勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
将来はお嫁さんと側室10人を手に入れて幸せに暮らすという野望?を持つ勇者の物語の第1話です。
美人だけれど、能力に難がある僧侶と魔法使いと3人の冒険の始まります。
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#02
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#04
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―
第1話
傭兵登録所
受付「え?」
勇者「ですから、魔王を倒すためにすごく美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」
受付「あの......魔王を倒すのにすごく美人なのは関係あるんですか?」
勇者「あります」
受付「どのような?」
勇者「僕のヤル気が上がりますよね?じゃあ、魔王を倒す可能性もあがります」
受付「......」
勇者「この際、すごく美人な僧侶と魔法使いでも構いません」
受付「ちょっと待っていてください」
勇者「はっ」
受付「えーと......」キョロキョロ
僧侶「あー!?」
受付「お」
魔法使い「大声出さないでよ」
僧侶「だって、それは私が食べようと思ってたのに......」
魔法使い「あら、ごめんなさい。お詫びにこれをあげるわ」
僧侶「ブロッコリーは嫌いだって何度も......!!」
受付(あの二人は......確か......)
受付(まあ、いいか。顔はいいし)
受付「あのー、すいません」
僧侶「はい?」
魔法使い「なぁに?」
受付「勇者様がお呼びです」
僧侶・魔法使い「「えっ!?」」ガタッ
受付「お待たせしました」
勇者「いえ。待っていません」
受付「彼女たちでよろしいでしょうか?」
勇者「おぉ......!!」
僧侶「あの......ご指名頂き、ありがとうございます......」
魔法使い「よろしくぅ」
勇者「美しい......」
僧侶「そ、そんな......」
魔法使い「あら、ありがとう」
勇者「では、早速行きましょう」
僧侶「は、はい!!」
魔法使い「りょうか~い」
受付「お気をつけて~」
受付(よし、うちの不良債権が出て行った......)
―――街
勇者「まずは何より支度を整えないといけませんね」
僧侶「そ、そ、そうですね!!」
魔法使い「うんうん」
勇者「お二人とも、装備は......」
僧侶「杖!!」
魔法使い「棒」
勇者「......」
僧侶「だ、だめでしょうか......?」
勇者「まあ、前衛は僕に任せてもらえればいいですけど」
魔法使い「そうよね。勇者は戦ってなんぼだしね」
勇者「ええ。二人を守って見せましょう」キリッ
僧侶「さ、流石は勇者様!!かっこいいです!!」
勇者「ふっ。当然です。勇者なのですから」
魔法使い「おー」パチパチ
―――フィールド
勇者「さて、ここから北にいくと小さな村があるみたいなのでそこを目指しましょうか」
僧侶「さ、賛成です!!」
魔法使い「おー」
勇者「いや、でもお二人と出会えたことを僕は嬉しく思いますよ」
僧侶「え?ど、どうしてでしょうか?」
勇者「いや。まさかこんなにもお美しい人が旅を共にしてくれるなんて嬉しいじゃないですか」
魔法使い「そうよね。貴方はラッキーよ」
僧侶「い、いえ!わ、私はそんな......あの......」
勇者「貴女たちを守れること......そして、貴女たちから支援をしていただけること......」
勇者「それがとっても嬉しいのです」
僧侶「あ、あの......」
勇者「なんでしょうか?」
僧侶「えっと......支援って?」
魔法使い「もしかして手伝わなきゃダメなの?」
勇者「まぁ、物理的な攻撃では傷を与えにくい相手には魔法を頼らせて頂きますし」
魔法使い「......」
勇者「こちらが傷を負ったときは、治癒をお願いしたいのですが」
僧侶「......」
勇者「でも、不思議なものですね。貴女たちのような美人が二人も余っているなんて」
勇者「貴女たちのような人は真っ先に引き抜かれると思っていたのですが」
魔法使い「受付の人から何も聞いてないのね」
勇者「え?」
魔法使い「私たち、魔法は使えないわよ」
勇者「......え?」
魔法使い「正確には使えるけど、使えないって感じ」
勇者「ど、どういうことですか?」
僧侶「えっと......その......私たち、100年に一人の逸材らしいんです......」
魔法使い「悪い意味でね」
勇者「......」
魔法使い「だから、頼るだけ無駄だからね?」
勇者「それは一体―――」
ガサガサガサ......!!
勇者「むっ!?」
魔物「ガルルルル......!!」
勇者「魔物か!」
僧侶「ひっ」
勇者「後ろに下がって!!」
魔法使い「がんばれー」
魔物「がぁぁぁ!!!」
勇者「でぁ!!」ザンッ
魔物「キャン!?」
僧侶「強い!」
魔法使い「わぁお。さっすが」
勇者「この程度は―――二人とも、後ろ!!」
僧侶「え―――」
魔物「ガァァァ!!!」ガブッ
僧侶「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
魔法使い「なっ!?」
僧侶「いたい!!いたい!!いたい!!!あしっ!!あしっ!!」
魔法使い「このぉ!!」ドガァ
魔物「ガルルル......」
僧侶「いたい!!いたい!!!!」
勇者「下手に攻撃しないほうが!!」
魔法使い「しかたない......!!」
僧侶「たすけてぇ......」
魔法使い「この......魔物の分際で!!!」ギュッ
魔物「がぁ!?」
勇者「なに魔物に抱きついて......!?」
魔法使い「もえろぉ!!」ゴォォォ
勇者「なんと......」
魔法使い「はぁ......はぁ......」
僧侶「あ、ありがとうございます......」
魔法使い「世話かけないでよね」
僧侶「ご、ごめんなさい」
勇者「魔法使えるじゃないですか。それも結構な威力で」
魔法使い「......ダメなの」
勇者「え?」
魔法使い「私は全身を使わないとまともなダメージが与えられない」
勇者「ど、どうして?」
魔法使い「普通は指先や手のひらを銃口の代わりして、魔法を放つわけだけど。私の場合はそれができない」
魔法使い「今みたいに全身からしか放てないの」
勇者「それのどこに問題が?大口径になってむしろ威力が上がるのでは?」
魔法使い「全身が銃口ならよかったけど、銃身のほうが縦笛のように穴だらけ。遠くに放とうとしても魔力が散逸しちゃって、届かないの」
勇者「それって、有効な射程距離がゼロに等しいってことですか?」
魔法使い「そういうことね。魔法発動時は大丈夫だけど、流石に燃え始めた魔物に触れちゃうと火傷するし、爆発系なら爆風に巻き込まれる」
魔法使い「制限が多いの、私」
勇者「そうだったのですか。―――ひょっとして、貴女も?」
僧侶「えっと......」
勇者「そうだ!!足を怪我していたのでは?!」
僧侶「それは......あの......」
魔法使い「大丈夫よ。もう完治してるから」
勇者「え?でも、確かに噛まれて」
僧侶「わ、私はあの......と、止まらないんです......」
勇者「止まらない?」
僧侶「魔法......止められないんです......」
勇者「ど、どういうことですか?」
僧侶「魔力が尽きるまで勝手に治癒魔法が発動し続ける体質で......」
僧侶「怪我をしても魔力がある限りは体が自動的に治癒させてしまうんです」
勇者「それって......無敵ってことじゃないですか!!すごい!!」
魔法使い「いやいや、魔力が尽きたら終わりなんだから、無敵ではないわ」
僧侶「は、はい」
勇者「でも......」
僧侶「魔力は睡眠を取るなり、食事をするなりして回復しますが......私はずっと使い続けている状態なので......」
勇者「もしかて......」
僧侶「燃費......すごく悪いんです......」
魔法使い「十分に回復しても1時間ぐらいで底を打っちゃうものね?」
勇者「......」
僧侶「ご、ごめんなさい!!一応、攻撃魔法も習得していますが......それを使うと一気に......魔力が......」
勇者「なるほど......」
魔法使い「私たちが売れ残った理由、わかったかしら?」
勇者「......」
魔法使い「ポンコツなのよ、私たち」
僧侶「すいません......てっきり、受付の人が話してくれているものだと......」
魔法使い「ま、いるわけないわよね。私たちをわざわざ危険な旅に同行させようなんて考える馬鹿は」
僧侶「あの!!今からでも遅くありません!!他の人を連れていったほうが......」
魔法使い「私からもそれをオススメするわ」
勇者「......」
僧侶「やっぱり、私たちもうこういうことやめたほうがいいかもしれませんね......」
魔法使い「そうね......。勇者様と魔王討伐......夢だったけど......」
勇者「......」
僧侶「で、では......これで......」
魔法使い「ありがとう。指名してくれて。でも、残念。私たちでは貴方の寿命を短くする手助けしかできないの」
僧侶「これからは......お花屋さんでも経営します......」
魔法使い「いいわねー。棒も売りましょう、棒」
僧侶「棒なんて売れないですよー」
魔法使い「馬鹿ね。つっかえ棒とか物干し竿とか色々あるでしょ」
僧侶「花とどんな関係が......」
勇者「待ってください」
魔法使い「なに?」
勇者「僕が提示した条件はすごく美人で有能な僧侶と魔法使いでした」
僧侶「......」
魔法使い「なら、貴方の条件はまるっきり満たしていないわね」
勇者「でも、その後すぐに訂正しました。すごく美人な僧侶と魔法使いでいいと」
僧侶「え......」
勇者「ですので、僕は納得して貴女たちを連れていくことに決めました」
魔法使い「いや......」
勇者「さあ、行きましょう」
僧侶「ちょっと待ってください!!」
勇者「なんでしょうか?」
魔法使い「馬鹿なの?説明したでしょ。私たちは役立たずなのよ」
勇者「でも、魔王討伐に行くことが夢だからこそ、あの傭兵所で声が掛かるのを待っていたんですよね?」
僧侶「そ、そうですけど......」
勇者「なら、僕がお二人の夢を叶えて差し上げます」
魔法使い「何言ってるのよ!!死ぬ気!?」
僧侶「そ、そうです!」
勇者「死にません。僕は王国に選ばれた勇者ですから」
魔法使い「足を引っ張るだけよ......」
勇者「それはまだわかりません」
魔法使い「顔?私たちの顔が好みだから連れて行きたいわけ?」
勇者「はい」
僧侶「な、なにいってるんですか?!」
魔法使い「それなら魔王倒して、名前を売ればいいじゃない。名声と富を手に入れれば、私たち以上の女だって寄ってくるわ」
勇者「そのために屈強な男性と共に旅をしろというのですか?!ふざけんな!!」
僧侶「ひっ」ビクッ
魔法使い「あ、あんた......正気?!相手は魔王!!世界の3分の1を支配してる魔物の王様なのよ?!」
勇者「そうですね」
魔法使い「こんなダメな二人を連れて無事に済むと思ってるの?......いえ、絶対に死ぬ」
勇者「どんなに有能な人を連れていても死ぬときは死にます。なら、僕は自分の好みに合った人を連れて行きたいです」
僧侶「か、考えなおしてください!!」
勇者「どんなに思考しても行き着く結論は同じです」
魔法使い「真性の馬鹿か......」
僧侶「勇者様......」
勇者「とりあえず北の村に行きましょう」
魔法使い「......」
僧侶「......」
勇者「どうしてもというなら構いません。無理強いはさせたくないですし」
勇者「死ぬほど嫌なら抜けてもらってもいいですよ」
僧侶「でも......」
勇者「しかし、迷っているぐらいなら是非とも僕の後ろにいて頂きたいと思います」
魔法使い「......」
僧侶「ど、どうします?」
魔法使い「どうするといわれても......」
勇者「では、出発!!」
―――村
勇者「着きましたね」
僧侶「そ、そうですね......」
魔法使い「はぁ......」
勇者「お二人は宿の確保をお願いします。僕は魔物を狩って得た物を売ってきます」
僧侶「は、はい」
勇者「宿屋で合流しましょう」
魔法使い「ええ」
勇者「それでは、行ってきます」
僧侶「......あの」
魔法使い「なに?」
僧侶「ど、どこまで本気なんでしょうか......」
魔法使い「さぁ?でも、まあ、居ないよりはマシって考えじゃない?」
僧侶「そ、そうですね。道中、いい人が見つかるまでのサポートなら......」
魔法使い「さ、宿に行きましょう。あんたの魔力、とっくに空でしょ?」
―――宿屋
勇者「ただいま戻りました!!」
魔法使い「おかえり。アンタの部屋は向こうね」
勇者「相部屋じゃないんですか!?」
魔法使い「当たり前でしょ!?」
僧侶「ご、ごめんなさい」
勇者「ちっ」
魔法使い「アンタ、本当に勇者?」
勇者「まあ、いいでしょう。それよりも......」
僧侶「な、なんですか?」
勇者「どうぞ」スッ
魔法使い「なにこれ?」
勇者「杖と棒だけでは心許ないと思いまして、ナイフと剣を買ってきました」
僧侶「わ、私たちにですか?」
勇者「魔法が不便ならせめて自衛のための武器は必要でしょう?」
魔法使い「まあ、そうね」
僧侶「このような立派な物を......あ、ありがとうございます!!」
勇者「いえいえ」
魔法使い「......ねえ」
勇者「はい?」
魔法使い「こんな物買ってきて......私たちを戦力として見てるの?」
勇者「当然ですよ」
魔法使い「魔法も満足に使えないのに?」
勇者「ですから、武器を―――」
魔法使い「それなら強い戦士を仲間にしたらどうなの?」
僧侶「ちょっと......」
魔法使い「非力な私たちが武器を持ってもプラスにならないわよ?」
勇者「筋肉質の女性はちょっと......」
魔法使い「そういう意味じゃないの!!アンタ、どうせ私たちを捨てるつもりなんでしょう!?余計なことにお金使わないほうがいいわよ?!」
勇者「捨てる?」
僧侶「そ、そんなこと言わなくても......」
魔法使い「どうせ......いい人が見つかるまでの繋ぎでしょ?」
勇者「何を言っているんですか?」
魔法使い「下手な気遣いはいらないわよ」
勇者「僕は貴女たちと魔王討伐をするつもりで武器を買ってきたんですよ?」
魔法使い「嘘」
勇者「嘘じゃないです」
魔法使い「......」
僧侶「あの......お、おちついて......」
勇者「貴女たち以外と旅をするつもりは微塵もありません」
魔法使い「......何が目的?」
勇者「え?」
魔法使い「私たちを同行させて......何か裏があるんでしょ?」
僧侶「や、やめてください......」
勇者「無論、目的はありますよ」
魔法使い「ほらね。何?臓器でも売る?それとも私たちを人身売買にかけるつもり?」
僧侶「し、失礼ですよ!!」
魔法使い「だって......それぐらいしか......」
勇者「体目当てです」
魔法使い「え?」
僧侶「か、体?」
勇者「はい」
魔法使い「ふん......やっぱり......そういうこと......。身売りさせるわけ?」
勇者「いいえ。僕が貴女たちの体を狙っています」
魔法使い「はぁ!?」
僧侶「ど、どういうことですか?!」
勇者「僕は貴女たちを見ているとムラムラします」
魔法使い「何言ってるの!?馬鹿なの!?」
勇者「勇者に向かって失敬ですね」
僧侶「あ、あの......体って......それは......えっと......エ、エッチなこと......ですか?」
勇者「まあ、そうです」
僧侶「......」
魔法使い「な、なにそれ......」
勇者「でも、どうやら貴女たちはとてもガードが固いようですので、暫くは様子見します」
魔法使い「連れて行く代わりにヤラせろってこと?」
僧侶「ひっ」
勇者「強姦などしません。飽く迄もラブラブな状態でしか体を重ねたくありませんし」
魔法使い「......本気?」
勇者「勿論っ」
僧侶「目が怖いです......」
勇者「それではお休みなさい」
魔法使い「え、ええ......」
勇者「安心してください。夜這いもしませんから」
魔法使い「したらホールドファイアーしてやる」
勇者「なるほど。それは危険ですね」
僧侶「......あの」
魔法使い「まさかただの下心だったとはね」
僧侶「......」
魔法使い「どうする?帰る?」
僧侶「い、いえ......無理矢理にしないって言ってましたし」
魔法使い「それ信じるの?油断したときに襲われたら大変よ?」
僧侶「まあ、でも、邪念のみで体に触れようとしてきても勇者様では私たちに勝てませんし」
魔法使い「確かにね。私なら燃やせるし」
僧侶「はい」
魔法使い「あんたは危ないけどね」
僧侶「わ、私は勇者様を信じますから」
魔法使い「お人好しね」
僧侶「そ、それほどでも」
魔法使い「別に褒めてないけど」
僧侶「と、とにかく!魔王討伐に行くことは確定なんですからがんばりましょう!!」
―――翌日
勇者「おはようございます!!」
魔法使い「おはよ」
僧侶「はい」
勇者「では、早速出発しましょう」
僧侶「そ、そうですね!時間が惜しいですし!!」
魔法使い「で、今日はどこを目指すの?」
勇者「東にある森を抜けて、隣国に入りましょう」
僧侶「国境のある森ですね」
勇者「森自体はそれほど歩きにくいものではないようですが、魔物もいますし、なにより道のりが長いようです」
僧侶「そ、それはたいへんですね」
勇者「ええ。ですが、しっかりと休憩を挟みながら進めば何も問題はないでしょう」
魔法使い「だといいけど」
勇者「では、出発!!」
僧侶「は、はい!!」
―――森
勇者「魔力は大丈夫ですか?」
僧侶「まだ、いけます」
魔法使い「もうギリギリでしょう?」
僧侶「そ、そうですけど......」
勇者「まあまあ、薬草も十二分にありますし。気にしないでください」
魔法使い(いつの間に......)
