勇者「用件を聞こうか......」国王「おおっ、ミスター勇者!」
有利に戦いを進める国王のもとに届いた魔王軍からの密書。
それを読み驚愕する国王たち。
国の命運をかけた依頼に呼び出されたのは、勇者と呼ばれる男であった。
勇者と魔王の戦いの物語ですが、かなり勇者は渋いです。
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 21:45:50.88 ID:UCj5V9EP0
王国の歴史は、200年前に魔族の長たる魔王を滅ぼし、
民衆からの支持を得た一人の豪族が、自ら王となったことから始まった。
しかし、およそ一年前に復活した魔王率いる魔王軍によって、
王国は再び魔族との戦いを余儀なくされていた......。
─ 王国城 ─
国王「戦況はどうかね?」
軍団長「はっ、我が軍が優勢であります!」
軍団長「このままいけば、魔王城陥落の日も近いかと!」
大臣「ふふふ、当然だ。魔族など我々の敵ではない」
大臣「この200年で、我が王国がどれだけの進歩を遂げたことか!」
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 21:51:26.32 ID:UCj5V9EP0
軍団長「ところが、気になることが一点だけございます」
軍団長「つい先ほど、魔王城から我が軍に一通の密書が届きまして」
国王「密書?」
軍団長「はい」
軍団長「魔術師によれば、この密書は魔法によって」
軍団長「陛下でなければ開封できないようになっているそうです」
軍団長「こちらです」スッ
国王「ふむ......」ガサッ
大臣「フン、おおかた降伏を申し出る書状ではないですかな?」
国王「............」
国王「──こ、これは!?」
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 21:55:59.82 ID:UCj5V9EP0
【 PART1 国王の依頼 】
─ 王国首都 郊外 ─
大臣「陛下、本当にこんなどこの馬の骨とも知れぬ男に、国の命運を託すのですか?」
大臣「勇者というのは、いったい何者なのですか!?」
国王「彼は世界中を股にかけて暗躍している、超A級のプロフェッショナルだ」
国王「この依頼をこなせるのは、世界中どこを探しても彼しかおらぬだろう」
大臣「......しかし、超A級のプロフェッショナルにしては」
大臣「ずいぶんと時間にはルーズのようですがねえ......?」
大臣「もうすでに待ち合わせ時刻だというのに、一向に現れない......」
勇者「落ち合う時刻は、ちょうど今のはずだが......?」ザッ
国王&大臣「!?」
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 21:59:36.51 ID:UCj5V9EP0
大臣「い、いつの間に......!?」
国王「君が、勇者かね?」
勇者「うむ......」
勇者「用件を聞こうか......」シュボッ...
国王「おおっ、ミスター勇者!」スッ
勇者「俺は......利き腕を他人に預けるほど自信家じゃない......」
国王「!」ハッ
国王「そうだったな、すまなかった。君のことは勉強していたつもりだったんだが」
大臣「陛下の握手を拒否するとは......キサマ何様のつもり──」
国王「いやよいのだ、大臣。私が悪かったのだ」
大臣「くっ......!」
勇者「............」
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:05:45.48 ID:UCj5V9EP0
国王「さて、さっそく仕事の話に入ろう......」
国王「君に始末して欲しい標的(ターゲット)は......魔王だ」
勇者「............」
国王「元々我が国は200年前、魔王を討伐した私の先祖によって建国された」
国王「200年の間に国政は安定し、このまま平和が続くと思われたのだが──」
国王「一年前に突如魔王が復活したことにより、情勢は急変した」
国王「もちろん、魔王は我が国に強い憎しみを抱いている」
国王「今まさに、我が国は魔王率いる魔王軍の攻撃を受けており」
国王「この窮地を脱するには、魔王を亡き者にするより道はないのだ......!」
勇者「............」
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:09:42.35 ID:UCj5V9EP0
勇者「俺は......王国軍と魔王軍の戦いは、王国軍が優勢だと認識しているが......?」
勇者「なぜわざわざ俺に依頼をする......?」
国王「!」ギクッ
国王「実は......ただ単に魔王を始末して欲しいのではなく」
国王「次の"二つの条件"を満たした上で、倒して欲しいのだ」
勇者「条件......?」
国王「まず一つ目が期限は一週間以内」
