魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
勇者が路地裏で殺された・・・。
なんとこの物語は、唯一魔王を倒すことができるという勇者が殺害されたところから幕があがる。
ミステリー仕立ての物語に、通常の勇者・魔王SSとは、違う面白さを感じます。
果たして勇者殺しの犯人は誰なのか?
続き:魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「...ああ」
――魔王城
魔王「側近はいるか」
側近「は、ここに」
魔王「人間の町に降りる。お前も来い」
側近「畏まりました。しかし、なぜ人間の町へ?」
魔王「ああ。ついさっき面白いことを聞いてな」
側近「面白いこと、ですか?」
魔王「勇者が殺されたらしい」
――人間界、宿場町
魔法使い「......もう夕方か」
魔法使い(朝からずっと走り回っていたんだな...)
僧侶「あっ、魔法使いさん!」タタタ
魔法使い「僧侶。なにか情報は?」
僧侶「ありません...戦士さんたちも同様らしく」
魔法使い「そうか...」
僧侶「わたし、まだ信じられません...。何故、勇者さまが...」
魔法使い「だな...」
魔法使い(宿近くの裏路地であんなにあっさりと......)
剣士「魔王が先手を打って刺客を寄越したんだろうよ」ザッ
魔法使い「剣士か。先手とはどういうことだ?」
剣士「力をつけられる前に殺したってことだ。深夜に勇者を呼び出して殺害したんじゃないか?」
魔法使い「しかし、剣は部屋に起きっぱなしだったが。呼び出されたにしては不用心だ」
剣士「なら、その時ちょうど散歩にでも出掛けてたんだろ」
魔法使い(無茶苦茶だな)
剣士「それに、見ただろ?あの勇者の身体をさ」
僧侶「う、うう...」
魔法使い「おい、剣士。少しは気を使え」
剣士「本当の事だろ――めちゃくちゃに切り刻まれていたじゃないか」
僧侶「ううう...」
魔法使い「なら何故、宿で寝ていた私たちを倒さなかったんだろうな。勇者を殺すついでにさ」
騎士「おいおい、魔法使い。しっかりしてくれよ」
騎士「魔王を倒せるのは選ばれた勇者、と剣だけだろ?」
魔法使い「ふむ...つまり私たちは倒すに値しないと判断されたわけか」
僧侶「そんな!」
騎士「命拾いしたってやつだが...くそ、胸くそ悪いな」
僧侶「勇者さま以外は脅威にすら見られてないなんて...」
剣士「残念だが、それが現実だ」
僧侶「......」
魔法使い「精神的にも疲れが溜まると良くない。宿に戻ろうか?」
剣士「そうだな...虚勢張ってバテても格好悪い」
僧侶「戻って、情報交換しましょうか」
剣士「だな」
魔法使い「......!」ピィン
僧侶「魔法使いさん?」
剣士「どうした?」
魔法使い「いや...少し気がかりなことが出来た。先に戻っていてくれないか」
僧侶「は、はぁ...分かりました」
剣士「いつ戻る?」
魔法使い「今日中には戻る」
魔法使い「明日になっても戻らなかったら警戒体制に入ってくれ」
剣士「ああ」
僧侶「...それ、いっしょに行ったほうが良いのでは?」
剣士「それで強めの敵に当たって三人仲良く全滅したら?」
僧侶「ぜ、全滅......」
魔法使い「まあ大丈夫だろう。僧侶を頼むぞ」
剣士「はいはい。僧侶には馬鹿みたいに優しいな」
魔法使い「......なあ、もう一度確認したいんだが」
剣士「ん?」
魔法使い「勇者は誰に殺されたんだと思う?」
剣士「誰って、だから魔王直属かなんかの魔物だろ」
僧侶「魔法使いさんは、何か他に考えが...?」
魔法使い「いや。まあなんだ、話し合いは後にしよう」
剣士「おう」
魔法使い「...戦士は個人行動を一番嫌がるからな。なんとか宥めておいてくれ」
剣士「ええー...あいつかなりピリピリしてるし、自分でなんとかしろよ」
魔法使い「憂鬱だ...。じゃあ、後で」
僧侶「ご幸運を......」
――町外れの森
魔法使い「......」
魔法使い(確かここらへんから弱めとは言え、魔力を感じたが......)
ピーヒョロロ-
魔法使い「鷹?」
魔法使い(向こうに誰か、居る...?鷹使いか?)
青年「......」ボソボソ
魔法使い(もしかしてあれは鷹と話しているのか?)
青年「おい、そこ」
魔法使い「......!?」ビク
青年「覗き見などと趣味が悪いな」
魔法使い「......申し訳ありません。悪気はないのです」ザッ
青年「ふむ、それは杖か。魔法を使用する者とみたが」
魔法使い「はい」
青年「ふん――なるほど、いいカモフラージュだ」
魔法使い(カモフラージュ...まさかな...)
青年「しかし何故魔力を魔力によって抑え込む?」
魔法使い「っ!」ギク
青年「どうした?おれはただ疑問を口に出しただけだ」
魔法使い「......まさか見破られるとは。高度技術を持った魔法使用者、でしょうか」
魔法使い(魔力を抑えてることなんて師匠以外には見破られなかったのに...)
青年「はは、不思議そうな顔をしているな」
魔法使い「?」
青年「まだおれの正体に気づかないのか?」
魔法使い「は――?」
青年「お前をここに招待したのはおれさ。勇者パーティーの一員、魔法使い」
魔法使い「!?」
青年「やはり話し合いをするには似ている系統同士がいいと思ってな」
魔法使い「似ている、だと?」
青年「おれもお前も、基本的には魔法を使うからさ」
魔法使い「...わざと魔力を放出させ、それに反応したものをここへ呼び出したというのか」
青年「その通り。――そっちの言葉使いのほうがいいな。新鮮だ」
魔法使い「......。一体あなたは誰だ」
青年「ふん、考えてみろよ」
魔法使い「――まさか、勇者を殺した犯人だとか」
青年「ならとうの昔にお前らは生きていないさ」
青年「それに、お楽しみは最後まで取っておくタイプなんだよ」
魔法使い「......」
青年「とはいっても、いつまでも黙っているのは性格は悪いな」ブォン
魔法使い(動作と詠唱無しに結界を!?)
青年「これで話を邪魔する雑魚はこない」メキメキ
魔法使い(頭から角が生えて......この姿は、まさか)
青年「なぁ、魔法使い。聞いたことはないか?」
魔法使い「......」
青年「ヒトに近いカタチをした、角の生えた魔物を。そして、魔物の上にたつ魔物の存在をさ――」
魔法使い「......――魔王か!!」
魔王「ご名答」ニヤリ
魔法使い(どうして気づけなかった――鷹から魔力が感じられる点で不自然だろう!)