僧侶「さ、流石は勇者様!!」
勇者「いやぁ」
ガサガサガサ......
勇者「むっ!?」
魔物「ウゥゥゥゥゥ......!!!」
魔法使い「魔物......!!」
勇者「ふっ。掛かって来い!!!」
魔物「ガァァァ!!!!」ダダッ
勇者「せぇぇい!!」ザンッ
魔物「グァ!?」
勇者「もう一撃!!」
魔物「グアァ!!!」ガブッ
勇者「つっ?!」
僧侶「勇者様ぁ!!」
魔法使い「......っ」
勇者「―――はぁぁぁ!!!」ザンッ
魔物「ゥガ......」
勇者「勝った」
僧侶「勇者様!!大丈夫ですか!?」
勇者「ええ」
魔法使い「腕から出血してるわよ?」
僧侶「い、今、魔法で......」
勇者「いや、必要ありません」
僧侶「どうしてですか!?」
勇者「それは......」
魔法使い「それは?」
勇者「こうするからです」ムニュ
僧侶「へっ......!?」
魔法使い「なっ......?!」
勇者「素晴らしい弾力ですね」ムニュムニュ
僧侶「い......いやぁぁぁぁ!!!!」
魔法使い「な、なに堂々と胸を揉んでるのよぉ!!!」
勇者「でも、傷は癒えました」
魔法使い「ちょっと......!?」
勇者「思ったとおり、貴女の体に触れると治癒の効果が得られるのですね。いや、なるほど」
僧侶「うぅぅ......」
魔法使い「いい加減にしなさいよ!!あんたぁ!!」
勇者「魔力が垂れ流し状態なら、こうやって活用したほうがいいはず」
魔法使い「そりゃ......そうだけど......」
勇者「うん。仕方ありませんね」
僧侶「ぐすっ......」
魔法使い「でも、胸じゃなくてもいいでしょうが!!手を繋ぐとかでも!!」
勇者「それは盲点でした」
魔法使い「野郎......」
僧侶「......」
勇者「すいません。僕の思慮が足りないばかりに」
僧侶「い、いえ......わ、私もびっくりしてしまって......」
勇者「これからは手を繋ぎます」
僧侶「そ、そうしてください......」
勇者「よし。それではもう少し先に進んで休憩にしましょうか」
僧侶「は、はい」
魔法使い「わざとでしょ......?」
勇者「いや、僕の浅はかさが露呈してしまっただけです。本当に面目ありません」
―――川辺
勇者「ここなら安全そうですね。休憩にしましょう」
僧侶「はぁ......疲れた」
魔法使い「日没までには抜けられそうね」
勇者「抜ければすぐに城下町が見えるはずです。がんばりましょう」
僧侶「はいっ」
勇者「あの」
魔法使い「なに?」
勇者「パンを焼いてもらえますか?」
魔法使い「はいはい。―――よっと」ボッ
勇者「......」
僧侶「ここの川、すごく綺麗ですよ!」
勇者「魚でも捕りましょうか」
僧侶「できるんですか?!」
勇者「ふっ。僕に不可能はありません」
僧侶「すごい!すごい!大量です!」
勇者「はっはっはっは」
魔法使い「いや......そんなに食べられないでしょうが」
勇者「そうですね。キャッチアンドリリース」
魔法使い「火を起こすわ」
僧侶「あ、私も手伝います」
魔法使い「うん」
僧侶「できました」
魔法使い「ありがとう。ほい」ジジジジッ
勇者「なるほど。それぐらいの炎なら手のひらからでも出せるわけですね」
魔法使い「距離も近いからね。5メートル以上だと枯葉すら燃やせない。若干温かくなるぐらいね」
勇者「そうですか」
僧侶「さあ、いっぱい食べて魔力を回復させないと」
魔法使い「大変ね」
勇者「......」
―――森
勇者「段差になっているので足下に注意してください」
僧侶「は、はい」
勇者「よし」
魔法使い「......」
ガサガサガサ......
勇者「ん?」
僧侶「え......ま、まさか......」
魔物「オォォォォォォ!!!!!!」
勇者「今度のはでかいな」
僧侶「ひぃぃ!?」
魔法使い「剣を構えて!!周りにも魔物がいるわ!!」
僧侶「そ、そんな?!」
勇者「森の主といったところか」
魔物「オォォォォ......!!」
勇者「いいだろう!!掛かってくるがいい!!」
魔物「オォォォォ!!!!」バキィ
勇者「がはぁ?!」
魔法使い「馬鹿!!」
僧侶「勇者様!!」
勇者「くっ......なんてパワーだ......」
魔物「オォォォ」
勇者「でぁ!!!」ザンッ
魔物「オォォォ!!!!」ブゥン
ドゴォ!!
勇者「ずっ!?」
僧侶「あぁ?!」
魔法使い「強い......」
魔物「オォォォ!!!!」
勇者「ちっ......」
僧侶「勇者様......!!」
勇者「こうなったら......」
魔法使い「どうするの?!」
勇者「耳を貸してください」
魔法使い「え?」
勇者「―――できますよね?」
魔法使い「いや......やったことないけど......」
勇者「お願いします」
魔法使い「でも......」
勇者「貴女ならできる」
魔法使い「......わかったわ」タタタッ
僧侶「わ、私は何をしたら......」オロオロ
勇者「そうですね。結構、至る所に傷を負ってしまったので、全身を癒してくれますか?」
僧侶「えっと......ど、どうやって......?」
勇者「無論、全身を癒すためには全身を使って頂かないと」
僧侶「そ、それって......抱きつくってことですか!?」
勇者「さあ!!早く!!生死を分ける瞬間なのですから!!」
僧侶「そ、そうですね......ここで躊躇していては......!!」
僧侶「勇者様!!今、癒します!!」ムギュゥ
勇者「よっしゃぁ!!!」
僧侶「も、もういいですか?」
勇者「もっと!!もっと強く!!」
僧侶「は、はい!!」ギュゥゥゥ
勇者「ぬほほぉ」
魔物「オォォォォォ!!!!!!」
僧侶「きゃぁ!?勇者様ぁ!!!」
勇者「まだまだぁ!!」
僧侶「えぇ!?」
メキメキメキ......
僧侶「え?何の音......?」
魔物「オォォォ!!!!」
メキメキメキ......!!
魔法使い「よけて!!!」
勇者「とう!!」バッ
僧侶「きゃぁ?!」
魔物「......!?」
メキメキメキ......バキィ!!
魔法使い「喰らいなさい。大木ハンマァ」
ゴォォォン!!
魔物「オォ......ォォォ......ォ......」ズゥゥゥン
僧侶「魔物が大木の下敷きに......」
勇者「ふー。流石です。―――周りを取り囲んでいた魔物も主を失って逃げ出したみたいですね。よかった」
魔法使い「なんで私が木に抱きつかなきゃいけないのよ......」
勇者「火力を自由にコントロールできる貴女なら火事にならないように木を折ることだって出来る」
勇者「パンを上手く焼けるぐらい精密な火加減を可能にできる貴女なら、そう難しいことでもなかったでしょう?」
魔法使い「......まぁね」
勇者「さて、進みましょう。もうすぐ森を抜けられるはずです」
僧侶「は、はい!!」
勇者「魔力は?」
僧侶「余力はあります!魔法は一切使ってませんし」
勇者「なるほど。垂れ流しているだけだから、消費量はいつもと変わらないわけですね」
僧侶「は、はい......すごく燃費はダメダメですけど」
勇者「いやいや、便利ですよ」
僧侶「そ、そうですか......?」
勇者「ええ。だって一定量の魔力で全快になるんですから」
僧侶「そ、そういってくださると......嬉しいです......」モジモジ
勇者「ハッハッハッハ」
魔法使い「ちょっと......私もがんばったんだけど」
勇者「大木ハンマー。また、使いましょうね」
魔法使い「い、いやよ!!」
―――城下町
勇者「はぁ......もう夜になってしまいましたね」
魔法使い「森から結構な距離があったわよ......嘘つき」
勇者「地図って難しいですね。ほらほら」
僧侶「本当ですね。地図上ではたった数センチなのに......」
魔法使い「馬鹿......。もういいわ。早く休みましょう」
勇者「では、僕は魔物から得た戦利品を売って来ます」
僧侶「わかりました」
魔法使い「じゃあ、私たちは宿をとっておくわね」
勇者「お願いします」
僧侶「勇者様、後ほど」
勇者「はっ」
魔法使い「......」
僧侶「どうしたんですか?」
魔法使い「別に。いきましょう」
―――宿屋
店主「では、二部屋ということで」
僧侶「はい。ありがとうございます」
魔法使い「早く横になりたいわね」
僧侶「そうですね」
店主「ちょっといいですか」
僧侶「は、はい?」
店主「こちらを持っていってください」
魔法使い「なぁに、これ?」
店主「今、冒険者の方たちにお配りしているんです。ここより北へは行かないようにと」
僧侶「北......ですか?」
店主「魔王の軍勢が侵攻してきているようで」
魔法使い「もうこんなところまで......。止められないの?」
店主「ええ。各国から選出された勇者様も悉く命を落としている現状では......。この国の兵力も長年の戦で疲弊してますし」
僧侶「そうですか......」
―――寝室
魔法使い「どの国の勇者もダメだったのね」
僧侶「そういえば最近、勇者様のお話って耳にしませんでしたね」
魔法使い「このままじゃ世界は......」
僧侶「......」
ガチャ
勇者「ただいま戻りました」
魔法使い「ノックぐらいしないさいよ!!」
勇者「どうして着替え中じゃないんですか!!!」
魔法使い「なんで怒ってるわけぇ!?」
勇者「ガード固いな!!全く!!!」
魔法使い「アンタ、本当に勇者なの!?」
僧侶「まぁ、まぁ」
魔法使い「あんたも怒りなさいよ!!馬鹿っ!!」
勇者「これからは常に着替え中でいてくださいよ、ホントに」
魔法使い「意味わかんないこといってんじゃないわよ!!」
勇者「それはさておき、これを」スッ
魔法使い「え?私に?」
勇者「はい。路銀も増えたので新しい武器を購入してきました」
魔法使い「なによ......」ガサゴソ
僧侶「あの......勇者様?私には......?」
勇者「申し訳ありません。一つしか買えなくて」
僧侶「あ、い、いえ!!ごめんなさい!!」
魔法使い「......鞭?」
勇者「はい。似合いますよ」
魔法使い「そう?」パシンッ
勇者「最高です」
魔法使い「でも、どうして鞭なの?」
勇者「なんか......そそるじゃないですか」
魔法使い「目がいやらしいわよ?」
魔法使い「......まあ、いいけど」パシンッ
勇者「お二人は何を?」
僧侶「あ、実はこれを」スッ
勇者「これは......なるほど......」
僧侶「どうしますか?北は危ないとのことですし、ここは......」
勇者「北に行きましょう」
魔法使い「え!?」
僧侶「勇者様!?でも、危ないって......!!」
勇者「危なくなれば逃げればいいだけです」
魔法使い「アンタねえ!!正気なの!?」
勇者「どうしてですか?僕は勇者。いつかは魔王と戦う身。ならば、魔王の軍勢とも戦うべきかと」
魔法使い「私たちを連れて?」
勇者「勿論です」
僧侶「勇者様......」
魔法使い「無理よ......。死ぬわ。絶対」
勇者「死にませんよ。僕がいるのですから」
僧侶「でも......!!」
勇者「なんですか?」
僧侶「森のときみたいに、上手くいくとは限りません」
魔法使い「そうよ。いい?私のこの子も、広範囲に魔法は使えない。集団で襲われたら終わりよ?」
勇者「ええ。そうでしょうね」
魔法使い「なら、魔王の軍勢に立ち向かうなんて無謀だわ。勇気と無茶を履き違えないで」
勇者「物量で勝てるのは恐らく、大国の軍隊だけですよ?」
僧侶「え......」
勇者「魔王の軍勢と張り合うだけの兵力なんてどこにもありませんよ」
魔法使い「そうよ。だから、戦うなんて馬鹿でしょ」
勇者「ええ。でも、僕は馬鹿ですから」
僧侶「ゆ、勇者さま?!」
魔法使い「なっ......!?」
勇者「魔王を倒すのであれば、その軍勢ぐらい圧倒できなくてどうするんだ!!って考えに至るんですよね。馬鹿だから」
魔法使い「ちょっと......死ぬ気なの?」
僧侶「勇者様、危険すぎます!!」
勇者「僕は死ぬ気なんて更々ありません。僕の夢は魔王を討伐し、国から莫大な報奨金を得て、豪遊しながら老衰死することなんで!!」
魔法使い「だから!!その下らない煩悩だらけの夢が夢のままで終わるって言ってるでしょ?!」
勇者「綺麗なお嫁さんをもらって、尚且つ、10人の側室を得るまでは死にません!!」
魔法使い「軍勢に突っ込んでいってどうやって生き延びるっていうのよ!!馬鹿っ!!アホっ!!」
僧侶「そ、それは言いすぎですよ......」オロオロ
勇者「アホ?!アホとはなんだ!!!失礼な!!!」
魔法使い「怒るポイントがよくわかんないのよ!!!」
勇者「とにかく。明日は北に向かいます!!」
魔法使い「私は嫌!!断固拒否!!」
勇者「分かりました」
魔法使い「え......?」
勇者「では、ここで僕の帰りを待っていてくれますか?」
僧侶「な、何を言っているんですか......?」
勇者「だってほら、未来の側室候補が死んでしまっては本末転倒ですし」
魔法使い「だれが側室よ!!だれが!!」
勇者「貴女たちに決まってるだろうが!!」
僧侶「側室......」
魔法使い「せめて嫁候補っていいなさいよ!!」
勇者「まだお互いを知っていないのに、嫁ですが?え?いいんですか?やったー」
魔法使い「一人で盛り上がらないで!!!誰がアンタの嫁になるか!!」
勇者「まあ、ともかく。お二人ともここに居てください。僕が軍勢をなぎ倒して、歩きやすくしてきますから」
僧侶「そんな......!!勇者様、駄目です!!やめてください!!」
勇者「僕は勇者ですから。大丈夫です」
魔法使い「その自信はどこから来るわけ......」
勇者「知りたいのであれば、今夜僕と一緒にベッドで......寝ます?」
魔法使い「去れ!!」
勇者「おっと。失言でしたね。今夜は諦めましょう。それでは、おやすみなさい」
僧侶「勇者様!!まだお話は―――!!」
魔法使い「何よ......あいつ......訳わかんないわ......」
僧侶「本気なのでしょうか......」
魔法使い「本気だったら......どうするの?」
僧侶「......」
魔法使い「......私は同行しないから」
僧侶「え?」
魔法使い「もし本気で行くなら......私は足手まといでしかない......」
僧侶「そうですね......私も......すぐ魔力が空っぽになっちゃいますし......」
魔法使い「私だって、魔法の効果範囲が零距離だし......」
僧侶「私たち......」
魔法使い「......ホント、ダメね」
僧侶「はぁ......」
魔法使い「......もう寝ましょう?」
僧侶「はい」
魔法使い「アイツもきっと......冗談だろうし......」
―――深夜
僧侶「ん......」ムクッ
魔法使い「すぅ......すぅ......」
僧侶(お手洗い......)モジモジ
僧侶「......」ガチャ
僧侶(確か......この廊下の突き当たりでしたね......)スタスタ
勇者「......」
僧侶「あ......」
勇者「ん?」
僧侶「勇者様......どうしたのですか?」
勇者「いや。催してしまって」
僧侶「そうですか」
勇者「貴女も?」
僧侶「ど、どうしてそんなこときくんですかぁ!!!」
勇者「おっとっと。深夜だからと許されるものではありませんでしたか。反省します」
僧侶「何をされていたんですか?」
勇者「僕の部屋からだと月が見えなくて。今日は綺麗な満月ですよ」