国王「そしてもう一つは......一太刀で魔王を殺害して欲しい、ということだ」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:14:28.87 ID:UCj5V9EP0
国王「ただ魔王を倒すだけならば、我が国の兵士でも十分可能だろう」
国王「しかし、この二つの条件を満たした上で、魔王を滅ぼせるのは......」
国王「世界中に君しかいないのだ!」
国王「どうか......引き受けて欲しい......!」
大臣「報酬はキャッシュで500万ゴールド出す!」カパッ
大臣「キサマのような一匹狼には、過ぎた金だろう!」
勇者「............」
勇者「俺は依頼人の嘘や裏切りを許さない......」
勇者「もし俺を雇いたいのであれば......」
勇者「なぜその条件を満たさねばならないか、を説明してもらおう......」
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:18:36.83 ID:UCj5V9EP0
国王「そ、それは......」
大臣「国家機密を殺し屋風情に話す義理はない! 黙って引き受けるといえ!」
勇者「............」
勇者「......悪いが、この話はなかったことにしてもらおう」ザッ
大臣「な!?」
国王「............」
国王「ま、待ってくれ! ミスター勇者!」
大臣「陛下!? ま、まさか──」
国王「分かった......全てを話そう」
大臣「へ、陛下......!」
国王「大臣、全ての責任は私が負う。王国のためには、彼の力が絶対に必要なのだ!」
勇者「............」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:25:14.93 ID:UCj5V9EP0
国王「実は、先ほど話した我が国の成り立ち......これには大きな秘密が隠されている」
国王「元々、この地域では人間と魔族が共存していた」
国王「しかし、この辺り一帯の土地全てを欲した私の先祖、つまり初代国王は──」
国王「魔王や魔族たちを親睦会と称して、巧みに誘い出し──」
国王「集まった魔族を毒料理や矢の雨で壊滅させた......」
国王「もちろん世間には、変心し人間を滅ぼそうとした魔王を討伐したと発表し」
国王「その名誉をもって王となったのだ」
勇者「............」
国王「現在においても、このことを知っているのは私やここにいる大臣を含めごく一部」
国王「そして、これから先もずっとそうなるはずだった」
国王「しかし、戦争で劣勢となった魔王が、三日前に密書を届けてきたのだ」
国王「"私は初代国王の魔族に対する仕打ちを証明する証拠を持っている"」
国王「"十日以内に降伏しろ"」
国王「"さもなくば、全てを公表する"といった内容だ」
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:29:30.65 ID:UCj5V9EP0
国王「もし、そんなものが実在し、公表されれば──」
国王「これまで代々続いてきた王位の正当性そのものが、根底からくつがえってしまう」
国王「さらに我が国には王政に反対する一派が、水面下に根強く存在しており」
国王「彼らが魔族と手を結ぶであろうことは想像に難くない」
国王「そうなれば、この国は内乱状態となり、まちがいなく崩壊する......」
国王「それだけは絶対に避けねばならないのだ!」
国王「そして......宮廷魔術師の魔法による真偽調査によって──」
国王「魔王からの密書に一切嘘偽りはない、と判明した......」
国王「もちろんその後、魔術師の口は封じさせてもらった......」
勇者「............」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:34:47.37 ID:UCj5V9EP0
勇者「話は分かった......」
勇者「それで......もう一つの条件"一太刀で"というのはどういうことだ?」
国王「実は......これも密書に書かれていたのだが、魔王には恐ろしい能力があるのだ」
国王「"自爆"という、な」
勇者「自爆......?」
国王「200年前に倒された時はだまし討ちだったため、使われることはなかったが」
国王「もし今度、命の危機に晒されれば、魔王はまちがいなく自爆する......」
国王「魔王が"自爆"をすれば、ヤツの暗黒の血が広範囲にわたって飛び散り──」
国王「その黒い雨によって、我が王国も確実に滅ぶ、と書かれてあった」
国王「ようするに、死ぬ時はもろとも、という魔王からの警告だ......」
勇者「............」
国王「そして、さらに悪いことに──」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:38:36.64 ID:UCj5V9EP0
国王「魔王は心臓を切り裂かねば死なないのだが」
国王「ヤツはなんと、伝説の金属といわれるオリハルコンの鎧で武装しているのだ」
勇者(オリハルコン......)