魔法使い(不味い...私ごときが魔王になど勝てるわけもない)
魔法使い(ならばこの異変を他に伝えるしか...)ポゥ...
魔王「はっ、ダメダメだな。動作で何をするかがバレちまうだろ」パチン
フッ
魔法使い「魔法が...消えた...」
魔王「ま、座れよ。おれだって何も勇者なしのパーティーに止めを刺しに来た訳じゃない」
魔法使い(いつの間にか後ろに椅子がある)
魔法使い「...では、なにをしにきた」
魔王「ふん。なぁ魔法使い。お前は勇者がなにに殺されたか――知っているんだろ?」
魔法使い「......」
魔法使い「魔物だろう。あなた直属のな」
魔王「本気でそう思ってるのか、魔法使い」
魔法使い「......」
魔王「......」ニヤニヤ
魔法使い「魔王、あなたは相当最低な性格みたいだな」
魔王「これでも部下思いだがな」
魔法使い「...勇者の遺体に、魔法を使った形跡はなかった」
魔法使い「魔力をもったものの犯行なら、いくらか魔力が残るはずだ」
魔王「それで?」
魔法使い「全ての魔物は、微弱とはいえ魔力持ちだ」
魔法使い「魔力の痕を完全に消し去ることは私ですら不可能だ」
魔王「そうだな」
魔法使い「まとめると、《勇者から魔力は感じられなかった》」
魔法使い「《魔物は関わったものに魔力を残す》」
魔王「一種のマーキングだからな」
魔法使い「つまり、だ」
魔王「つまり?」
魔法使い「勇者を殺したものは、かなりの高度技術を持った魔法使用者か――」
魔法使い「それか、人間」
魔法使い「それも――あの勇者が剣無しで会う程に親しい関係の」
魔王「ほう?剣無しとは?」
魔法使い「私が見たかぎり、勇者は剣を非常に大切にしていた」
魔法使い「見知らぬ人間に呼ばれても手放して行くとは考えられない」
魔法使い「――だが、知り合いだったら?ある程度共に過ごした......仲間<パーティー>だったら?」
魔法使い「『散歩に行かないか。剣は重いだろうから置いていけばいい』」
魔法使い「そんな感じに言えば、多少は渋るものの勇者は置いていくと思う」
魔法使い「あいつはどちらかというと、話は聞くタイプだったからな」
魔王「ここまでの話に確証は?」
魔法使い「まさか、あるはずない。単なる私の不合理な妄想だ」
魔王「ふむ。では魔法使い、お前は犯人を見つけたいか?」
魔法使い「もちろんだ」
魔王「勇者のために?」
魔法使い「......」
『魔物は全て死ぬべきだ。そうだろう?』
『特に――』
魔法使い「ただの自己満足。身近に犯人がなんておちおち寝てもいられない」
魔王「ふん。じゃあこうしよう」
魔王「おれと手を組め」
魔法使い「断る」
魔王「何故だ」
魔法使い「魔王と犯人捜しなど意味が分からない」
魔王「敵と手を組むのがそんなに嫌か」
魔法使い「分かっているなら勝手に一人で探せ」
魔王「つれないな少年。――あ、いや少女か。すまんすまん、胸があまりにも慎ましいものだったのでつい」
魔法使い「―――魔王覚悟ッ!!」
ドゥンッ
――深夜、宿
魔法使い「ただいま...」フラッ
僧侶「ぼ、ボロボロじゃないですか!」
剣士「何があったし」
魔法使い「ちょっとな...自爆した...」
盗賊「めずらしい、普段はそんなことないのに?」
魔法使い「ちょっと気が高ぶっていてつい」
僧侶「治療しますから動かないで下さいね」キィィィン
魔法使い「ああ、ありがとう」
戦士「魔法使ァァァァい!!」バァン
全員「」ビクッ
魔法使い「なんだ、戦士。私は疲」
戦士「なんだじゃねぇ!どこほっついてたんだ、こんな時に!」
魔法使い「......すまなかった」
戦士「勇者が殺られたんだぞ!それなのに貴様は――」
魔法使い「悪いが、ここは宿で、今は深夜だ」クルリ
戦士「~~~!?」バタバタ
盗賊「いいなその杖?くれよ?」
魔法使い「あげるか。私の大切な商売道具なんだぞ」
剣士「お前らは一大事ってときに...」ハァ
僧侶「他のお客さんをこれ以上不安にさせてはいけません...静かに話しましょう」
魔法使い「そうだな」
盗賊「じゃあまず状況確認?」
僧侶「そうですね」
戦士「~~~!」バタバタ
魔法使い「小声なら出せるはずだ」
戦士「あ、本当だ。この野郎魔法使~~~~!」バタバタ
魔法使い「学習してくれよ...」
剣士「話進めていい?」
魔法使い「どうぞ」
剣士「――勇者は裏路地で発見された。裏路地といっても、まあまあ広いところだが」
剣士「そしてそれを通行人が見つけたのが雨月の18日。つまり今朝だ」
僧侶「そういえば、その通行人さんはどうなったんですか?」
剣士「ショックで寝込んでしまったそうだ」
盗賊「かわいそうに?」
魔法使い(第一発見者か...なにか他に情報を持っていないだろうか)
剣士「ここまでで、何か疑問は」
魔法使い「ん。勇者は昨日遅くまでどこに行っていたのか分かるか?」
僧侶「そういえば、昨晩異様に遅かったですよね」
盗賊「この町に来てから毎晩どっか行ってない?」
僧侶「そうですね。ふらりと」
剣士「ああ...それか。呆れるなよ......」ハァ
盗賊「なになに?」
剣士「聞き込みしてたら教えられたんだがな――」
魔法使い「」ゴクリ
剣士「アイツ、最近ずっと接待専門の酒場行っていたようだ」
戦士「......」
僧侶「えっ」
魔法使い「国から貰った金で遊びほうけていたのかあのバカは」
剣士「そして酒もしこたま飲んでいたとさ」
魔法使い(そう言われてみると勇者の部屋はすごい酒臭かったな...)