僧侶「そうですね」
勇者「実に美しい」
僧侶「......」
勇者「なにか?」
僧侶「もしかして......今から出発を?」
勇者「......多勢と戦う場合、奇襲は常套的な戦術です」
僧侶「勇者様......」
勇者「では。行ってきます」
僧侶「......」
勇者「......」スタスタ
僧侶「―――待ってください!!」
勇者「なんですか?まさか......粗相をご披露してくれると?なんてこった......」
僧侶「ち、ちがいます!!―――行かないでください!!って言おうとしたんです!!」
勇者「何故ですか?」
僧侶「も、もし......勇者様が帰ってこなかったら......私たちはどうしたらいいんですか?!」
勇者「それはありえませんが......。まあ、そうなったら諦めて元の傭兵所に戻って頂くしか......」
僧侶「む、無責任ですっ!!」
勇者「え?」
僧侶「余り物の私たちを拾っておいて、勝手なこと言わないでくださいっ!!」
勇者「......」
僧侶「さ、最後まで面倒見てください......。それに......私たちの夢も叶えてくれるって言ったじゃないですか......」
勇者「あぁ......そうでしたね」
僧侶「それとも......私たちの夢を......約束を反故にするのですか?」
勇者「何を馬鹿な。守りますよ。勿論」
僧侶「なら......行かないでください......」
勇者「僕は死にません」
僧侶「まだ、出会って日が浅いのに信じられません!!勇者様のお言葉には根拠もありません!!」
勇者「え?勇者ってことが証明にならないんですか?びっくり」
僧侶「各国の勇者様だって何名も命を落としていますから」
勇者「なるほど。他の勇者が僕の信頼度を落としたわけですね。ゆ、ゆるせん!!」
僧侶「ですから......」
勇者「......でも、行かないと」
僧侶「どうしてですか!!」
勇者「だって、このまま魔王の軍勢を放っておいたら、僕の帰ってくるところが無くなりますからね」
僧侶「あ......」
勇者「故郷で超絶美人のお嫁さんと10人の側近をはべらせて老衰死するという目的が達成できないので」
僧侶「......」
勇者「だから、止めないと」
僧侶「......分かりました」
勇者「ご理解いただけましたか」
僧侶「わ、私も行きます!!」
勇者「え?」
僧侶「あ、足手まといかもしれませんが......それでも勇者様を癒すことは......できますから......」
勇者「いや、こう体を反らしてくれるだけで目は癒されますけどねぇ」
僧侶「勇者様!!私は真剣なんです!!」
勇者「付いて来てくれるのは嬉しいですが......いいのですか?」
僧侶「わ、私は勇者様のお供ですから!!」
勇者「ふっ......。40秒で支度しなっ!!」
僧侶「え!?あ、いや!!あの!!お手洗いにも行きたいので......!!」モジモジ
勇者「じゃあ......400秒まで待ちましょう!!」
僧侶「あ、ありがとうございます!」タタタッ
勇者「......」
僧侶「あの!!勝手に出発しないでくださいね!!」
勇者「しませんよ。ここで貴女が奏でる水の音に耳を傾けてますから」
僧侶「や、やめてください!!!」
勇者「さあ、あと375秒ですよ!!」
僧侶「あああ!!!」タタタッ
勇者「......」
―――寝室
僧侶「起きてください!!」ユサユサ
魔法使い「ん......?なに?まだ夜じゃないの」
僧侶「あと250秒しかありません!!」
魔法使い「え?なんの話?」
僧侶「今から魔王の軍勢と戦いに行くんです!!」
魔法使い「はぁ!?なんで?!どうしてよ!?」
僧侶「ダメ......ですか?」
魔法使い「いや......なんでそうなったか説明してくれないと......」
僧侶「勇者様は本気でした。故郷を守るために......戦おうとしているんです」
魔法使い「故郷を......?」
僧侶「はい」
魔法使い「......私でも役に立てると思う?」
僧侶「勇者様は出来れば私たちにも力を貸して欲しいって言っています」
魔法使い「そう......そうなの......」
―――宿屋 入り口
魔法使い「......おはよ」
僧侶「お待たせしました」
勇者「ありがとうございます」
魔法使い「......ちゃんと守ってくれるの?」
勇者「もちろん。傷一つつけないようにしますよ。それが勇者の役目です」
魔法使い「ふん......。早死にするわね」
勇者「いえ。90歳までは生きます。魂だけでも現世に噛り付く勢いで」
魔法使い「そこまで行ったら潔くくたばりなさいよ!!」
勇者「生きるっ!!!」
魔法使い「もういいわ......。出発前から疲れる......」
僧侶「そ、それより......勇者様?奇襲をかけるといっても......夜ですし、魔物のほうが有利じゃないでしょうか?」
勇者「夜行性の魔物も配備されているみたいですが、地図を見る限り、山の裏側に回り込めば十分に奇襲はかけることはできます」
魔法使い(こいつ......いつからそんな下調べを......?)
勇者「では!出発!!」
―――北の山
魔物「......」キョロキョロ
魔物「......」ウロウロ
魔法使い「......すごい数......」
僧侶「こわい......」ブルブル
勇者「この軍勢を束ねているのは魔王の側近の一人であるトロルみたいですね」
魔法使い「そうなの?」
勇者「はい」
魔法使い「どうしてそのことを知ってるわけ?」
勇者「人の話を繋げて得た情報です。まあ、100%の保障はないですけど」
魔法使い「......」
僧侶「でも、魔王の側近となると......森の主よりも強いってことですよね?」
勇者「でしょうね。まあ、でもこっちは三人もいますし、作戦通りにいけば余裕でしょう」
魔法使い「その自信はどこから......」
勇者「では、作戦開始で」
―――山道
魔物「グルル......」ピクッ
魔物「グルル......?」
勇者「ふっ!!」ザンッ
魔物「ガッ!?」
勇者「よし、行きましょう」
僧侶「は、はい!!」
魔法使い「はぁ......はぁ......」
勇者「少し休憩しますか?」
魔法使い「大丈夫。先に進みましょう......」
勇者「裏側の道なので荒れていますし、無理をすることは......」
僧侶「でも、時間をかければ魔物たちが異変に気づいてしまいますし」
勇者「そうですね。行きましょう」
僧侶(できるだけ魔力を残しておかないと......!)
魔法使い(本当にこんなことで勝てるの......?)
―――山頂
勇者「―――ここですね」
トロル「待っていたぜ?」
勇者「!?」
魔法使い「え......!?」
僧侶「そ、そんな......」
魔物「グルルル......!!」
魔物「ギギギ......!!!」
勇者「待ち伏せされていたとは」
トロル「馬鹿が!!人間の臭いは熟睡してても飛び起きるぐらいにおうんだよぉ!!」
勇者「なるほど」
トロル「やれぇ!!」
魔物「「ガァァァァ!!!」」ダダダッ
勇者「退却!!!」ダダダッ
トロル「追え!!逃がすな!!!」
トロル「グフフフ......!!たった三匹で勝てるものか......!!!」
トロル「さぁて......もう死んでるころかな......。様子でも見てくるか」ズンズン
トロル「......おい!!人間はどうなったぁ!!!」
トロル「......」
トロル「おーい!!!誰かこたえろぉ!!!」
「―――まさか一斉に嗾けてくれるとは、ありがとうございます」
トロル「ん!?」
勇者「......」
トロル「貴様......!?」
勇者「とりあえず、増援が来る前に終わらせるか」
トロル「俺様の部下は......!?」
勇者「埋めてやった」
トロル「はぁ!?」
勇者「さあ、三対一だ!!覚悟しろよ!!」
トロル「何をした!!貴様ぁ!!!」
―――山道
僧侶「さあ、早く勇者様を追いましょう!!」
魔法使い「ええ!」
僧侶「でも、まさかこんなにも上手く行くなんて」
魔法使い「落とし穴なんて古典的な罠だったのに......」
勇者『いいですか?今から落とし穴を作ります』
魔法使い『落とし穴?今から?!』
僧侶『そんなことできませんよ!!道具もないですし!!』
勇者『道具は鞭だけで十分です』
魔法使い『これ?』
勇者『今から貴女に巨大な穴を掘っていただきます。魔物を一網打尽にするために』
魔法使い『ど、どうやって?!』
勇者『全身ファイヤーで地面を溶かせてください』
魔法使い『馬鹿か!?そんなことできるわけ......!!!』
勇者『出来なければ他の方法を考えますけど、土を融解させるぐらい訳ないでしょう?』
魔法使い『できなくても文句言わないでよ......』
僧侶『が、がんばってください!!』
魔法使い『うおぉぉ......!!!』ジジジジ
勇者『おぉ......すごいすごい。溶けてる溶けてる』
魔法使い『んぐぐ......!!!』ジジジジ
僧侶『人間マグマ......』
魔法使い『で、これどうやって外に出るわけ!?』
勇者『鞭を使います。ひっぱり上げますから』
魔法使い『護身用じゃなかったのね......』
勇者『兼用ですよ』
魔法使い『あー!!もう!!魔力がぁ!!!たりないわよぉ!!!!』ジジジジッ
勇者『チョコ要ります?』
魔法使い「―――魔力が枯渇したわ......全く......」
僧侶「私の魔力も時間的に余裕はありませんし......急がないと......」
魔法使い「アイツ......私がついてこなかったらどうするつもりだったのかしら......」
―――山頂付近
トロル「おぉぉぉ!!!」ガキィン
勇者「ずっ......!?」
トロル「はんっ!!部下を排除したところで人間一匹に後れを取るわけないけどなぁ!!!」
勇者「ふっ!!」ザンッ
トロル「きくかぁ!!」ドゴォ
勇者「がっ!?」
僧侶「―――勇者様!!」
勇者「あ。首尾は?」
魔法使い「大丈夫。すぐにはあがってこれないから」
僧侶「壁が恐ろしいほど湾曲するようしてますからね......」
勇者「よし......。さあ、トロル。今のうちに降伏するんだ」
トロル「誰がするかぁ!!」
勇者「回復を!!」
僧侶「は、はい!!」ギュゥゥ
勇者「ぬほほぉ」
魔法使い「なんで抱きつくわけ!?」
僧侶「え?」
トロル「余裕だなぁ!!きさまらぁ!!!」
僧侶「きゃぁ!!!」
ギィィン!!!
トロル「ぐぅ!?」
勇者「らぁ!!!」ザンッ
トロル「ぬぅ?!」
魔法使い「私だって......!!」バッ
トロル「なに!?」
魔法使い「はぁぁぁ!!」ゴォォォ
トロル(な......!?発動前からこの熱気......!?なんて魔力だ!!)
魔法使い「でぁぁぁ!!!」
トロル「しまっ―――」
トロル「......あれ?」
魔法使い「......」
勇者「隙ありぃ!!!」
トロル「魔法はどうなったんだぁ!?」
勇者「彼女は火の玉一つ飛ばせないんだよ!!!」
トロル「えー!?」
勇者「今の熱気が全力の火炎放射だ、バカ野郎!!」
トロル「そんなポンコツ術士がいるのか!?」
勇者「僕にとっては有能な魔法使いだ!!」
魔法使い「......!!」
トロル「小癪ぅ!!!」
勇者「はぁぁぁぁ!!!!」
ザンッ!!!
トロル「くそ......こ、こんなやつらに......ぐぁ......ぁ......」
勇者「ふぅー......よし。作戦完了」
僧侶「す、すごい!!勝ちました!!勝ちましたよぉ!!!」
魔法使い「え......ええ。そうね......」
勇者「さあ、早く退散しましょう。雑魚が群がってきては流石に困るので」
僧侶「あ、そ、そうですね!!」
魔法使い「でも、いいの?軍勢はそのままってことになるけど」
勇者「指揮系統が乱れた軍団など小国の兵力でも十分に勝てます」
僧侶「じゃあ、町に帰って王様に報告をするのですね?」
勇者「はい。三人でできるのはこれが限界ですから」
魔法使い「......」
勇者「なにか?」
魔法使い「いえ。そういうことなら早く行きましょう」
勇者「はっ」
僧侶「勇者様、お体は大丈夫ですか?」
勇者「そうですね。若干、痛いので手を握ってください」ギュッ
僧侶「あ......そ、そんな急に握ってこないでください......」
―――城下町 宿屋 入り口
僧侶「夜が明けましたね......」
魔法使い「疲れた......これは......だめ......ね......」
勇者「では、僕は王に謁見してきます」
僧侶「少し休まれてからでも」
勇者「このタイミングで軍に動いてもらわないと。新しい指揮官が到着したら苦労が水の泡ですから」
僧侶「そ、そうですか」
勇者「では」
僧侶「......」
魔法使い「さ、お言葉に甘えて私たちは休みましょう。流石にきつい......」
僧侶「そ、そうですね。私も魔力が完全になくなりましたし......」
魔法使い「まさかこの私に全力を出させる奴がいるなんて思わなかったわ......」
僧侶「あはは」
魔法使い「もうだめ......倒れる......」
僧侶「が、がんばってください......もうすぐですから......」
―――寝室
魔法使い「つかれたー!!」ドサッ
僧侶「はい......」
魔法使い「にしても......よく私に穴を掘らせる......正確には溶かしたわけだけど、あんな方法を思いついたわね」
僧侶「普通の魔法使いだと継続して高温の魔法を放ち続けるのは至難の業ですからね」
魔法使い「零距離で効果が切れる私のダメダメ体質を逆手に取ったのよね......アイツ......」
僧侶「旅立ってすぐ魔物に襲われたとき、魔物を抱きしめたじゃないですか」
魔法使い「まさか、あのときに思いついてたの......?」
僧侶「結構豪快に魔物を炎上させてましたからね。土を融解させるほどの温度を出せるかどうかは分かってなかったと思いますけど」
魔法使い「......」
僧侶「これでこの地域も平和になってくれるといいんですけど」
魔法使い「ホントね」
僧侶「......ところで、お腹すいてませんか?」
魔法使い「ペコペコ」
僧侶「勇者様が戻られたら、何か食べましょうね」
魔法使い「―――ふわぁぁ......遅いわね......」
僧侶「王様への謁見ですから時間はかかると思いますよ?」
魔法使い「そうはいっても。もうかれこれ三時間......」
トントン
僧侶「あ、勇者様!?」
魔法使い「ノックすること覚えたの?」
ガチャ
僧侶「え......」
兵士「勇者様のお連れのかたですね?」
僧侶「は、はい......」
魔法使い「なに?」
兵士「とても勇敢なお人です。我々は出来うる限りの恩を―――」
僧侶「あの......勇者様は?」
兵士「それが......王への謁見中に倒れてしまって......教会のほうに運ばれました」
魔法使い「え?!ど、どうして!?」
―――教会
僧侶「失礼します!!!」
神父「静かにお願いします」
僧侶「あ、す、すいません......」
魔法使い「あの......」
神父「今、眠ったところです」
勇者「......」
僧侶「えっと......容態は?」
神父「熱が出ただけです。しばらく安静にしていれば大丈夫でしょう」
僧侶「よかったぁ......」
魔法使い「風邪ですか?」
神父「心身の疲労からでしょうね......」
僧侶「疲労って......」
魔法使い(そういえば......こいつ、昨日から殆ど寝ずに動いてたんじゃ......)