国王「つまり、残り一週間という期限で、オリハルコンの鎧をまとった魔王を」
国王「"自爆"する暇も与えず一太刀で始末してもらわねばならない!」
国王「こんな不可能だらけのミッションをこなせるのは──」
国王「君しかいないのだ、ミスター勇者!」
国王「頼む、引き受けるといってくれ!」
勇者「............」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:43:42.32 ID:UCj5V9EP0
勇者「分かった......やってみよう......」
国王「おおっ!」
大臣(なんだと!? てっきり断るものとばかり......)
勇者「こちらも準備がいるんでな......決行は六日後の夜、とさせてもらう......」
勇者「ところで、魔王城に侵入する手はずは......?」
国王「大臣が選りすぐった優秀なエージェント三名に当日、君をサポートさせる」
勇者「......承知した」
大臣「あの三人は、いずれも君に劣らぬ優秀な人間ばかりだよ」
大臣「本来、この程度の任務、彼らでもこなせるが陛下たっての希望なのでな」
勇者「............」
勇者「............」スッ...
大臣(ちっ......眉一つ動かさずに闇夜に消えよったわ!)
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:47:31.20 ID:UCj5V9EP0
大臣「陛下! お気は確かなのですか!?」
大臣「国家の最重要機密を、あんな男に話してしまうなんて!」
大臣「それにあの男、あのまま金を持ち逃げしてしまう気では......!?」
国王「彼は超一流のプロフェッショナルだ」
国王「あの機密を利用したり、報酬を持ち逃げするような人間ではないよ」
大臣「し、しかし......」
国王「とにかく、これでサイは投げられた」
国王「我々は最善を尽くしたのだ」
国王「あとは......神のみぞ知る、といったところか」
大臣「............」
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:52:30.98 ID:UCj5V9EP0
【 PART2 最高の一太刀を求めて 】
─ スラム街 ─
徒弟「ん?」
勇者「職人はいるか?」
徒弟「おおっ、勇者さんかい!」
徒弟「他のヤツなら居留守を使うところだが、アンタなら別だ」
徒弟「さ、入ってくれ」ギィィ...
勇者「............」ザッ
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 22:56:33.66 ID:UCj5V9EP0
< 職人の家 >
キィィ......
徒弟「師匠、お客さんだ」
職人「なにをやっておるか! あれほど居留守を使えと──」
職人「!」ドキッ
職人「ゆ、勇者! アンタだったのかい......」
勇者「............」
職人「分かってるさ......。どうせまた、難題を持ち込みにきたんだろう?」
勇者「......オリハルコンの鎧を切り裂ける剣が欲しい」
職人「対オリハルコンか......まぁ、三週間もあれば何とか──」
勇者「六日後の夕方までにな」
職人「六日!?」
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:03:31.96 ID:UCj5V9EP0
職人「やれやれ......アンタの仕事は高いが、儲かってる気がまるでせんよ」
職人「今度はいったい、なにを斬ろうっていうんだね?」
勇者「オリハルコン製の......ダイナマイトだ」
職人「おおっ、クレイジー!」
職人「ま、アンタの無理難題は今に始まったことではないがね......」
職人「しかし、六日か......。材料を調達する時間はない、な」
職人「そこらの鉱物を使って、どこまで切れ味と強度を両立できるかがカギか......」
勇者「強度は不要だ」
職人「し、しかし......それだと一太刀浴びせたら使いものにならなくなるぞ......?」
勇者「一太刀だけ持てばいい......。二度斬ることはありえないのだ」
職人「............」ゴクッ...
職人「わ、分かった......。アンタの注文に応えてみせようじゃないか......!」
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:06:27.58 ID:UCj5V9EP0
職人「そうと決まれば、アンタはもうジャマだ!」
職人「とっとと出てってくれ!」シッシッ
勇者「............」
職人「オイ徒弟、なにをボサッとしておる!」
職人「こうなったら、猫の手でもなんでも借りねばならん!」
職人「早く私を手伝え!」
徒弟「は、はいっ!」タタタッ
勇者「............」ザッ
ギィィ...... バタン......