剣士「...なら、酔った勇者を倒すのは、普段より容易いものとなる」
戦士「む...なんだか、犯人が分かったみたいな話ぶりだな」
僧侶「はい。私たちが考えたのは、魔物の仕業かと」
剣士「魔王直属かなんかのな」
魔法使い「......」
魔法使い(...魔王に言い含められているだけかもしれないんだ)
魔法使い(幻想で人間の仕業だと、思い込まされていてもおかしくない)
魔法使い(あいつは私たちに仲間割れを起こさせるつもりなのだろうか)
盗賊「本当にそうかなあ?」
剣士「は?」
戦士「どういうことだ?」
盗賊「だってさぁぁ、なんでこんな時期に死なないといけない?」
盗賊「まだ旅が始まったばかりと言っても過言じゃないじゃん?」
戦士「数ヶ月は経ってるけどな」
盗賊「あと、魔王は歴代の"勇者"を墓場送りにしたんだろ?」
魔法使い「......」
盗賊「どうして早めに芽をつむ?あっちには相当な力があるのに?」
僧侶「実は勇者さんにすごい力を秘めていたから早めに始末したとか...」
盗賊「......」
剣士「......」
戦士「......」
魔法使い「......」
僧侶「...なんて」
魔法使い(むしろ最弱のほうだからなぁ)
戦士「まあな、俺も最初は思ったさ」
魔法使い(先代勇者の息子だから、"勇者"の血が流れているから)
剣士「死んだやつのことを悪くいいたくはないがな...」
魔法使い(それだけで、選ばれた――力ではなく血筋しか見ていない)
盗賊「先代"勇者"がすごすぎたんだよな?」
魔法使い(納得は出来なかったが...剣を持てるのは彼しかいなかったからしょうがない)
戦士「......」
剣士「...寝るか」
戦士「だな」
僧侶「もう日付も変わりましたしね...」
剣士「とりあえず明日、国に連絡しよう。あとは朝起きてからだ」
魔法使い「分かった」
僧侶「ではお先に」ペコ
魔法使い「おやすみ」
戦士「ほら勇......、あー...そっか、いないのか」
魔法使い「戦士...」
戦士「気にすんな。そんなヤワじゃないからな、俺は。じゃ」
盗賊「あ、戦士?すぐ寝る?」スタスタ
戦士「なんだよ」スタスタ
魔法使い「......私も寝る」
剣士「ああ。また明日」
魔法使い「また明日」
――宿部屋
キィ
魔法使い「ふぅ」ドサ
魔法使い「......」
青年「ここに一人とか豪勢だな」
魔法使い「!?」
青年「この宿は二人部屋しかないそうだから溢れたか?しかしぴったり六人のはずだが」
魔法使い「な、何でここに居る!?」
青年「もう忘れたか?おれは魔王だ。このぐらい余裕」
魔法使い「だからって人の借りた部屋でくつろぐなよ......」
青年「あ、分かった」
魔法使い「話を聞け」
青年「魔法使いお前、男って偽ってるだろ?」
魔法使い「...ひとつ、言わせてくれ」
青年「なんだ」
魔法使い「順番というか、順序ってものを知っているか?」
青年「それがどうした」
魔法使い「私が女だと暴く前に今のセリフだろ。普通は」
青年「ふん。順序なんて意味のないものに付き合うほど俺は暇じゃない」
魔法使い(どうみても暇そうなんだけどな......)
青年「で、どうなんだ」
魔法使い「...ああそうだよ。私はパーティー内では男としている」
魔法使い「だいたい何故あなたは私の性別が分かった?それが不思議なのだが」
青年「簡単だ。軽く解析したら普通ヒトのオスにあるものがなかったからな」
魔法使い(いつ解析とかしたんだ?というより解析ってなんだ?)
青年「しかし迷ったぞ。なんせメスにあるはずの豊満なものも――」
ガッシャーン
僧侶『魔法使いさん!?大丈夫ですか!』ドンドン
魔法使い「あ、やあ...僧侶」ガチャ
僧侶「どうしたんですか今の音!それに何か話し声もしたような...」
魔法使い「寝ぼけていて。ちょっと今日は疲れてしまったみたいだ」
僧侶「え?そう...ですか。早く寝た方がいいですよ?」
魔法使い「いや、もう寝ていた」
僧侶「?」
魔法使い「......実は私、寝相が悪いんだ」
僧侶「まあ...」
魔法使い「秘密にしていたんだが...言わないでくれるか?恥ずかしいから」
僧侶「も、もちろんです!」
魔法使い「ありがとう。おやすみ、僧侶」
僧侶「おやすみなさい、魔法使いさん」
魔法使い「僧侶も早く寝た方がいいぞ。体力ないんだから」
僧侶「失礼です!」
魔法使い「ごめんごめん」
パタン
魔法使い「はぁぁぁぁぁぁぁぁ......」
魔法使い(騙してごめん僧侶)
青年「あの少女にはおれの存在が気づけなかったみたいだな」
魔法使い「...隠れていたのか」
青年「面倒なことは嫌だからな」
魔法使い「彼女は治癒に特化しているんだ。その他は全然......」
青年「全然?」
魔法使い「...そういえば、あなたは敵だったな...」
青年「ふん。仲間の弱点は言いたくないか」
魔法使い「......」
青年「その勇者無しのパーティーでおれを倒しにいくなら言わないほうがいいな」
魔法使い「......ふん」
青年「話を戻すか。魔法使い、お前は自分を男だと認識させる魔法でも使っているのか?」
魔法使い「魔法など使わなくても、私は昔から男子に間違われていたんだ」
魔法使い「ボロをみせなければ誰も私のことなど女だと思わない」
青年「ふうん、なるほどな。やっぱ胸の大きさも関係しているんだろうか」
魔法使い「.........」イラッ
青年「だが、風呂とかはどうしている?」
魔法使い「それは言うべきことなのか――」
鷹「」バサッ
魔法使い「あ、窓から鷹が」
青年「ご苦労。なにかあったか?」
鷹「いいえ」
魔法使い(喋ったよ)
青年「魔物のほうは何もなし、か。さておれらも戻るかな」スク
魔法使い「戻るって、どこへ?」
青年「向かいの宿だよ」
魔法使い「は?」
青年「寂しくなったらいつでもこい」シュンッ
魔法使い「誰が行くか!――......もういないし」
――青年の宿部屋
鷹「魔王さま」
青年「ん?」
鷹「このような質素な部屋でよろしいのですか?」
青年「いいんだよ。あまり高い部屋に何日もいたら怪しまれるしな」
鷹「ならよいのですが」
青年「それに...外は久しぶりだからな。どこであろうと楽しめる」
鷹「......前々代魔王様と前代魔王様があんなに早く引退しなければ、もう少し自由に」
青年「よせ。もう終わった話だ」
鷹「はい...申し訳ありません」
――
――――
――――――
「おとうさん?おかあさん?」
『......』『......』