勇者「......」
僧侶「勇者様......」
神父「では、私はこれで。何かあれば言って下さい」
僧侶「ありがとうございます。何から何まで」
神父「いえいえ。王から話を聞きました。貴方たちはこの国の英雄だと」
魔法使い「英雄って......」
神父「あの軍勢の首領を倒したのでしょう?紛れも無く英雄です」
僧侶「そ、そんなこと......」
神父「それでは」
魔法使い「英雄......」
僧侶「全部、勇者様ががんばったから......ですよね」
魔法使い「いつの間にか道具を買い揃えてたり、情報収集もしてたり......」
僧侶「わ、私たち何もしてませんね......」
魔法使い「そうね」
僧侶「わ、わたし!何か食べ物を用意します!!勇者様が起きた時のために!!買出しに行ってきます!!」
魔法使い「あ、うん。よろしくぅ」
魔法使い「......」
勇者「......」
魔法使い「......」ピトッ
魔法使い「酷い熱......」
魔法使い「ふっ......」パァァ
勇者「ん......?」
魔法使い「あ、気がついた?」
勇者「きもちいい......貴女の手......冷たい......」
魔法使い「氷の魔法よ」
勇者「......体温が低い人は......心が温かいらしいですね......」
魔法使い「いや、だからこれは魔法だから」
勇者「......」
魔法使い「寝たの?」
勇者「......」
魔法使い「......お疲れ様。今はゆっくり休んでて......」
―――魔王城
魔物「―――報告は以上です」
魔王「......なるほど。下がってよい」
ドラゴン「まさか、トロルがやられるとは......」
魔王「どうやらあの国には中々骨のあるやつがいるようだな」
ドラゴン「どうされますか?私が攻め落としに......」
魔王「いや。想像以上の敵かもしれん......慎重になったほうがいいだろう」
ドラゴン「そうですか」
魔王「そやつの情報を集めることが肝心だ。我の脅威となるやもしれん」
ドラゴン「人間がですか?まさか......」
魔王「油断はできん」
ドラゴン「慎重になりすぎるのは如何なものかと」
魔王「世界を手に入れるためだ。小さな石でも排斥しておくことに越した事はない」
魔王「トロルを打ち倒した者を探せ」
ドラゴン「御意」
―――教会
魔法使い「はぁ......ぁ......」
勇者「......」
魔法使い「もう......ちょっと......だけ......」パァァ
勇者「......」
魔法使い「ふっ......」
勇者「......」スリスリ
魔法使い「ひゃぁ!?」
勇者「......」
魔法使い「......」
勇者「......」スリスリ
魔法使い「どこ触ってるのよ......」
勇者「内腿は冷たくないんですね」
魔法使い「凍れ!!!」ゴォォ
勇者「ぎゃぁ!?」
勇者「ぶぁっくしょん!!!」
僧侶「勇者様、だ、大丈夫ですか?」オロオロ
勇者「さむい......」ブルブル
僧侶「リゾットを作りました。どーぞ」
勇者「あああ......指先が......震えて......もてません......」カタカタカタ
勇者「も、申し訳ありません......た、たべさせてください......」ブルブル
僧侶「わ、わかりました!!―――どうぞ、あーん......」
勇者「うぅ......ふーふー......してください......」
僧侶「は、はい!―――ふー、ふー。はい、あーん」
勇者「テルアイシって繰り返し言いながら食べさせてください」
僧侶「てるあいし?」
勇者「お願いします。それでこの病も和らぐのです」
僧侶「えっと......テルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル......」
勇者「ぬほほぉ」
魔法使い「馬鹿だ......」
僧侶「そもそも貴女が悪いんじゃないですか!」
勇者「もっと言っておあげ」
魔法使い「セクハラしたのはどっちよ!!折角、感謝の気持ちを込めて魔力を振り絞ったっていうのにぃ!!」
僧侶「やめてください、勇者様は病人なのですよ?!」
勇者「うんうん」
魔法使い「ぐっ......!!」
僧侶「こういうことは今後、無いようにお願いしますね」
魔法使い「私が悪いの......」
勇者「そうだ。町の様子はどうでした?」
僧侶「軍が動き出して残党狩りへ向かったようです」
勇者「そうですか......。これで一安心ですね」
僧侶「全て勇者様のおかげです!」
勇者「いえいえ。僕の力なんて微々たるものですよ」
僧侶「またまた、ご謙遜を」
魔法使い「なにか狙いでもあるんじゃないかしら?」
僧侶「狙いなんて......ないですよね?」
勇者「ここの姫様......まだ13歳なのですけど、中々別嬪なんですよね」
僧侶「え?」
勇者「ふふ......一国の姫君を側室にできるとか......役得ですよ。ホント」
僧侶「......」
魔法使い「ほらね」
僧侶「あ、あの!!勇者様!!」
勇者「はい」
僧侶「それは自分からくださいって言ったのですか!?」
勇者「いえいえ。王様のほうから「娘を是非」って」
魔法使い「ここの王様は見る目がないのね」
僧侶「それならセーフですね」
勇者「はい、もう純白です」
魔法使い「どの口がいうのよ......」
勇者「流石の僕でも手を出してはいけないラインは把握しているつもりになってます」
僧侶「はい、勇者様。あーん」
勇者「あーん......」
魔法使い「それより、これからどうするの?」
勇者「そうですね。僕の体調が万全になるまで少し待っていただけますか?」
僧侶「そ、それはもちろんです!!」
勇者「面目ありません」
僧侶「いえ、そんな......」
魔法使い「まあ、アンタがいないと......こっちも動けないわよね......」
勇者「明後日にはきちんと旅立てるようにしますので」
僧侶「あまりご無理は......」
勇者「いえいえ。はやく魔王を倒して、悠々自適な隠居生活をしたいので」
僧侶「そうですか」
勇者「そうなんですよ」スリスリ
僧侶「あの......足をそんなに触らないでください......」
魔法使い「はぁ......かっこよく見えたのは錯覚だったわね......」
僧侶「では、勇者様。ゆっくり休んでくださいね」
勇者「え?」
魔法使い「私たちは宿に戻るわ」
勇者「添い寝は!?ねえ?!」
僧侶「えぇ......?」
魔法使い「す、するわけないでしょう!!何言ってるのよ!!馬鹿っ!!」
勇者「そんな......こんなにがんばった僕に......ご褒美もないなんて......うぅ......」
僧侶「あ、あの......わ、私でよけれ―――」
魔法使い「ダメよ。こいつ、ただ同情を引こうとしてるだけなんだから」
勇者「同情!?僕が!?何をいっているんですかねぇ!?」
魔法使い「帰るわよ」
僧侶「あ......あの......ゆ、勇者様、ごめんなさい......」
勇者「外道がぁ!!ガード固すぎなんだよぉ!!」
魔法使い「散々痴漢を働いておいてなにいってんのよ!!」
僧侶「あ、あの......その辺で......」
―――宿屋
魔法使い「全く......あいつは......。人の気も知らないで......」
僧侶「添い寝と言っても、きっと傍に居てほしかっただけじゃないですか?」
魔法使い「そんなわけないでしょ。襲う気満々だったじゃない」
僧侶「そうですか?きちんと嫌だといえば......」
魔法使い「そういう問題じゃないの」
僧侶「勇者様はああいう態度を取っていますが、すごくお優しい方だと思います」
魔法使い「ふん......」
僧侶「あの」
魔法使い「なに?」
僧侶「明日、私たちで色々情報を集めませんか?」
魔法使い「え?」
僧侶「今度は私たちが勇者様のお役に立たないといけないって思うんです」
魔法使い「......そうね。なら、朝から動くわよ」
僧侶「はいっ」
―――翌朝 広場
僧侶「さあ、情報収集をしましょう」
魔法使い「それはいいけど......なんの情報を集める?」
僧侶「え?―――色々です!」
魔法使い「だから、色々っていっても......」
僧侶「魔王討伐に役立つ情報とか」
魔法使い「アバウトね」
僧侶「とにかく魔王に関することでいいじゃないですか」
魔法使い「まあ、それしかないわね」
僧侶「でも、どこに行けば......」
魔法使い「お城に行ってみない?」
僧侶「お城ですか?」
魔法使い「王様に魔王の軍勢の残党がどうなったのかも訊きたいし、何か今後の指針になるかもしれないわ」
僧侶「なるほど」
魔法使い「行きましょ」
―――城内 謁見の間
王「これはこれは勇者一行の!!」
魔法使い「突然の謁見にも関わらず、ありがとうございます」
僧侶「......ます」
王「気にする必要などない。そなたらは我が国の英雄だ」
魔法使い「勿体無いお言葉です」
姫「あの......」
僧侶「は、はい」
姫「勇者様のお体は?」
魔法使い「ご心配には及びません。もう大丈夫です」
姫「よかった......」
王「はっはっはっは。もう勇者殿の花嫁気取りか」
姫「お、お父様!!」
魔法使い「あの......本当に姫様を......?」
王「ん?話を聞いたのか?......そう。何を隠そう、我が娘を勇者殿の嫁にしようと決めたのだ」
僧侶「......」
魔法使い「......」
姫「お父様!!まだ私はけ、結婚など......」
王「何をいうか。あと3年もすればお前も身を固めなければならん。勇者殿では不服か?」
姫「そんなことはありませんが。勇者さまの御意思も尊重せねば......」
王「勇者殿はノリノリだったぞ?」
姫「うぅ......」
魔法使い「あの......」
王「ああ、すまない。して、話とは?」
僧侶「あの......魔王の軍勢はどうなりましたか?」
王「おお。そのことか。うむ、残っていた魔物はそれほど脅威ではなかった。軍が到着したときには大半が逃げ出していたようだ」
魔法使い「そうですか」
王「まあ、あの首領をそなたらが討ってくれたこと。それが一番大きいがな」
僧侶「何か特別なことはありませんでしたか?魔物たちが何かを言い残したとか、どこへ向かうとか......」
王「いや。特段、報告するようなことはなにもない。それに勇者殿にも全てを話したしな」
魔法使い(不発か......)