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:11:25.35 ID:UCj5V9EP0
【 PART3 作戦前夜 】
─ 王国首都 ─
< 酒場 >
勇者「............」グビッ
僧侶「ハァイ」
勇者「............」
僧侶「あなた、この辺りじゃ見かけない顔ね」
僧侶「今、この国は魔族と戦争中だっていうのに、いったい何しに来たの?」
勇者「............」
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:15:57.13 ID:UCj5V9EP0
僧侶「もしかして......魔王を倒しに来た、とか?」
勇者「............」ピクッ
僧侶「フフ、なぜお前がそのことを? って顔してるわね」
僧侶「私はね」
僧侶「明日あなたをサポートする、三人のエージェントのうちの一人よ」
僧侶「ホントは明日会う予定だったけど、どうしても今日会いたくなっちゃって」
僧侶「よろしくね、ミスター勇者」
勇者「............」
僧侶「大臣はあなたのことを、私たち三人の一人一人に匹敵する、っていってたけど」
僧侶「実際にあなたを見てみたら、とんでもないわ」
僧侶「私たち三人がかりでやっとあなたと互角、といったところでしょうね......」
勇者「............」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:20:27.48 ID:UCj5V9EP0
僧侶「ねぇ......」
僧侶「私たち、お互い明日は国の命運をかけたミッションに挑むのよ」
僧侶「優れたチームワークには、スキンシップが必要よ」
僧侶「互いのことをもっと、知っておくべきだと思わない?」
勇者「見たところ、お前は神に仕えている人間のようだが......?」
僧侶「フフフ......やっと口を開いてくれたわね」
僧侶「なにしろ、明日のミッションは神頼みでもどうにもならない難易度だもの」
僧侶「きっと神様も許して下さるわ......」
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:23:31.98 ID:UCj5V9EP0
< 宿屋 >
僧侶「あああ~~~~~っ!」
僧侶「おおお~~~~~っ!」
僧侶「すごい、すごい、すごいわ!」
僧侶「私はもう、とうの昔に女を捨てたはずだったのに......」
僧侶「ここまで私を"女"に引き戻してくれるなんて!」
僧侶「あああ~~~~~っ!」
僧侶「もっと、もっと、もっとよ! あああ~~~~~っ!」
僧侶「私を女にしてぇ~~~~~っ!」
勇者「............」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:29:44.35 ID:UCj5V9EP0
【 PART4 剣は完成した 】
作戦当日 夕刻──
< 職人の家 >
職人「出来たぞ!」
職人「あり合わせの鉱物ながら、徹底的に薄く、重く、切れ味を増すよう鍛えた」
職人「かなり重いが、アンタなら十分扱えるはずだ」
勇者「うむ......」ズシッ...
職人「そして前にも話したが......一太刀で刃はボロボロになっちまうだろう」
職人「そうなればもう、この剣はナマクラ以下の役立たずになる」
勇者「............」
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:33:24.60 ID:UCj5V9EP0
勇者「............」チラッ
徒弟「ぐう......ぐう......」スピー...
職人「フッ、アイツもだいぶ鍛冶職人としてサマになってきたが」
職人「まだまだ体力が足らんな。ちょっと徹夜しただけであのザマだ」
勇者「............」
勇者「職人!」
職人「?」
勇者「ありがとう......」
職人「ハハ、よしてくれ」
勇者「............」スチャッ
職人「明日の朝刊を楽しみにしているよ!」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:39:27.58 ID:UCj5V9EP0
【 PART5 三人のエージェント 】
─ 魔王城近辺 ─
魔法使い「もうすぐ作戦決行時刻だけど......」
魔法使い「勇者が現れる気配はないね」
戦士「ふん、怖気づいたんだろうよ!」
戦士「オリハルコンの鎧をまとった魔王を一太刀で殺るなんざ」
戦士「仮に世界最高の名剣があったところで、王国一の剣士である俺でも無理だ」
戦士「しかも、仕留めそこなったら、間近で自爆を喰らうかもしれないんだからな」
僧侶「............」
僧侶「いいえ、あの人は必ず来るわ......」
47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:43:29.75 ID:UCj5V9EP0
パカラッ...... パカラッ......
