?」
ゾンビ「あー」
キャプテン「ぎゃぁぁああああああああ!!!!!!」
ゾンビ「うー?」
キャプテン「......」バタッ
キラーマジンガ「キャプテンは私が運びます」
勇者「もしかしてこういうアンデッドもダメだったのか?......まあ、確かに海に出没はしませんが」
ゴーレム「ユうしゃ!!!」ブゥン
勇者「うわ!?」
ドラゴン「ふん!!」ドガァ
ゴーレム「グうぅ......?!」
ドラゴン「キマイラに伝えておけ。―――魔王の座は譲らないとな」
ゴーレム「ガがが......!!!ドらごん......!!!」
ドラゴン「全員乗ったか?!」
勇者「はい!!」
キラーマジンガ「問題ありません」
ハーピー「うぅ......」
キャプテン「うーん......こ、わい......のやだ......こわいの......や、だ......」
ゾンビ「うー」
ゴーレム「マて......!!!」
勇者「俺の側室を痛めつけた礼は必ずしてやる。覚悟しとけよぉ!!!!」
ドラゴン「行くぞ!!」バサッバサッ
―――謁見の間
キマイラ「早く来い......血祭りにあげてくれるわぁ」
キマイラ「奴が右から来たら......すかさず左前足をこう......」シュッシュッ
側近「キマイラ様!!」
キマイラ「どうした?」
側近「勇者一行は逃げました」
キマイラ「なに?!」
側近「追おうにもドラゴン様の飛行速度が速く......すぐに見失って......」
キマイラ「......」
側近「申し訳ありません」
キマイラ「やつらめ......!!何をしに来たというのだ......!!おちょくりに来ただけか......!!」
側近「あ、あと......牢獄に閉じ込めていたリビングデッドと、逃げ出した革新派のハーピーも連れ去られたようで......」
キマイラ「それが目的か......!?」
側近「あ、あと......ドラゴン様が......魔王の座は譲らないと......発言したようで......」
キマイラ「やはりか......!!ドラゴン......!!最後に立ちはだかるのは......貴方か......!!」ギリッ
―――上空
ドラゴン「宣戦布告になってしまったな」
勇者「もう戦争なんてごめんです。僕は是が非でも、貴女を魔王にしてみせます」
勇者「そして側室へ」
ドラゴン「魔王になれたらな」
勇者「やくそくですよぉ?」
ドラゴン「俺を側室にしてどうするつもだ......。半竜半人でも作るのか?」
勇者「え?できんの?!」
ドラゴン「......うるさい」
勇者「えー?!初耳だぁ!!マジっすかぁ!?―――では、早速実験しましょう」カチャカチャ
ドラゴン「やめろぉ!!!」
ゾンビ「うー?」
キャプテン「ん?―――ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
ゾンビ「うぁ?!」ビクッ
キラーマジンガ「あまりその人には近づかないほうがいいでしょう」
―――海賊船
キャプテン「おまえらぁ!!この美人鳥を医務室に運びなぁ!!」
「へい!!」
ハーピー「勇者よ......」
勇者「なんですか?」
ハーピー「わらわは......お前のようなニンゲンに出会えて......うれしいぞ......」
勇者「早く元気になってくださいね」
ハーピー「あぁ......」
勇者「ああ、ちなみに」
ハーピー「ん?」
勇者「あの子の「あぃしてるぅ」は食べ物の好物とかと同義ですから。変な勘違いはしないほうがいいですよ?」
ハーピー「え......」
ゾンビ「お魚......あぃしてるぅ!!」
キラーマジンガ「いい子いい子」ナデナデ