姫「あの......」
魔法使い「はい?」
姫「勇者様にお伝え願いますか?」
魔法使い「何をでしょうか?」
姫「......またお会いしたい、と」
僧侶「......」
姫「ああ......恥ずかしい......」
王「はっはっはっは!!色気を出しおって!!」
魔法使い「あの、姫様。お言葉ですが、あの勇者は少し......いえ、かなり性格に問題があるのでやめたほうがいいですよ」
姫「え?」
僧侶「えぇ?!ど、どうしてそんなこと......!!」
魔法使い「とにかくスケベですし」
姫「殿方ならそれぐらい......」
魔法使い「度を越えているんです」
王「度を越えているスケベなのか?」
魔法使い「はい」
僧侶「な、なんてことを言うのですか!?」
魔法使い「でも、こういうことはちゃんと伝えておかないと」
王「むぅぅ......」
兵士「失礼いたします!」
王「どうした?」
兵士「勇者殿がお見えになりました」
姫「え?!」
魔法使い「アイツが......?」
僧侶「どうして......」
王「よし。通せ」
兵士「はっ!!」
王「合流する予定だったのか」
魔法使い「そういうわけでは......」
勇者「失礼いたします」
姫「勇者さま!!」
勇者「ご機嫌麗しゅう、姫様。今日も変わらず美しいですね」
姫「そ、そんなぁ」
勇者「これを」スッ
姫「え......」
勇者「姫様に似合う花束をご用意しました」
姫「勇者さま......」
勇者「受けとっていただけますか?」
姫「もちろんです......」
勇者「ふふふ」
魔法使い「ちょっと」
勇者「え?おお。お二人とも。どうしたのですか?」
僧侶「勇者様こそ、お体は?」
勇者「いやぁ。もう大丈夫です。今日は姫様に昨日渡せなかった花束を渡しておきたくて」
姫「すごく心配していました」
勇者「これは光栄の極みですね」
魔法使い「......」
僧侶「あ、あの、勇者様。どうしてここへ......?姫様にそれを渡したかっただけですか?」
勇者「はい」
魔法使い「言い切った......」
僧侶「......」
勇者「お二人こそどうしてここへ?」
魔法使い「行きましょう。もうここには用はないわ」
僧侶「え......でも......」
魔法使い「アンタも来る?」
勇者「折角のお誘いですが僕はもう少し姫様と談笑し、絆を深めたいと思います」
姫「そ、そんな......私なんかと......」
魔法使い「......勝手にしたらいいわ」
僧侶「あ、まってください!!―――勇者様、それでは後ほどっ」
姫「勇者さま、よかったのですか?」
勇者「彼女たちとはこれからも長い付き合いになりますからね。今は姫様との時間を大事にしたいのですよ。ふっふふー」
姫「もう......勇者さまったら」
王「いいな!!うむ!!流石は勇者殿」
勇者「姫様、では少しお話でもどうですか?」
姫「は、はい。私で宜しいのでしたら」
勇者「感謝いたします」
姫「それではお父様......」
王「ああ、ゆっくりしてくるといい」
姫「ありがとうございますっ」
勇者「王、今日は拝謁を許していただき、誠に感謝しています」
王「そなたの謁見ならばいつ如何なるときでも構わん」
勇者「ありがとうございます。これで姫様とはいつでも会えますね」
姫「い、いやですわ......そんな......」
勇者「では、まいりましょう」
―――城内 中庭
姫「勇者さま、明日には旅立たれるのですか?」
勇者「はっ。貴女の美しい肌とお尻には別れを告げねばなりません。残念です」
姫「そうですか......」
勇者「魔王の軍勢の残党は逃げたそうですし、勇者の身としては捨て置けませんからね」
姫「ええ。兵士長さんの話では、列を成して東の地へと移動していったらしいですよ」
勇者「東といえば......姫様、黄金の国はご存知ですか?」
姫「はい。家が黄金で出来ているとか、井戸から金が溢れてくるとか。すごい国なのでしょうね」
勇者「今度、ここへ戻ってくるときはその真意を確かめ、本当に黄金があるなら姫様に是非ともプレゼントいたしましょう」
姫「まぁ!本当ですか!!」
勇者「ふふふ、勇者は嘘が大嫌いです」
姫「ありがとうございます。ですが、魔王の軍勢を追うのですね。東の地は魔王の手に落ちて久しいと聞いています。どうかお気をつけて」
勇者「はい。帰りを待ってくれている貴女がいれば、死ぬに死ねませんし」
姫「勇者さまぁ......」
勇者「まだ時間がありますね。東の地について姫様が知っていること、話してもらえますか?」
―――酒場
店主「魔王のこと?」
僧侶「何か聞いたことありませんか?」
店主「そうだなぁ......」
魔法使い「なんでもいいのよ。こういう顔してるとか、すごい魔法を使うとか」
店主「そういえば、魔王の軍勢の首領はもう一匹いたって兵士の人に聞いたことがあるな」
僧侶「え?トロルだけじゃないというのですか?」
店主「ああ......なんでも空飛ぶトカゲとか......」
魔法使い「それって......」
僧侶「ド、ドラゴン......」
店主「伝説級の魔物だから、本当かどうかはしらねえ。その兵士も未確認情報だって言ってたしね」
魔法使い「もしドラゴンが相手なら......」
僧侶「お話通りの魔物だとしたら、人間じゃ太刀打ちできなくないですか?」
魔法使い「灼熱の炎を口から吐き、両翼を動かし竜巻を作る。最強の魔物ね」
僧侶「ま、まさか......そんなの......あり得ませんよね?」
店主「鋼の皮膚を持ってるって言い伝えもありますねえ」
僧侶「うわぁ......」
魔法使い「......まあ、敵にいるかどうかもわからないし、気にするだけ無駄ね」
僧侶「そ、それはそうですけどぉ」
魔法使い「それぐらいかしら?」
店主「そうですね」
僧侶「あ、ありがとうございました!」
店主「いえいえ。勇者様ご一行の役に立てたなら嬉しいよ」
魔法使い「まあ、あまり買い被らないほうがいいわよ?」
店主「え?」
魔法使い「この国の英雄はどうしようもない屑だから」
僧侶「そんな言い方は酷いですよ!!」
魔法使い「だって、一国の姫君を性の捌け口としてしか見てないじゃない!!」
僧侶「それはきっと誤解です!!」
魔法使い「10人の側近なんて話聞いたあとに誤解も何もないわよ!!」
僧侶「そ、それは......」
店主「10人の側近ってなんです?」
魔法使い「......こっちの話よ。それじゃあ、マスター、ありがとう」
僧侶「し、失礼します」
店主「え、ええ。またこの町に来ることがあれば是非とも寄っていってください」
魔法使い「必ず」
僧侶「それでは」
魔法使い「はぁ......あまり実のある情報とは言えなかったわね」
僧侶「童話の話をしただけのような気もしますね」
魔法使い「この町を出て、どこに向かえばいいのかもよくわからないし」
僧侶「ですね......」
魔法使い「アイツは姫様と仲良くやってるだろうし......。どういうことよ......全くもう......」
僧侶「き、きっと、王様に仲良くしてほしいって言われているのですよ」
魔法使い「どう見ても、アイツから手を出しているようにしか見えないけど......」
僧侶「勇者様にも考えがあるのです!きっと!恐らく!多分!」
―――宿屋
僧侶「夕食、どうされますか?」
魔法使い「そうね......」
勇者「ただいま戻りました」ガチャ
魔法使い「ふんっ!!」ブンッ
勇者「むっ?!―――パジャマパーティーの前哨戦として枕投げ大会ですか?」
魔法使い「違うわよ!!」
勇者「では......!?むむ......?おかしいですね、どこにもイエスの文字がないですが......?」
魔法使い「なんでアンタにイエスノー枕を投げつけないといけないのよ!?」
勇者「ハハッ。そうですよね。常時、イエスですよね。僕ってば頭悪いっ」
魔法使い「こいつぅ......!!!」
僧侶「あ、あの......きっとノックをせずに入室してくるからでは......?」
勇者「ノックをしては着替え中に乱入するという僕の長年の夢が遠のくではないですか」
魔法使い「アンタねえ!!魔王を倒すことより覗くのに気合入れないでよ!!」
勇者「覗きなんてするかぁ!!!失敬な!!僕はあくまでも偶然、着替え中に遭遇したいという願望が強いだけだぁ!!」
魔法使い「何が違うのよ!!」
勇者「覗きは故意!!遭遇は事故!!!全然違うだろうが!!」
魔法使い「狙ってやってるなら故意でしょ!?」
勇者「これは異な事を。現に僕は狙っても遭遇できてはいません。故意ならば必ず成功させるように仕向けるでしょう?」
魔法使い「あー!!もういいわよ!!」
勇者「え?生着替え見せてくれるんですか?眼福眼福」
魔法使い「ころしてやろうか......」
僧侶「あ、えと......勇者様、何か御用ですか?」
勇者「ああ。そうでした。明日の朝、出発しましょう」
魔法使い「どこに向かうの?」
勇者「東の地。具体的には黄金の国と呼ばれる場所へ」
僧侶「黄金の国ですか。でも、どうしてそこに?」
勇者「魔王の軍勢がその方角へ逃げたらしいので。何かあるのかもしれません」
勇者「あと、黄金を姫様にお渡ししたいので」
魔法使い「そっちが本当の目的なの?あきれたわね......」
僧侶「......」
勇者「何か?」
僧侶「いえ......」
魔法使い「一応、私たちも気になる情報を聞いたわ」
勇者「え?なんでしょうか?」
魔法使い「魔王の軍勢にはもう一匹首領がいたらしい。それも、ドラゴン」
勇者「ドラゴン......灼熱の息を吐き、鋼の皮膚を持ち、翼から風を起こすという、あの?」
僧侶「は、はい。未確認情報らしいですが」
勇者「なるほど......」
魔法使い「本当にいたら洒落にならないわね」
勇者「そうですか......ドラゴンが......」
僧侶「勇者様?どうかされましたか?」
勇者「いえ。では、これで失礼します」
僧侶「あ、夕食はどうされますか?」
勇者「僕は既に済ませてきましたので。おやすみなさい」
魔法使い「何よ、アイツ......」
僧侶「......」
魔法使い「ご飯、食べに行きましょう?」
僧侶「あの」
魔法使い「なに?」
僧侶「......勇者様はまた一人で色々調べているのではないでしょうか?」
魔法使い「姫様から聞いたんじゃないのかしら」
僧侶「王様、言ってましたよね?勇者様には全てを報告したって」
魔法使い「そうね」
僧侶「それっていつですか?」
魔法使い「え?」
僧侶「勇者様はずっと寝込んでいたのに......いつ、王様から話を聞いたんですか......?」
魔法使い「それは......」
僧侶「私、勇者様のところに行ってきます」
魔法使い「あ、ちょっと待って!私も行くわよ!!」
僧侶「勇者様?」トントン
勇者「はい?」
魔法使い「......なにしてたの?」
勇者「本を読んでいました」
僧侶「そ、そうですか。それってあの......」
勇者「エッチなやつです」
魔法使い「さいてー」
勇者「しかし、僕の身にもなってください。お二人のように美人が目の前にいるのに、何もできない虚しさを」
魔法使い「知らないわよ」
僧侶「あの、何か調べ物をされているなら......ご協力を......」
勇者「いえ。本当にムラムラしてただけですから」
魔法使い「......」
僧侶「えっと......あの......」
勇者「おっと、股間がいきり立っているようだ。どうする?戦う?」
魔法使い「へ、へんなものみせないでっ!!!」
魔法使い「ただの変態よ!!」
僧侶「お、落ち着いてください」
魔法使い「あんたも怒るときは怒った方がいいわよ?」
僧侶「ぜ、善処します」
魔法使い「ホントに......別になにもしてなかったじゃない」
僧侶「そ、そうみたいですね」
魔法使い「なんか馬鹿らしいわね。ひょっとしたら裏で努力してるかと思ってもいたのに」
僧侶「うーん......」
魔法使い「あんなセクハラされてもまだ信じたいの?」
僧侶「間が悪かっただけかもしれないと思って」
魔法使い「ポジティブね」
僧侶「わ、私は勇者様を信頼していますから」
魔法使い「はいはい。ごちそうさま」
僧侶「わ、私は純粋に勇者様のことを信じているだけですっ」
魔法使い「分かったわよ。それよりも......お腹すいたし、何か食べに行きましょうよ」
―――翌日 広場
僧侶「いい天気ですねー」
勇者「そうですね」
魔法使い「なんでアンタの視線は胸に向けられてるわけ?」
勇者「あ、そうだ。これをお渡ししておきます」
僧侶「え?私に......ですか?」
勇者「はい。貴女に是非」
僧侶「......これって......所謂、非常食......?」
勇者「貴女にとってはこの上ない武器のはずです」
僧侶「確かにそうですね」
魔法使い「普通は武具を渡すんじゃないの?」
勇者「ふふ、そういわれるだろうと思い......盾も買っておきました」
僧侶「結構大型ですね......。もてるでしょうか......?」
勇者「普段は背負っていれば大丈夫ですよ」
魔法使い(いつ買ったのかしら......)
―――フィールド
勇者「東の地、黄金の国まではかなりの道程ですね」
僧侶「徒歩だとどの程度かかりそうですか?」
勇者「7日もかからない、といったところですか」
魔法使い「相当遠いのね」
勇者「食料も十分に買いましたし、それに道中に村や町もあるので。問題はないかと」
僧侶「よかった」
勇者「しかし、どうしても野宿をしなければならないときもあるでしょう」
魔法使い「そうね」
勇者「魔物に気をつけながら一晩中、見張りをしなければならない」
僧侶「はい」
勇者「夜は寒い。寒さを凌ぐために寄り添う二人。触れ合う肩......交錯する視線......」
魔法使い「え......?」
勇者「そして二人は互いの息遣いを感じる距離まで近づき......惹かれるように唇を重ねる......ふふふ。ロマンスですね」
魔法使い「なるわけないでしょ!!馬鹿っ!!」
―――夜
勇者「では、お二人は眠ってください」
僧侶「でも......見張りは......」
勇者「僕に任せてくれてかまいません」
魔法使い「変なことする気?」
勇者「しません。まだ、信用されていないのですか。ショックです」
魔法使い「どこで信頼を得たと思ってるのよ」
勇者「冗談はさておき、途中魔物とも戦いましたし、お二人とも魔力が残っていないでしょう?」
僧侶「そ、れは......」
魔法使い「まぁね。アンタが色々、指示出すから」
勇者「なので、十分に休息を取ってください。明日の夕刻には小さな農村に着けますが、それまでに魔力不足で立ち往生はしたくないで」
魔法使い「じゃあ......」
僧侶「あ、ありがとうございます」
勇者「いえ。気にしないでください。お二人は僕より何倍も働いていますから」
魔法使い「そう......。じゃあ、お言葉に甘えるわ......おやすみ......」
勇者「......」
パチパチ......
勇者「そろそろ火を消すか......。魔物に場所を知らせるようなものだし」
魔法使い「......ねえ」
勇者「ん?どうかしましたか?あ、もしかして排泄行為を?」
魔法使い「違うわ。ちょっと眠れないの」
勇者「そうですか」
魔法使い「さっきの言葉......どういう意味?」
勇者「どういう意味もなにも......貴女が粗相をするのかなと思っただけですが」
魔法使い「馬鹿っ!違うわよ!!―――どうして私たちのほうが何倍も働いてると思うの?」
勇者「なんだ、そのことですか」
魔法使い「私たちなんて......」
勇者「勇者って戦闘技術は勿論、魔法の知識も有しているものなんですよね」
魔法使い「全てに秀でているからこその勇者でしょ?」
勇者「その通りです。―――もう気づいているでしょうけど、僕には魔法が使えないんです」
魔法使い「......」
勇者「簡単な切り傷も治癒できない。魚を焼くための火すら起こせない。天候を操り雷を呼ぶなんてもってのほか」
勇者「僕は出来損ないなんですよ」
魔法使い「待って。じゃあ、どうして勇者に選ばれたの......?」
勇者「わが国の勇者は半年前に命を落としました。それでも誰かを勇者として祭り上げ、魔王討伐に向かせなければならない」
勇者「国一番の実力者を生贄にしないと国民が納得しませんからね」
魔法使い「じゃあ、アンタが選ばれたのは......」
勇者「剣術が秀でていたからです」
魔法使い「そう......」
勇者「でも、ある種幸運ではあります」
魔法使い「どうして?死んで来いって言われたようなものでしょ?」
勇者「勇者に選ばれたから、貴女たちと出会えた。こんなに嬉しいことがあるでしょうか?」
魔法使い「なっ......。バ、バカじゃないの......」
勇者「前にも言いましたが、僕は馬鹿です。あ、ちなみに世界平和のためだなんて微塵も思ってません。全ては僕の野望のためです」
魔法使い「報奨金貰って、悠々自適に嫁と10人の側近と暮らすんでしょ?ホント、勇者としては出来損ないもいいとこだわ」
勇者「僕の悪口ばかりですね。許しませんよ?」
魔法使い「許さないならどうするの?」
勇者「僕の隣に座って、僕の肩に頭を預けて眠っていただきましょう。寝顔をさらせぇ」
魔法使い「お断りよ。ド変態」
勇者「僕のことが好きならはっきりそういえばいいのに」
魔法使い「話が飛躍しすぎでしょ?!」
勇者「でも、こういうシチュエーションの場合、恋焦がれる乙女が告白すると相場が決まっていますよ?」
魔法使い「どこの基準よ!勝手に押し付けないで」
勇者「そうですか。まだ側室の椅子は空っぽですから、いつでも声をかけてください。貴女なら第一側室としていつでも迎えましょう」
魔法使い「もういい」
勇者「はっ。まさか、嫁じゃなきゃいやとか、私だけを見てーってタイプですか?」
勇者「でも、まあ、人の感情とは不思議なもので、そういう生活を一ヶ月ほど続ければ自然と慣れていくものですよ」
魔法使い「もう寝るわ。アンタと話してたらおかしくなりそう」
勇者「え?じゃあ、婚前初夜ってやつですか?まいったなぁ」
魔法使い「なんで一緒に寝るって解釈するのよ!?」
勇者「ガード固いなぁ......魔法使いは普通、守備力が無いはずなんだが......」
魔法使い「それじゃあ、おやすみ!!」
勇者「はい。おやすみなさい」
魔法使い「風邪、ひかないでよ?」
勇者「馬鹿は風邪引かないって言葉、知ってますか?」
魔法使い「違うわ。馬鹿は体調管理が出来ないから、風邪を引くのよ」
勇者「おぉ。新説ですね」
魔法使い「ふん......がんばってね」
勇者「はい」
魔法使い「バーカ......」
勇者「......」
パチパチ......