「ねえ、おきてよ。にげなくちゃ、ねえったら」
『おい、まだ子供がいるぞ』
『ガキぃ?慰みもんにもなんねーじゃん』
「ひっ――!?」
『こんな死体なんかにすがり付くなよ気持ち悪い』
『おいおい、自分でやっといて良くいうよ』
「や、やめて......おとうさんたちをけらないで......」
『あ?なに言ってんだよ』
『敗戦国が偉ぶってるんじゃねえ』
「い、いた......やだ...」
『つまんね、殺すか?』
「ころ...す......ころ...」
『そうだな。じゃあ俺から――』
わたしには人をころせる力があるって
むかし、おとうさんがいってた
「.........しんじゃえ」
それが、わたしの、はじめての
――――――
――――
――
チュンチュン
魔法使い「朝か......」ムクリ
魔法使い(頭痛い考えすぎたからかな)
青年「ふん。気持ち良さそうにうなされていたが」
魔法使い「それはどっち...だ...」
青年「こういうときはおはよう、というそうだな」
魔法使い「......」
青年「......」
魔法使い「なんでここにいるんだ!?ふざけているのか!」
青年「失礼な。おれは少しもふざけていないのだが」
魔法使い「なんで普通に私の部屋に侵入しているんだ!」
青年「魔王だからな」
魔法使い「したり顔やめろ!」
青年「それより、どうやら階下が騒がしいぞ?」
魔法使い「......?」
青年「早く行ってみたらどうだ。好転か後転、どちらだろうな」
魔法使い「......いいか、荷物漁るなよ」ダッ
トントントン
魔法使い「みんなおはよう」
僧侶「あ、魔法使いさん!今から呼びにいこうと思ってたんですよ」
魔法使い「どうしたんだ?犯人が見つかったか?」
僧侶「違うんです...」
剣士「おはよう。...盗賊がいなくなったんだ」
魔法使い「盗賊が?よりによってこんなときに?」
戦士「こんなときだから、だろ。怖くて逃げたんだ」
魔法使い「戦士」
戦士「くそったれが。あいつ、俺の所持金ごっそり持っていきやがった」
僧侶「ええ!?」
剣士「そうなんだ。同室だったこちらも半分盗まれている」
戦士「"盗賊"だからな。寝た人間を起こさず盗むなんて朝飯前だ」
戦士「それにこちとら相手を信用しているから...」ギリッ
魔法使い「......」
魔法使い「勇者の剣は?」
戦士「あんなの売れないだろ。金額的な意味ではなく知名度で」
魔法使い「ああ...そうだな。怪しまれるだろう」
剣士「昨日はそういう素振りを見せなかったんだがなぁ...」
戦士「心変わりは一晩あれば充分だ」
剣士「......」
剣士「勇者の件と盗賊の件、両方聞かなくてはいけないな」
戦士「勇者はともかく、盗賊め......」
僧侶「あの、魔法使いさん」
魔法使い「ん?」
僧侶「盗賊さんの位置を特定できないのですか?」
魔法使い「そうか、その手があったか。やってみよう」
戦士「出来るのか?」
魔法使い「私は攻撃専門だが、まあ出来ないってわけじゃない」
魔法使い「誰か、盗賊が使っていたものはないか?」
戦士「探してくる」トントントン
剣士「しかし...いったいどうなっていやがるんだ」
僧侶「......」
魔法使い「......」
剣士「五人パーティーのうち、一人が死亡一人が行方不明」
魔法使い「...酷いものだ」
剣士「とても魔王討伐など行けないな。諦めるしか...」
僧侶「帰るのですか」
剣士「それしかないだろう。そして新たな"勇者"が生まれるまで待つしかない」
魔法使い(その魔王は今私の部屋でごろごろしてるんだがな)
魔法使い「しかし、まあ」
剣士「なんだ?」
魔法使い「昨日から思っていたが、あまり勇者の死に動揺しないんだな」
僧侶「わたしは...もう、なにがなんだが分からなくて...」
剣士「死に方は違うとはいえ、仲間が死ぬことに...なんというか慣れちまってな」
魔法使い「......」
剣士「戦に参加しすぎた結果がこれだ。深く悲しめない最悪な人間となってしまった」
魔法使い「そうか...。悪かった、このようなことを聞いて」
剣士「いや、いいさ」
戦士「あったぞ」トントントン
魔法使い「それは?」
戦士「ベルトだな。かなり使い込んでいる」
魔法使い(......何故ベルトを置いていったんだ?)
魔法使い(いつもは確かズボンとの間にナイフとか挟むのに使っていたな)
魔法使い(新しいものを手にいれた――と考えるべきか?)
戦士「魔法使い?どうした」
魔法使い「あ、なんでもない。ちょっと外に行こう」
ガチャリ
僧侶「何故外に?」
魔法使い「汚れるからさ。宿の女将だっていい顔しないだろう」
僧侶「?」
剣士「む...朝はまだ寒いな」
戦士「それに雨が降りそうだ」
魔法使い「じゃあ、やるぞ」ブォン
魔法使い「......」コツン
僧侶「魔法陣がベルトを真ん中に回り出した......」
魔法使い「誰か、小さくていい。刃物を」
剣士「これはどうだ?手のひらに収まるぐらいだが」
魔法使い「少し借りる」ピッ
僧侶「っ!」
剣士「おい!」
戦士「なに手首を切ってるんだ!」
魔法使い「こちらの位置を手っ取り早く表すには血が有効なんだよ」ポタポタ
魔法使い「本当はさらに盗賊の血もあれば早く見つかるのだが...流石に常備しているわけでもないし」ポタポタ
戦士「...血の常備は嫌だろ。吸血鬼じゃあるまいし」
魔法使い「位置特定」
魔法使い(わりと近いな。...動いてはなさそうだ)
魔法使い(まだ早朝だし寝ているのか?)
魔法使い「こっちだ」タッ
僧侶「あっ、待ってください!」タッ
戦士「チームワークというものを大切にしろよ...」タッ
剣士「やれやれ、朝からマラソンか」タッ
タッタッタッ
魔法使い「早朝だと開いている店はほとんどないな」
僧侶「ぜぇ......そうですね......はぁ......」
戦士「おんぶするか?」
僧侶「舐めないで......下さい......」
剣士「ここらへんは森に近くて少し不気味だな」
魔法使い(そういえば私も昨日、ここらで魔王と......)
魔法使い「この辺りだ」ピタ
剣士「おおい、盗賊ー!」
戦士「盗賊ー!でてこーい!」
僧侶「お願いします、姿を見せて下さい!」
カァカァ
剣士「? あそこ、やけにカラスが集まっているな」
戦士「食品廃棄物が捨てられているんじゃないのか?」
僧侶「酒場とかありますからね」
戦士「でもなんか引っ掛かるな。見に行こう」
魔法使い(おかしいな、盗賊はどこに...あのあと動いたか?)