魔法使い「あの馬は──」
戦士「まさか......」
僧侶「勇者よ! 勇者が来たわ!」
パカラッ! パカラッ! パカラッ!
ザンッ......!
勇者「............」
魔法使い「時間きっかり......だね」
戦士「こんなギリギリまで、いったいどんな準備をしてきたんだよ?」
勇者「そういう問いに対する答えを......俺は、用意したことはない」
勇者「さっそく本題に入ってもらおう」
戦士「ケッ、お高く止まりやがって!」
僧侶「それじゃ、作戦について説明するわ」
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:47:32.27 ID:UCj5V9EP0
僧侶「まず、あそこにある巨大な城が魔王城」
僧侶「ほとんどの出入口が魔族の大部隊で固められてるけど......」
僧侶「一ヶ所だけ、小部隊だけで守られてる扉があるの」
僧侶「そして、一見まったく重要でないその扉こそが──」
僧侶「魔王の部屋に直通している扉だということが分かったのよ」
魔法使い「ろくに兵を置いていないのは、ボクらに重要だと悟らせないためと」
魔法使い「あとは守っても無駄だってのが分かってるからだろうね」
勇者「守っても無駄、とは......?」
魔法使い「あの扉には、固い封印が施されてるのさ」
魔法使い「わざわざ兵を置かなくても、ちょっとやそっとじゃ開かない」
魔法使い「だけど......僧侶は世界屈指ともいえる補助魔法の達人だから」
魔法使い「あの封印を解くことができる」
僧侶「かなり体に負担がかかる呪文だけど......扉は私に任せて!」
51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:50:35.99 ID:UCj5V9EP0
勇者「少数とはいえ、周辺の兵隊はどうするのだ......?」
戦士「そこで俺たちの出番ってわけだ」
戦士「俺と魔法使いの二人で、扉周辺の魔族をひきつける」
戦士「援軍を呼ばれないよう、わざといい勝負を演じながら、な」
魔法使い「魔族は互いの生命力や魔力を感じ取ることができるから」
魔法使い「下手に殺害しちゃうと、他の場所の大部隊に気づかれる恐れがあるからね」
魔法使い「ま、そこはボクら二人でちゃんとやるから、安心してよ」
勇者「............」
僧侶「さあ、そろそろ時間よ」
僧侶「みんな、準備はいいわね?」
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:55:07.11 ID:UCj5V9EP0
【 PART6 作戦開始! 】
─ 魔王城 ─
< 封印扉前 >
ザシッ! ボワァッ! キンッ!
魔族A「敵襲だ!」タタタッ
魔族B「敵はたった二人、人間の戦士と魔法使いだ!」タタタッ
魔族C「逃がすな、追えっ!」タタタッ
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/21(水) 23:59:31.02 ID:UCj5V9EP0
魔族D「隊長、他の持ち場から応援を呼びますか......?」
隊長「ふむ......」
ザシィッ! キィンッ! ズバッ! ボワァッ!
戦士「ちいっ! こっち来んな!」
魔法使い「ぐっ......強い......!」
ボアァッ! キンッ! ザンッ! ザシィッ!
隊長「見る限りあの二人組、力量はさほどでもなさそうだ」
隊長「とてもこの扉の秘密を知っているとは思えん」
隊長「おそらく功を焦って、警備が手薄なこの扉を狙ってきただけの愚か者だろう」
隊長「援軍を呼ぶまでもない」
隊長「あの程度なら、ここを守る我が部隊だけで十分倒せる」
魔族D「それもそうですね」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:07:26.81 ID:DhU4xYnZ0
ワァー......! ワァー......!
僧侶「扉ががら空きになったわ......」
僧侶「あの二人が、うまいことやってくれてるようね......」
僧侶「さ、行きましょ!」ダッ
勇者「............」ダッ
僧侶「これが封印扉ね......」スッ...
勇者「............」
僧侶「ヒィ~ルァ~ケ~......ゴゥマ!」
パキィィィ......ン......