勇者「はぁ......」
勇者「ドラゴン......魔王の側近にいるなら......いずれは......」
勇者「童話の獣と戦うなんて......想像できないな......」
―――魔王城
魔王「首尾は?」
魔物「はい。順調でございます」
魔王「そうか。トロルの失態で幾分かの後れは生じたが、今のところ問題はないか......」
魔王「あるとすれば―――」
ドラゴン「魔王様」
魔王「ご苦労。トロルを打ち倒した者について何かわかったか?」
ドラゴン「はい。どうやら、とある小国で選出された『勇者』のようです」
魔王「ほう?今まで、勇者と呼ばれる人間など何の脅威でもなかったが、ここに来てついに骨のある人選をしたわけか」
ドラゴン「しかい、交戦した者たちに聞きますとすこし可笑しなことが」
魔王「なんだ?」
ドラゴン「それが魔法を使う素振りを一切見せなかったようなのです」
魔王「魔術なくしてトロルが率いていた軍勢を突破することなどできないはず。それほどまでに武芸に秀でているか......あるいは......」
ドラゴン「もう少し調査の必要があるでしょう。幸いにも先日、その勇者一行は黄金の国に入ったとのことですので」
魔王「それは好都合だな。既にあの地は我らの領土。そこでそやつらのことを丸裸にしてくれよう......」
―――黄金の国 村
勇者「......」
僧侶「えと......」
魔法使い「黄金なんてどこにも無いわね」
勇者「なんてことだ......」
僧侶「掘ればでるかもしれません!!金は土ですし!!」
勇者「なるほど!!」
魔法使い「馬鹿か......」
村人「あの......貴方たちは?」
勇者「どうも。遠路遥々やってきました。金をよこしやがれ」
村人「旅の人......。悪いことはいいません。すぐに立ち去りなさい」
僧侶「え......?どうしてですか?」
村人「この国は魔王の手に落ちたのです」
魔法使い「魔王に......?」
勇者「詳しい話を聞かせてもらえますか?」
―――村長の家
勇者「失礼いたします」
村長「旅の人か。村民から聞いておる。座りなさい。これ、茶を」
村娘「は、はい」パタパタ
僧侶「お構いなく」
村長「この国のことはお聞きになりましたかな?」
勇者「はい。魔王に占領され、酷い圧政を受けていると」
村長「若い者は皆、連れて行かれ......どこかで奴隷のような扱いを受けていると聞きます」
僧侶「酷い......」
勇者「女性もよく連行されているようですが?」
村長「この国を取り仕切っている魔物が女を好んで喰らう」
勇者「いい趣味をしていらっしゃる」
魔法使い「皮肉に聞こえないわよ?」
村長「月に数人、女は生贄にされている。この村だけでなく、他の村でも同じのようだ」
僧侶「許せませんね......」
勇者「いや、全くです。僕の天敵となる魔物だ。絶対に排除せねば」
魔法使い「はぁ......」
村娘「ど、どうぞ、お茶です......」
勇者「......」パシッ
村娘「え......?」
勇者「僕の側室になってくれませんか?」
村娘「えぇ......?」
魔法使い「ねえ?手を貸して?」
勇者「はい」ギュッ
魔法使い「ありがとう」ギュッ
勇者「あづぃぃ!?!?」
魔法使い「痴漢。国境を越えてすぐに馬脚を露せないで」
勇者「やけどしたぁ......。―――応急措置」ムニュ
僧侶「きゃぁぁぁぁ!!!!!」
魔法使い「胸を揉むなぁ!!」
村長「あの......。あなた方は一体?」
勇者「ただの勇者です」キリッ
村娘「勇者......様?」
村長「まあ、よくわかりませんが、ともかくこの国には長居しないほうがよい」
勇者「そうですね。ご忠告ありがとうございます」
村長「いえ」
勇者「行きましょう」
魔法使い「どこに?」
勇者「そうですね......」
村娘「あ、あの......」
勇者「なんですか?」
村娘「勇者様......この国を救っていただけませんか......?」
村長「これ!何を言っておる!他国の者を巻き込んでいい話ではない」
勇者「貴女に頼まれては断れない。この国を恐怖に陥れている元凶はどこにいるのですか?」
村長「な......!?本気ですか?!」
勇者「どちらにせよ、僕の夢を脅かす存在は消さねばならないので」
村長「なんという......」
魔法使い「まあ、ものすごい不純な動機よね」
僧侶「でも、その想いこそが勇者様の原動力なわけですし」
魔法使い「そんな原動力、燃えてしまえばいいのに」
勇者「燃えているからこうして行動に移しているのではありませんか」
魔法使い「はいはい。―――で、その支配者はどこに?」
僧侶「ふふっ」
魔法使い「なによ?」
僧侶「あ、ごめんなさい。討伐することには反対じゃないんだなって思って」
魔法使い「見てみぬフリはできないわ」
僧侶「そうですね」
魔法使い「ふんっ」
村長「みなさん......ありがとうござます。では、お教えします」
勇者「はい、お願いします」
勇者「地図を」
僧侶「は、はい」
勇者「場所からしたら......この辺りに問題の洞窟があるのですね」
村長「ええ」
僧侶「なるほど」
魔法使い「ここからならそう遠くないわね」
勇者「では、明日の朝向かいましょう。こちらも万全にしておくべきです」
僧侶「はい」
魔法使い「わかったわ」
勇者「では、村長様、よそ者の僕たちに色々とありがとうございます」
村長「気にしないでください。それより、もしよければ、今日はこの家で休んでいくといい」
勇者「え......?」
村娘「勇者様。是非、そうしてください」
勇者「......なるほど。貴女の入浴中に僕が間違って入ってしまうという展開ですね?」
魔法使い「いい加減にして」
―――客間
勇者「......」
僧侶「勇者様?どうかされましたか?」
勇者「黄金の国にしては随分とオープンだなと思いまして」
魔法使い「どういうことよ?」
勇者「自分が聞いた話では他国の人間に対しては排他的な態度を取るということだったのですが」
僧侶「あまり隣国とも交流しない国だって言われてますね」
勇者「得体の知れない僕たちの話を簡単に信用しているのが解せない」
魔法使い「考えすぎじゃない?私たちだって黄金があるとかいう風説を信じてたわけだし」
勇者「だといいですけど」
魔法使い「......」
勇者「まあ、でも、今はそんなことなど瑣末事ですね。なにせ、今日は相部屋ですし。これは間違いが起こる予感。いや、起きろ」
僧侶「ま、間違いって......」
魔法使い「早く寝てよ。明日は大変なんだから」
勇者「馬鹿な......。同じ部屋で寝るのにぱふぱふも無しだと......?」
―――翌朝
勇者「一食一飯の恩、忘れません。魔物の討伐をもって、返します」
村長「それはおつりが出るぐらいだな。お願いします」
勇者「はっ」
僧侶「では、行きましょう」
魔法使い「お世話になったわ」
村娘「お気をつけて、勇者様」
勇者「はい。貴女の笑顔を取り戻すために行って参ります」
村娘「そ、そんなぁ......照れます......」
魔法使い「......」ガシッ
勇者「つめたぃ!?」
僧侶「あの......仲良くしてください......」オロオロ
村長「......では、行って参ります」
村娘「できるだけ奴らの実力を引き出せ」
村長「はい」
―――洞窟
勇者「ここか......」
魔法使い「嫌な空気ね。魔物の巣窟だと思ったほうがいいかもしれないわ」
勇者「ええ。十分に警戒して進みましょう」
僧侶「は、はい......」
勇者「僕の腕にしがみついていてもいいですよ?」
僧侶「で、では......」ギュゥゥ
勇者「ああ、癒される」
魔法使い「......もう文句を言う気力もないわ」
魔物「グルルル......!!」
勇者「早速ですね」
僧侶「ひっ......」
魔法使い「......」パシンッ
勇者「お二人は僕の後ろにいてください」
魔物「ガァァァァ!!!」ダダダッ
勇者「―――随分と歩きましたね」
僧侶「そうですね」
魔法使い「休憩にする?」
勇者「ええ。それがいいでしょう」
僧侶「はぁ......申し訳ありません。私のために......」
勇者「僕も疲れてますし。お互い様です」
僧侶「そうですか......?」
魔法使い「私もつかれた―――きゃっ!?」ビクッ
勇者「どうしました?僕の魅力に興奮してしまったのですか?!」
魔法使い「水滴が首筋に当たったの」
僧侶「水滴......?そういえば、ここ鍾乳洞なんでしょうか?」
勇者「地形的にそうでしょうね。きっと最深部に行けば綺麗な水がいっぱいあるのでしょう」
僧侶「こういうところのお水は絶品だって聞きますよ」
勇者「身を清めるのには打って付けですね。お二人とも、ここは僕を気にせず全裸になって泳ぐことをお勧めします」
魔法使い「こういうところの水温がどれだけ低いか知ってて言ってるの?」
―――最深部
勇者「む......?」
僧侶「誰か......いる?」
魔法使い「もしかして......」
勇者「奴の足下を見てください」
僧侶「え......?な、なんですか......あれ......?」
魔法使い「骨ね」
僧侶「うっ......?!」
勇者「神聖な水場でこのような蛮行を行っているとは、僕も驚きを隠せませんね。これではお二人を泳がせるわけにはいかない」
魔法使い「泳ぐ気なんて更々ないけど」
魔人「―――来たか」
勇者「貴様がこの国を支配している魔物か」
魔人「その通りだ。矮小なニンゲンどもめ。自ら餌になりに来るとは殊勝な心がけだな」
勇者「この二人は僕が食べる!!手を出すな!!」
魔法使い「真面目にやって......お願いだから......」
魔人「カカカカ!!可笑しなことをいう。今から八つ裂きにされる者が私に命令するか?」
勇者「まあ、手を出す隙なんて与えないけどな」
魔人「減らず口を......」
僧侶「く、くる......!!」ササッ
魔法使い「いいわね、盾」
僧侶「勇者様、がんばってください」
勇者「お二人もサポートお願いします」
魔法使い「出来ればいいけど......」
魔人「行くぞぉ!!!」
勇者「こいっ!!」
村娘「さて、その実力いかほどか」
村娘「色々と見せてもらおうか......」
村娘「ん......?あの後ろにいる二人は何もしないのか......?」
村娘「それとも......何か狙いがあるのか......?」
勇者「せぇぇい!!!」ギィィン
魔人「カカカカ!!!なんだそれはぁ!!」ドゴォ
勇者「がっ?!」
魔人「私の体を切り裂くには力量が足りないようだな」
勇者「ふっ!!」シュッ
魔人「きかぬわぁ!!」
勇者「化け物め。トロルでも掠り傷程度のダメージはあったのに」
魔人「カカカカ!!!」ドガァ
勇者「づっ!?」
魔人「カカカカカ!!!期待ハズレだな。ここで終わりにしてやろう!!」
勇者「―――それはどうかな?」
魔人「なに?」
勇者「気がついていないのか?この空間の空気が凍りつつあることに」
魔人「貴様ぁ!!何をしているぅ!!!」
魔法使い「内緒に決まっているでしょ?」
勇者「ここは鍾乳洞だ。色々と水が多い。それが寒さで凍れば......」
魔人「くだらぬ。私を氷柱で殺すとでもいうのか?」
勇者「そうだ!!もう天井は無数の氷柱だらけだ!!見てみろ!!」
魔人「なんだとぉ?!」バッ
勇者「かかったな!!」ダダダッ
魔人「―――ひっかかるか、アホがぁ!!!」ドゴォ
勇者「がはっ!?」
僧侶「勇者様!!」ダダダッ
魔法使い「......っ」
魔人「この程度の温度で氷柱ができるわけないだろうが!!」
勇者「ごもっとも......」
魔人「コケにして......死ねぇ!!!」
勇者「ちっ!!」ギィィン
魔人「飛び散れっ!!」ゴォォォ
勇者「魔法か......!!」
魔人「ハーッハッハッハッハ!!!」
僧侶「―――やぁぁぁ!!!」ダダダッ
魔人「はっ!?」
僧侶「シールドアタック!!」ガキィィン
魔人「うおぉぉ?!」
勇者「僕に集中しすぎたな」
魔人「ふん。これしきで―――」ダッ
魔法使い「あ、そこ凍ってるわよ」
魔人「なっ―――」ツルッ
ドボンッ!!
勇者「よし。リムストーンプールに落ちた」
魔法使い「私が凍らせられるのは手で触れられるところだけだから」ピトッ
魔人「ぷはっ!!―――力では敵わぬから溺死させようとするのか?カカカカカ!!!!実に浅はかだな!!」
魔人「魔物を舐めるのも大概にしておけぇぇ!!!ニンゲンがぁぁぁ!!!床に転がっている塵芥の骸となれぇ!!」
魔法使い「この巨大な水溜りと一緒に凍りなさい」コォォォ
魔人「こ、これは......!!!凍っていく......!!」
ピキ......ピキピキ......
僧侶「やりました!!」
勇者「魔物はすぐに熱くなるからわかり易くていいな」
魔人「おのれぇ......!!これしきで私の動きを封じたと思っているのか!!」
勇者「いいや。思ってない。だけど......すぐには身動きが取れないはずだ。これだけ深く、広い水源が一気に凍ればな」
魔法使い「......」スッ
魔人「なに......を......」
魔法使い「物理攻撃に強くても魔法ならどうかしらね?」ギュッ
魔人「きさまっ......」ゾクッ
魔法使い「燃えろぉ!!」ゴォォォ
魔人「ガァァァ......ァ......ァァ......」
勇者「ここで凄惨な死を遂げた人たちにせめてもの手向けを」
僧侶「はい。僭越ながら......祈らせていただきます......」
魔法使い「疲れた......。なんでいつも大量の魔力を使わせるの?」
勇者「それは貴女が―――」
村娘「実に有能な魔術師を連れているようですね」
勇者「なっ!?」
僧侶「え......」
魔法使い「貴女は......村長さんのところにいた......」
村娘「勇者様。全て見させてもらいました」
勇者「もしかして......僕の側室になってくれるのですか?」
村娘「私がニンゲンであれば......貴方に惚れていたでしょうね」
僧侶「人間で......あれば......?」
魔法使い「あんた......だれなの?」
村娘「ふふふ......実力をもう少し見せてもらおうか......勇者よ!!!」メリメリ
勇者「な......ななな......!?」
ドラゴン「―――予想以上に部下が使えなかったのでな。行くぞ?」
僧侶「あ......あぁぁ......」ガクガク
魔法使い「う、うそでしょ......?」
勇者「バ......バカな......」プルプル
僧侶「伝説の魔物が......いる......なんて......」ヘナヘナ
魔法使い「しっかりして!!」
ドラゴン「ふふふふ......。どいつも同じだな。俺の姿を見れば驚愕し萎縮する」
ドラゴン「魔王様は魔物を統べる王。ドラゴンが傍にいても可笑しくはないだろう?」
勇者「な......なんてことだ......そんな......ありえない......!!」プルプル
ドラゴン「ふふふふ......。さあ......その力を見せろ。魔王様の脅威となる存在なのかどうか......!!」
ドラゴン「ただし、勢い余って殺してしまうことになるだろうけどな」
魔法使い「そんな......」
僧侶「死ぬ......わたしたち......ここで......」
勇者「く......そ......!!!」ギリッ
ドラゴン(ふんっ。なんだ、他のニンゲンどもと変わらないようだな。恐怖に身を震わせ、絶望している。魔王様の杞憂だったか―――)
勇者「くそぉぉぉぉ!!!!ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!!!!てめぇぇぇ!!!!!」
ドラゴン「......!?」ビクッ
勇者「さっさと女の子の姿に戻れよ!!!俺はあの女の子を側室候補にしてたんだぞ!!!なのにそんな醜い姿になりやがってぇぇ!!!」
ドラゴン「み、醜いだと......!?」
魔法使い「な、なにいってるのよ!?そんなこと言ってる場合!?」
僧侶「そ、そうですよ!!勇者様ぁ!!」
勇者「俺を裏切りやがってぇぇ......!!絶対に......!!絶対に許さん!!!」
ドラゴン「き、貴様......!!俺の姿を見てなんとも思わないのか?!」
勇者「醜いトカゲに用はないんだよぉ!!!」
ドラゴン「きさ......ま......ニンゲンの分際で......!!!この俺に罵詈雑言を......!!」
勇者「俺の側室候補返せぇぇ!!!」
魔法使い「にげるわよ!!早く!!!」
僧侶「勇者様!!お気持ちは分かりますがここは退きましょう!!」
勇者「早く女の子に戻れ!!今なら一緒にお風呂で許してやらぁ!!!」
ドラゴン「ぬかせぇ!!ニンゲンがぁぁ!!!灼熱の業火にやかれろぉぉ!!!!」
勇者「こっちはとっくに腸煮えくり返ってるんだよぉ!!オオトカゲが!!」
ドラゴン「殺すっ!!―――焼け死ねぇ!!!」ゴォォォォ!!!