戦士「ほれ、しっしっ」
魔法使い「焼き払おうか」
戦士「......地味に恐ろしいこと提案するな。焼き鳥にしたってうまくないからいい」
剣士「ん?人形か?にしては、大きい――え?」
魔法使い「な、まさか......」
戦士「嘘だろ......盗賊!?」
剣士「ふ、服装は、昨日の盗賊のものだ......」
僧侶「あ...あ......」パクパク
魔法使い「僧侶!しっかりしろ!」
僧侶「い......いやああああぁあぁああぁぁぁぁぁぁ!!」
――魔法使いの宿部屋
スィー バサッ
青年「よう側近。どうだった?」
鷹「どうやら、盗賊なるものが死んだようです」
青年「ほう?」
鷹「しかし、断定はまだ。カラスどもがほとんどの顔を食ってしまいましたので」
青年「所持品を見ればわかりそうだな。盗賊で間違いなさそうだが」
鷹「はい。わたくしもそう思います」
青年「はは、しかしわずか二日三日で二人も死ぬなんてな」
青年「一人目は勇者、二人目は盗賊――か。どういう決まりなのやら」
鷹「犯人は誰かなどとは考えておられるので?」
青年「まだまだだ。情報が足りない」
鷹「はっ。ではもう少し」
青年「まだいい。――奴が帰ってきたみたいだからそちらを優先に聞こう」
ガチャ
魔法使い「......まだいたのか」
青年「ふん。客に対して失礼だな」
魔法使い「そもそも呼んでいない。客は客でも招かざる客だろ」
青年「招かざる客な。なかなかいい響きだ」
魔法使い(なに言っても無駄っぽいな......)
青年「で?何が起きたんだ?」
魔法使い「......分かっているみたいだな、その態度からすると」
青年「どうだろうな?ハッタリかもしれないが?」
魔法使い「......」
魔法使い(全く感情が読めない。さすがは王と言うべきか)
魔法使い「少し待て」コツン
ブォン
青年「ほう、人払いか」
魔法使い「弱めのな。緊急な用事なら通す」
青年「ふむ――昨日から思っていたのだが」
魔法使い「なんだ」
青年「嫌がってる割にはやけに協力的な態度じゃないか。なにか考えているのか?」
魔法使い「......」
魔法使い「あなたの質問を拒否すると後が恐いということと」
青年「相手魔王だしな」
魔法使い「誰かに話さないと、潰れてしまいそうなんだよ...」ギシ
青年「潰れる、とは?」
魔法使い「精神的にだ。身近にいた誰かが死ぬのは、辛い」
青年「......」
魔法使い「ましてや殺人事件だ。......前触れもなく死んでしまう」
魔法使い「ああ、思い返せばそうだな......警戒していたわりには喋りすぎた」
青年「......」
青年「適度に息を抜け。壊れるぞ」
魔法使い「精神的にか?」
青年「精神的にだ」
魔法使い「はぁー......」
青年「なんだ、ため息などついて」
魔法使い「まさか魔王に慰められるなんて思ってもみなかった」
青年「おれも勇者パーティーとここまで話すとはな」
魔法使い「...とりあえず、あなたはあまりこの件にでしゃばらないでもらいたい」
青年「切り替え早いな。おれは邪魔か?」
魔法使い「邪魔というより、物事を変にややこしくさせそうだから嫌だ」
青年「はっはっは、失礼だな殺すぞ」
鷹(その通りな感じがするが言わないでおこう...)
魔法使い「さて、そろそろ行かなければ」スッ
青年「せいぜい頑張って現実に絶望することだな」
魔法使い「...嫌みしか吐けないのかあなたは」
青年「そうじゃないか。犯人など見つけてどうする?死者が蘇るか?」
魔法使い「......あなたのところでは、どう対処するんだ?」
青年「まず殺し合わない。飢饉で共食いはあるが、それも最近はない」
魔法使い「...平和だな、うらやましい」
青年「ま、一部は血気盛んでこまるけどな。ほら行くんだろ」シッシッ
魔法使い「...私の部屋、乗っとるなよ?」コツン ブゥン
青年「今のは解除か。しねぇよそんなこと」
魔法使い「どうだか...」ガチャ
ガチャ
魔法使い「......」
戦士「魔法使い」
魔法使い「僧侶は...?」
戦士「駄目だな。勇者、盗賊で立て続けにあれだったから...引きこもったままだ」
魔法使い「入れてもらえるだろうか」
戦士「どうだがな。アイツ自身に聞かないとどうにも」
魔法使い「...僧侶」
戦士「下に行こう。剣士がさっきからうんうん考えてやがるんだ」
魔法使い「分かった」
剣士「ううん...」
戦士「ひどい顔だな」
剣士「戦士たちか。一体何が目的で犯人は二人を殺したのか...」
魔法使い「魔物、じゃないのか?」
剣士「勇者はな。でも、問題は盗賊だ」
魔法使い(魔物のセンは変えないか...)
剣士「それに盗賊と戦士の金が消えたことも。盗賊の...死体からは、見つからなかった」
魔法使い「何者かに持っていかれたと?例えば犯人に」
剣士「しかし、必ずしも犯人が持っていったとは考えられない」
剣士「たまたま通りかかった浮浪者が持っていった可能性だってある...」
魔法使い「...同一人物だろうか?」
剣士「分からん。分かるのは、盗賊には争った形跡があったことだ」
魔法使い「争った」
戦士「形跡?」
剣士「そうだ。手や顔に細かい傷がついていたし、襟首も伸びていた」
魔法使い「...死ぬ前に抵抗をしたのか、盗賊」
戦士「......ひでぇもんだな」
剣士「しかしここで考えてほしい」
魔法使い「何を?」
剣士「盗賊は身のこなし――逃げ足が早いだろ?」
魔法使い「ああ、まあな。"盗賊"だしな」
戦士「それが?」
剣士「勇者と同じく、いきなり襲われたんじゃないかと」
魔法使い「なるほど...追いかけられて捕まるほど間抜けじゃないもんな」
戦士「ふむ...」
剣士「誰かと待ち合わせをしていて、その誰かか、誰かのバックにいた人物に襲われたんじゃないか?」
剣士「そう思うわけだ」
魔法使い「それはつまり、盗賊は誰かと会う約束をしていたことになるが?」
剣士「それなんだよな。盗賊が見つかったところは確かに密会にはいい」
魔法使い「だが密会する意味が不明だと」
剣士「そうだ」
戦士「...なんか薄汚ねぇことでも話していたんじゃないのか?」
魔法使い「......例えば?」
戦士「知らん。ただ、金を持っていったのも関係するかもな」
剣士「ううん......」
魔法使い「女将さん」
女将「ひゃあ!?」ビク
魔法使い「――いや、そこで聞き耳立ててたのは知ってますって」
戦士「客はまだいなくて良かったな」
剣士「だからこそここまで話せたんだよ」
魔法使い「三人分コーヒーをお願いします」
女将「わ、分かりました」ソソクサ
魔法使い「......僧侶は大丈夫だろうか」
剣士「ああ...」
戦士「ホントか弱いんだなぁあいつ」
剣士「むしろこんな態度をとれてる自分たちが異常なんだよ」
魔法使い(確かに)
戦士「戦争とかで見慣れたからな、こっちは」
魔法使い「......」
女将「はいコーヒー」カチャ
魔法使い「ありがとうございます」