僧侶「これで封印が解除されたわ! ──ぐっ!」ゴホゴホッ
勇者「............」チラッ
僧侶「大丈夫よ......。だけど、魔王を倒す手伝いはできそうもないわね......」ゴホッ
僧侶「私は入口近くで待機しているわ......」ゴホゴホッ
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:10:32.18 ID:DhU4xYnZ0
ワァァ......! ワァァ......!
キィンッ! ボアァッ! ザシッ! キンッ!
戦士「......どうやらアイツらは、無事侵入を果たしたようだな」
魔法使い「そだね」
魔法使い「あとはもう、あの勇者にかかっているね」
戦士「こんなとこで死ぬんじゃねえぞ、魔法使い」
戦士「俺たちの仕事はまだ残ってるんだからよ!」
魔法使い「もちろん!」
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:13:43.83 ID:DhU4xYnZ0
─ 魔王城内 ─
タッタッタッタッタ......
勇者「............」タタタッ
勇者(あの封印扉から魔王の部屋へと至るこの廊下......やはり警備は皆無)タタタッ
勇者(封印を破れる人間などいない、という判断か)タタタッ
勇者(しかし、現実には一人の僧侶によってあっけなく解除された)タタタッ
勇者(200年の歳月で、人間と魔族の差はさらに開いた、ということか......)タタタッ
勇者「............」タタタッ
60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:20:04.23 ID:DhU4xYnZ0
【 PART7 勇者と魔王 】
< 魔王の部屋 >
魔王(さあ、いよいよ明日が期限だ......)
魔王(かつて我らをだまし討ちにした忌まわしき男の末裔よ)
魔王(せいぜい悩み苦しむがいい)
魔王("降伏"を選ぼうが、"証拠の公表"を選ぼうが、どちらにせよ──)
魔王(明日はキサマら王国の"敗北記念日"なのだからな!)
魔王(どちらでも、好きな負け方を選ぶがよいわ)
魔王(それがかつて私を滅ぼして誕生した王国への、せめてもの手向けだ)
魔王「フハハハハハハハハハハ......!」
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:25:37.69 ID:DhU4xYnZ0
ギィィ......
魔王「何者!?」バッ
勇者「魔王、だな......?」ザッ
魔王「ふむ......なるほどな......」
魔王「あの国王は"第三の選択肢"を作り出した、というわけか」
勇者「............」
魔王「しかし、それはもっとも愚かな選択だ!」
魔王「私が自ら死を選べば、大規模な爆発が起こり──」
魔王「さらに私の暗黒の血が広範囲に飛び散り、王国中の人間を蝕むことになろう」
魔王「あの国王は保身のために、国民全てを犠牲にする選択をしたのだ!」
魔王「......もっとも、今のは暗殺者であるキサマに」
魔王「私に"自爆"を決意させるほどの力量があれば、のハナシだがな......」
勇者「............」
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:29:27.26 ID:DhU4xYnZ0
魔王「どうだ......」
魔王「キサマも単身こんなところにまで乗り込んできたということは」
魔王「腕には覚えがあるのだろう......?」
魔王「私がこの大地を奪い返したあかつきには、キサマにも半分くれてやる──」
魔王「──といったらどうする?」
勇者「............」チャキッ
魔王「愚問だったか」
魔王「ならば、私自ら相手をしてやろう!」
魔王「我がオリハルコンの鎧に、その剣で傷一つぐらいつけられるか試してみよ!」
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:33:32.85 ID:DhU4xYnZ0
魔王「地獄の炎に焼かれるがよい!」
ゴォアァァァァァッ!
勇者「............」バッ
魔王「断罪の雷に撃たれるがよい!」
ピッシャァァンッ!
勇者「............」ザウッ
魔王(危なげなくかわすとは! なんという反射神経!)
魔王(いや、それ以上にこの男の目、まるで自分を疑っていない!)
魔王(本当にこの私を自爆させずに倒せると思っているのか!?)
魔王「フハハハハ、面白い人間もいたものだ!」
魔王「来いィッ!」
勇者「............」ダッ
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:39:25.50 ID:DhU4xYnZ0
勇者「............」チャキッ
魔王(なんの変哲もない無骨な剣......オリハルコン製ですらない!)