ハーピー「......むねん」ガクッ
キャプテン「......」
ゾンビ「うー?」
キャプテン「こ、こっちに来るんじゃないよぉ......」
キラーマジンガ「世界にはこのような魔物も存在します。慣れておいたほうが身のためです」
キャプテン「ゆうれい......もいるのかい......?」
キラーマジンガ「います」
キャプテン「ダーリン!!あたし、海から出ないことにするよぉ!!」
勇者「そんな我侭が通るわけないだろうが」
キャプテン「でもぉ......」
ゾンビ「うー?」
キラーマジンガ「なんですか?」
ゾンビ「あし、ガクガクしてる」
キラーマジンガ「......仕様です」
ゾンビ「し、よう?」
ドラゴン「結構逼迫している状況でも余裕だな......この面子は......」
勇者「貴女が魔王になればいいだけのお話ですし」
ドラゴン「言葉に出せるほど容易ではない。説明しただろ」
勇者「まあ、衝突は避けられそうにありませんね」
ドラゴン「魔王となったキマイラとはいつか戦うことになるな」
勇者「余裕っしょ」
ドラゴン「バカをいうな」
キラーマジンガ「現戦力では敗戦濃厚です」
キャプテン「こっちも。漁業を始めてから武力強化なんて一切行ってないしねえ」
ドラゴン「魔王との決戦時のようなことには......」
勇者「確かに。このメンバーでは敗北確実でしょう」
勇者「側室がいっぱいいるだけの一兵士。能力はキマイラに劣るであろうドラゴン。弱点の多い元海賊」
キャプテン「わるかったねぇ......」
勇者「そこが可愛いのですがね」キリッ
キャプテン「や、やだよぉ、ダーリンったらぁ」
勇者「あとは満足に走れないリビングデッド、傷だらけのハーピー。最強の機械兵士であるキラちゃんは別格ですが、まあ多勢に無勢でしょう」
キラーマジンガ「褒めていただき感謝します」
勇者「そこで。戦力アップを図ります」
キャプテン「どうするんだい?」
勇者「なんと都合のいいことに僕の側室にはすごい美人で有能な僧侶と魔法使いとエルフ族がいるんですよね」
ドラゴン「へえ」
キラーマジンガ「初耳です」
ゾンビ「うー?」
キャプテン「そんな奴いたかい?」
勇者「いるんですよ。まあ、今どこにいるかはさっぱりですが」
キラーマジンガ「あの。貴方の言う人物に該当するかわかりませんが、文通相手に似たような経歴の人がいます」
勇者「おお。そうですか」
キラーマジンガ「資金繰りが厳しいようで、今は傭兵登録所にいると聞きました」
勇者「傭兵ですか。なるほどなるほど」
キラーマジンガ「また一連の出来事を連絡するために、手紙を書きます」
勇者「ああ、僕のことは伏せておいてください。きっとその人たちは僕の大ファンでしょうから、こっちまで駆けつけてくるかもしれませんし」
ドラゴン「それがいい。今後、キマイラの指示で各地の魔物が活発的に活動するだろうからな」
勇者「また、魔物に怯える日々が来るのですね」
ドラゴン「キマイラの一派を制圧するまではな」
勇者「そうだ。この装備は全て捨てておきましょう」
キャプテン「どうしてだい?似合ってるのに」
勇者「勇者はもうこの世界に不要ですから」
ゾンビ「うー?」
キラーマジンガ「勇者という存在は魔王討伐を目的とした肩書きです。その勇者が動いているとなれば、民衆の不安を煽ることになります」
ゾンビ「ううー??」
ドラゴン「つまりだ。勇者が旅をしていると、他の者はまだ魔王が居るんじゃないかと思い、怖がってしまうんだ」
ゾンビ「うーわかったー」
キャプテン「あ、ああ......うん......あたしも......わかったよ!!すごいね!!」
勇者「勇者はもう死んだ。ここにいるのは元・勇者です」