戦士「よくお前らそのままで飲めるな。苦いだろ」ドバドバ
剣士「慣れた」
魔法使い「慣れた」
戦士「ちぇっ、気取ってやんの」
魔法使い「......」ズズッ
戦士「いっそのこと嫌なこと忘れさせてやろうぜ」
剣士「どうやって?」
戦士「どうもこうも、セックスしかないだろ」
剣士「ブーッ!」
魔法使い「...はぁ。僧侶の最初の自己紹介思い出せよ」
魔法使い「"僧侶"は神と契りを交わしたもの。姦淫は御法度だ」
戦士「バレなきゃ問題ないって」
魔法使い「癒しの魔力が低下するけどな。半減か、それ以下だ」
戦士「っ!?」
魔法使い「ちゃんと聞いとけよ......。"僧侶"はそういうのがあるからあまり数がいないんだ」
剣士「一生独身を貫かないといけないんだよな?」
魔法使い「そう。神に背かぬ生き方を一生だ」
戦士「へえぇ。とても俺にはできそうにない」
魔法使い「だから容易にそのようなことを言うな。失礼だ」
戦士「へいへい」
剣士「はぁ......」
魔法使い「私は少し、町を見てくる」
剣士「大丈夫か?」
魔法使い「朝から襲ってはこないだろう。聞き込みをしてくる。それと」
剣士「なんだ?」
戦士「あ?」
魔法使い「第一発見者の家とか出来たら教えてほしい」
剣士「ん。控えておいたんだ」ペラ
魔法使い「ありがとう。昼には戻る」
戦士「俺はどうすっかな...こっちも聞き込みするわ」
剣士「自分も。また報告があったらここで連絡を」
魔法使い「了解。じゃあ後で」
――街
ワイワイ
魔法使い(やはり街も話題で持ちきりか)
魔法使い(...悔しいな。仲間が死んでいくとは)
青年「それは嫌嫌つきあっている仲間ではなくてか?」
魔法使い「!?」バッ
青年「そんな驚いてくれるな。目立つだろ」
魔法使い「...なんなんだ、一体」
青年「怖い顔してんなよ。一人より二人だろ?」
魔法使い「私は一人でも動ける。あなたに助けてもらう筋合いはない」
青年「助けるというか、面白そうだからついてくだけだが?」
魔法使い「......あ、そ」
青年「で、どうなんだ?あのパーティーに嫌嫌ついてってないのか?」
魔法使い「...そんなわけないだろ」
青年「どうせ国かなんかに押し付けられたんだろ?」
魔法使い「......」
青年「それか偉い分類に入る個人に脅されたとか」
魔法使い「...あー、自主的なものなら、参加していなかっただろうな」
青年「なら、やはり強制か?」
魔法使い「......もういいだろ、こんな話は」
青年「ふん。そうか」
青年「お前は」
魔法使い「...まだ続くのか」
青年「勇者をどう思っていた?」
魔法使い「は?」
青年「言葉のままだ。いずれおれと対峙したはずの人間がどういうものかと思ってな」
魔法使い「勇者は......そうだな」
青年「ああ」
魔法使い「馬鹿で己の正義しか見れない、祝福された力がなければちょっと強いだけの人間だった」
青年「...コテンパンだな」
魔法使い「私は見たままを言っているだけだが」
青年「なんだそれは、つまり最悪な男だったのか」
魔法使い「まあ、色欲にはほとほと手を焼いたがな――」
魔法使い「――多分、"勇者"らしいと言えばらしい男だったよ」
青年「ふむ」
魔法使い「ただもうちょっと周りが見えていれば良かったがな。今更だが」
青年「今更だな。死者に何を言っても始まらない」
魔法使い「やれやれ、だ...。道半ばで死亡など可哀想にもなってきたよ」
青年「生き返らせることはどんな奴ですらも無理だからな」
魔法使い「ああ。昔、道中で死んだ"勇者"が教会で蘇ったという話があったが」
青年「ほう」
魔法使い「なんのことはない、教会にいた"勇者"の素質をもった人間が代わりに出ていっただけだ」
青年「なるほど、尾ひれがついたのか。愉快な噂話だ」
魔法使い「......愉快かどうかは分からないがな...。おっと、この周辺みたいだ」
青年「ここらは民家が並んでいるんだな」
魔法使い「間違えて破壊するなよ。いいな?」
青年「お前はおれを何だと思っているんだよ。慈悲深い魔王サマだぜ」
魔法使い「......うん。あ、ここみたいだな」
リンリン
老婆「はぁい......あら、どなた?」
魔法使い「こんにちは、突然すみません。...昨日の朝のことをお聞きしたく」
老婆「あら......。つまりあなたは...」
魔法使い「勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」
青年「同じく勇者さまの仲間<パーティー>、サポート役の青年です」ニコ
魔法使い「......」
老婆「ご丁寧にどうも。ここじゃ立ち話もなんだし、中に入って」
魔法使い「お邪魔します」スッ
青年「お邪魔します」スッ
魔法使い(ごくごく普通の家だな)
老婆「そこに座って少し待って。主人を呼んでくるわ」パタパタ
魔法使い「はい」
青年「」ニコニコ
魔法使い「......」
青年「」ニコニコ
魔法使い「なんのつもりだ、サポート役の青年クン?」
青年「馬鹿正直に魔王ですなんて言えるわけないからな」
魔法使い「だからと言って自分を仲間にねじ込むな」
青年「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし」
魔法使い「あなたのせいではないにしろ、事実減ってるけどな」
青年「ああ、もしかしたら青年って名前は初出しか?」
魔法使い「そうだな。私の場合はあなたが最初から知っていたし」
青年「名前ぐらい簡単に調べられるんだよ。今度から宿に泊まるときは偽名使え」
魔法使い「...耳に痛い忠告だ」
青年「そんなわけでこれから気軽に青年と呼べ」
魔法使い「命令系かよ。あと気軽に呼べるか」
老婆「お待たせしましたー」パタパタ
魔法使い「ご主人が第一発見者なのですか?」
老婆「そうなのよ。あの人、あれからずっとガタガタ震えっきりで部屋から出ないの」
魔法使い「...その気持ちは分かります。国を、世界を救うはずの方が...」
老婆「そうね...わたしも聞いたとき貧血を起こして倒れてしまったし...」
青年「大丈夫ですか?」
老婆「今はね。でも貴方達も大変でしょう......」
魔法使い「......」コク
青年「......」
老婆「今、話をするように主人に言ってきましたが、出て来るかどうか」
魔法使い「それに、いきなり来てしまいましたからね。また日を改めてきます」
青年「いつまで滞在するんでしたっけ、魔法使いさん」
魔法使い「王様と大臣様の指示待ちですから長期間はかかるでしょう」
老婆「まあ。大変ね...」
魔法使い「憲兵にも事情を説明しなくてはなりませんし」
老婆「そうねぇ、憲兵は普段はこの街にいないから来るまで時間がかかりそうね」
青年「来ないんですか?それは些か危ないのでは?」
老婆「数十年間事件や事故らしい事故が起こらないかったからね。信頼されてるのよ」
魔法使い(それが今回仇となったけどな...)