魔王「そんなもので我が鎧を、この私の怨念を切り裂けるものかァァァッ!」
勇者「............」スッ...
ザンッ......!
魔王「な......!?」
魔王(一太刀で......鎧ごと我が心臓を......!?)
魔王(これではもはや、"自爆"することもでき、ぬ......)ゴフッ...
魔王(な、なんというヤツよ......)グラッ...
ドザァッ......
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:45:01.48 ID:DhU4xYnZ0
パキィンッ!
勇者(剣も砕けた、か......)
魔王「フハ、ハハハ......」ガフッ...
魔王「みごと、だ......。みごとな剣、と腕、だ......」
魔王「最期にどうか聞かせて、くれ......キサマの名、を......」
勇者「......勇者だ」
勇者「俺が標的に名乗ったのは、これが初めてだ......魔王」
魔王「ゆ、勇者、か......」ゴフッ...
魔王(私は200年前の雪辱を晴らしたい一心で......地獄から舞い戻った......)
魔王(しかし、一騎打ちでこうも見事にしてやられては......)
魔王(もう復活することも、なかろう、な......)
魔王「覚えて、おこ、う......」ガクッ
勇者(............)
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:51:56.15 ID:DhU4xYnZ0
【 PART8 勇気ある者 】
─ 魔王城近辺 ─
勇者「............」ザッ
僧侶「お帰りなさい、勇者......」
戦士「よくやってくれたぜ! すげえよ、アンタ!」
魔法使い「あなたが魔王を倒したおかげで、証拠は隠滅され、魔族は力を失った......」
魔法使い「この戦争、王国軍の勝利が確定したよ!」
勇者「............」
魔法使い「それじゃ、さっそく──」
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 00:56:35.76 ID:DhU4xYnZ0
魔法使い「"麻痺呪文"」パァァ...
僧侶「"麻痺呪文"」パァァ...
勇者「!」ビクッ
勇者「く......!」ドサッ...
魔法使い「ふふふ、悪いね......勇者さん」
魔法使い「"ここまで"がボクたちの仕事なのさ」
魔法使い「あなたは疲弊し、剣もボロボロだが、一方のボクらはすでに全快している」
魔法使い「まともにやっても勝てる自信はあったけど......」
魔法使い「念のため、呪文でリスクは最小限に抑えさせてもらったよ」
戦士「そういうことだ」
戦士「さすがのプロフェッショナルも、あれだけの大仕事をこなした後に」
戦士「こんな結末が待ってるとは思わなかっただろ?」
戦士「ま......安心しな」
戦士「苦しまねえよう、一発で首を叩き落としてやっからよ」チャキッ
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:03:23.65 ID:DhU4xYnZ0
戦士「あばよ、勇者ッ!!!」ブオンッ
勇者「............」ザウッ
戦士「かわした!?」
戦士(なんで......全身が麻痺してるハズじゃ──!?)
パシッ!
勇者「呪文と同時に......首を落とすべきだったな」チャキッ
戦士(しまっ、俺の剣を奪って──)
魔法使い「ま、まずいっ!」
僧侶「もう一度呪文を──」
ザンッ! ザシュッ! ズバァッ!
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:08:36.83 ID:DhU4xYnZ0
魔法使い「が、ふっ......」ガクッ
僧侶「うぅ......っ」ピクピク...