ドラゴン「勇者でないものが、世界を救おうというのか......」
勇者「世界はもう救われています。今からすることは内輪揉めの仲裁ですから」
キャプテン「まあ、何はともあれ、また冒険できるってわけだ!!」
勇者「今度は両手に花どころか、両手に花畑を実現させてみせましょう」
ドラゴン「富はおろか名声ももらえないというのにか?」
勇者「ふっ。魔物が活発化する、女の子に危険が迫る、俺登場、ベッドイン、イェー」
ドラゴン「わかった。基本的な方針はあまり変わらないわけだな」
勇者「そういうことです」
ドラゴン「では、その有能な者たちを迎えにいくのなら俺が―――」
勇者「いえ。ドラゴちゃんとキラちゃんは海賊船に残って、この海域で動向を見守っていてほしいのです」
キラーマジンガ「何故でしょうか?」
勇者「今度の相手は良くも悪くも積極的ですから。前の魔王とは違い、直接前線に立つかもしれません」
ドラゴン「そうだな。この艦隊をむざむざ狙わせるわけにもいかないか」
ゾンビ「うんうん」コクコク
キャプテン「じゃあ、ダーリンは一人で向かえにいくのかい?」
勇者「他の船で近くまで連れて行ってもらえれば十分ですから」
キャプテン「そうかい......残念だねぇ......まぁ、旦那がそういうなら従うしかないけどさ」
勇者「そう寂しがらなくても、僕の可愛い妹を置いておきますで」スッ
キャプテン「え―――」
ゾンビ「あー♪」
キャプテン「ぎゃぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!」
ドラゴン「そろそろ慣れろ」
キラーマジンガ「もう少し時間が必要でしょう」
勇者「では、行ってまいります」
ドラゴン「気をつけろよ」
キラーマジンガ「ご武運を」
ゾンビ「おにいちゃーん、あぃしてるぅー!!」
キャプテン「ダーリン!!早く帰ってきておくれよぉぉぉ!!!」
勇者「はい!また、旅をしましょう!!」
ドラゴン「ふっ。待っているぞ」
キラーマジンガ「秘書スキルを上げてお待ちしていますわっ!」
勇者「それはお嬢様だっていってんだろ!!いい加減にしろ!!!」
―――数日後 海賊船 甲板
勇者「あ、すいません」
船員「なんだ?」
勇者「上陸したいのでここで少し待っていてもらえますか?二時間で戻ります」
船員「別にいいけど」
勇者「ありがとうございます」
船員「魔物には気をつけろよー。最近、人間が襲われることが多いって聞くぜー」
勇者「はぁーい」
勇者「......」スタスタ
勇者「さーてと......」
勇者「一目だけでも......」
勇者「俺の身勝手な行いの所為で苦しんでなければいいが......」
勇者「......」
勇者「姫様......」
勇者「一応、顔は隠しておこう」ゴソゴソ
―――城下町 広場
ザワザワ......
勇者「ん......?あれは......?」
姫「ここ最近、魔物の活動が活発になり、不安を覚えている方々もいることでしょう」
姫「ですが、もう過去の悲劇を繰り返さない為に兵の強化と万が一のための逃走経路は用意しております」
姫「どうか、みなさまは冷静に日々を過ごすようにお願いいたします!!」
「姫様がそういうなら」
「姫さまー!!がんばってください!!兵士たちじゃなくて、今度は俺たちも戦いますからぁ!!!」
姫「お気持ちは嬉しいですが、我々の使命は貴方たちをお守りすることです。無茶はしないでください」
勇者「......」
姫「......あ」
勇者「......」
姫「......っ」
姫「では、これで私の話は終わります!!ご清聴、感謝いたします!!」
パチパチパチ......