魔法使い「......ん?勇者さまは昨日亡くなられましたが――憲兵、まだ来てないですね」
老婆「あら。貴方達、聞いていないのかしら?」
魔法使い「すみません。それどころではなかったので...良かったら教えて下さい」
老婆「隣の隣の街が魔物に襲われたらしくてね。調査が大変みたいよ?」
青年「その情報は......」
老婆「井戸端会議よ。でも多分、合っていると思うけど」
青年「......」
老婆「いやぁねぇ、魔物は出るし勇者さまは......どうなってしまうのかしら」
魔法使い「...なんとかします。みなさんの生活を守るために」
老婆「頼もしいわ」ニコ
青年「あれ、なにか階段から落ちているような音が」
バタン!
老婆「あなた!」
老人「お、おぬしら、は......」
魔法使い「こんにちは。勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」
青年「同じく。青年です」
魔法使い「突然の訪問―――」
老人「ああ、ああ!わしには重いのだ!重すぎて潰れてしまう!」ガシッ
魔法使い「――!?」ビク
青年「落ち着いて下さい、ご主人。いったい何がありましたか?」
老婆「あなた...」
老人「あ、あ、あ......恐ろしいものだよ...真実は...」ガクガク
魔法使い「...何か、見たのですか?」
青年「現場になにか落ちていましたか?」
老人「恐らくすでに拾い上げられてしまった...」ガクガク
魔法使い「......かなり混乱している」ボソ
青年「おれは苦手なんだよな。精神を操るのは」ボソ
魔法使い「...ご主人、今日は安静にしていて下さい。明日また来ます」
老婆「すみませんねぇ...いったい何をみたのやら...」
魔法使い「いいえ、こちらこそ」
老婆「主人は戦争のトラウマがあって、血を見るのが大嫌いなんです」
青年「なるほど...」
魔法使い「では、お邪魔しました。お茶ありがとうございます」
老婆「本当にすみませんねぇ」
老人「」ガタガタ
青年「また明日」
老人「明日、必ず言おう...わしは弱虫だ。そんなことでと思うかもしれん......」
魔法使い「...?」
老人「これだけは言う......先入観には騙されるな!...ぐぅ」
魔法使い「ご主人!」
老婆「あなた!心臓のお薬飲まなかったんですか!」
青年「心臓病なのですか?」
老婆「はぁ、たまに発作がありまして...大丈夫です、直に引きますから」
魔法使い「...では」ペコ
青年「」ペコ
魔法使い「......」スタスタ
青年「......」スタスタ
魔法使い「僧侶なら、うまく聞き出せただろうな」
青年「ふん。あの様子じゃ無理矢理記憶を取り出させたら狂うのがオチだろ」
魔法使い「...そうだな。口に出すのも酷く恐れていたし...」
青年「先入観ねぇ。なんなのか解ければいいのだな?」
魔法使い「そうなるな」
青年「......勇者は女だった、とかは?」
魔法使い「私じゃあるまいし。れっきとした男だ」
青年「証拠は?」
魔法使い「素っ裸の場面を見たことがある」
青年「ふむ?人間の女は男の裸体を見ると恥じるというが」
魔法使い「ん......まあ、全部の女性に当てはまるわけではないぞ」
青年「なるほど、痴女か」
魔法使い「ふざけるな」
青年「ふん。――しかし、こちらも悩み事が増えた」
魔法使い「悩み事...魔物か」
青年「そうだ」ピューイ
バサッ
鷹「なんでしょう」
青年「近くで魔物が人間の街ないし村を荒らしているようだ。様子を見てくれ」
鷹「仰せのままに」チラッ
魔法使い「......?」
鷹「では」サッ
青年「頼む」
ピューヒョロロ...
魔法使い「なんだったんだ、今。何かしたか?」
青年「何かが気になったのだろうな」
魔法使い「......へぇ。彼...彼?は鳥人族か」
青年「よく知っているな。優秀な鷹一族の中でもかなりの優れものだ」
魔法使い「それはそれは。鷹一族ということは、他にもいるのか」
青年「いるさ。雀に烏に椋に鳩――少し前に鷹族と匹敵するぐらいの一族がいたんだがな」
魔法使い「ということは、今は?」
青年「純血は絶滅した。混血も恐らくはいないか、途絶える一歩前だろう」
魔法使い「...わけを聞いてもいいか?」
青年「別に構わん。例えお前がおれから全ての情報を引っ張り出してもおれには勝てないからな」
魔法使い「あー、そーですか」
青年「単純に言うと、人間どもの戦争に巻き込まれた」
魔法使い「30年前のか?10年ほど前のか?」
青年「30年前のだ。酷かったな、あれは」
青年「襲撃された村周辺に住んでいた純血は人間に卑怯な手段を取られ殺され」
青年「そこではないが近くの村に住んでいた、人間と結ばれた一族も殺された」
魔法使い「人間と魔物が?」
青年「珍しくはない。だが、魔物側からしてみれば異端だからな。追放されるか殺される」
魔法使い「そこを生き延びたのに戦争で......か。報われないな」
青年「ふん。こういう話には涙脆いのか」
魔法使い「泣いてなどいない。同情を示しただけだ」
青年「魔物にか?おいおい頼むぜ、勇者さまの仲間さんよ」
魔法使い「それはそうなんだがな。私にも色々事情はある」
青年「ほう?」
魔法使い「言わないけどな」
青年「やれやれ。人間は溜めが好きだな」
魔法使い「人間に限らずそっちも同じようなもんだろ」
青年「ふん」
魔法使い「宿についた」
青年「にしても、街が嫌に静かだな」
魔法使い「殺人事件が起きたからな。犯人がいるかもしれないのに不必要に彷徨くか」
青年「はぁん。そうそう」
魔法使い「?」
青年「勇者と盗賊だったか?二つ、死体を見せてくれ」
魔法使い「何?」
青年「憲兵が調べるまではどっかに安置してるだろ?」
魔法使い「してるが......」
青年「別に何もしない。興味があるのでな」
――
剣士「医者、か」
青年「はい。小さな医院の駆け出しですけどね」
魔法使い「............」
青年「損傷が進まないうちに、不束ながら僕が調べさせていただきたいのですが」
剣士「しかし、憲兵の」
青年「許可は貰ってあります。こちらです」ペラ