戦士「て、てめえ......なんで......麻痺呪文が効いてねえんだ......」
勇者「呪文を受けた瞬間......体のある"ツボ"に針を刺しておいた」
勇者「そうすれば、数秒で麻痺の症状は緩和される」
勇者「俺は魔法は使えないが......」
勇者「魔法によって起こる、さまざまな心身異常については」
勇者「下手な魔法使いより、俺は詳しい......」
83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:12:50.11 ID:DhU4xYnZ0
戦士「だからって......いくらなんでも、準備がよすぎ、る......」
勇者「お前たちの裏切りのことは、事前にあの男から知らされていたからな」
勇者「この作戦は最重要機密──」
勇者「生き残る人間は三人より一人だけの方がいい、という判断だろう......」
戦士「ち、くしょう......大臣のヤロ、ウ......」ガクッ
勇者「............」
勇者「大臣、か......」
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:17:45.79 ID:DhU4xYnZ0
僧侶「ふふ......鮮やかだったわ......」
僧侶「魔王を一太刀で仕留め......」
僧侶「しかも、私たちの裏切りをも想定して、対策を怠らず......」
僧侶「さらに......"裏切りの首謀者"まで、巧みに聞き出す、なんてね......」
僧侶「私たち三人がかりであなたと互角......なんて、とんだ思い違いだったわ......」
勇者「............」
僧侶「あなたこそ......真のプロフェッショナル......」
僧侶「いかなる困難な依頼にも立ち向かう......勇気ある者、だわ......」
僧侶「さ、さすが......私の......愛した、男......」ガクッ...
勇者「............」
ザッザッザッ......
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:23:52.90 ID:DhU4xYnZ0
【 PART9 報告 】
─ 王国城 ─
兵士「陛下! 急報です!」
兵士「昨夜、魔王が何者かの手によって殺害され、魔王軍は力を失い──」
兵士「我が軍の勝利が確定的となりました!」
兵士「おそらく魔王軍内で、なにか内紛があったものと......」
大臣「おお、そうか! それはめでたい!」
国王(やってくれたか......勇者......!)
兵士「はっ! では失礼いたします!」
90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:28:06.58 ID:DhU4xYnZ0
国王「本当は勇者を主役として、豪勢な祝勝会でも、といきたいところだが......」
国王「この任務は極秘中の極秘......そうもいかんだろうな」
国王「それに勇者は、依頼人に二度会うことを好まない、と聞いている」
国王「彼の功績は救国の英雄と呼ぶに相応しいものだというのに......残念なことだ」
大臣「なあに、どちらにせよ陛下がヤツに会うことは二度とありませんよ」
国王「?」
国王「大臣、どういうことだ......?」
大臣「いえいえ、なんでもありません。下らないひとりごとでした」
大臣「では私も、少し席を外させていただきます」スッ...
国王「............」
93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:33:49.00 ID:DhU4xYnZ0
国王(今回の件では、かろうじて我が国は滅亡の危機を免れた......)
国王(だが、再び魔族を犠牲にするという選択は、本当に正しかったのだろうか......?)
国王(いや、国家のトップとして、私は最良の選択をしたのだ)
国王(一国の王が国の存続を最優先に動くことは当然のことであり)
国王(そこに疑問を差し挟む余地はない......)
国王(しかし──)
国王(卑劣と評せざるをえない事件を経て、成り立ってきた我が国の歴史......)
国王(人の目はあざむけるかもしれぬが、神の目まではあざむけぬ)
国王(いつの日か、裁きが下る日が......来るかもしれん、な......)
95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:40:25.02 ID:DhU4xYnZ0
【 PART10 もう一つの報告 】
< 大臣の部屋 >
大臣「さてと、報告を聞かせてもらおう」
斥候「はっ」
斥候「魔王城周辺は現在、混乱の極みに達しておりますが──」
斥候「大臣のおっしゃられていた"人間の死体"を、無事確認できました」
大臣「フフフ......そうだろう、そうだろう」
大臣「国家機密を知った人間をむざむざ生かしておくほど、ワシは甘くない」
大臣「ヤツは一人寂しく、野垂れ死にしていたことだろうよ」
斥候「は......? 私が発見した死体は、全部で三体でしたが──」
大臣「え......?」
斥候「屈強な戦士と、若い魔法使いと、女性僧侶の三体でした」
大臣「な......!?」ガタッ
97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/22(木) 01:46:46.39 ID:DhU4xYnZ0
大臣「バ、バカな......! あの三人が......そんなバカなことがっ!」
斥候「どうしました、大臣!? 急に青ざめて──」
勇者『俺は依頼人の嘘や裏切りを許さない......』
大臣(ワ、ワシは......っ!)ガタガタ...
大臣(ワシは......いったいどうなるんだっ!?)ガタガタ...
大臣「あああああっ......!」
<END>
http://elephant.2chblog.jp/archives/52046685.html