僧侶「きゃぁぁぁ!!!!」
勇者「お願いしますっ!!」
魔法使い「もうアンタと出会ってから毎日のように魔力が空になるのはなんでなのよぉ!!」コォォォ
魔法使い「―――凍れ!!」
ボゥン!!
ドラゴン「霧?!」
勇者「退却!!!」ダダダッ
魔法使い「賛成!!」ダダダッ
僧侶「異議なしです!!」ダダダッ
ドラゴン「これしきの目くらましなど......俺の両翼で!!!」バサバサ
ドラゴン「―――くっ。逃げられたか」
ドラゴン「まさか俺の灼熱を利用して霧を発生させるとは......。この水溜りを一気に氷漬けにできるなら、不可能ではないか......」
魔人「おぉぉ......ドラゴンさま......お、た......すけ......く―――」
ドラゴン「役立たずは不要だ」ゴォォォ
魔人「ギャァ......ァァァ......!!!」
ドラゴン「確かに注意が必要かもしれないな」
―――フィールド
勇者「はぁ......はぁ......」
僧侶「はぁ......追っ手はいない......ようですね」
魔法使い「ねえ......もしかして......この国には......」
勇者「生きている人間はいないでしょうね」
僧侶「そ、そんな......」
勇者「魔王め......僕の理想郷成立を邪魔するのか......」
魔法使い「アンタねえ......」
勇者「完全に魔王の手によって落とされた国は、どこも同じと見ていいでしょうね」
僧侶「許せない......」
魔法使い「ええ。気分が悪いわ。私の力がどこまで通用するかわからないけど......」
僧侶「勇者様......私も......がんばります。できるだけのことはします」
魔法使い「人間を皆殺しなんてさせたくない。アンタは?」
勇者「勿論、皆殺しなんて見過ごせません。―――それって美人な人もいなくなるってことですからね」キリッ
魔法使い「......はぁ。はいはい。そうですね」
―――魔王城
ドラゴン「魔王様、ただいま戻りました」
魔王「どうだった?」
ドラゴン「はい。魔王様の想像通り、中々の使い手でした」
ドラゴン「勇者と思われる男は自分の姿を見ても冷静さを失わず、したたかに行動していました」
ドラゴン「後方支援者と思しき術者も、空間を一瞬で凍らせるほど熟練された魔法を駆使していました」
魔王「なるほど」
ドラゴン「我が炎すらも掻き消すことができるニンゲンが存在するとは思いませんでした」
魔王「......よく無傷で帰ってこれたな」
ドラゴン「いえ。流石にそれだけでは勝てないと判断したのでしょう」
魔王「お前の炎を相殺できるだけの力量を持ちながら、即時撤退をしたというのか?」
ドラゴン「ええ、その通りです」
魔王「竜族を間近で見ても冷静な行動を取れるだけの思考能力と行動力があり、しかも対抗できる術を持っていて逃亡を即断するか......?」
ドラゴン「魔王様?」
魔王「炎を凌ぐ以上のことはできないのか......それとも......。どちらにせよ、もう少し知りたいな......勇者一行のことを......」
―――夜 夜営地
勇者「テント、張れましたよ」
僧侶「いつもありがとうございます」
勇者「いえ。これぐらいのことは喜んでします」
魔法使い「不思議ね。あのドラゴン、追ってくると思ったのに」
勇者「初めから殺す気はなかったのでしょう」
僧侶「どうしてですか?あんな熱そうな火まで吐いてきたのに」
勇者「殺すなら僕たちが魔人と戦っているときに頭上かた灼熱の炎を吐けばいいだけですからね」
魔法使い「それは仲間を巻き込みたくなかったからじゃ......」
勇者「あのドラゴンは村娘に扮して僕たちをあの洞窟に誘いました。なら待ち伏せして丸焼けにだってできたはず」
魔法使い「あ......言われてみればそうね」
勇者「きっと力量を見ていたのでしょう」
僧侶「でもどうしてそんなことを?私たちでは絶対に太刀打ちできないのに」
勇者「あのドラゴンはきっと誰かに命令されて、あんなことをしたのでしょう。でなければ僕たちなんて瞬殺ですし」
魔法使い「ちょっと待って。それってつまり......ドラゴンを指示している......魔王が私たちのことを警戒をしているってこと?」
勇者「はい」
僧侶「ど、どうして......」
勇者「トロルの一件が魔王を慎重にさせているのかもしれませんね」
魔法使い「そっか。側近を倒したから、無理な特攻がしにくいのね」
勇者「だと思います。トロルも魔王の側近だとするなら、トロル以上の強者は恐らくあまり居ない。あのドラゴンぐらいかもしれません」
僧侶「そのトロルを倒したから、魔王は警戒して力押しで来ようとしないのですか」
勇者「魔王からしてみればトロルが人間に倒されたことは予想外だったはずですから」
魔法使い「魔王にとって私たちは未知の相手ってわけね」
勇者「トロルより力がある者を嗾け、万が一、その者がやられてしまっては事です。相手は今、情報収集の最中なのでしょう」
魔法使い「なら、ボロがでちゃったら......」
僧侶「一気に攻めてくる......?」
勇者「そうなっては無残に死ぬしかありません」
魔法使い「......」
僧侶「そ、そんな......」
勇者「でも、安心してください。僕は死なない。貴女たちを側室に迎え入れ、楽しい隠居生活を満喫するまではっ!!」
魔法使い「かっこつかないわね......いちいち......」
僧侶「そ、そうですか?」
魔法使い「えぇ!?」
勇者「格好の良い理想なんてありません。理想とはエゴ、私欲の塊。口にするだけで嫌悪される。それが理想というものです」
魔法使い「アンタの場合は野望でしょ」
勇者「願望も野望も夢も理想も全部同じですよ。人間の醜悪な部分ですね」
僧侶「そ、そうでしょうか?」
魔法使い「だから、アンタはそれを隠そうとしないから余計に気持ち悪く見えるんでしょう!!?」
勇者「バカな。勇者なのに気持ち悪いとは、これいかに」
魔法使い「あんたねえ......」
僧侶「でも、勇者様にはその強い野望が生命力に転換されているようですし、良い事ではないでしょうか?」
勇者「流石は神に仕えるお人だ。理解が早くて助かります」
僧侶「い、いえ......そんなぁ」
勇者「そう!!多くの美人をはべらせること!!それが僕の原動力!!魔王を倒す力となる!!」
魔法使い「そんな想いで倒される身にもなりなさいよね」
僧侶「まぁまぁ。でも、将来の夢を持つことはいいことですよ?生きる糧になることは間違いないですし」
魔法使い「否定はしないけど......」
勇者「そういえばお二人とも魔王を倒すのが夢だと言っていましたね」
僧侶「は、はい」
勇者「どうしてそのような夢を?」
魔法使い「......」
僧侶「えっと......」
勇者「お金ですか?それとも名声?」
魔法使い「いいえ、違うわ」
僧侶「あ......」
魔法使い「復讐よ」
勇者「......」
僧侶「勇者様......あの......」
勇者「なるほど。合点がいきました。それで貴女たちは、自ら才能がないと認めながらも魔法使いと僧侶で居続けたのですね?」
僧侶「は、はい......」
魔法使い「私たちみたいな境遇の人は珍しくないわ。孤児になる理由の七割以上は魔王の軍勢による侵攻のためだもの」
僧侶「私たちの国も魔王の軍勢に支配され......そして、親類を殺されました」
勇者「......」
魔法使い「だから、なんとしても魔王に一矢報いたい。そう思って、修行したわ。結果はこうだったけど」
勇者「半ば諦めていたのでは?」
魔法使い「ええ。最初のうちは反骨精神みたいな感じでがんばってきたけど、現実を突きつけられるうちにやっても無理だって思うようになった」
僧侶「きっと誰かが倒してくれる。仇討ちは見知らぬ勇者様に任せてしまえばいいって......そんなことを考えたこともあります」
魔法使い「誰についていっても役立たずでしかないし......」
勇者「なるほど」
魔法使い「幻滅した?」
僧侶「も、もちろん......世界平和のためでも......」
勇者「世界平和を盾に自分の私欲を隠さないでくれますか?」
魔法使い「なんですって......!?」
勇者「他人に任せてもいいと考える程度の願いでは、叶うことはないでしょうね」
魔法使い「ちょっと......今はきちんと自力で叶えようって思ってるわよ......」
勇者「本当にそうですか?」
僧侶「も、もちろんです......」
勇者「まさかとは思いますが、僕に全てを託していませんか?」
魔法使い「何がいいたいの?」
勇者「貴女たちは僕を復讐の道具として見ているのではないですか?」
魔法使い「......っ」
僧侶「そ、そんなこと思ってません!!い、いくら勇者様でも......酷いですっ!!」
魔法使い「アンタだって......」
勇者「なんですか?」
魔法使い「アンタだって私たちのことを理想ための道具にしか見てないくせによく言うわ」
勇者「そうですよ?」
魔法使い「なっ......!?」
勇者「貴女たちは僕にとって理想郷を作るための材料に過ぎません」
僧侶「そ、そんな......こと......な、仲間じゃ......?」
魔法使い「最低ね。そんな男だなんて思わなかったわ......」
勇者「初めに言ったはずです。僕は体目当てだと」
僧侶「そ、それはそうですけど......!!」
勇者「まさか嘘か冗談だと思っていたのですか?」
魔法使い「......」
勇者「でも、いいではありませんか。僕は貴女たちの体が欲しい。そして貴女たちは僕を復讐のために利用する」
僧侶「ち、違います!!」
勇者「交換条件としては悪くありません」
魔法使い「......本気で言っているの?」
勇者「はい」
僧侶「......」
魔法使い「分かったわ」
僧侶「あの......」
勇者「どうかされましたか?」
魔法使い「私は抜ける」
僧侶「え......!?」
勇者「故郷に帰るのですか?」
魔法使い「馬鹿。ここまで来て帰る訳ないでしょう?」
勇者「な......」
僧侶「あの!!やめてください!!」
魔法使い「アンタのおかげで私なりの戦いかたが分かったし、独りでもやれるわ」
勇者「何を言っているんですか。相手はドラゴンですよ?」
魔法使い「体を張ればあのドラゴンにだって対抗できることは実証されたわけだしね」
勇者「む......」
僧侶「ど、どうして喧嘩になるのですか!?」
魔法使い「まさかアンタがそういう目で見るとは思わなかった」
勇者「......」
魔法使い「......おやすみなさい」
僧侶「あ、まってください!!」
勇者「......」
―――テント内
僧侶「あの......仲直りしましょう?」
魔法使い「......」
僧侶「勇者様の発言には確かに問題はありました。ですけど、私たちの理由を知ればそう思われても......」
魔法使い「違うわ」
僧侶「え......?」
魔法使い「アイツがあんなことを言ったのが許せないの」
僧侶「......」
魔法使い「自分に正直で、言ってることは変態だけど......筋が通ってて......」
僧侶「あの......」
魔法使い「私たちの欠点を長所に変えてくれて......嬉しかったのに......」
僧侶「もう一度、話をすればいいじゃないですか」
魔法使い「もういいわ。あんな奴......」
僧侶「そんなぁ......」
魔法使い(どうしてあんなこと......言うのよ......ばか......)
―――翌朝
魔法使い「今までお世話になったわね」
勇者「残念ですね。ナイスバディなのに」
魔法使い「......ホントね」
勇者「まあ、貴女レベルなら探せば......」
魔法使い「ふんっ!!」
僧侶「あぁ......」
勇者「ついていってあげてください」
僧侶「え?」
勇者「全身から魔法を作りだすことができても、彼女は遠距離から攻撃されたら終わりです。彼女の魔力はすぐに枯渇する」
勇者「決して燃費がいい放出方法ではないですからね。むしろ大技を継続して発動しているようなものですし」
僧侶「ゆ、勇者様はどうするのですか?」
勇者「ここから北に向かうと噂の森があるでしょうから、そこを目指します」
僧侶「噂の森......ですか?」
勇者「おとぎ話ですよ。ただ、ドラゴンが実在したので信じてみようかなと思いまして」
魔法使い「......」
僧侶「ま、まってくださーい!!」タタタッ
魔法使い「どうしたの?」
僧侶「はぁ......はぁ......わ、私も一緒に行きます」
魔法使い「どうして?貴女はアイツの信者でしょ?」
僧侶「べ、別にそういうわけではありません」
魔法使い「そう......ありがと」
僧侶「で、どこに向かっているのですか?」
魔法使い「ここ。西に行けば大きな街があるみたいだから」
僧侶「なるほど」
魔法使い「そこなら色々と情報が集まると思うわ」
僧侶「そうですね。では、そこに向かいましょう」
魔法使い「本当によかったの?」
僧侶「はい」
魔法使い「今頃、側室候補がゼロになったから泣いてるんじゃないの?」
僧侶「割と平気そうでしたけど」
魔法使い「そう......」
僧侶「でも、これからどうするんですか?本当に魔王を?」
魔法使い「ええ。こんな体質でも十分に戦えるって分かったのよ?やれるわ」
僧侶「どのように戦うのですか?」
魔法使い「相手が攻撃してきたら熱を纏えばいいじゃない」
僧侶「熱に強い相手だったら?」
魔法使い「冷気を纏うわ」
僧侶「魔法に強い相手だったら?」
魔法使い「そのときは......」
僧侶「そのときは?」
魔法使い「考えるわよ」
僧侶「そ、そうですか」
魔法使い「今はとにかく魔王に関する情報を集めることが重要なの。わかった?」
僧侶「は、はい」
―――街 酒場
店主「魔王に関すること?」
魔法使い「なにかしらないかしら?」
店主「私はただの酒場のマスターなんでね」
魔法使い「でも、客から色々話を聞いたりするでしょ?」
店主「そんな話題を口にするような人は貴女が初めてですよ」
僧侶「そ、そうですよね」
魔法使い「それじゃあ、何か魔物に関することでもいいわ」
店主「そういっても......特には......」
魔法使い(情報収集ってこんなに難しいの......)