勇者「......」スタスタ
姫「......忘れていました!!」
「な、なんだ?」
勇者「......?」
姫「今日はもう一つ、お伝えすることがあります!!」
兵士「姫様?」
姫「私には愛している人がいます」
「結婚か?!」
「めでてー!!」
兵士「姫様!?なにを仰るのですか?!」
姫「ですが、私の想いは届きません」
勇者「......」
姫「それでも私はその人を愛しています!!」
姫「自身のことなど省みず、他人のために生きる。損得など考えずに誰かのために身を投げ出す。私はその人のことが大好きですっ!!!」
勇者「......」
「だれだー!!その羨ましい野郎はぁ!!!」
「ファッキュー」
姫「はぁ......はぁ......」
勇者「......」
姫「お、お騒がせして......もうしわけありませんでした」
勇者「......」スタスタ
姫「まっ......!」
兵士「姫様。戻りましょう」
姫「はい......」
勇者「......すいません」
町民「なんだい?」
勇者「紙とペンを」
町民「なんで?」
勇者「ラブレターを今すぐ書きたくなったので」
町民「なるほどぉ。いいぜ。かしてやるよ。あんたも姫様のファンクラブにはいるかい?」
―――姫の自室
姫「はぁ......」
兵士「姫様!!」
姫「無礼ですよ?」
兵士「も、申し訳ありません!!あ、あの!!これを......受け取ったのですが......」
姫「なんですか?」
兵士「ど、どうぞ」
姫「......?」ペラッ
『もし子どもが欲しいならいつでも言ってください。万全の態勢でお待ちしております。元ゆーしゃより』
姫「......」
兵士「い、悪戯でしょうか......?勇者殿は行方不明との話も......」
姫「ふふっ......」
兵士「ひ、姫様?」
姫「私、絶対に勇者さまと結婚します。もうあの人以外に考えられませんから」
兵士「わ、わかりました!!私たちも姫様のために勇者殿の行方を調べてます!!」
―――翌日 海賊船 甲板
船員「ついたぜ」
勇者「ありがとうございます」
船員「ここから向こうは浅瀬になってるから、歩いてでも岸につける」
勇者「はい。では、すぐにキャプテンに合流してください」
船員「いいのか?」
勇者「はい。魔物が活性化したというなら、それを鎮圧しながら海賊の村まで行こうと考えていますので」
船員「そうかい」
勇者「では、また」
船員「死ぬんじゃねえぞ。キャプテンを泣かしたら、あの世に殴りこみをかける」
勇者「それはありえません。僕は勇者ですし、それに......」
船員「それに?」
勇者「すごく美人な傭兵を雇いますから」
船員「言ってろ!というか、地獄におちろ!!」
勇者「ええ。僕は地獄に落ちるでしょう。で、そこでエロい悪魔とかと永久に体を重ねます」
―――城下町
勇者「久しぶりだな......」
戦士「いやー!!あの女、結構いい働きしてくれたなぁ」
術士「ええ。俺も魔法には自信があったけど、あの子には完敗だ」
戦士「ずっと雇っていたいぐらいだぜ。でも、なぜかああいう有能なやつに限って、短期のみなんだよなぁ」
術士「不公平だよなぁ」
勇者「すいません」
戦士「なんだ?」
勇者「その有能なかたとは?」
戦士「ああ。傭兵登録所に最近来た女の子だ。えらい美人だし、魔法も堪能なんだぜ」
勇者「美人な人はもう二人ぐらいいませんでしたか?」
術士「ああ、いるけど。あの子たちはまるでダメだな。魔法が使えないに等しい」
戦士「そうだなぁ。ゼロ距離でしか攻撃できないなんてポンコツもいいとこだ」
勇者「それはお前らが無能だからでしょう?彼女たちは世界を救えるほど有能ですよ。―――それでは失礼します」
戦士「な......なんだよ......あの野郎......!!」
―――傭兵登録所
勇者「変わっていない......。まあ、当然か」
勇者「さてと......」スタスタ
受付「ああ、いらっしゃいませ」
勇者「傭兵が欲しいのですが」
受付「はい。どのような目的で?」
勇者「僕の側室に無条件でなってくれる傭兵が欲しいので」
受付「は?」
勇者「それと、もう一度、魔物狩りを行うためです」
受付「わ、わかりました。では、ご希望の人物は?」
勇者「やだなぁ。分かっているくせに」
受付「はい?」
勇者「僕が求めるのは最初から決まっています」
勇者「―――すごく美人で有能な僧侶と魔法使いとエルフをお願いします」
FIN
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#02
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#04
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―