魔法使い(いつの間に)
剣士「......分かった。ただし、俺と魔法使いの立ち会いの元でだ」
青年「ありがとうございます」
剣士「二人は、今は使っていない地下貯蔵庫にいる」ギィ
魔法使い「火が必要だな」スッ
剣士「...ランプより明るい。便利だな」
魔法使い「どうも」
青年「ふむ...こちらですか...」
剣士「......」
魔法使い「......」
青年「盗賊さんのほうが執拗に斬りつけられていますね。これは...剣による傷ですか?」
剣士「だな。深さから見る限り剣の使い方には慣れていないようだ」
魔法使い「そういえば、勇者の所持品の有無を調べてなかったな...」
剣士「ちくしょう、うっかりしていた。何か分かるか?」
魔法使い「......」ジッ
青年「......」
魔法使い「ペンダントが無くなっていないか?」
剣士「あ、確かに。あんなに大切にしていたのに」
青年「部屋には置いてないのですか?」
剣士「まさか。野宿だと寝る時すらはずさないぐらい大切にしてるんだ」
青年「お守りですか」
魔法使い「王女さまから直直のプレゼントだよ。婚約済だ」
青年「ははぁ...帰ったら結婚云々ですか」
剣士「だな。まさか盗まれたのか?デザインは美しいものだったから」
魔法使い「......分からんな。医者、もういいのか」
青年「はい。ありがとうございました」
青年「では僕はこれで」スタスタ
魔法使い「......」
剣士「そうだ。悪いが魔法使い、僧侶に食べ物運んでやってくれ」
魔法使い「構わない」
剣士「昨日からあまり食べてない。あれじゃ餓死するぞ」
魔法使い「過保護だろ。分かった、無理矢理にでも食べさせておく」
剣士「頼んだ」
魔法使い「頼まれた」
トントントン
魔法使い「僧侶」コンコン
「......」
魔法使い「食べ物と、飲み物だ。なにか口にいれた方がいい」
「......」
魔法使い「...入るぞ」ガチャ
僧侶「......」グス
魔法使い「目が腫れているじゃないか。顔が台無しだ」
僧侶「次はわたしだと思うと怖いんです......」
魔法使い「そのときは、守ってやる」
僧侶「...魔法使いさん、優しいですね」
魔法使い「たまには優しくしないとな。バチがあたる」
僧侶「...あはは」
ガチャ
魔法使い「......」パタン
戦士「よう。僧侶は?」
魔法使い「寝た。だいぶ無理をしていたようだな」
魔法使い「ああ。どうだった?」
戦士「なんにも、だ。そっちはどうだった?」
魔法使い「第一発見者がだいぶ錯乱していてな。何も――何も聞けなかった」
戦士「骨折り損だったな」
魔法使い「ま、落ち着いたら再び行くさ」
戦士「遅めの昼を食おうぜ。腹減った」
魔法使い「あ、私は先に食べたからいいや」
戦士「こ、この裏切り~~!!」バタバタ
魔法使い「悪い悪い。まだ魔法をかけっぱなしだったか」クルリ
戦士「ったく...」
魔法使い「今日は少し疲れた。これから明日まで少し休む」
戦士「そうしろ。顔が蒼白だぞ」
魔法使い「そうか。じゃあ、剣士に言っといてくれ」
戦士「おう」
―――
――
―
勇者が死んだ。
盗賊が死んだ。
それでも変わらず夜はやってくる。
魔法使いが僧侶を寝かしつけ、自分も精神的な疲れのために高ぶっていた神経を
鎮め、ようやく眠りについた夜遅く。
魔物が住み着いているために開発していない森の奥の奥で。
魔王がたった一つの身体で十数体の魔物を蹂躙していた。
側近「流石です、魔王さま」
ヒトの形をした、しかし唇の代わりにくちばし、腕の代わりに鳥の羽、そしてところどころが羽毛で覆われた表皮。
昼間は鷹のすがたを取っていた鳥人族である側近は無表情のままに感想を述べた。
魔王「ふん――これぐらいで苦戦していたら王を名乗れん」
惨状を産み出した主、魔王は答える。
端正な顔立ち、真っ暗な髪、側頭部から生える真っ暗な曲がった角、
そしてそれら容姿に不釣り合いな金色の目。
その冷たい美しさを持った魔物は側近に肩を竦めて見せた。
魔王「困ったものだ。反魔王派――反おれ派対策も早めにやらないとな」
側近「すみません、魔王さま。ただの魔物同士のいさかいとしか思いませんでして」
魔王「いや。おれも色々頼んでいたしな――全く幸運だったよ」
紫色の液体を踏みつける。
ぐちゃ、と嫌な音がした。
魔王「ほどほどに人間を食えって前にいっただろ。やりすぎだ、馬鹿」
返事はない。
魔王「お前らが食い過ぎるとバランスが崩れて大変なことになるんだよ」
魔王「一気に100人。対するお前らは12。どうみても88人は余分だろうが」
それから、目を細める。
文句が言い足りないらしい。
魔王「というか、そんなにおれが嫌いか」
側近はそっと主の顔を見たが、そこから表情は読み取れなかった。
魔王「そこまでして王となりたいか」
倒れ伏す魔物の間をゆっくりと歩いていく。
魔王「人間を食らい、力をつけて。そしておれを倒すつもりだったんだよな」
魔物「......そうだ」
か細い声があがった。
魔王の口がつり上がる。
魔物「前々代魔王さまを......殺したのは、お前だ」
魔王「ふん。復讐か」
魔物「何故殺した。何故前代魔王さまを追放した」
魔王「親父は逃げたんだよ。おれから逃げるためにさ」
魔王「あと良いこと教えてやる。前々代魔王はまだ死んでいない」
魔物「は?」
魔王「弱体化してるがな。お前らみたいな連中にいいように使われたくないからって引退した」
側近「......」
魔王「というよりよぉ、魔王になってもいいことないぜ?」
魔王「どうやらお前ら一族の悲願らしいが。偏った夢だな」
魔物「黙れ......!人間などいらんのだ!一部の魔物もだ!」
魔王「大馬鹿者め。自分好みに作られた世界はすぐ滅びる」
手を軽くふる。
それだけで、魔王と側近以外の魔物はサイコロサイズに切断された。
魔王はため息をつく。
魔王「...参ったな。やっぱおれ、魔王として歓迎されてなくね?」
側近「これからですよ、魔王さま」
夜は更けていく。
続き:魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「...ああ」