店主「あ。気になることなら一つありますね」
僧侶「なんですか?」
店主「なんでも人身売買組織があるらしいですよ」
魔法使い「人身売買?」
店主「はい。今この国に大規模な人身売買組織があるらしく、裏ではかなりエグいこともしているそうです」
魔法使い「ふーん......」
僧侶「なんて非人道的な......!!」
店主「まあ、人身売買自体は珍しいことではありませんがね」
魔法使い「身寄りの無い子どもが自分を売ったり、借金苦で売るって話はよくあるわね」
店主「時代が時代ですからね」
僧侶「でも、組織化されているってことは、人身売買で商売をしているってことですよね?」
魔法使い「そうじゃないかしら?」
僧侶「そ、そんなの許せません......!」
店主「気分のいい話じゃないことは確かですよね。噂では魔物が人間を拉致しているみたいですし」
魔法使い「なにそれ。人間と魔物が手を組んでるわけ?信じられないわ......」
僧侶「待ってください。魔物が協力しているなら、もしかすると魔王とも結託しているのではないでしょうか?」
魔法使い「可能性はあるわね......」
店主「とはいえ、私もお客さんから聞いただけで信憑性はあまり高いとは言えませんが」
魔法使い「その組織に迫れば、きっと魔王のことも分かるわ。―――どうやら、目標ができたわね」
僧侶「はい。その人身売買組織について調べましょう」
―――夕方 街 広場
魔法使い「......」
僧侶「わかりませんね」
魔法使い「甘かったわ。裏世界の情報なんて普通、誰も教えてくれないわよね」
僧侶「そうですね。人身売買を行う組織があるってだけでは......」
魔法使い「身内が被害に遭ったわけでもないし、私たちは組織を追う法的機関でもない」
僧侶「そろそろ宿でも探しませんか?」
魔法使い「そうね。そうしましょうか」
僧侶「勇者様なら......」
魔法使い「え?」
僧侶「勇者様なら、そんな情報でもすぐに手に入れてこられたのでしょうか?」
魔法使い「もういいでしょ。あんな奴のことなんて」
僧侶「......」
魔法使い「行きましょう」
僧侶「はい」
―――宿 寝室
魔法使い「ふー、いいお湯だったわ」
僧侶「......」ペラッ
魔法使い「なにしてるの?」
僧侶「え?ああ......その......」
魔法使い「なにこれ?エルフ伝説?」
僧侶「......知ってますか?」
魔法使い「エルフって伝説上の種族でしょ?魔法の礎を設計したって言われてるけど......」
僧侶「はい。人間と共存していたと言われるも、数百年前に歴史から姿を消した人間ではない......魔族の一種です」
魔法使い「魔物の中でも人間と近しい志向を持っていたから、かなり友好的だったとも言われているわね」
僧侶「いると思いますか?」
魔法使い「過去にいたかもしれない連中でしょ?そんなのいるわけ......」
僧侶「でも、ドラゴンはいました」
魔法使い「む......。それを言われると......」
僧侶「魔法を創造した種族。もしいるなら、私たちの体質も改善してくれるかもしれません」
魔法使い「そうね。夢があっていいわねぇ」
僧侶「はい」
魔法使い「でも、どうして急にエルフ伝説なんて......」
僧侶「実は......勇者様が別れ際に―――」
勇者『その森にはエルフがいると昔から噂されていました。むろん、眉唾もいいところで誰も真剣に捜索なんてしていませんが』
僧侶『勇者様はエルフを?』
勇者『はい。エルフは美形が多い、否、美形しかいないという伝説もあります。一人ぐらい側室に居てほしいと考えています』
僧侶『探すというわけですか......』
勇者『ええ。貴重な側室候補が二人もいなくなってしまいましたからね』
僧侶「―――と、言っていました』
魔法使い「あっそ......!」
僧侶「もしエルフがいるなら、私たちの欠陥も直してくれるかもしれないってずっと考えていました」
魔法使い「可能性としてはあるかもしれないけど......」
僧侶「人身売買の件も全く分かりませんし、エルフを探すことも私たちにとっては有益なことではないでしょうか?」
魔法使い「うーん......でも......」
僧侶「ダ、ダメ......ですか?」
魔法使い「アイツもさがしているのよね?」
僧侶「再会するかもしれないとお考えですか?」
魔法使い「......うん」
僧侶「いいじゃないですか。もし居合わせても利害は一致してますし」
魔法使い「......」
僧侶「恥ずかしい......とか?」
魔法使い「あんたねえ......!!ブロッコリー食べさせるわよ!?」
僧侶「そ、それだけは......!!」
魔法使い「まあ、いいわ。確かにこのまま居ても進展なんてしないだろうし......エルフなら魔王のことも知っているかもしれないし......」
僧侶「よかったぁ」
魔法使い「アイツの言っていた森ってどこになるの?」
僧侶「地図でいえば、この辺りだと思われます。ここからだと半日もあれば......」
魔法使い「なら、しっかり準備だけはしておきましょう」
僧侶「はい!」
―――フィールド
僧侶「そういえば魔物に遭遇した場合はどうします?」
魔法使い「炎を身に纏って体当たりでもしてやればいいわ」
僧侶「それって魔力の無駄遣いじゃないですか?」
魔法使い「他にやりようがないから仕方ないでしょ?」
僧侶「そうですけど......」
魔物「―――グルルルル!!!」
魔法使い「って、言ってる傍から......!!」
僧侶「ひっ」
魔物「グルルル......」
魔法使い「来なさい」ゴォォ
魔物「ガァァァ!!!」ダダダッ
魔法使い「......っ」
魔物「ガァァァァ!!!」ガブッ
魔法使い「いっ?!」
魔物「―――オォォォ......」ドサッ
魔法使い「やった......」
僧侶「大丈夫ですか?!」
魔法使い「腕を噛まれただけよ。傷は深くないわ。すぐに燃えたし」
僧侶「そうですけど......」
魔法使い「さ、行きましょう」
僧侶「あ、まってください」ギュゥゥ
魔法使い「ちょっと......!!」
僧侶「どうですか?」
魔法使い「......治ったわ。ありがとね」
僧侶「いえ。早めに有効活用してもらえないと、私はすぐに魔力が無くなるので」
魔法使い「あんたに触れられたら傷が癒えるなんて、誰も気がつかなかったわよね......」
僧侶「そうですね。魔法がすぐに使えなくなるって点は大きなマイナスでしかないですし。でも、勇者様は―――」
魔法使い「早く行くわよ」
僧侶「あ、は、はい!」
―――エルフの森
魔法使い「はぁ......ここなのね......」
僧侶「勇者様が言うには......ここですね」
魔法使い「探索する前に休憩しておく?」
僧侶「いえ。パンを食べながらなら多少は大丈夫ですから」
魔法使い「雀の涙じゃない?」
僧侶「本当に危なくなったら言いますから」
魔法使い「そう......」
魔法使い(アイツは私たちの体調管理までしてたのよね......今、思えば......)
僧侶「にしても未踏の地だからでしょうか、鬱蒼としてますね」
魔法使い「住んでいる魔物も多いでしょうね。今までで一番、気合を入れないとダメかもしれないわ」
僧侶「が、がんばります」
魔法使い「こんなことなら用心棒の一人ぐらい雇えばよかったわね」
僧侶「そんなお金があればとっくに......」
魔法使い「言ってみただけよ」
魔物「ガァァァァ!!!!」
僧侶「きゃぁぁぁ!!!」
魔法使い「させない!!」
魔物「ガァァ!!」ザシュ
魔法使い「うぁ!?」
僧侶「あぁ!!!」
魔法使い「ふ、ふれたわね......!」
魔物「ガ......?―――ガァァァァ!!!!」メラメラ
魔法使い「ふぅー......ふぅー......」
僧侶「今、治癒を!!」ギュッ
魔法使い「......」
僧侶「うーん......!!うーん......!!」ギュゥゥゥ
魔法使い「もう限界でしょ?」
僧侶「は、はい......き、休憩しましょうか?」
魔法使い「賛成。私ももう魔力が尽きかけてるし」
魔法使い「疲れた......」
僧侶「まだ住んでいる形跡すら見つかりませんね」
魔法使い「まあ、これぐらいで見つかるなら伝説にはならないでしょうし」
僧侶「そうですね。エルフさんも意地悪です」
魔法使い「でも、考えないといけないわね」
僧侶「何をですか?」
魔法使い「引き際に決まっているでしょ?いない人をずっと探すつもり?」
僧侶「それは......」
魔法使い「意味の無い時間を費やすなら、魔王討伐に向けての準備をしたほうがいいわ」
僧侶「準備と言っても......具体的になにをすればいいのか......」
魔法使い「魔王の弱点を探すとか」
僧侶「判明できているなら人間側がこんなにも劣勢には......」
魔法使い「魔王の兵力を調べるとか」
僧侶「大国が全兵力を投じても、防戦しかできないぐらいの兵力です」
魔法使い「......あら、私たちじゃ勝てないじゃないの」
僧侶「ですから、こうして―――!」
魔法使い「分かってるわよ。冗談だから」
僧侶「なら、いいんですけど......」
魔法使い「そうよね。あの魔王と戦おうとしているんだから、いくら補強しても補強し足りないことはないわ」
僧侶「はい。あと人数も......」
魔法使い「......」
僧侶「......」
魔法使い「もう少し休憩したら出発するわね」
僧侶「あの、その前に......」ギュッ
魔法使い「いいって」
僧侶「そう言うわけにはいきません。薬草では限界もありますし」
魔法使い「もう......。アイツ、薬草持っていったわよね?」
僧侶「私がきちんとお渡ししておきましたから」
魔法使い「そう......」
僧侶「まだ、この森のどこかにいるんでしょうか......?」
―――同時刻 エルフの森 深部
勇者「......」ガサガサ
勇者「お......」
勇者「ここは......もしかして......ようやく......見つけた。やはりいると確信していれば、奥まで進むことが苦にならなかったな」
エルフ「だ、だれ!?」
勇者「......!?」
エルフ「ニ......ニンゲン......!?」
勇者「これはどうも」
エルフ「あ......れ......?」
勇者「え......?」
エルフ「......」
勇者「あの......?」
エルフ「何の用ですか?」
勇者「僕の結婚相手を探しています。貴女、結婚してくれませんか?」
エルフ「ど、どうして人間なんかと......!!」
エルフ「おかえりください」
勇者「そういうわけにはいきません」
エルフ「なら......容赦はしませんよ?」
勇者「まさか......夜は常に3ラウンドですか?」
エルフ「......?」
勇者「腰が痛くなりそうですね......いやはや......困った困った」
エルフ「訳のわからないことを......!!」
勇者「む!?」
エルフ「立ち去らないというなら......!!」
勇者「まさか......」
エルフ「魔法を使ってでも......去っていただきます!!」
勇者「せめてお話だけでも」
エルフ「......」
勇者「弱りましたね。僕のどこがいけませんか?」
エルフ「全部です!!人間であることが罪です!!」
勇者「なんて宗教的な考え......」
エルフ「種族としての考えです」
勇者「僕は勇者なのに?」
エルフ「関係ない!!帰って!!帰れ!!!」
勇者「人間を嫌うのは魔族共通ですか?」
エルフ「当然です」
勇者「でも、貴女たちエルフ族は大昔、人間と友好関係を築いていたはず」
エルフ「数百年前のことです」
勇者「どうしてその関係は崩れてしまったのですか?」
エルフ「......」
勇者「......」ジーッ
エルフ「......そんなに強くボクを見つめても言わないから」
勇者「え?どうしてですか?」
エルフ「どうしてって......人間が嫌いだからに―――」
勇者「違います!!貴女、女性ですよね!?なのに、今、ボクっていいましたよね?!え!?どうしてそんな一人称になったんですか!?」
エルフ「は......?」
勇者「まさか。現実にはほぼいないと思っていたのに......。まさか、このような辺境にいようとは......流石はエルフ!!」
エルフ「......っ」ビクッ
勇者「で、どうして自分のことをボクというようになったのですか?」
エルフ「理由なんてないです」
勇者「生まれつき?それはもしかして、親が男の子として育てたというすごい事情があったりするわけですか?」
エルフ「そんなのない!!ボクの家庭はいたって平凡だ!!」
勇者「また言った!!ボクっていった!!もう一回言ってください!!」
エルフ「な......!?」
勇者「アンコール!!アンコール!!!」
エルフ「うぅ......」
勇者「アンコール!!アンコール!!!はい、ワンモアセッ!!」
エルフ「うぅぅぅ......!!!―――ちょーろー!!!変な人きたー!!!!」ダダダッ
勇者「ああ、待ってください!!ボクっ娘さん!!!」
エルフ「いやぁぁぁ!!!」
兵士「とまれ!!」ギラッ
勇者「邪魔だぁ!!!」ギィィン
兵士「うお!?」
勇者「俺の恋路を邪魔するなぁぁ!!!!」
兵士「誰か止めろー!!ニンゲンだぁぁ!!!」
勇者「うおぉぉぉぉ!!!!」ダダダッ
兵士「これ以上は!!!」
勇者「どけぇぇぇ!!!」ギィィン
兵士「おい!!手の空いている者を全員よべぇ!!緊急事態だ!!長老のところに向かっている!!!」
兵士「了解!!」
勇者「勇者をなめるなぁぁぁ!!!!」
兵士「ええい!!先日きたばかりだろうが!!!」
勇者「ボクっ娘さぁぁん!!!側室になってくれぇ!!」
エルフ「やだぁぁ!!!」
兵士「いいから取り押さえろー!!!」
―――長老の屋敷
長老「―――この者か?」
兵士「はっ」
勇者「むぐぐぐ......!!!」
エルフ「はぁー......はぁー......」ドキドキ
長老「話がしたい。口を自由にしてやれ」
兵士「はい」
勇者「ぷはぁ?!」
長老「人間よ聞こえるか?」
勇者「ボクっ娘さんの息遣いが聞こえます。お姿も確認したいので目隠しを解いてもらえませんか?」
エルフ「ひっ......」
長老「悪いが人間の言うことなど聞けん。おぬしは訊かれたことだけを答えればいい」
勇者「側室とはいえ大事にします。ですが、贔屓もしません」
長老「黙れ。―――訊きたいことは一つだ。どうしてまた攫おうとした?」
勇者「攫うなんてとんでもない。僕が攫うとしたら、それは心のほうですからね」キリッ
長老「今年になって既に同胞が10人も拉致され売られていることは知っているのだ」
勇者「売られている?」
長老「大昔から人間は我々の生み出した魔法、同胞をよく盗んでおった。表向きは友好関係を続けているように振舞いながらな」
勇者「......」
長老「約600年前、我々は貴様らと縁を切った。だが、数年前からまた始まった......」
勇者「エルフの人身売買ですか?」
長老「ふん......知っておるくせに......」
勇者「噂が流れたぐらいだから、少なからずエルフを見た人がいるとは思っていたけど、まさかオークションの現場で見たとかそういうのか......?」
長老「どんなに森の奥へと進んでも、貴様たちの執念には驚かされる。なぜ、放っておいてくれんのだ......!!」
勇者「......」
長老「答えろ!!」
勇者「それは......美人だからですよ」
長老「......」
エルフ「え?」
勇者「美人でスタイルもよい。しかも一人称がボクときた。これは放っておくほうが失礼というものでしょう」
長老「話にならんな」
勇者「待ってください!!僕は勇者!!魔王を討伐するために旅をしている者です!!」
エルフ「え......!!」
勇者「貴女を側室に迎えるだけの理由はあるのですよ!!!」
長老「魔王を倒すだと......?」
勇者「はい!!」
長老「関係がないな」
勇者「え?」
長老「魔王を倒したからといってエルフの扱いが変わることなどない」
勇者「そんなことありませんよ」
長老「変わるのはお前たち人間の生活だけだ。魔族からも疎まれ、人間にはその身を狙われるワシたちの立場に変化などない」
勇者「疎まれるって......人間と仲良くしていた過去があるからですか?」
長老「そういうことだ。真実は脅されていたとしてもな」
勇者「なるほど......」
長老「わかったのなら、それでいい。―――牢屋に入れておけ。処刑は3日後に執り行うものとする」
兵士「はっ!!」
勇者「待ってください!!まだ死にたくないんです!!」
長老「それはそうだろうな」
勇者「ボクっ娘さん!!貴女と添い遂げるまではぁぁ!!」
エルフ「......」
兵士「こっちにこい!!」
勇者「やめろぉ!!このハゲ!!」
兵士「殺すっ!!」
長老「まて。きちんと儀式に則り処刑するのだ。無闇に殺しては野蛮な人間と変わらない」
兵士「も、もうしわけありません!!」
勇者「くそぉ!!!もう一度だけボクと耳元でささやいてぇぇぇ!!!!」
長老「......人間とは理解できない生き物だな」
エルフ「はい」
長老「魔王を倒すといえば解放されるとも思ったのか......あやつめ......」
エルフ「......」
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#01
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#02
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#03
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」#04
勇者「すごい美人で有能な僧侶と魔法使いをお願いします」―epilogue―